やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.193 彼と彼らの考え方は根本的に違う

 今日も無事に『サジオ』のコントロールを継続したまま学校を終えた俺はサイを連れて新東京国際空港を訪れていた。もちろん、自国に帰る外国組の見送りである。平日なので学校のある俺や高嶺、大海のためにわざわざ飛行機の時間を夕方にしたのだ。

 空港に集合し、飛行機の時間まで雑談していると(俺はただ『サジオ』をコントロールしながらそれを眺めているだけだったが)不意にリィエンが申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「結局、役に立てなかったあるな」

「いいや、みんなと会えただけでも嬉しかったよ」

「そうそうあの建造物の謎を解くよりも注意喚起が目的だったから」

 そんな彼女を高嶺とサイがすかさずフォローする。確かにあの建造物は謎が多すぎる。それこそ写真や話し合うだけでわかるレベルではない。リィエンだけでなく、ここにいる全員が建造物についてほとんど知らないのだ。役に立たなかったのは俺たちも同じだ。

「最後に一ついいかね? 清麿君」

「ん?」

「あの建造物が姿を消したことについてどう思っておるかね?」

 ナゾナゾ博士の問いに考えるように視線を下に向けた彼だったがすぐに考えはまとまったのかナゾナゾ博士に視線を戻した。

「色々と推測はしたが一番可能性が高いのは――準備ができていないこと」

 その言葉に雑談していた全員が視線を彼に向ける中、空港内の雑音がどこか遠くに聞こえる。おそらく俺の意識が高嶺に集中しているからだろう。何故なら、その情報を俺はすでに知っていたから(・・・・・・・)

「あの建造物を使って何か企んでる奴がいるのは間違いない。だが、まだその計画を実行する準備ができていない。だからこそ、あれが人間界に出現した後、すぐに姿を隠した。準備ができてないのに攻撃でもされたらまずいだろうし」

「問題はその準備が一体、なんなのか。そして、いつその準備が整うのか、でしょ?」

「ああ……おそらくあの鍵穴をどうにかするためなんだろうけど情報がなさすぎて確信が持てないからな」

 それに加え、鍵穴をどうすれば封印が解けるのかわかっていないのも問題だ。鍵穴を破壊すればいいのか、それとも鍵を使って開錠するのか。はたまた別の方法なのか。それがわからなければ対処のしようもない。早急に情報を集めなければ手遅れになる可能性もある。悠長に構えている場合ではないことは確かだ。タイムリミットさえわかっていない現状は危険すぎる。

「フム、ワシたちが抱えている問題はその2点。それがわからなければ動くに動けんからな……して、あれはどこに消えたと思う?」

「それは答えが出せない。どこかに姿を潜めているのは確かだが、どこに隠れても人工衛星のカメラがあるから見つからない場所はないはず」

 科学が進歩した今、人工衛星などで地球は24時間、監視され続けている。あんな巨大な建造物を隠せる場所などどこにもないだろう。

「それでも見つからないということは魔界ならではの不思議な術か何かで隠れているに違いない。ただ一つ、見つけられるとしたらそれは魔物だ。少し前に戦った『コーラルQ』という魔物はあの建造物の出現にいち早く気付いていた。おそらく魔力探知のできるサイも探知範囲内に建造物があればすぐに気付くはずだ」

「まぁ、私の魔力探知は範囲が狭いから意味ないんだけどね……」

 がっくりと肩を落として落ち込むサイに高嶺はどこか気まずげに言葉を詰まらせる。サイの魔力探知は精度が高い分、範囲が狭い。世界のどこにあるかわからない建造物を探すには文字通り世界中を飛び回らなければならないのだ。

「あー……今までにも魔力探知ができる魔物には何体か会ってきた。だから、広範囲で魔力を探知できる魔物を探し出すことがあの建造物を見つけ出す最も効率的な方法だろう」

「ウム、さすがじゃな、清麿君。ワシも建造物の情報と並行して該当する魔物を探しておく」

「ああ、頼む」

 今後の方針を決めた2人は頷き合ったところで予定していた搭乗時間になった。皆、忘れ物はないか、今の内に話しておくことはないかとざわつき始める。

「キャンチョメ」

「な、ななな、なんだい!?」

 そんな中、キャンチョメを呼んだ高嶺は彼の傍でしゃがみ、何かを耳打ちした。おそらく高嶺もキャンチョメが何かに気付いたことに気付いていたのだろう。情報を聞き出さない優しさに俺は思わず目を細めてしまった。

