やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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千年前の魔物編も無事に完結し、少しだけ読み返したところ色々書き忘れていることがあったので結局、番外編を書くことになりました。


……なにより、俺ガイル原作をどうするか悩んでおり、ファウード編に入るのを1週遅らせることにしました。
まだ、原作のスケジュールも完全に把握し切れてないので来週までにはきちんと確認しておきます。


ぼーなすとらっく3 大海恵はその想いに名前を付ける

 どうして、こんなことになってしまったのだろうか。

 八幡君の家のリビングで正座しながら私はそう思わずにはいられなかった。

「はい、では裁判を行います。被告人は顔をあげて」

 混乱する脳内で必死に今日の出来事を思い出しているとソファの上から聞こえる幼い女の子の声に顔をあげた。そこには足を組んでこちらを見降ろしているサイちゃんの姿。そして、チラリと右に視線を向ければ私たちを呆れた表情を浮かべて見ているティオがいる。

「それじゃまずは色々と整理していこっか。何もかも話してもらうよ、メグちゃん」

「ひっ」

 にっこりと笑うサイちゃんを見て小さな悲鳴をあげてしまった。ああ、どうしてこんなことになってしまったのだろうか。私はただ八幡君の様子を見に来ただけなのに。助けて八幡君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの壮絶な千年前の魔物たちとの戦いが終わり、私たちは無事、日本に帰ってきた。飛行機の中で寝たとはいえ、やはり皆疲れていたのだろう。その日はその場で解散となり、私たちもすぐに家に帰った。それが昨日の出来事。

 そして、その翌日である今日、マネージャーさんや社長に帰ってきたことを報告(もちろん、昨日帰ってきた時点で帰って来たことは電話で報告してある)しに事務所を訪れた。しかし、2人は私の顔を見て疲れが溜まっていると判断したらしく、仕事は明日からということになった。無理をして休みを貰ったのでてっきり今日から仕事すると思っていたので予定は何も入れていない。だからといって今日は日曜日なので学校もないので暇になってしまった。

「なら、八幡の様子を見に行けばいいじゃない」

「ええ!?」

 マネージャーさんと社長に報告しに行くために一時的に事務室で預かって貰っていたティオに何をするか相談すると思わぬ答えが返ってきて驚いてしまう。千年前の魔物たちとの戦いで倒れてしまうほど無理をした八幡君はもちろん、あのサイちゃんでさえ昨日、とても疲れている様子だった。私たちが突然お邪魔したら迷惑になるだろう。

「別に遊びに行くわけじゃないわ。お見舞いよ、お見舞い。特に八幡は一昨日、術の効果でカロウ、になっちゃったんだから」

 確かに八幡君が心配じゃないと言えば嘘になる。戦いが終わった後、『サイフォジオ』を何度か使ったがそれでも彼の疲労を解消し切れなかった。昨日の夜にメールした時は『心配ない』と返信は来たが大丈夫じゃない状態でも彼ならそう言うに決まっている。

「……じゃあ、ちょっとだけ。あ、でもきちんと連絡を取って八幡君がいいよって言ったらね」

 そう言いながら携帯を取り出し、八幡君へ電話を掛けた。そんな私を見て何故かティオはため息を吐く。どうしてため息を吐くのか不思議に思い、首を傾げたが今はこちらが優先。少しだけドキドキしながら鳴り響くコール音を聞き続け、携帯を耳から離した。

「出ない……まだ寝てるのかな」

「もうお昼過ぎよ? さすがにそれはないんじゃない?」

 ティオの言う通り、すでに時刻は1時を過ぎている。八幡君だけなら寝ていてもおかしくないが彼の傍にはサイちゃんがいる。朝もお昼もご飯を抜かせるようなことはしないはずだ。少なくともサイちゃんなら起きているはずだ。そう結論付けて今度は携帯をサイちゃんの携帯に電話を掛け、数回のコール音の後、繋がった。

