真・恋姫✝無双 狐来々   作:teymy

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戦闘終了まで勢いで書ききったぞー!おー!
戦闘描写って難しいです。台詞ばかりだと単調だし、説明ばかりでも迫力なくなるし…。
精進しろってことですね?ですよねー。
休みは今日までなのでまた更新は送れます。
でも書いてはいるんです。作者頑張ってます。どすこい!


第四話 月には秘密で

ある夜の事。男は食料を見張る役目を受けていた。

 

彼がこの砦に来たのはもう半年も前の事であった。

今では彼もその同類となっているが、彼も自分の村を盗賊に焼かれた農民であった。

ある晩、悲鳴を聞きつけて飛び起き、外に出ると既に村には盗賊たちが跋扈していた。家は焼かれ、食料や金品は持ち去られ、男や子供、老人たちは殺された。女たちは殴られ、そのまま連れていかれた。

彼にも妻と、13になる娘がいた。妻子を守るため、農具を手に取ったが、突如後頭部に強い衝撃を受け、そのまま倒れて動けなくなった。妻子は逃げようとしたものの、すぐに男たちに囲まれた。泣き叫ぶ娘は連れ去られた。妻は家の中に引き摺り込まれ、何度も謝っていた。男たちの笑い声と妻の叫び声を聞きながら、男は意識を失った。

意識を取り戻した男は目の前の惨状に涙した。しかし自ら命を絶つ勇気もなく、なし崩しに盗賊となった。

 

「あー…早く終わらせて女のとこ行きてえなぁ」

 

男は誇りも矜持も無くし、死んだ目をしながらただ流されるように生きていた。

遠くで男たちの笑い声が聞こえる。この賊の中でも上位に立つ者たちだ。幽かに女の叫ぶ声も聞こえる。酒を飲んで女を嬲っているのだろう。

見目の麗しい女は上層の男たちに引き渡される。下層の自分たちには所謂"余り物"の女しか抱くことはできない。しかし、欲望を満たすだけならばそれで充分であった。

そんなことをつらつらと考えながらその場に座り込む。食料番など彼らの中では立っているだけの仕事だ。暇を持て余し居眠りをする者すら現れる。

 

しかし、今日ばかりはそんな自分たちに後悔することになる。

 

ザシュっと、何かが刺さるような音が聞こえる。それも一つではなく、複数。連続的に聞こえてくる。

 

「…は?」

 

一瞬理解できずに思考が停止する。

目の前の光景。何本も何本も、数えきれないほどの弓矢が周囲に刺さっている。男に刺さらなかったことは奇跡と言えるほど、食料にも、建物にも、人間にも刺さっていた。

 

問題なのはその弓矢であった。雲がかかり月が隠れた闇の中でもその弓矢の数が理解できる。すべての弓矢が明りを灯している。

 

火矢―――それを理解した瞬間、男も、周りで矢に刺された男たちも、叫びだした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

砦の向こうから叫ぶ声が聞こえてくる。火矢に気付いた盗賊の男たちだろう。

 

「うむ。上手く混乱しておるの」

 

金の髪を長く伸ばした女は笑う。彼女の人間離れした聴覚は、見えない砦の中の状況を察知した。

 

「荀彧、合図じゃ」

 

「えぇ。…燃やしなさい!」

 

荀彧が叫ぶと、高く大きく作られた松明に火が灯され、大きな明りを作った。

それを合図に、砦の門正面に構えた部隊から大きな銅鑼の音が響き渡る。闇夜から突然現れた軍勢に、盗賊たちはさぞ驚いていることだろう。

 

「暫くは観戦ですかな?」

 

「そうじゃの、できるだけ早く門を開いてもらいたいものじゃ」

 

「そう簡単に開くとは思えないわ……って!?」

 

荀彧が目にしたのは、大きな門を開き、叫びながら飛び出してくる男たち。

 

「開いたな、門」

 

「開いたのう、門」

 

「……馬鹿なんじゃないの!?」

 

憤慨しながら、思わず『自分が砦の中にいたらどのような策を使うか』という考えをしてしまう荀彧だった。

 

「思ったより早く出番が来そうじゃの」

 

「まぁ、その方が楽ですし、良いではありませぬか」

 

「そうじゃの。では荀彧、儂らは前に出て隊を率いる。最後尾が見えたらすぐに出るからの。お主には弓隊の指揮を任せる。あと伝令もじゃ」

 

「わかったわ。逸るんじゃないわよ?」

 

「若造じゃあるまいし、そんなことせんわい」

 

ケラケラと笑いながら隊の前に出る芙陽と星。

砦の門から出てくる男たちは、既に後退する正面部隊を追いかけていた。

 

「そろそろじゃの」

 

「では……。

 聞けい!!我らはこれよりあの賊共に奇襲をかける!!趙雲隊は賊の後ろから挟撃する!!

 奴らの尻には火が付いている!混乱した賊など取るに足らん獣と同じ!

 全力で追い立て切り付けよ!!」

 

「儂ら芙陽隊は砦に入り制圧する!中は火計によって混乱しておる。容赦なく攻め立て蹂躙せよ!

