やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。   作:ホッシー@VTuber

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LEVEL.142 群青少女の忠告はいつだって正しい

 とうとう姿を現した千年前の魔物の攻撃は初撃から激しかった。無数のレーザーが四方八方からこちらに向かって放たれたのだ。数秒と経たずに俺たちはレーザーに体中を撃ち抜かれてしまうだろう。だが、このまま黙ってやられる俺たちではない。

「『ラシルド』!」

 呪文を唱えると俺たちの前の地面から盾がせり上がった。それと同時に前方から迫っていたレーザーを受け止める。だが、レーザーを受け止めた途端に盾が軋み始めた。

「その程度の術で防げるとでも? それに前だけ防いだところでどうにもならん!」

 盾の向こうから魔物の声が聞こえるがその声をかき消すように『ラシルド』が真ん中から砕けてしまう。だが、そのおかげで前から迫っていたレーザーはなくなった。

「前だけ防げば……道は作れる!」

 左右と背後から迫るレーザーから逃れるために俺たちは迷うことなく前へ足を踏み出す。いや、逃れるためじゃない。直接本の使い手(パートナー)を狙うためだ。魔物は術を使った直後なのですぐに動けない。今がチャンスである。

「『ザケル』!」

 魔物を無視して本の使い手(パートナー)に向かって電撃が放たれた。しかし、それを見た魔物は小さく笑った後、5つの星を操作して本の使い手(パートナー)の傍に移動させる。

「『ファシルド』!」

「何っ!?」

 星が本の使い手(パートナー)を守るようにピラミッド状の盾を作り出し、『ザケル』を防いだ。あの星に攻撃以外の使い方があるとは思わず、目を見開いた。

「心優しいな……人間への攻撃は弱い呪文を使うとは。だが、俺は手加減せんぞ? それが戦いというものだ」

「『ファルガ』!」

 再び、星からレーザーが放たれ咄嗟に体を捻った。しかし、『ザケル』を防がれた直後だったせいですぐに動くことができなかったからか完全に躱すことはできず数本のレーザーが掠り、あまりの痛みにその場に蹲ってしまった。掠っただけで動けなくなるほどの威力を持っているのだろう。見ればガッシュたちも直撃はしなかったが魔物の攻撃を受けて顔を歪めている。レーザーは線の攻撃だが、数があまりに多すぎた。どうしても避け切ることができない。

「――なッ!?」

 どう戦うか必死に思考を巡らせていると目の前に1つの星が現れた。まずい、蹲っている状態ではすぐに動けない。それに奇跡的に回避できたとしてもこちらの体勢は崩れているので敵は必ず追撃してくる。そうなれば今度こそ直撃だ。

「『ファルガ』!」

「うおおおおおおお!」

 レーザーが射出される直前、俺の体は抱えられるように横からサンビームさんに突き飛ばされ、先ほどまで俺がいた場所にレーザーが通り過ぎた。思わず、ウマゴンを肩に乗せた彼の顔を見てしまう。彼は攻撃が放たれる前にすでに俺を助けるために動いていたのだ。そうでなければ至近距離で放たれた攻撃を回避することは不可能である。問題はどうやってサンビームさんは星の動きを読んだのか、だ。

「ちっ……偶然はそう続かんぞ!」

「『ファルガ』!」

「偶然では、ない!」

 間一髪攻撃を回避した俺たちに再びレーザーが放たれる。だが、サンビームさんはレーザーが放たれた直後に俺たちを抱えて横へ飛び、次々に降ってくるレーザーを全て回避してしまった。やはり、彼は星の――いや、魔物の動きを完全に読んでいる。魔物もサンビームさんに動きを読まれていることに気付いたのか、目を細めた。

「清麿、ガッシュ、ウマゴン。周囲のヒトデに注意するんじゃない。相手の『目』に注意するんだ」

「え?」

「格闘技と一緒だよ。相手の目を見れば攻撃のタイミングや気配などを感じられるはず。慣れるまで難しいがコツをつかめば何となくわかるようになる」

 警戒しているのか攻撃を仕掛けて来ない魔物を見てサンビームさんが小さな声で動きの読み方を教えてくれた。そういえばサイや八幡さんもお互いの目を見て意思疎通をしている。彼らはパートナーの目を見て考えや動きを読み、この後の展開を予測して自分の行動を決めているらしい。あそこまで完璧に相手の動きを読むのはさすがに無理だが攻撃のタイミングさえわかればグッと躱しやすくなるはずだ。星一つ一つを目で追うよりずっと効率的かつ合理的である。

