やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
パチパチと音を立てながら目の前で魔本が燃えている。それを私たちは沈黙したまま見つめていた。フォルゴレなら喜びのあまり踊り出すと思っていたのでちょっと意外だった。
「へへ……やったよ」
そんなことを考えながら魔本を見ていると不意にキャンチョメが嬉しそうに言葉を紡ぐ。振り返ると四つん這いになって燃える魔本を見ていた彼は泣いていた。まさか泣いているとは思わず目を丸くしてしまう。
「ああ、やったぞ……勝ったんだ」
キャンチョメの言葉に対して頷いたフォルゴレもウマゴンを抱えながら号泣していた。ああ、なるほど。感動していたせいで言葉が出なかっただけか。
「やったああああああ! 我々だけの力で勝ったぞおおおおおお!」
「きゃっ」
感情が爆発したせいかフォルゴレが私を含めた魔物組を抱きしめる。く、苦しい。人間なのになんて怪力だ。下手したらハチマンより力があるかもしれない。
「フフフ……ボロボロだぞ、キャンチョメ」
「へへへ、何言って……ってあれ。フォルゴレとウマゴンはそんなに汚れてないや。フォルゴレはいつもボロボロなのに」
体を離してお互いの状況を確認したキャンチョメは不思議そうに首を傾げる。やはりフォルゴレはいつも体を張ってキャンチョメを守っていたらしい。フォルゴレの頑丈さも彼らの強みなのかもしれない。
「ああ、今回はサイが助けてくれたからな。君がいなかったら負けていたかもしれない。ありがとう」
「メルメルメ~」
「……まぁ、死んじゃったら困るから。それに私はずっとフォローに回ってたし勝てたのはキャンチョメたちが頑張ったからでしょ」
2人からお礼を言われて照れくさくなり、頬を掻きながらぶっきらぼうに返した。あ、なんか今のハチマンっぽい? ペットは飼い主に似るってよく言われているけれどパートナーもそうなのかな? 私とハチマンが似た者同士、か。なんかいいかも。
「ギ……ギル……」
キャンチョメたちに見られないように口元を緩ませていると消えかかっている魔物が声を漏らした。彼は動物じゃないので私には言葉の意味はわからない。だが、少なくとも悲しみや絶望に染まった声音ではなかった。
「千年前の魔物が消えていく……」
「うん……これでこの魔物はやっと魔界に帰れるんだ」
フォルゴレの呟きにキャンチョメが反応すると数秒ほど考え込んだ彼は徐にもうほとんど姿の見えない魔物に近づき――。
「また魔界で会えたら……今度は友達になろうね」
――笑って手を振った。
先ほどまで生死をかけた戦いを繰り広げていた相手に対して友達になろうと笑う。普通の人ならばそんなこと出来るだろうか。死にそうな思いをしたのに、痛めつけられたのに、最悪、自分が消されていたのに。彼は何の躊躇いもなく友達になろうと言った。
「……なんだ」
キャンチョメははっきり言って弱い。臆病者で術も自分の体を変化させるものばかりで攻撃には向かない。体力もなければずば抜けたバトルセンスすら持ち合わせていない。いつも守るべきパートナーに守られ、それを当たり前だと思っている。けれど、彼はそんな“どうでもいいもの”よりもっと大切な……人として大事なものを持っていた。だからきっと彼は私よりも――。
「メル?」
「……何でもない。それじゃ、ハチマンたちのところに戻りましょ。向こうも無事だといいんだけど」
「おいおいあんまり不吉なことを言うもんじゃないぞ! あっちには清麿がいるんだ! きっと大丈夫さ!」
ハハハ、と笑いながら話すフォルゴレだったが私の不安はなくならなかった。何故ならハチマンは――。
「八幡君、しっかりして!」
俺の体を揺する大海の顔を見上げるが視界が霞んでおり、彼女がどういう表情を浮かべているのかわからなかった。戦いが終わって気が緩んだ瞬間、体に力が入らなくなってしまい、その場に倒れてしまったのだ。
「恵さん、あまり揺らしちゃ駄目だ。意識はあるか? あるなら3回瞬きをしてくれ」
大海を止めた高嶺が冷静に俺の意識の有無を確かめる。声は出ないが意識はあるので3回連続で瞬きを繰り返した。
「意識はあるけど声を出せないほど疲労してるみたいだ。『サイフォジオ』で回復させればすぐに動けるようになるはずだ」
「そ、そっか……よかった。あ、なら急いで心の力を溜めなくちゃ」
『待っててね』と言いながら笑った(霞む視界のせいでも何となくわかった)彼女は魔本を抱えた後、目を閉じて瞑想を始める。最大呪文を『マ・セシルド』で防いだ時に心の力を消費してしまったらしい。それを見届けた高嶺はティオに俺の様子を見ているように指示を出すとその手に持っていた2冊の敵の魔本に火を付けた。
「へ……ちくしょうが。てめぇら軟弱な現代の魔物にやられるとはよ」
懸命に首を動かして人型の魔物がいる方を見ると悪態を吐いた彼は瓦礫に背中を預けていた。
「まぁ、いい。どうせてめぇら甘ちゃんにはロードは倒せん。いや、ロードどころかこの先で戦う千年前の魔物を一体も倒せねぇだろうよ。特に――」
