やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

147 / 259
LEVEL.145 目の前にいる人すら救えぬ者は誰も救えない

「ぐ……お、おぉ……」

 超極太のレーザーが広間の床をぶち抜いてできた巨大な大穴のすぐ近くで俺は情けない呻き声を漏らす。ウマゴンの術が解けて体の大きさが元に戻り、ウマゴンが拘束から逃れることができたのはラッキーだった。しかし、術の解けたウマゴンでは俺たちを遠くまで運べず、直撃は避けたものの術の余波を受けた俺たちは大ダメージを負ってしまったのである。余波だけでこれだけの被害を被ってしまったのだ。もし、直撃していたらと思うと背筋が凍りついてしまう。幸いだったのは術が地面をぶち抜いた際に舞った粉塵のおかげでパムーンから俺たちの姿が見えないことか。もし、まだ俺たちが生きていることを知っていれば彼ならば追撃してきただろう。

「清麿……」

 その時、誰よりも早くフラフラと立ち上がったガッシュがこちらに背中を向けたまま俺の名前を呼ぶ。ただひたすら前を見つめている。粉塵の向こうにいるパムーンを見ているかのように。

「ガッシュ、お前……まだ」

「清麿……ラウザルク、なのだ。頼む……」

 どんなに人間より魔物の方が体は頑丈だとしても先ほどの術のダメージはガッシュでも相当きついはずだ。だが、それでも彼は立ち上がった。ボロボロになりながらもしっかりと前を見つめ、はっきりと俺に術を使ってくれと言った。

「……ああ、思いっきりぶつかってこい」

 ずっと前で戦っていた彼の背中を見てきた俺だからこそわかる。ガッシュはまだ諦めていない。なら、俺だって諦めるわけにはいかない。こんなところでやられるわけにはいかないのだ。千年前の魔物たちを助けるためにも、未だ苦しんでいるサイを助けるためにも、絶対に負けるわけにはいかないのだ。

「第六の術、『ラウザルク』!」

 限界まで心の力を魔本に込め、術を唱えるとガッシュの体に虹色の雷が落ちて一気にパムーンの元へ突撃する。そのあまりの勢いに舞っていた粉塵が吹き飛ばされ、パムーンがガッシュの渾身の頭突きをクロスした両腕で防いでいるところが見えた。俺たちが生きていたことが意外だったのかパムーンは目を見開いてガッシュを凝視している。

「ヌァアアアアアアア!」

「ぐぉおおおおお!?」

 数秒ほど均衡していた両者だったが頭突きをしていたガッシュが右拳を振るい、パムーンを思い切りぶん殴った。そして、空中に投げ出されたパムーンの後を追い、彼の背中に再び頭突きをぶちかます。ガッシュの動きが先ほどとは明らかに違う。パムーンもそれがわかったのか吹き飛ばされながらもガッシュから視線を外さない。

「お主……お主は優しいのだな」

 肩で息をしながらもガッシュが徐に言葉を紡いだ。いきなり話し出したガッシュを訝しげな表情で見るパムーンだったがすぐに動かず様子を窺っている。

「自分も恐怖で体を震わせているのに常にサイのことを心配して、あろうことか私たちを叱咤した。きっとお主は封印される前はさぞ優しくて勇敢な魔物だったのだろう」

「何?」

「しかし、封印されて恐怖を覚え……周囲の者が敵に見えておるのだな。だが、もう怖がらなくてよい! 私たちが救ってみせる! お主も、サイも全員救ってみせる!!」

 ガッシュの絶叫が広間に響き渡る。そう、お前たちはもう自由なのだ。石の呪縛に怯える必要はないのだ。だから、俺たちを見てくれ。俺たちの目を見てくれ。

「……それが、自惚れだと言っているんだ! 仲間の苦しみすら見逃した貴様らに何ができる!?」

「『デーム・ファルガ』!」

 出鱈目に回転する星からレーザーが放たれ、ダメージで身動きの取れない俺たちに襲いかかる。『ラウザルク』状態のガッシュでも俺たちを守りながら全てのレーザーを捌くのは無理だ。

「『ゴウ・シュドルク』!」

「メルメルメ~!」

 だが、レーザーが俺たちの体を切り裂く前に強化されたウマゴンが角を上手く使ってレーザーを弾き飛ばした。これでガッシュは攻撃に専念することができる。その証拠にすでにパムーンに向かって突撃していた。それを見たパムーンが顔を歪ませる。