「とにかくあの魔物が姿を現したことで――」

「チッ!」

「『ファルガ』!」

 観察していたが何故サンビームさんに動きを読まれるのかわからなかったらしく、魔物は攻撃を再開した。そして、それとほぼ同時に尻餅をついていた俺の右腕を引っ張り、体を起こした後、思い切り前へ飛んだ。

「――このヒトデの攻撃は避けやすくなったぞ! グルービー(いかしてるぜ)!!」

「……ふっ」

 また攻撃を躱したことで偶然ではないと確信したのか、魔物は小さく笑みを零した。サンビームさんのおかげで体勢も立て直せたので早速、彼のアドバイス通り、魔物の目に視線を向ける。可能であれば攻撃のタイミングだけでなく、僅かな隙もわかれば――。

「ッ――」

 魔物の目を見て俺は体を硬直させた。確かに魔物の『目』には強さを感じる。しかし、それと同時に恐怖のようなものも見て取れるのだ。そして、何より“あの子”の目に似ていた。

「ウ、ウヌ、清麿……あの者の目……」

「……ああ」

 ガッシュも魔物の目を見て気付いたらしい。サンビームさんの言う通り、目を見ただけなのにこれだけの情報を得ることができた。今度、八幡たちに『目』を読むコツを聞くのもいいかもしれない。

「……貴様、もしかして」

 その時、俺を見ていた魔物がハッとした表情を浮かべ、震える手でこちらを指さした。『目』を読むことに気付かれてしまったか?

「あの、群青色の瞳を持った少女の知り合いか?」

「ッ……サイのことか!?」

 魔物の言葉に思わず聞き返してしまった。まさか封印されていた間の記憶があるのだろうか。もしそうなら彼らは指先1つ動かせない中、千年もの時を過ごしたことになる。それは一体、どれだけの苦痛なのだろうか。想像すらできない。

「貴様ら……どうして、こんなところにいる」

「何?」

「何故、こんなところにいると聞いているんだ!」

 サイの名前を聞いた魔物は両手を握りしめ、絶叫した。しかし、彼の問いの真意が理解出来ず首を傾げてしまう。彼らだってそれぐらいわかっているはずだ。俺たちの目的はゾフィスの打倒。そして、千年前の魔物の解放である。

「私たちはゾフィスを倒すためにここにいる! お主たちを助けるために!」

「……ああ、そうか。気付いていないのか(・・・・・・・・・)

「気付いて、いない? それはどういう……」

「いい。どうせわからんだろう……いや、待て」

 彼の質問に答えたガッシュを見て魔物はどこか失望した様子でため息を吐いていたが、ふと何か思い出したのかまた俺の顔を見て目を細めた。

「そこの人間……もしかして俺がまだ石に閉じ込められてた時に散々変なことをしてくれた人間か?」

「……あ」

 俺が千年前の魔物が封印された石版を見た回数は2回。一度目はガッシュの記憶の手がかりを探すためにイギリスに行った時に寄った親父の大学にて。二度目は魔物の数が40人になった日、街の骨董店で見つけた。俺が実際に調べてみたのは二度目に見つけた石版。触っただけで石版に魔物が封印されていることを看破したサイに悪戯するなと言われたがどんなに考えてもわからなかったため、様々な方法で俺なりに石版を調べてみたことがある。目の前に立つ千年前の魔物は石版に彫られていた魔物の絵とどことなく似ていた。

「やはり貴様あああああああ! あの時のおおおおおおおおおお!」

「い、いや、待て。待つんだ。話せばわかる」

「じゃあ、あの子が止めろと言ったのにあんなことをしたのかその理由を説明してみろ!!」

「……」

 ああ、あの時の会話もちゃんと聞こえていたのか。これは言い訳できないや。サイの忠告はいつだって正しい。それが証明された瞬間である。

「くっそがあああああああ! あの時の屈辱、ここで晴らしてくれるわああああああ!」

「『デーム・ファルガ』ああああ!」

 魔物の怒りが人間にも移ったのか呪文を唱える声が今まで一番大きかった。

 術が発動すると星たちが2列に並び、横一列に並んだ星は上に、縦一列に並んだ星は左に移動して格子状になるようにレーザーを放ち、逃げ場はない必殺の一撃が俺たちを襲った。













今週の一言二言


・最近の楽しみはfate/apocryphaなどで流れるfate/EXTRAのアニメのCMを見ることです。キャスター、可愛すぎ。

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