Fate/counterfeit lyric   作:垂柳

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第三話

 ガン、……ッカ、カカ……カン!!

 

 早朝。まだ日も明けきれてもない時間帯。そんな鳥もまだ鳴き始めていない時間でありながら、高町家の道場からは木の打ち合う音が響く。

 

 それは二人の男女が生み出している音であった。

 

「美由希!! 踏み込みが甘い! もっと足を使え! 」

 

「……はい! 」

 

 そんな男女の横で、この道場の主である高町士郎が声を上げる。それに少し押され気味であった美由希が返事を返す。その相手を勤める恭也はそれに関心を向けず、ただ無言で両手の剣を奮っていく。

 

 常人からすればどちらも素晴らしい動きをする中、しかし士郎(高町)はどちらも気が漫ろになっているのを感じた。

 

(……無理もないか)

 

 それに顔には出さないものの士郎(高町)も内心で苦笑する。横目で道場の端を見れば、その先には道場から入ってきてきてから今まで、隅で座禅をする自身と同じ名前を持つ少年がいた。

 

「……」

 

 その姿は自然体であった。世界と一体化しているようにすら見えるその姿は、しかし同時にどうしようもない違和感を見るものにもたらす。

 

 士郎(高町)はかつて友人であった切嗣が語った言葉と、以前見た彼の姿を思い出し、複雑な顔をする。

 

「そこまで、二人とも休憩に入ってくれ」

 

 その言葉に同時に手を止める二人。いつもなら、もう少し打ち合わせていただろうが、士郎(高町)には少しやりたいことがあった。二人のもとから離れ隅に座る士郎の前に立つ。

 

「士郎君。少し俺と打ち合ってくれるか? 」

 

 その言葉に恭也と美由希が目を見開いた。

 

 士郎が閉じていた眼を開く。

 

「…はい」

 

 

 

 

 

 

Side ???

 

 キコキコと金属同士がこすれあい音が生まれる。ブランコに乗ってはいるが、それは楽しむためにこいでいるわけではない。

 

『……』

 

 ただそれぐらいしかすることがなかったからだ。一人で居る家が広く、寂しかったから家を出た。本当はお母さんたちにさみしいって言いたかった。もっと私を見てって言いたかった。だから、家にいなさいという約束を破って、お店に行こうとした。

 

『……ああ。これはお父さんが倒れた時の』

 

 でも見てしまった。みんなが忙しそうに働いて、大変そうな様子を見てしまったらとてもそんなことを言えなかった。だからみんなに気づかれる前にお店から離れた。

 

 行く場所がなくて、それでも家に帰りたくなくて、つい数回だけお父さんとお母さんに連れられてきた公園へと来てしまった。

 

 やることがなくて、でも周りで遊んでいる子供たちに声を掛けることも出来ず、一人ブランコをこいでいることしかできなかった。

 

 遊んでいる子供をそのお父さんとお母さんが楽しそうに見ていたり、一緒に遊んでいる。少し私より年上の子たちは自分の友達と楽しむに夢中だ。私のことなんてみる人たちなんてほとんどいない。いても遠巻きに眺めて小声で話す程度だ。

 

 家族が大変だとわかっている。お母さんはお父さんが倒れてから寝る間も惜しんで働いている。お兄ちゃんもお姉ちゃんもそんなお母さんを支えるのに精いっぱいだ。いい子で居なければならない。迷惑を掛けないように。自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 

 それでも

 

 なんで自分だけなのか。

 

 このまま家に帰らなければ心配したお母さんたちが捜してくれるかもしれない。自分を見てくれるかもしれない。そんなことがつい頭によぎってしまう。

 

 直後、それはいけないと首を振る。

 

 ふと前を見れば、砂場で遊んでいる親子が見えた。笑顔で、お山を作って、泥だらけになって、それにお母さんが怒りお父さんは笑っている。

 

 それをつい目で追ってしまった。 それがすごく楽しそうで、うらやましくて、無性に寂しくさせた。

 

 少し時間がたった頃、お昼だからだろうか、お父さんとお母さんが遊んでいる子供に声を掛け、手をつないで歩いていく。今日は何があったか友達がどうだったのか、なんて話しながら笑って公園から出ていく。周りの人たちもどんどんと公園から離れていく。

 

