やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.154 彼らは初めて理不尽に遭遇する

「やったのだ、レイラが目を覚ましたのだ!」

 アルベールの行動に驚いていた皆だったがガッシュの大声でやっと状況を飲み込むことができたようで各々、喜び始めた。その騒ぎで皆が集まっていることに気付いたレイラはアルベールの手をギュッと握った後、立ち上がって口を開く。

「皆、気を引き締めて。この上で『月の石』を守ってる魔物は化物みたいな強さよ」

 そこで彼女は言葉を区切り、俯いてしまう。現代の魔物より強い千年前の魔物であるレイラに化け物と言わしめるほどの強さを持つ魔物。一体、どれほどの強さなのだろうか。

「でも、やらなきゃならない。人の心を制御している『月の石』を壊し、アルベールを解放する!」

 そう、俺たちはやらなければならない。ゾフィスに心を支配されている人間のために、千年前の魔物を解放するために――そして、魔界に帰ってしまったキッドのためにも。

「さ、上へ案内するわ! 早く『月の石』を――」

「――ウム。しかし、今は皆の心の力、体力の回復が先じゃ。人の心を操ってる憎むべき『月の石』の光ではあるが回復能力だけは今は逆に利用すべきだ。体力、心の力、共に万全でなければこの上で待ち受ける魔物は倒せぬのじゃろ?」

 俺たちを急かしながら移動しようとしたレイラをナゾナゾ博士が窘めた。自分のために一時的にだがゾフィスの支配に打ち勝ってくれたアルベールを早く解放したかったのだろう。彼の言葉で少しばかり心を落ち着けたレイラは深呼吸した後、静かに頷いた。

「じゃあ、皆。光の中に入ってくれ。少し休憩しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、元気になったぞ! ほら、僕に続け! 置いてっちゃうぞ!」

「ハハハ! 待て待て、キャンチョメー!」

 『月の石』の光の中に入ってからたった十数分で俺たちは完全に回復することができた。何故かハイテンションなキャンチョメが右手を突き上げてそのまま階段の方へ駆け出してしまう。その後をフォルゴレが追いかけた。まぁ、敵もいないしあの2人のことだから俺たちからある程度離れたらその場で待つか戻ってくるだろう。

「あ……」

「ん? どうしたんだ、レイラ」

 楽しそうに駆けてゆく2人の背中を眺めていたレイラが声を漏らした。何か思い出したのか彼女は頭を抱えている。

「何か、引っ掛かってるの。大したことじゃないと思う。でも、言わなきゃいけないことが……思い出しそうで、どうでもいいような、どうでもよくないような……あ、そうよ! そこの階段の前は落とし穴――」

「「――ああああああああああああああああ!!」」

 レイラの忠告とほぼ同時にキャンチョメとフォルゴレは落とし穴に落ちていった。まさかの事態に俺たちは数秒ほど無言で立ち尽くしてしまう。だが、無事だったのかフォルゴレたちが這い上がってくる。

「はぁ、はぁ……れ、レイラ……」

「ごめんなさい」

「……まぁ、上の部屋はこの遺跡では王室にあたるからな。多少の罠もあるだろう」

 むしろ、ここまで遺跡の罠がなかったこと自体、不思議なほどだ。ゾフィスたちが動くのに邪魔だから破壊してしまったのだろうか。

「まぁいいさ、いくぞキャンチョメ! 今度こそ一番乗りだ!」

「ああ!」

「……」

 体力が回復してテンションが上がっているのだろう。フォルゴレたちは落とし穴に落ちたというのに何の警戒もなく、階段を登り始めた。俺としては今もなお階段の方を訝しげな表情を浮かべて見つめているレイラが気になって仕方ないが。

「「わああああああああああああ!!」」

「ッ! そう、石よ! その階段を登ろうとすると石が転がってくるの!」

 それからほどなくしてキャンチョメとフォルゴレが巨大な岩に巻き込まれながら戻ってきた。どうやら二重罠だったらしい。岩はそのまま落とし穴に落ちていき、その拍子に弾かれるようにこちらに飛ばされた彼らはぐったりとしている。とりあえず、『月の石』の光の中へ引き摺っておいた。

「ごめんなさい……でも、思い出してきたわ。あの階段は偽物で本物の階段はたくさん並んでる石像の裏に隠されているの」

「あの石像たちか……ガッシュ、行くぞ」

「ウヌ!」

 まだ何か思い出しそうなレイラだったがとりあえず石像の傍まで移動する。石像の裏に隠されているのはわかったが問題はどの石像の裏にあるか、だ。一つ一つ手探りに探すのはさすがに時間がかかる。具体的な場所がわかればいいのだが。

