Fate/counterfeit lyric   作:垂柳

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第二話

「ハッ! ―――フッ」

 

 日が昇る前の日本家屋の庭で一人士郎は片手に一本ずつ木刀を持ち振るっていた。その動きは無骨ではあったものの、舞っているようにもみえ種の美しさを感じさせるものであった。それはこの年代だった時の以前に比べれば格段に動きは良かったというか、人外じみた動きだった。しかしそれでも以前の自身の動きに比べればいささか物足りなさを覚えていた。

 

 ここは切嗣たちと日本に来てから住み始めた家であった。以前士郎が住んでいた冬木の家とは日本家屋という点では同じではあったが、一回りほど小さく、道場がなかった。同じ点を他に捜すと言えば冬木のに比べ小さいものの土蔵があることだろう。ここには以前住んでいた人が物置代わりに使っていたようでいろいろな雑貨が放置されていた。今は士郎によって整理され、以前の土蔵のように魔術の鍛錬をする場として使っている。

 

 体の身体強化などについては、ある程度形にはなっていた。魔術がなくても大人に近い動きも出来るようになっている。しかし、士郎本来の魔術である投影となるとまだまだという他ない。今使っているような干将・莫耶を模した木刀程度であれば何とか投影できているものの、宝具については干将莫耶も含め、いまだ成功したこともない。鋭い痛みが走り、投影のイメージが持たないのである。これはまだ魔術回路をオンオフで出来るようにしていないというのも関係があるのかもしれない。魔力も身体の問題か、まだ聖杯戦争前の水準にもまだ戻っていない。干将莫耶程度ならなんとか数本程度作る程度の魔力はあっても、それ以外の宝具は厳しいといえる。

 

 自分の状態にため息の一つでも履きたい気分になる士郎であったが、それでも現状に対し特に焦りは抱いているわけでもないため悲観はしない。

 

「……ふぅ」

 

 一時間ほど動き、汗も出てきたところ学校もあることだしこの辺で終わりにし、そろそろ朝の支度をするべきだろう。軒先に準備しておいたタオルで体を拭き、水でのどを潤す。そして、少女に言われないように汗を流しにシャワーへ行くのであった。

 

 すでに朝食の下ごしらえはできており、あとは仕上げるだけである。本日はホウレン草のお浸しと鮭の塩焼き、あとは自家製の漬物、白米とお味噌汁である。時間もそれほどかからず、あっという間に調理も終わる。自分で見ても納得のいく出来であった。

 

「……こんなものか。とっ、まだ起きてこないか」

 しょうがないと溜息ひとつ。皿に盛り付けられた料理をテーブルに出しながら時計を確認する。朝ごはんを食べてちょうど学校の登校時間に間に合うといったところか。そろそろ起こさないといけないと身に着けていたエプロンを壁に掛ける。

 

 廊下を出た士郎はその前にと、思い出したように隣の部屋に入った。そこには5年前に士郎を家へ向かい入れた切嗣の仏壇があった。

 

「……」

 

 切嗣の遺影の前で線香をたき、静かに手を合わせる。

 

 切嗣が亡くったのは、今から2年ほど前のことだ。癌とのことであった。どうやら士郎を引き取った時にはすでにその身を犯していたらしい。このことを俺たちに話した時は、もう手を施しようのない状態であった。切嗣は天涯孤独の身であったようで、亡くなった奥様も結婚の反対から絶縁状態。連絡も取り合えない状況であるとのこと。切嗣がまだ存命中であった時、どうしたいのかと聞かれたがいろいろ迷うこともあったが結局、イリヤと二人で暮らしていくことになった。幸い切嗣はイリヤが大学を出られるぐらいの資金を残してくれている。それに俺たちだけでは難しかったかもしれないが、よく切嗣の友人であった隣の方に手伝ってもらえ、何とかイリヤと二人でやっていけていた。

 

「……さてと。」

 

 と、今度こそあの寝坊助を起こしてこないと、なんて呟き立ち上がる。時間をおいてみたがやはり起きてくる様子のないお姫様を起こそうと部屋を出た。

 

 

 

 

「イリヤ。朝ごはん出来たぞー。もう起き。……あ」

 

「……へ? 」

 

 ガチャリとドアが開け放たれた先には着替え途中であったのかパジャマを脱いで制服を手に持っている姿だった。

 

「きゃあああああああぁぁぁ?!! 」

 

「ご、ごめ!? 」

 

 朝から悲鳴が上がった。

 

 

「もうっ! お兄ちゃん。朝でも一応ノックしてから入ってて、言ってたのに……」

 

「悪かったよ、イリヤ」

 