「優しいね、キヨマロ。きっと私がリーダーで、こんな状況なら無理矢理聞き出しちゃう」

 いつの間にか俺の隣にいたサイがどこか失望したような声音でそう呟く。きっと失望したのは高嶺に対してではなく、自分自身。

 俺もサイもキャンチョメから無理矢理情報を聞き出さなかったのは単純に高嶺がリーダー的な存在であり、方針の決定を彼に任せていたからだ。それがなければ少しでも情報が欲しい今、俺やサイなら嫌がる仲間から無理矢理聞き出していただろう。そして、その結果、仲間内の空気が悪くなり、致命的なミスへと繋がっていたかもしれない。

 それがわかっていても『確実にミスに繋がるとは言えない不確定要素をなくす』か、『多少空気が悪くなる程度で有益な情報が手に入る可能性』を天秤にかけるのなら俺たちは――。

「な、何のことだよ清麿! さ、フォルゴレ! もう行かなきゃ!」

 慌てた様子で高嶺から離れたキャンチョメはフォルゴレの傍へ移動する。

 高嶺は『不確定要素をなくす』を選んだ――いや、そもそも嫌がる仲間から情報を引き出すという選択肢そのものがなかったのだろう。

 個人の感情を尊重し、調和を整え、別の方法を模索する。それが『高嶺 清麿』という青年。

 効率を求め、己の感情、他人の気持ちを顧みず、考えうる最善の一手を打とうとする俺たちの考えとは根本的に違う。だからこそ、フォルゴレに宥められるキャンチョメの背中を苦笑を浮かべながら眺める高嶺が眩しく見えた。

「さ、私たちもそろそろ」

「ウヌウ、寂しいのう……もう三日程、待ってくれたら皆で『スケート』というものができたのだ」

 荷物を抱え直したリィエンの言葉に寂しげに言うガッシュだったが『スケート』と言う単語が気になったのか皆の視線が彼に集まる。どうやら、今度の日曜日に高嶺の友達と一緒にスケートをする約束をしているらしい。

「その時にでも俺のクラスメイトも紹介したかったんだが……」

「それは残念であるな……」

「リィエン、テレビも買いたいし、もう少しここに――」

「――それは駄目あるよ。春も近いから色々忙しくなるある」

 帰国を渋るウォンレイにリィエンは目を鋭くさせる。強力な呪文やカンフーを扱うウォンレイも彼女の態度にたじたじになり、それを見ていた皆が笑い声を漏らす。昨日、サイが隠し事があると自白し、多少なりともぎくしゃくするかと思ったがその心配はなさそうだ。

「清麿のクラスメイトとはまた今度だな。ガッシュ、清麿の友達はどんなのだい?」

「ウヌウ、皆楽しいのだ!」

「メルメルメ~」

 フォルゴレの質問に笑顔で答えるガッシュとウマゴン。高嶺のクラスメイトで俺が知っているのは水野ぐらいだが日曜日のスケートには複数人で行くらしい。

「八幡君も行くの?」

「いや、行かないけど」

 大海から問われ、即答する。そもそもスケートに行くこと自体、初めて聞いた。誘われていないし、誘われても休日は『サジオ』のコントロールに集中したいから行かないし。サイも今回ばかりは見送ったそうだ。どうも、嫌な予感がするとかなんとか。

「そうか……残念だな。きっと友達になれると思ったんだが」

「……」

 残念そうな表情を浮かべる高嶺の呟きに『いやぁ、ハチマンには荷が重いでしょ』というような視線をサイは俺に向けてきた。それぐらいわかっているわ。水野も俺を見てかなりビビっていたし。他の友達も同じようになるような気がする。

「おっと、そろそろまずいな。皆、今回は集まってくれてありがとう。何か新しい情報が手に入ったら連絡する。」

 そう高嶺が笑顔で締めくくり、結局、謎が謎を呼んだ魔界の建造物に関する話し合いは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに後日、高嶺と連絡を取った時、何となくスケートの話を出すと彼はどこか気まずげに声を漏らし、誤魔化すように話を逸らされた。一体、何があったのだろうか。ただ、行かなくて正解だったのは間違いないだろう。




スケートのお話は飛ばします。



次回は例の魔物とのお話、に入れたらいいなと思っています。

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