『はい、もしもし』

「あ、サイちゃん、恵です。今、大丈夫?」

『うん、大丈夫だけど……急にどうしたの? お仕事じゃなかった?』

 昨日、八幡君へ送ったメールに『明日からお仕事かもしれない』と書いたのでサイちゃんにもそれが伝わっていたのかもしれない。

 それはさておき、お休みを貰ったことと八幡君のお見舞い目的で家に行きたいことを伝える。しかし、彼女の返事はあまりにも衝撃的な内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー……ハチマンなら今、病院だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詳しい話を聞くとどうやら、八幡君は家に帰った途端、熱を出してしまったらしい。家に帰ってきた安堵から体調を崩してしまった、とサイちゃんは言っていた。八幡君、お家大好きだもんね。小町ちゃんもいるから緊張の糸がプツッと切れてしまったのだろう。

「じゃあ、座ってて。お茶淹れてくるから」

 結局、八幡君の家に来てしまった私たちはサイちゃんに出迎えて貰い、リビングへと通された。本当はサイちゃんも八幡君の付き添いをしたかったらしいが『お前も疲れてるだろ』と八幡君本人に止められてしまったのだという。現在、小町ちゃんが彼の付き添いをしているそうだ。

「はい、どうぞ」

 サイちゃんは私たちの前に温かいココアの入ったマグカップを置いた。お礼を言って何度か息を吹きかけて冷ました後、一口だけココアを口に含む。ココア特有の甘味が口の中へ広がり、ホッと息を吐いた。

「でも、丁度よかったよ。家にいろって言われたけど何もやることなくて暇だったの」

「一応、私たち、お見舞いってことで来てるんだけど」

「お見舞いする本人がいない間は遊びに来たってことでいいでしょ。私もメグちゃんとお話ししたかったし」

 ティオの言い訳を一蹴したサイちゃんがニコニコと笑いながら私を見る。その獲物を見つけた猛獣のような笑みを前に私は背筋を凍りつかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、そうそう。メグちゃん、後でお話あるから。きっと誰にも聞かれたくないだろうから2人っきりで……色々と話そうね』

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、始めよっか。恋バナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして始まった裁判(恋バナ)だったが話すのは私だけで裁判官(サイちゃん)弁護人(ティオ)はずっと聴衆に徹していた。たまに八幡君が口にする黒歴史とはこういうものかと今更ながら理解することができた。

「……弁護人、何かありますか?」

「まぁ……ないわね。私ですら気付いていたのに肝心の本人同士が気付かないのは、ちょっと」

 彼との出会いからクリスマス、バレンタインでの出来事など、八幡君との思い出を赤裸々に暴露させられた後、2人は目を合わせて深々とため息を吐く。やはり、ティオも私の気持ちに気付いていたらしい。今思えばクリスマスの時の反応も私と八幡君を2人きりにするためだったのだろう。

「まぁ、裁判(おふざけ)はこれぐらいにして……メグちゃん」

「は、はい!」

「あなたはどうしたい?」

「――ッ」

 その言葉にハッとしてサイちゃんの顔を見つめてしまう。彼女は優しく微笑みながらジッと私の答えを待っていた。まるで、自分の想いを口にするまで静かに待つ母親のように。

「わ、たしは……」

 この想いは勘違いじゃない。

 この胸に抱いた恋慕は気のせいじゃない。

 それだけは間違いない。

 これだけは間違っていない。

 じゃあ、想い(答え)を見つけた私は結局、どうしたいのだろう。

 八幡君に想いを伝えたい?

 恋人になりたい?

 何も言わずに仲間として彼の傍にいたい?