 きっとお母さんが作ってくれた料理や、外で食事に行くのだろう。

 

 やがて一人公園にポツンとのこされることになった 

 

そろそろ自分も帰らなくてはいけない。作り置きのお昼御飯が家にはあるし、家のだれかが時間を見つけて、様子を見に来る可能性もある。

 

 そして、私がいるのをみてから、急いでまた仕事に移る。お昼の時間が一番忙しいのだから、一緒に食事をとるなんてことも出来ない。

 

 ついその様子を思い浮かべて暗くなり、頭が下を向く。

 

 泣くな、泣くな。

 

 そう思っているのに瞳が潤むのが止まらない。

 

 今なら誰もいないからいいんじゃないか。少しぐらいならここで弱気になってもいいんじゃないか。泣いてもいいんじゃないか。

 

 実際にそこまで考えていたわけではないかもしれない。でも、その時の私は頬を伝う涙を止めるすべを知らなかった。

 

「大丈夫? ……どこかいたいの? 」

 

 そんな声に思わず涙に濡れている顔を服でこすり、慌てて前を向く。そこにはきれいなお姫様のような女の子と少し私より年上だろう男の子の二人がいた。お使いの帰りだろうか。男の子の手には買い物袋がある。

 

 心配そうな顔で見てくるそれに、迷惑をかけてしまうと思って、急いで笑顔を作ろうとする。

 

「子供がそんな顔をするもんじゃない」

 

 お姫様の隣にいた男の子がそれを見て複雑そうな顔でこちらに言ってくる。

 

 何が分かる。と思わず怒鳴りたくなった。でもそんな勇気なんてなくて、それでもあなたに言われたくないという気持ちを込め、思わずにらみつけてしまった。

 

「もー! お兄ちゃん!! そんなこと言ったらダメだよ! で、でりかしー?がないよ! 」

 

「……弱ったな。」

 

 お姫様は少しムッとした顔で男の子を叱る。それに、どこでそんな言葉を覚えたんだ。と苦笑いをする男の子。

 

『ちょっと言葉が足りないのは、この時からか』

 

 それを見て困らせてしまったとハッとし、顔を俯かせる。それを見ていた男の子と女の子は顔を見合わせている。

 

「そうだな。……よし! 迷惑をかけた償いに一つ俺の秘密を教えよう」

 

 何か思いついたのか。男の子はうんと一人頷く。うわー。なになに。とお姫様が騒ぐ。それに思わず顔を上げてしまった。

 

 男の子は少し微笑み、手に持っていた荷物を、少し持っててくれるかと言って、お姫様に渡す。

 

 そして、コホンと一つ咳払いをして、両目を閉じて、難しい顔をして手を合わせた。少し時間が経った時、その両手を開けるといつの間にか一本のきれいなピンク色の花の造花が現れた。

 

 それを見て、お姫様と一緒に驚いた顔をして思わず目を真ん丸にして、男の子を見る。男の子は息を何故か乱しながらも、少しいたずらっぽく笑った。

 

「実は、俺は魔法使いなんだよ。みんなには内緒だぞ」

 

 わー。すごいすごい。と両手を合わせて喜ぶお姫様。その女の子を優しい目で見る。それがひどくうらやましかった。

 

「これは、お詫びにお姫様に上げよう」

 

 なんて言いながら、本当のお姫様をよそにその両手から出した造花を私に差し出した。

 

 それを思わずボッとして受け取ってしまったが、慌てて気づいて差し出してもらえませんと言う。

 

「そうだなぁ。じゃあ交換条件だ。俺の妹と友達になってくれないかい。最近街に来たばかりだから友達一号になってくれるとうれしい。もちろん俺もね」

 

 といたずらっぽく言う。それにお姫様も賛成と声を上げて、私の両手を握った。突然の展開に驚いて思わず固まってしまう。

 

「わたし、衛宮イリヤっていいます。えっと、お兄ちゃんの妹です」

 

「俺は衛宮士郎だ。君の名前は? 」

 

「え、えと。わ、わたしは……」

 

ジリリリリリリィィィィ!!!