そう言いながら魔物はガッシュを指さした。いきなり指を差されたガッシュは体を硬直させる。
「――てめぇの魔物自体に攻撃しねぇような戦い方じゃあな! まだまだバカ強ぇ魔物が控えてる。ロードを本当に倒したかったら魔物自体にも攻撃しろ。本当に戦いを楽しんでやっている奴らはたくさんいる……そう言う奴に容赦はするな! いいな、約束しろ……じゃねぇと本当に次の戦いでてめぇは消える」
「ウ……ウヌ」
「……ああ、それでいい」
人型の魔物の勢いに負けたのか戸惑いながらも頷くガッシュ。それを見た魔物は霞む視界でもわかるほど安心したように目を閉じて笑った。やはりこいつは無理矢理戦わされていただけだったようだ。そうでなければ己を倒した相手にアドバイスはしない。おそらくこの魔物も千年前はいい魔物だったのだろう。
「じゃあ……あなたたちは何で戦ったの?」
心の力を溜めていたはずの大海が目を閉じながら人型の魔物に質問した。器用なことをするものだ。心の力を効率よく溜めるには集中する必要がある。もしかして俺の回復は後回しでもいいと判断したのだろうか。別に今すぐ死ぬというわけではないが少しだけショックだった。
「何?」
「本当に戦いが嫌な子は何故戦ってるの? ロードに心を操られてるわけでもないのでしょう? お互いに術で本を燃やし合えばすぐにでも魔界に帰れるんじゃ――」
「――フン、そんなの簡単だ。それにそっちの人間なら気付いてるんじゃねぇか?」
「……俺たち人間の心の力がないと術は使えない。ロードが……人間の心、行動を支配するということは――魔物の力、行動も支配することに繋がる」
魔物に指を差された高嶺の説明を聞いて納得した。確かに魔物の力は人間に勝っている。だが、術を使うには人間の力が必要となるのだ。その人間が操られてしまえば魔物は己の力の半分も出し切れないだろう。戦闘中、俺が気配分散を使って人間に近づいた時もいち早く察知して魔本を守ろうとしていた。ロードに魔本を守るように指示されていたからだ。おそらく魔本を守るためなら命を捨てろ、と言われているかもしれない。
「そういうことよ。仮に他の魔物が術以外の火で他の魔物の本を燃やそうとすれば……心を支配されている人間がそれを必死に防ぐし、団体行動を義務付けられている他の魔物も邪魔をする」
「……待て」
気になることがあったので掠れた声で魔物を呼んだ。彼は倒れていた俺に呼ばれるとは思わなかったようで少しだけ驚いている。
「お前の、話が本当だとして……ロードは何を握ってる? 40を超える魔物を従わせるほどの手札は何だ?」
支配されている人間はまだしも団体行動を義務付けられている時点で彼らは脅されている可能性が高い。復活させてくれた恩があったとしても黙って従う必要はない。どんなにロードが強くても40を超える魔物――しかも、千年前の強大な力を持っている奴らだ。黙って従っている方がおかしい。
「察しがいいじゃねぇか。ああ、あいつはとんでもないジョーカーを持ってんだよ。千年前の魔物同士で本を燃やした場合……その魔物は再び石に戻されるんだから」
「何!? まだ完全に石の封印が解けたわけじゃないのか!?」
魔物の発言に声を荒げる高嶺。俺も彼の言葉に驚いていた。確か千年前の魔物は『ゴーレン』と呼ばれる魔物の術の力によって石に封印されてしまったはずだ。その封印はすでにロードによって解かれている。まぁ、封印を解くためにその力について研究した可能性があるので絶対に無理だと否定し切れないのだが。
「さぁな、わからねぇ……だが、石に戻りかけた奴を見たことがある。それが頭から離れねぇ。まぁ、だいたいはそんなもんさ。オレたちが戦う上でのルールは」
話に夢中になっていて気付かなかったがすでに魔物たちの体は消えかかっている。後数十秒の間に彼らは魔界に帰るだろう。
「最後に1つ聞かせてくれ! ここを本拠地にする理由は? この城に戻らねばならない理由はなんだ!?」
「……さっき言った石の封印からまだ逃れられてねぇのかも知れねぇな。それに、あの光……あの月の光を浴びてると力が湧く」
そう言えばナゾナゾ博士が千年前の魔物たちには『回復させる何か』があると推測していた。もしかしてその月の光がその何かなのだろうか。
高嶺の俺と同じことを考えたのか詳しい話を聞こうと口を開くがそれを魔物は手で止めた。チラリと燃えている魔本を見るともうほとんど残っていない。全てを説明している暇はないようだ。
「もう限界らしいな。あばよ、ちっこいの」
「ウ、ウヌ」
「……負けんじゃねぇぞ」
人型の魔物はガッシュにそう言って笑いながら魔界へと帰って行った。
今週の一言二言
・FGOCCCコラボガチャの結果、メルトリリスと御前様をお迎えすることができました。リップは? リップはどこですかあああああ!
い、いや、まだ焦るには早い。ミッション報酬の呼符も余っている。課金もまだ頑張ればできる。だから、まだ焦る必要はない。ふふ、ふふふ。何故かメルト宝具2だけど焦る必要はない。全部メルトに運をドレインされているような気がするけど、大丈夫さきっと。きっと、リップも来てくれるはずだ!