 朝の食卓の席。本来なら和やかなものとなるはずであったが、先の一件でイリヤは士郎に対して恨めしい眼で士郎を見つめることで気まずい食卓となっていた。

 

「……むぅ。本当に反省してる? 」

 

「ああ。……そうだ! こうしよう。今日はイリヤの好きなものを作るよ。何食べたい? 」

 

「う~。またそうやってごまかすんだから。……ハンバーグ」

 

「わかった。ハンバーグだな。」

 

 イリヤは食べ物で釣ったことに不服であったのか少し頬を膨らませたが、その顔を赤らめながらも小さく希望の料理を告げる。それに士郎は少し笑みをこぼしてしまいながらうなずく。それにイリヤは気づいて照れくさくなりご飯を急いで口にかき入れた。

 

 

 

 

 

 

 

Side  Illya emiya

 

「じゃあ、イリヤ俺はこれで。学校頑張ってな」

 

「うん、お兄ちゃんまたあとでね」

 

 私の名前は衛宮イリヤ、聖祥大付属小学校に通っていて今年で9歳になります。今別れたお兄ちゃんである衛宮士郎の妹です。と言っても血はつながっていないんだけどね。……名前は気に入っているけど、ちょっと語呂が悪いのが玉に瑕です。呼びづらいと言われても付けてくれたのはおとーさんとママなので文句はそちらにお願いします。

 

 お兄ちゃんは私と違って公立の中学校に通っています。私も公立でいいって言ったんだけど、友達もいるし環境がいい場所で勉強してもらいたいということで私立の学校に通っています。ちょっと過保護だよね。だけどそんな優しいお兄ちゃんが大好きです。……本人のまえじゃ、恥ずかしくて言えないけど。

 

 お兄ちゃんと別れてバス停で待つ。お兄ちゃんの時間に合わせて少し早く家を出たということもあって、バス停には一番乗りで着きました。でも、それもこれだけ時間があれば近くの学校の生徒も集まっています。しかし、待ち人は来ず。どうしたんだろう?もしかして風邪とか?!

 

「―――いりやちゃーん! 」

 

「あっ! おはよう、なのは」

 

 走ってきたのは、私と同じクラスの私の大親友の一人高町なのはです。いつもならもう少し早く来て、一緒にお喋りをしたりするんだけど、今日は寝坊したのかちょっと遅い。なのはは私と違って走るの……というか運動全般が苦手だから、家から走ってきたとしたらきつかっただろうな。

 

 案の定、私の隣に来た時には息が荒くなっていました。大丈夫?

 

「はあ……はぁ……ん。おはようイリヤちゃん。……えっと士郎君、もう行っちゃた? 」

 

 慌て息を整え挨拶をするとなのははきょろきょろと辺りを見回しながら言う。むー、なんだかちょっと面白くない。

 

「もう行っちゃったよ。それより今日は寝坊したの、なのは? 」

 

「にゃぁ。昨日はイリヤちゃんが貸してくれた漫画を夜遅くまで読んでたら寝るのが遅れちゃったの」

 

「あ! 昨日全部見てくれたの? どうだった? 」

 

 そうだ。昨日一足先に購入した魔法少女マジカル☆ブシドームサシを貸してたんだっけ。

 

「うん。まさかムサシがあそこで新しい変身に目覚めると思わなかったよ~」

 

「だよね、だよね!しかもまさかあそこでコジロウが……」

 

 なんて思わずバスが来るまでの時間、魔法少女の話をしてしまいました。そんなことに集中していたせいでバスに気づかず、後ろの人たちに迷惑をかけてしまった。うぅ…。

 

「「ごめんなさぁい……」」

 

「まったく、朝から二人で何やっているのよ」

 

「まあまあ、アリサちゃん」

 

 運転手の人に叱られ、バスに乗る。すると、後ろの席に座っている女の子に呆れた声を掛けられました。それはなのはと同じく私の親友のアリサでした。そして隣の宥めてくれている女の子であるすずかも親友の一人です。

 

「あはは……」

 

 私たちのために空けてくれていた席になのはと二人で座る。

 

「でも、そんなに夢中になるなんて何をお話ししてたの? 」

 

「昨日、なのはにマジカル☆ブシドームサシの漫画を貸したの」

 

「それでお互いに感想を言言い合ってたら、つい」

 

「まったく、好きなのはいいけど周りを見なさい」

 

「「……はい」」

 

 私たちの言葉に呆れたように首を振るアリサ。残念なことにアリサとすずかはこの名作である魔法少女マジカル☆ブシドームサシをあまり読んでません。すずかは本が好きでも、活字の多いものや読んでも少女漫画程度だし、アリサちゃんはこういったものは少しは読むけど、暇つぶし程度で私たちほどしっかり読んでない。なので今のところ、なのはとしかブシドームサシの話が出来ません。……いつか二人にも布教して見せる!