 いくつかの答えを思い浮かべ、すぐに打ち消した。それは私だけの都合。他の人ならそれでいいかもしれない。でも、相手が八幡君なら話は別だ。

 

 

 

 

 

 彼の目には大切な物しか映らない。

 

 

 

 

 

 八幡君と出会った頃、私が彼の想いを聞いて導いた答え。きっと、彼は究極の現実主義者(リアリスト)なのだろう。彼の目に映る大切な物を守るために自分すら犠牲にする。いつだって彼の行動基準は自分ではなく、大切な物(サイちゃん)だった。初めて会った日に私を助けた時だって、奉仕部を崩壊させた時だって、サイちゃんと一緒に戦う方法を私に相談した時だって。

「私、は……」

 この想いを伝えたところで彼は信じない。言葉にしたところで彼には届かない。それはあくまでも私が私の気持ちを言葉にしただけだから。

 理解出来る人間の感情は己のみ。

 どんなに言葉にしたところで完全にその人の想いを理解することはできない。

 だから、究極の現実主義者(リアリスト)は根拠のない心情を信じない。感情論(恋心)を参考にしない。彼にできるのは今までの経験を基にその言葉に隠された真意を予測するだけ。そして――事ある毎に黒歴史を口にする彼が……捻くれている彼が聞いた言葉の通りに飲み込んでくれるとは思えない。

「私は――」

 なにより、確信を得ているわけではないが、八幡君は何かを求めている。それが何か私にはわからない。でも、それはきっと八幡君とサイちゃんの間にある“物”。それを守るために、手に入れるために彼は行動している。

 

 

 

 それを見て私はどう思ったのだろう。

 彼らの間にある“それ”を間近で見せ付けられた私はどう感じたのだろう。

 『あなたはどうしたい?』と“それ”に最も近いところにいる彼女に言われ、私はどんな想いを抱いたのだろう。

 そんなの決まっている。

 尊敬。

 嫉妬。

 羨望。

 彼らのような美しい関係になりたい。

 どうして、その相手が私ではないのだろう。

 私も彼の――。

 

 

 

 

 ……そう、この想いに、感情に、関係に、彼が求めた大切な物に名前を付けるなら――。

 私が得た答えが間違っていないと自信を持って言えるのなら。

 私の想いは偽物ではないとはっきり断言できるのなら。

 私の言葉なら変に勘ぐらずにその言葉のまま飲みこんでもいいと思えるような関係に名称を付けるのなら。

 それはきっと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――本物になりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――この言葉が最も適しているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう。うん、何となくメグちゃんならそう言うと思ったよ」

 私の答えを聞いたサイちゃんは一瞬だけ目を見開いた後、すぐに頷いた。そして、ソファから飛び降りて正座している私の前に立つ。

「メグちゃん、これからもハチマンのこと、よろしくね」

「え?」

「あ、でも私も諦めるわけじゃないし、負ける気もないから」

 そう言ってサイちゃんはすっかり冷めてしまったココアを飲み干してキッチンの方へ行ってしまった。あまりにもあっさりと閉廷した恋バナに私とティオは戸惑うばかり。

「えっと、何だったんだろう?」

「さぁ……でも、恵の答えがサイの満足するものだったんじゃない?」

「う、うーん?」

 私自身、よくわかっていない“本物”。きっと、八幡君もサイちゃんもそれを求めて戦っている。それを求めたからこそ2人は手を繋いで戦うことを選んだ。

(やっぱり……羨ましいな)

「ただいまー! サイちゃーん、ちょっと手伝ってー!」

 その時、玄関から小町ちゃんの大きな声が聞こえた。何だろうとキッチンから出てきたサイちゃんと共に玄関に向かうとぐったりとした八幡君とそれを支える小町ちゃんを見つける。

「は、八幡君!? 大丈夫!?」

「え!? め、メグちゃん!?」

「ぁ? お、おうみか……すまん、小町。お兄ちゃん、幻覚まで視えるようになっちゃったみたい」

「本物! 私、本物の『大海 恵』だから!」

 わたわたと騒ぐ私たちの後ろからサイとティオのため息が聞こえた。





今回のお話は少し強引だったかな、と思いながら仕方なく投稿。
本来であれば恵とティオにサイが奉仕部が復活したことを話した時に雪乃の口から『本物』という言葉が出たことをどこかで描写するはずでしたがすっかり忘れていたたため、このような形に。
伏線張りは本当に大切です。










今週の一言二言



・最近、ゲームができなくて残念です。やはり仕事を始めるとなかなか他のことに手をつけられなくなるんですね。

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