やはり俺の魔物の王を決める戦いは間違っている。 作:ホッシー@VTuber
「ティ、ティオ……なぜ清麿を攻撃するのだー!?」
ティオに剣を刺された俺の耳に届いたのはガッシュの絶叫だった。だが、俺は目を細めて突き刺さっている剣を見ている。痛みがないのだ。
「ふふ、攻撃じゃないわ、ガッシュ君」
「ヌ?」
その時、慌てているガッシュを見て微笑んだ恵さん。確かに痛みがないので攻撃呪文ではないのはわかる。なら、この呪文は一体? 疑問に思っていると突然、刀身の上にある赤い球体の左右に生えていた翼がクルクルと球体の周りを回転し始めた。
「これは……ッ」
それを眺めていると俺の体に変化が現れる。今まで動くことすら億劫だった体がどんどん軽くなっていくのだ。
「治ってく……俺の怪我が治っていく!?」
いつ倒れてもおかしくないほどの大怪我だったのに若干疲労感は残っているものの怪我の方はほぼ完治していた。ティオの新呪文の効果は――。
「そうよ、ティオの第五の術は回復の術……サイちゃんの術と似てるけどこっちは心の力も回復するの」
回復呪文。前、八幡さんの怪我を治す時にサイが使っていたものと効果は似ているがあちらは怪我を治すだけだったはず。だが、ティオの回復呪文は傷だけではなく、体力や心の力も若干ながら回復するのだろう。頼もしい呪文だ。
「ガッシュはまだ元気そうだからいらないわね」
「ウヌ、清麿さえ治ればよい!」
ティオが言うとガッシュは嬉しそうに頷いた。無傷ではないものの俺よりも頑丈なので回復呪文はいらないのだろう。
「さ、立ちましょう、清麿君」
「あと1、2回は術を出せるわ。戦いはこれからよ、清麿!」
俺を励ますように言う恵さんとティオ。だが、俺はすぐに立ち上がることはできなかった。
「いいのか、2人とも……敵の――千年前の魔物の数は約40。しかも、強敵ばかりだ……とても危険な戦いになる」
今ここで戦うことを選択すれば千年前の魔物相手に術なしで戦っているサイのような出鱈目な強さがない限り、危険な目に遭う。気軽に頷くことはできないだろうし、逃げることを選択しても納得はしても軽蔑などしない。
「……あら、たった40? 少ないくらいじゃない?」
「あなたたちと……サイたちと一緒ならね」
だが、恵さんとティオの口から出たのはそんな言葉だった。自然と視線が恵さんとティオ、そして、今もなお戦っているサイに向く。俺の視線に気付いたのか、サイはドグモスの術を躱しながら俺たちの方を一瞥し、また魔物たちの方を見た。
「私は――」
「ああ、もう! 鬱陶しい!」
サイの言葉を遮るようにパティが頭を掻き毟りながら絶叫する。サイの戦い方は完全にカウンター狙いだったので攻めにくくイライラしていたのだろう。
「ドグモス、エルジョ! 後ろの奴らもろともぶっ倒しちゃいなさい!」
「『ガンズ・ビライツ』!」
「『グランガ・コブラ』!」
天使の魔物――エルジョからは無数の光線が、ドグモスからは石の蛇がサイと彼女の後ろにいる俺たちに向かって放たれる。しかし、その時にはすでにサイは俺たち目掛けて駆け出していた。彼女は魔力を感知することができるので相手が術を放つ前に行動できたのだ。
「メグちゃん、ティオ!」
「ええ!」
「『マ・セシルド』!」
ティオと恵さんの前にサイが着くと同時にティオの盾が相手の術を受け止めた。ドグモスはともかくエルジョの術はある程度コントロールできるのでサイの前に盾を出しても後ろにいる俺たちが狙われる。だからこそ、サイは俺たちの傍まで戻って来たのだ。
「ッ……」
『マ・セシルド』は相手の術を消滅させる効果を持っている。だが、それでも2つの術を受け止めるのは辛かったのかティオが小さく声を漏らした。
「く、なんて癪な盾なの!? 負けるんじゃないわ! もっと攻撃よ!」
「追撃が来るよ!」
サイの言葉通り、再びティオの盾に相手の術が直撃する。今度は連撃系の術だったようで術が消滅する特有の音が何度も響き渡った。
「ぐ……」
「ティオ!」
「大丈夫よ、任せて! 私の術は守りの術、そう簡単に壊れはしないわ! それよりも許せないんでしょ? 悪の親玉が! 千年前の魔物やパートナーを操ってる卑怯な奴が!」
ティオの呻き声を聞いて叫ぶガッシュだったが彼女は振り向かずに問いかける。
「ウヌ。そのロードという者は戦いたくもない者たちも無理矢理戦わせてるのだ! しかも、そいつ自身は戦いもせず……安全なところで笑っている!」
「なら、負けられないわね!」
「……ああ、負けられない」
そんな奴を王様にするわけにはいかない。こんなところで負けてなんかいられない。だから――。
「ともに戦おう……恵さん、ティオ、サイ」
相手の術を受け止め切ったのかあの音はもう聞こえない。そのせいだろうか。
「……ごめん」
俺たちの背中を向けているサイの声が異様なほど鮮明に聞こえた。
「……ごめん」