 

「でも魔法とかあったらいいなぁってぐらいは思わない? 」

 

「確かに本当にあるんだったらいいけど。でも、そんなことを考えるぐらいだったら、今度のテストの内容を考えるほうに頭が向かうわよ」

 

「夢がないよ、アリサちゃん……」

 

「ハハ……」

 

 なのはの言葉に二人はあまり乗り気じゃあなさそう。すずかなんて目まで逸らしてるし。……でも魔法かー。あったら便利だよねー。それこそ宿題片づけたりテストを解いてくれる魔法とか、空を飛べる魔法とか、……恋の魔法とか?

 

……なしなしなし!今のなし!!!

 

「ど、どうしたのイリヤちゃん?顔真っ赤だよ」

 

「な、なんでもない! 」

 

「そ、そう? 」

 

 思わず過剰に反応してしまってすずかちゃんたちに心配をかけてしまった。何はともあれこんな感じが私のいつもの登校風景です。

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 イリヤと別れ学校についた士郎は、そのまま教室には行かず弓道部の部室にいた。しかし、士郎は部活をしているわけではない。

 

「……これでよし」

 

「ありがとう、士郎君! 」

 

「いや、これぐらいなら大して手間もかからないから」

 

 手にしていた扇風機を置く。それは古くずいぶん使い込まれていたようであった。コンセントに差し回りだす扇風機は正常に動いていた。それを見た周りの数人の男女が歓声を上げる。

 

 先日、クラスの友人たちにお願いされた士郎は今日の朝、部室にある動かなくなった扇風機を直してあげていたのだ。

 

「いやー。部費が少なかったから、なるべく金かけたくなかったんだけど、士郎のおかげで助かったわ。これから暑くなるし、こんなんでもなかったら大変だったよ」

 

「ほんとほんと。去年は夏の途中で壊れて、部室がものすごく暑かったからね」

 

「着替えるの大変だったよねー。部活前から汗すごくなっちゃって。…まあ、男子は外で着替えてたからいいかもしんないけどね」

 

 私立みたいにクーラーとか付けてもらいたいよねー。と周りが言い合う。それに相槌を返しながら士郎は手元の工具の片づけをする。

 

「なぁ、士郎。今度また射ちに来てくれないか? 」

 

 学校の愚痴へと話題が移動していたが、ある男子が思い出したように士郎は言う。それに周りもそうだそうだと言い合った。

 

「士郎君の射はきれいで勉強になるよね~」

 

「なんていうか、神秘的というか、こう厳粛な雰囲気みたいなぁ」

 

「何度言われても、部活に入る気はないぞ。まぁ、射つぐらいならそのうちな」

 

 そんな周りの言葉に士郎はあまり気のりしないのか、引き気味だ。

 

「はあ。もったいねえ。お前運動神経もいいし、ほかの部活からもすげぇ勧誘きてんじゃん。そん中でも弓はずば抜けすぎてるけど……。なんでもいいから部活とか入んねえの? 」

 

「家事をやらないといけないし、自分の時間がほしいからな。……それにイリヤのこともあるから。手伝いぐらいなら偶にはいいけど」

 

「イリヤちゃんって、あの銀髪の子でしょ?かわいいよねぇ」

 

「確かにイリヤちゃんくらい可愛いと優先しちまうかもしれねぇけど。……チッ。このロリコンめ! 」

 

「しかも血がつながってないとくれば、これは禁断の恋が始まりそうだな。……このロリコンめ! 」

 

 男子たちが一斉に士郎に対して好き放題士郎に罵声をあげ始める。

 

「士郎君って手先器用だし、優しくて大人っぽくていいよね」

 

「ちょっと不愛想みたいなところもあるけど成績もいつも上位だし」

 

「……ちょっとシスコン気味だけど」

 

 それがもったいないよねぇ。なんて女子は女子たちでこそこそ言い合っている。そんな好き放題に言い合う学友に頬を引きつらせる士郎が返せる言葉は一つしかなかった。

 

「なんでさ! 」

 

 

 

 

 そんなこんなで授業まで終えた士郎は帰り道、夕食の材料を買いにスーパーに寄っていた。ビニール袋には今朝方、イリヤと約束したハンバーグの材料が入っていた。

 

(はぁ。好き勝手言ってくれたな。本当)

 

 教室に戻った後もあの話題が続いていた。どうやら弓道部の者たちが広めていたようだ。おかげでクラスの人たちにも士郎は散々からかわれることになった。

 

(止めてくれたのは森山さんたち数人ぐらいだったな)

 

 今度彼女たちには衛宮家特製のクッキーを作ってくるとしよう。と心に決める。そこに

 