 

Side out

 

 

 

 

 目覚ましのなる音。その音に導かれようになのはは意識が覚醒し、慌ててこの心地よい夢を邪魔してくれた原因を止める。

 

 ようやく止まったそれに安堵の域を漏らす。それにしてもずいぶん懐かしい夢を見た。

 

 この後イリヤたちと遊んでいた時、お昼の休憩に戻ったお母さんが、私が家にいないのに気付いて、家族全員で探し回ったと聞いた。

 

 この時、久しぶりにお母さんに叱られた。そのあと抱きしめられた。叱られたのに嬉しくて、抱きしめられた時はうれしくて思わず、イリヤたちがいるのになのはは大声で泣いてしまった。ここのところは少し黒歴史だが、それでもこの時の思い出は大切なものであった。

 

 寝起きの頭ではっきりしない思いの中、それでも夢で見たそれを思い出し、思わず微笑む。

 

(まさかお隣さんだとは思わなかったなぁ。まさか、家が隣で、お父さんと切嗣おじさんが友達同士だったなんて……)

 

 とりあえず、起きなければ眠い目をこする。もう少し思い出にふけりたいところであったが、それをしていたら朝食を食べる時間が無くなってしまう。

 

 とりあえず着替えは後で、先に顔を洗ってご飯にしよう。と下から心なしかいつもよりおいしそうな朝食の匂いに結論付け、ベットの横に飾っている造花に微笑み、寝間着のまま部屋を出た。

 

「ようやく起きたのか、なのは? 」

 

「おはよう、みんな」

 

「もう、寝間着のまま来て……。とりあえず顔を洗ってきなさい」

 

「ごめんなさい……」

 

 下では、当たり前であったがなのは以外の皆がそろって朝食の席に座って挨拶をしてくる。どうやら朝食はもうできているようで、テーブルに朝食を並べいるようだった桃子に、すこし呆れたように笑いながら、小言を言われる。

 

「おはようなのは。ずいぶん眠そうだね? 」

 

「……えっ?な、なんで」

 

 っと、本来ならいないはずの今回の夢のお姫様、イリヤにも挨拶される。いきなりのことに驚く。

 

(あれ?イリヤちゃんがいるということは……)

 

「おはようなのは。ん? 寝癖がついているぞ」

 

 ひょっこりとキッチンから顔を出した士郎にして、起き抜けのために出来ていた寝癖を指摘される。それに思わずなのはは顔を真っ赤にし、

 

「うにゃああああああぁぁぁ?!! 」

 

 また、昨日の衛宮家と同じように朝から悲鳴は上がるのだった。

 

 

 士郎がなのはにあの公園であったのは偶然であったが、今この付き合いは必然であったといえよう。切嗣の日本にいる友人とは高町士郎のことであったのだ。日本に来たのは友人が事故にあったため力になればと思っていたのも理由の一つとしてあった。

 

 なのはが一人で家に居るということも聞いていたため、イリヤと士郎を友人として紹介を考えていた。結局ドタバタとして紹介するのが遅れたところ、当人同士で仲良くなっていたが。

 

閑話休題

 

 

 

 

「う~。どうしてイリヤちゃんと士郎君が来ることを教えてくれなかったの? 」

 

「言ってなかったかな、母さん? 」

 

「そうだったかもしれないわね」

 

 叫んで逃げるようにリビングを出てから、慌てて身支度を整えてきたなのはは朝食の席で家族を見渡して抗議をする。それに士郎(高町)と桃子は顔を合わせて、首を傾げあう。しかし、二人とも笑っている。っあ、確信犯だわ、これ。

 

「だいたい、別に初めてというわけでもないだろう? 」

 

「……夜はともかく、朝からは久しぶりだよ。 」

 

 確かに恭也の言うように食事を一緒にとるのは初めてではなく、あの日の出会いから何度も、それこそ数えきれないぐらいあったことだ。しかし、最近は朝食に関しては一緒にする機会は減っていた。

 

(うぅ。どうしてこんな時に限って、あんな恰好を……)

 

「あはは……。なのは、ごめんね。携帯で連絡入れておけばよかったね」

 

「うう~。そう言ってくれるのはイリヤちゃんだけだよ。……次があったらお願いします」

 

 ジャムをたっぷりつけたパンを口に入れながらのイリヤの言葉に流石親友と涙しながら優しさをかみしめる。

 

(あれ、このジャムいつものじゃない)

 

 イリヤに倣ってなのはもパンにジャムを付けようとしていつもと違うそれに首をかしげる。

 

「ん!? このジャム美味しい……。お母さんどこで買ったの? 」

 