「くっ、死にぞこないが……どいつも、こいつも!」

「『オルゴ・ファルゼルク』!」

 俺たちに対する攻撃を止め、再び星を身に纏ったパムーンの両手とガッシュの頭突きが激突する。少し前まではあの状態のパムーンにとてもでは敵わなかった。しかし、今は違う。均衡はおろかわずかではあるがガッシュが押している。

「お主の言う通り、私は……サイの苦しみを知らなかった。だが、もう“知っておる”。お主が教えてくれた。それにお主は『仲間すら救えないのに俺たちは救えるはずがない』と言ったがそれは違う。仲間やお主たちなど関係ない。目の前にいる者を救えなかったら誰も救えないのだ。だから、絶対に救ってみせる。お主を石には戻さぬ。サイの苦しみだってなくしてみせる」

「ッ……そんなこと、信じられるわけが! お前1人の力で何ができるという!」

「確かに私1人の力はたかが知れている。だが、私には多くの仲間……友達がおる! 清麿もウマゴンもティオやキャンチョメ、サイがおる! そのほかにもたくさん心強い友達がおるのだ! 1人の力で無理なら2人。2人でも無理なら3人。3人でも無理なら全員でお主たちに手を差し伸べる!! 全員がお主の味方に、友達になる!」

 パムーンの怒声に彼の両手首を掴みながら叫び返すガッシュ。間近で彼の言葉を受け止めたパムーンは大きく目を見開き、呆然とした様子でガッシュを見つめている。

 ガッシュは何者かに魔界にいた頃の記憶を奪われている。そして、誰も知らない人間界にたった独りでいた。そんな彼だからこそパムーンの目の奥に潜む孤独を感じ取ったのかもしれない。

「おぉおおおおお!」

 しかし、パムーンは何かを振り払うように首を左右に振り、ガッシュを投げ飛ばす。難なく着地したガッシュと動揺しているパムーンが再び対峙する。そろそろ『ラウザルク』の効果が切れる頃だ。いつでも術を掛け直せるように心の力を魔本に注ぐ。

「それだけの口を叩くんだ。ならばお前はゾフィスに打ち勝ち、王になれると言うんだな?」

「ならねばならぬ……今まで戦ってきた者たちのためにも、『やさしい王様』に!」

「……フン、そんな言葉に誰が惑わされる? その言葉がどれほどの光を持つ? 俺やあの子の恐怖()を打ち消す光になるとでも!? 違う、違うな……お前にそんな力はない。少なくとも――」

 まるで自分に言い聞かせるように叫んだパムーンが後ろにいるパートナーに合図を出す。するとパートナーの持つ魔本の輝きが大きくなった。まさかこのタイミングで最大呪文を使うのか!?

「――この術に勝てねば、王どころかゾフィスにだって勝てぬわ!」

「『ペンダラム・ファルガ』!!」

 魚のような巨大な胴体に星型の顔が5つ、腕が上に2本と下に3本、背中の翼も5枚。まさに彼の術は五芒星(ペンタグラム)という名前にふさわしい強力なものだった。これほどまでに巨大な術は『ラウザルク』では受け止め切れない。

「清麿……頼むのだ。あの者に勝てる術を……もうあの者の戦いは見たくない。恐怖に怯える戦いなど!」

「……ああ、必ず勝とう」

 『ラウザルク』を唱えるために注いでいた心の力に加え、新たに力を魔本に込める。この呪文は術を使えば使うほど威力が増す八幡さん(人間)に作用する『サジオ・マ・サグルゼム』とはまた違った異質のもの。だが、この魔本の輝きはただ心の力を注いだからではない。それだけガッシュの思いが強いのだ。だから――。

「ガッシュの思いに応えろ、赤い魔本! 奴の術を打ち砕け!」

 

 

 

 ――この一撃がパムーンの心を蝕む恐怖()を打ち消す一筋の光となれ。

 

 

 ――怯える彼を安心させる朝日(希望)となれ。

 

 

 

「『バオウ・ザケルガ』あああああ!」

 俺たちを滅ぼさんとする流れ星(『ペンダラム・ファルガ』)に向かって一体の雷龍が雄叫びをあげながら放たれた。













今週の一言二言


・FGOでセイレム来ましたね。小説そっちのけで攻略してクリアしました。いやぁ、もう魔女裁判は勘弁してほしいですね、スキル的な意味で。アルターエゴ弱点って知らなくて弓王でひたすらチャージ減少しまくって何とか倒しました。
早くピックアップ2が来て欲しいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。