「あら。士郎君今帰り? 」

 

「こんにちわ。桃子さん。ええ。それと少し買出しを」

 

 同じく夕飯の準備の帰りなのか、両手に買い物袋を持った桃子さんと会った。

 

「持ちますよ」

 

「あら、いいわよ。士郎君も持ってるみたいだし」

 

「俺は二人分しかないんで軽いもんですよ。一つぐらいもたせてください。家も隣なんですし」

 

「そう? じゃぁ、でも少しこの後寄るところがあるから途中までで大丈夫よ」

 

「はい」

 

 士郎にこんな風に荷物を持たれるのは初めてではない。最初は断ってはいたものの、流石に何度もこのようやり取りをしたことで士郎が引かないことは分かっていたので苦笑いをこぼしながらも素直に渡した。二人で道を歩き出す。

 

「そうだ! 今日一緒に夕飯食べない?きっとなのはたちも喜ぶと思うんだけど」

 

「すみません。今日はイリヤと夕ご飯については約束してしまいまして……」

 

「あら、そうだったの? ……なるほど、今日はハンバーグね」

 

 買い物袋を見て何を作るか察した桃子は、すこし残念そうな顔をした。

 

「そう……。っあ! なら、明日の朝ごはんは? 美味しいパンをさっきいただいてきたから。士郎さんや恭也も士郎君と稽古する約束してるって言ってたから朝ごはん作る時間ないでしょう? 」

 

 この前士郎が鍛錬をしているのを見た恭也が一緒にどうかと誘ったのだ。それに高町士郎(紛らわしい)も喜んでうなずき、明日一緒に鍛錬することになったのだ。

 

「なら、ご迷惑をかけることになると思いますがおねがいしてもいいですか? 」

 

「ふふふ。遠慮なんてしなくていいのよ。こっちから誘ってるんだから」

 

「ありがとうございます」

 

 嬉しそうに士郎君とイリヤちゃんの食事楽しみにしているわねと言う桃子に士郎は少し照れくさそうな顔をした。今までこのような母性を感じる女性が身近にいなかったので少し士郎はこの女性が苦手であった。しかし、嫌いではない。

 

「あ。士郎君。私はここまででいいから」

 

「そうですか。では明日の食事楽しみにしていますね」

 

「ふふ。私たちも楽しみにしているわね」

 

 そんな風に歩いていれば、分かれ道についた。どうやら桃子はここで別れるようだった。明日の約束を確認し、手を振って別れた。

 

 さて帰るかと再び歩き出しそうとしたとき。

 

「―――おにいーちゃーん! 」

 

「ん?……イリヤ。今日はもう帰りか? 」

 

 ちょうど下校途中であるイリヤが走ってきた。

 

「うん。一緒に帰ろ~! 」

 

「ああ。もちろん」

 

「えへへ。今日ね、学校でね……」

 

 士郎を見かけて嬉しそうに一緒に歩き出すイリヤ。それに士郎も優しく笑う。二人で歩く道を夕焼けが照らしていた。

 

 

 

 

 

 

夕食中。

 

「お兄ちゃんはもし魔法があったら何したい」

 

「ぶっ?! 」

 

「?! お、お兄ちゃん、だ、だいじょうぶ? 」

 

「ごほっ。……すまん、イリヤ。ちょっと変な器官に入ってしまったみたいだ。もう大丈夫だから」

 

 士郎はイリヤの質問に思わず夕飯も味噌汁を吹きだすところだった。イリヤが心配そうに見つめてくるのをもう大丈夫だと笑ってごまかす。いきなりのことで思わず過剰に反応してしまった。

 

「そうだなぁ。魔法があったらか」

 

「うん」

 

(といっても今実際につかえるからな)

 

 さて何と答えるべきだろうかと、士郎はハンバーグを口に入れる。口の中にに入れた瞬間肉汁があふれ出し、そして玉ねぎの甘味と触感が口を楽しませる。……うん、よくできている。

 

「そうだなぁ。もしまじゅ……魔法があっても多分今とそう変わらないと思うぞ」

 

「かわらない? 」

 

 不思議そうに首をかしげるイリヤ。

 

「ああ、変わらない。イリヤを守る。俺はイリヤの味方だからな。まずはイリヤのために魔術をつかうよ」

 

「ふぇ?! 」

 

「!? イ、イリヤ大丈夫か? 」

 

 士郎の言葉に顔を真っ赤にするイリヤ。今度はイリヤが喉を詰まらせるところだった。こんな感じで夜は過ぎていった。

 




イリヤの性格はプリズマイリヤの性格に似せるようにしています。

この時、当時数えで
士郎14歳(中学2年生)、なのは9歳(小学3年生)

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