「二人とも左だ!」

 ナゾナゾ博士の声に振り返るとやっとレイラが階段の場所を思い出したらしい。しかし、何故彼女は思い出したのに両手で顔を覆っているのだろうか。いや、今は階段だ。俺とガッシュはレイラの指示通り、左端の石像に近づいた。

「ウヌ、これなのだな」

「よし、ガッシュ。どっちかに動かせないか?」

「やってみるのだ」

 そう言いながらガッシュが石像に触れた瞬間、俺たちに影がかかった。何だろうと上を見上げると石像の左腕が迫って――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、皆、行くわよ!」

「おい、俺たちに何か言うことはないのか」

 ことごとく遺跡の罠に引っ掛かった俺たち(俺とガッシュがやられた後、サンビームさんとウマゴンも引っ掛かったらしい)から逃げるように隠し階段の方へ歩いていくレイラ。文句を言いたくてたまらないが無駄に時間を取られた今、急いで上に部屋に向かった方がいいだろう。

「あ、あなたたち……本気で行く気!? この上にいるやつは『孤高の群青』なんて目じゃないほど化け物みたいな強さなのよ!? あなたたちが総出でかかってもきっと倒せないわ! 帰るなら今なのよ!」

 その時、背後からパティに声をかけられる。振り返ると彼女は俺たち――特にガッシュを心配そうに見つめていた。

「……心配してくれてるのか」

「なっ……そ、そんなわけないでしょ! いいわ、だったらもう知らない! 行って後悔すればいいのよ! みんな、あいつに倒されちゃえばいい、そっちの方がせいせいするわ!」「ウヌ、パティ。ありがとうなのだ!」

 誤魔化すように大声を張り上げるパティだったがその反応自体、『心配している』と言っているようなものである。ガッシュにもわかったのか笑顔でお礼を言い、彼女は顔を真っ赤にしてしまう。

「……ほ、本当に知らないんだからね!」

 後ろから届く彼女の怒声に押されるように俺たちは階段を駆け上がる。しばらく階段を登り続けていると不意に出口が見えてきた。

「……皆、本当に気を付けて。パティの言ってたことは本当よ。この上で待ってる魔物は私たち全員で戦っても必ず勝てるとは言い切れないわ」

「おいおい、私たちはレイラを合わせて4組もいるんだぜ? それにきっとウォンレイやティオたちと一緒になる。そしたらどんな敵だって」

「ああ、その通りさ!」

 レイラの言葉をフォルゴレとキャンチョメが笑顔で流してしまう。もちろん、決して『月の石』を守っている魔物を舐めているわけじゃない。だが、この先でティオたちと合流できる。ティオの防御呪文があればたいていの攻撃は防げる。それに強力な攻撃呪文はもちろん、カンフーも使えるウォンレイもいるのだ。悔しいが彼は俺たちよりもずっと強い。

(でも……)

 この先の部屋で待つ魔物は『孤高の群青』――サイよりも強いとパティは言っていた。俺が出会った中でサイは最強クラスの魔物。パティがサイと戦った時、八幡さんはいなかったのでサイの本当の強さをパティは知らないはずだが八幡さんがいなくても十分、サイは強い。合流できても気を抜かず、しっかりと戦況を読まなければ。

「ウヌ、見えたのだ! あれが『月の石』なのだな!」

 ガッシュの声で階段の先を見上げると巨大な石が視界に入った。『月の石』の欠片と同じように青白く光り輝き続けており、少しだけ目が眩んでしまう。想像よりも遥かに大きい。だが、あれを破壊してしまえば千年前の魔物やそのパートナーたちはゾフィスから解放される。

「――」

 そう思った時だった。呪文のような声が聞こえ、そのすぐ後に凄まじい轟音が響く。この音は明らかに戦闘音。つまり、この先で誰かが戦っている。

「な、何の音だ!?」

「急げ、何か起こってる!」

 混乱している皆に叫びながら階段を駆け上がった。レイラやパティが何度も忠告するほどの強敵がこの先で戦っているとすればその相手は自ずと限られる。嫌な予感がする。何かまずい感じが――。

 

 

 

 

 

 

「ッ――」

 

 

 

 

 

 一足先に階段を登り終えた俺とガッシュが見たのは『セウシル』と『レルド』の破片が舞う中、右横腹を鋭い何かで抉られるウォンレイとそんな彼の名前を叫びながら手を伸ばしているリィエンの姿だった。




次回から千年前の魔物編最終対決開始です。


……サイの登場まであと2~3話だと思いますのでもうしばらくお待ちください。






・fate/EXTRAのアニメ、2話見ました。
なんと言いますか、本当に話が違くて先が全然読めません。なにより、白野の性格が全然変わっていてめちゃくちゃ違和感覚えますw

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