「―――ツモ。2,000、3,900です。」
「うわ・・・捲られたし・・・」
「追いつけなかったよ~・・・」
長野に数ある高校の一つ、清澄。
そこの麻雀部室で、今一つの対局が終わりを告げた。
最後に投了を見せたのは、宮永咲。
清澄高校に在籍する、将来を有望視される高校生雀士の1人である。
「逃げ切れるかと思ったんだけどな~。やっぱ接戦じゃ無理か~・・・」
「塞酷いよ~!私ばっかり塞ぐなんて~!」
「いや、だって咲ちゃん塞ぐと疲労が半端ないし、豊音放っておくと洒落にならないし・・・」
「・・・何というか、もうちょい普通の麻雀がしたいとこじゃ・・・」
清澄高校主催の練習試合。
それに招かれたのは、遠く離れた地、岩手に存在する宮守女子。
本来なら何の接点もなさそうな2つの高校ではあるが、夏のインターハイの準決勝でぶつかったという過去があり、それ以来友誼を交わし続けていた。
・・・主に、約1名が。
「サエ!オシカッタ!」
「あと少しだったね・・・」
「油断するからそうなるの!」
「してないっての・・・」
「うぅ・・・私3位だったよ~・・・」
「・・・ダントツでビリのわしに対する嫌味か、ありゃあ・・・」
「ま、まぁまぁ・・・」
最終局、トップで迎えたのは臼沢塞。
細かく刻みつつ点数を上げ、なおかつ同卓していた姉帯豊音の力を随所で抑えることにより、何とかトップで最終局までやってきた。
しかし姉帯の力を塞ぐことに集中するあまり、もう1人の難敵への集中が途切れたのが運の尽き。
最後の最後で宮永がツモ上がりすることで、見事にトップの座を奪われていた。
なおもう1人の同卓者、染谷まこに関してはお察し。
不可思議な力が奮われては塞がれ、また奮われては塞がれを繰り返すような珍妙な卓は彼女の記憶に存在せず、その実力を出せぬままズルズルと最下位へと転落していき、浮上することは叶わなかった。
「まこにとってもいい勉強になったんじゃない?こんな珍しい卓、早々あるもんじゃないわよ?」
「早々あってたまるかい。全く・・・!」
「・・・ですが確率的には確かにありえるとしても、ここまで偶然が続くというのは、いささか腑に落ちないところではありますね・・・」
「和ちゃんは相変わらずだじぇ!」
「何にせよ、勝てて良かったです・・・。」
とにもかくにも、予定されていた対局はこれで全て終了した。
みなが一同に集まり、牌譜を元にこの打ち方はどうか、いやいやあの打ち方は・・・と討論に熱が入っていく。
そんな熱を冷ましたのは、部室に入ってきた1人の少年の言葉であった。
「皆さん、頼まれてたジュース買ってきたっす!」
「あ、京ちゃん。」
「遅いじぇ犬!」
「そんな言い方はいけませんよ?優希?」
須賀京太郎。
清澄高校麻雀部に所属する、唯一の男子生徒。
その性別ゆえに、前回の阿智賀女子との練習試合に同行できなかった少年である。
「あ、ありがとうね。須賀君。」
「ありがとうだよ~。」
「・・・感謝・・・」
「シェイシェイ!」
「エイちゃんちゃんとお礼言う!」
「スマヌ・・・」
なお今回は清澄主催と言うこともあり、彼もちゃんと参加している。
参加してはいるのだが、その実力はやはりお察し。
彼の名誉のために言うならば、一度は跳ばずに済んだとだけ言っておく。
「ありがとうね、須賀君。領収書はいつもの引き出しに入れといて?・・・あ、ついでに最近整理してなかったからよろしく頼むわ。」
「了解っす。」
「あと、その下の引き出しに今回の牌譜入れといてね?もちろんちゃんとまとめた状態で。」
「うぃ~っす。」
「・・・京太郎。少しは疑問に思いんさい・・・!」
「着実に犬化してるじぇ・・・」
「・・・否定できないのがまた・・・」
「あ、あはは・・・」
「・・・いいね、彼。」
「えっ!どうしたのシロ!?もしかしてまさかして~・・・!?」
「ワクワク・・・!」
「ドキドキだよ~!」
「ふ、不純異性交遊は駄目絶対!」
「・・・彼がいると楽そう・・・ダルくない・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「ツマラン!」
「・・・みんな楽しんでるみたいだね。どうだったんだい?今日の結果のほどは?」
「あ、先生!」
ふと入り口に目を向ければ、そこにはコンビニのビニールを片手にした女性の姿が。
熊倉トシ。
すでに年輩の域には達しているが、元は有能な雀士スカウトを勤めていた女性である。
もっとも現在はスカウトをやめ、宮守女子の顧問を務めているが。
「その・・・トータルで負けました。ちょっと残念です・・・。」
「でも、私とシロは勝ち越したよ~!」
「ワタシハマケコシタ・・・」
「私と塞が、途中で大負けしたのが、トータルで響いちゃったよね・・・」
「・・・チーム戦。その分を取り返せなかったんだから、気にする必要ない・・・。」
「シロの言う通りだよ。勝てばみんなの勝利。負ければみんな敗北さ。クヨクヨしないで、前を向いてりゃいいんだよ。」
彼女の言葉に、宮守の一同が静かに頷く。
そんな彼女たちをどこか羨ましそうに見つめつつ、清澄部長、竹井久は思い出したかのように口を開いた。
「さて、それじゃあ熊倉さんも戻ってきたことだし、そろそろ始めましょうか。話は聞いてるんでしょう?」
「もちろんだよ~。実はちょっと楽しみにしてたんだ~!」
「ちょっとじゃないでしょ~?向こうで滅茶苦茶喜んでたくせに~!」
「わわわ!塞~!それは言っちゃ駄目だよ~!?」
「コンドハカツ!」
「って言っても、くじ引きしだいだけどね!」
「・・・村人希望・・・役職ダルい・・・」
各々の反応に気をよくしつつ、久は大きく腕を振り上げる。
「それじゃあ清澄主催の人狼ゲーム、イン長野!スタートよ~!!」
『お~!!』
かくして、長野の地にて再び遊戯が開催される。
ただ勝利を目指すもの。
己の知略を振るわんとするもの。
片隅でじっとしていたいもの。
各々の思惑を絡ませつつ、ゲームが始まる―――。
「・・・そういえば、イン長野ってことは、他でもやる予定なの?」
「やるっていうより、やったっていうほうが正確ですね。奈良のほうで、阿智賀、千里山、姫松の皆さんと遊んできました。」
「わ、わ!ちょ~羨ましいんだけど~!?」
「ナゼヨバン!?」
「さすがに奈良までは呼べんじゃろ・・・」
「っていうか、エイちゃんどうしたの・・・!?」
「・・・ダル・・・」
続く