後ろにいるキヨマロたちに私は謝る。確かに千年前の魔物やパートナーを操るロードは許せない。だが、先ほど彼が言ったようにこの先の戦いは危険が伴う。
「私1人じゃ決められないよ……ハチマンの意見も聞かないと」
「そう、だよな」
私の言葉を聞いたキヨマロは残念そうに頷いた。もう、落ち込むにはまだ早いよ。
「でもね」
『マ・セシルド』が消え、こちらを睨んでいる魔物たちを見ながら私は続きの言葉を発する。
「きっとハチマンなら頷いてくれるよ。『行かなかったら狙われそうだから』って目を逸らしながら」
「……そうね。真っ先にガッシュ達を助けに行こうとしたんだもの」
「何? ハチマンさんが!?」
キヨマロもハチマンの性格を知っていたのか目を丸くして驚いている。彼の表情を見て私たちは思わず、笑い合った。
「とりあえず、ここを乗り切ってまた話し合おうよ。ハチマンもこっちに向かってるんだし」
「……ああ、そうだな。よし、反撃だ!」
嬉しそうに頷いたキヨマロは立ち上がって魔本を開く。テストプレイもそろそろいいだろう。ここからは普段通りに行く。拳と拳を軽くぶつけて気合いを入れる。
「ティオ、最初の新呪文、あれは2人同時にかけられるか?」
「ええ、2人が近ければ何とか」
「よし……それをはじめに奴らにかけてくれ。あれは使える。俺たちのコンビネーションで力を発揮する!」
「ッ! そうか……それなら確実にいけるわ!」
彼の作戦に気付いたのかメグちゃんとティオは笑って頷き合った。確かにキヨマロの作戦ならば確実に相手を倒せるだろう。しかし、そのためには2人を接近させなければならない。
「キヨマロ」
「ああ……すまん、頼めるか」
「もちろん任せて。タイミングは教えてね」
申し訳なさそうに謝るキヨマロに笑ってみせた後、こちらを警戒している魔物たちに向かって駆け出した。
「近づけさせないで!」
「『グランセン』!」
ドグモスが片手を地面に叩きつけると彼の背後から巨大な石の砲台がせり上がりいくつもの岩石を放って来る。でも、私の足は止まらない。
「『マ・セシルド』!」
私の前に現れた盾が岩石を受け止めてくれたから。私は盾の下をスライディングして潜り抜けた。
「エルジョ!」
「『ビライツ』!」
「『ザケルガ』!」
エルジョから放たれたビームをガッシュの雷撃が相殺する。ティオの回復呪文は心の力も回復する。そのおかげで私は無傷でドグモスの懐に潜り込むことに成功できた。
「しまッ――」
パティが目を見開くのを尻目にドグモスの足を払い転ばせる。すぐに彼の両足を掴んでその場でグルグルと回り、エルジョに向かって投げた。ぶつかった2人はそのまま地面に墜落する。
「恵さん、ティオ!」
「任せて!」
「『ギガ・ラ・セウシル』!」
起き上がろうとしていた2人の周りに半透明のバリアが出現した。これであいつらは籠の鳥。
「これは……自分が出した攻撃が自分に返って来る術!? ふ、ふん! だからどうだって言うのよ。それだったらこっちから術を出さなければいいじゃない! どうせ一定時間経つとバリアも消えるんでしょ? そんな術、二度目は通用しないわ!」
最初は焦っていたパティだったがすぐに冷静になったのか叫んだ。彼女の言う通り、『ギガ・ラ・セウシル』は初見殺しの術。つまり、二度目は通用しない。術を出さなければ跳ね返すことはできないのだから
「それはどうかしら?」
しかし、それはティオ一人の時の話。
「ここで俺たちが攻撃の術を出したらどうなると思う?」
「そんなの反撃の術を――ッ!?」
今は私たちがいる。私が条件を揃え、ティオが捕まえ、ガッシュがトドメを刺す。これが私たちのコンビネーション。
「チェック・メイトだ!」
キヨマロがニヤリと笑いながら魔本に心の力を溜める。それを見ながら私はパティへと視線を向けた。
「それじゃお疲れ様。テストプレイに付き合ってくれてありがとね。今度はちゃんと自分のパートナーも連れて来た方がいいよ?」
そう言った後、パティたちに手を振ってキヨマロたちの元へ戻る。それにしても凄まじい魔力量だ。ここもちょっと危ないみたいだから急ごう。
「ま、待ちなさい! ま、待って!?」
「『バオウ・ザケルガ』!」
キヨマロが呪文を唱えるとガッシュの口から巨大な雷龍が飛び出す。ガッシュの最大呪文は初めて見たが迫力満点である。心の中でパティたちに合掌した。南無。
「わあああああああああああ!」
「ティオ、今よ!」
「ええ!」
メグちゃんの合図でティオが左腕から右手を離すと千年前の魔物たちを閉じ込めていたバリアが消える。だが、その時にはもうすでに雷龍は獲物に食らいつく寸前だった。
「ぎゃあああああああああああああ!」
そして、彼らは何もできずに雷龍に飲み込まれ、電撃が周囲に迸った。
今週の一言二言
・1月1日、初めて虹演出見ました。寝惚けながらガチャしていたのですが、一気に目が覚めました……まぁ、ピックアップだった武蔵じゃなくてジャックさんだったんですけどね。正直、武蔵よりも欲しかったのでめちゃくちゃうれしかったです。