 なのはに先駆け姉である美由希がジャムを付けたパンを口に入れ驚き、思わず母親に聞いてしまう。

 

「それ、士郎君が持ってきてくれたのよ」

 

「この前、ちょっとしたお手伝いをしたおばあちゃんから、お礼にってラズベリーをたくさんいただきましたんでとりあえずジャムにしてみたんですよ」

 

「甘酸っぱくておいしいわ。流石ね、士郎君」

 

 ヘー、シロウクンがと複雑そうに食べる美由紀。それを横目になのはも同じように口に入れる。

 

「……美味しい」

 

 思わず口にだし、美由紀と同じように複雑な顔になるなのは。

 

((士郎君、女子力高すぎだよ……)

 

 私、喫茶店の娘なんだけどなぁと同じ事を同時に考える高町姉妹。

 

「昨日デザートに出してくれたラズベリーのケーキもおいしかったよね」

 

 高町姉妹の顔に何を考えているか察したイリヤは、こちらも複雑そうな顔でさらに追加する。

 

「いや、食材が良かったんだよ。でもお菓子関係は桃子さんのおかげで大分うまくできるようになりましたけどね」

 

「あら。生徒の出来がいいからよ」

 

「いえ。桃子さんの腕前は本当に勉強になります。さっきの朝食でも」

 

「うーん。私は疲れているだろうし大丈夫って言ったんだけど」

 

「いえ。ただで世話になるわけにはいきません。それに桃子さんの腕は感服するばかりです。それをまじかで見ることができるんですから俺にも利がありますよ」

 

「そんなこと言われちゃったら、断れないわよ」

 

 なんて盛り上がる二人を置いて、3人のテンションは美味しい朝食にも関わらず、徐々にテンションを下げていった。

 

 

「父さんは知っていたのか? 」

 

 学校だと家を出た子供たちを玄関で見送ったあと、家に残った恭也が部屋へと戻ろうとする父親に声を掛ける。それに後ろを振り返ることなく返した。

 

「それは士郎君の技量のことか、それとも何故あれだけのものを身に着けているのかということか? 」

 

「両方だ」

 

 わかっているだろうと恭也は厳しい顔をして父の背に問いかける。

 

「年齢にはそぐわない剣だ。しかし、その割にはそれが彼の才能によるものとはいえない。余りにもそれにしては熟達すぎる」

 

「……確かにまだ甘さはあるが、あの年齢でこの腕前は十分すぎるといえるだろう」

 

 恭也の言葉にうなずきながら返す。

 

 彼の頭には先ほど、士郎の隙をついて打ちつけた光景が浮かぶ。

 

(技量のみを見て、奥義を使わなければ7対3。奥義ありなら8対2だろうか)

 

 しかしそれは仮に先の士郎が本気であったと仮定してである。あの戦いにはどうもある程度彼のシナリオ通りであったように思える。それにまだあの年齢であることを考えれば、身体能力はまだ伸びしろがあるだろう。技量については先の戦いと直感から言って、最終的には6対4程度といったところかもしれない。いや、下手をすれば防御だけで言えば、自身を上回っているかもしれず奥義がなければ千日手になる可能性もある。

 

「士郎君のあの技量については以前から知っていた。なぜあのような技量を身に着けたかというのは俺も知らないが」

 

 まさかお前が士郎君を連れてくるとは思わなかったよ、と恭也から見えないその顔に苦笑を張り付ける。

 

「なんで」

 

「何故言わなかったかと言えば、言う必要がないと思ったからだ」

 

 士郎が振り返る。

 

「あの友人が家族として迎えたんだ。そしてこの数年、士郎君を見て俺は信じることにしたんだよ」

 




ぶっちゃけ恭也たちのやり取りを出しましたが彼らは本編にほとんど出ない予定です。正直、もっとうまく描写するか、カットするべきだったかもしれません。なのはの話だけのはずでしたが、思わず書いてしまっていました。こんな描写ならもっとなのはの話を膨らませればよかった。しかし今さら気力が持たないのでとりあえず挙げ。

戦闘描写は原作開始後で。


ちなみに、原作と異なりイリヤと士郎の影響で、家族に対しなのはは少し甘え気味に気持ち意識してみました。


次の話でチラシの裏から抜け出そう、かな?

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