 奴らに兵の恐ろしさ、思い知らせてやるがよい!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』

 

「「行くぞ!!!」」

 

雄たけびを上げながら走り出す軍勢。

賊の男たちが気付いた時には、既に最後尾は砦から離れてしまっていた。そこへ星率いる趙雲隊が流れ込み、退路を塞ぐ形になった。

芙陽隊は趙雲隊の後ろから砦に侵入。火を消すために走り回っていた男たちを容赦なく切り捨てていく。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

一方、公孫賛は暗闇の中、芙陽と星の動きを良く見ていた。

 

「側面部隊が動いた!!今こそ反撃の時だ!!槍兵が一当てした後、すぐに攻勢に出る!!

 全軍、止まれ!!槍兵、攻撃!!」

 

公孫賛の号令の下、全軍が足を止めて盗賊たちに槍を突き付け、先頭の賊の命を終わらせた。

 

「よし、掛かれぇええ!!!」

 

『ぉぉぉおおおおおおお!!!!!』

 

叫びながら槍を手に走る兵たちを見て、公孫賛は考える。

 

(側面部隊、趙雲も芙陽も上手く士気を上げていた。突入の機も見逃さなかった。二人の連携もとれている。趙雲隊が退路を塞ぐように滑り込み、その後ろの芙陽隊を守るように奇襲をかけていた。芙陽隊も趙雲隊にしっかり付いてきて、砦と趙雲隊を縫うように門を潜って行ったし…とんでもない奴らだ)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

荀彧は砦の上の通路を占拠し、弓兵を配置していた。半分は野戦をしている軍の近くで援護をさせ、残りの部隊で砦の上部を制圧、砦内部の援護に充てるためだ。

 

「味方には絶対当たらないようよく狙いなさい!」

 

声を張り上げて支持を出し、周辺の警戒も忘れない。

 

ふと砦の中を見てみると、暗闇であるにも関わらず金色に輝く存在を見つけた。

 

(なによアイツ…あんな目立っちゃって、死んでも知らないわよ!?)

 

案の定敵の男たちに囲まれる芙陽。しかし、次の瞬間には男たちは崩れ落ち、芙陽は既に駆け出していた。

 

「なっ!?」

 

強いとは聞いていた。その強さも間近で目にした。

しかし、芙陽は荀彧の予想を遥かに超えた強さを持っている。

 

(なによ今の!?何をしたのかもわからずに敵が死んでたじゃない!?)

 

砦に上ってからすぐ確認した趙雲も、目を見張る戦働きをしていた。最前線に立ち、敵を切りつけながら味方を鼓舞する姿は頼もしいものだった。

しかし芙陽は違う。芙陽は味方を鼓舞しようなどと考えていない。ただ戦場を駆け、目の前の敵を切り付け、そのまままた駆ける。味方すらも芙陽が何をしたのか一瞬理解できない。敵が崩れ落ち、目の前の敵がいなくなったとき、初めて理解するのだ。

 

『あぁ、これはあの金色の武者がやったのだ』と。

 

そして理解し、兵は考えるのだ。

 

『あの武者がいれば、自分たちは勝てる』と。

 

芙陽は鼓舞しない。ただその存在で、戦場は沸きあがる。

味方は勝利を確信して。敵は恐怖に慄いて。

 

味方の歓声と賊の悲鳴の中、芙陽はまた駆けていた。その金色を靡かせながら。

 

(……やっぱ、綺麗よね…)

 

荀彧は認める。芙陽は、己の遥か上位の存在だと。

その武勇、智謀、そして美しさを、荀彧はしっかりと心に認めた。

 

「…ふん。旅の護衛くらいなら、任せてもいいかしらね」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

常山の昇り龍、趙雲。星は体が高揚しているのを確かに感じていた。

 

今までの旅で、幾度となく賊を相手取って来た。一対一ではない。相手は3人、5人、時には10人以上も一人で相手をしたことがある。どれも星の相手ではなかった。

兵を率いた経験もあった。だが、それはいわば義勇兵とも言えない、村人の寄せ集め。多くても百人規模でしかなかった。

しかし今日率いているのは立派に、訓練を受けた正規兵。それも数百人規模の軍勢を、自分が率いている。それだけでなく、相手も多い。所詮農民の成り下がりである盗賊とはいえ、その規模は千人にも上る。

これだけの戦は初めてであった。自らの力を思い切り発揮できる、最高の舞台であった。

 

「はぁっ!この趙雲、まだまだ力は有り余っているぞ!貴様らもこの程度ではあるまい!!」

 

その言葉は敵に向けた挑発か、それとも味方を鼓舞するものか。

どちらとも意識しなかった星であったが、今回釣れたのは盗賊たちであった。

 

「舐めるんじゃねえ!」

 

「死ねえ、女あぁ!!」

 

男たちが剣を振り回す。

しかし星は、掌を避ける花弁のようにその斬撃をすり抜ける。

その斬撃を避けきった時、目の前にあるのは剣を振り下ろしたばかりの無防備な男たち。

 

「フンッ、芙陽殿一人の方がよっぽど脅威だな!」

 

挑発を続けながら手に持つ槍で相手を屠る。星に傷をつけるには、男たちの動きはあまりにも遅すぎた。

 

(興奮している。体が反応してくれる、動いてくれる…!この感覚、物にして見せる!!)

 

星は理解していた。現状、この己の状態が、自分の最高潮(ベストコンディション)なのだと。

この状態を自分の物にしたとき、さらなる限界、高みを目指すことができるのだと、確信していた。

 

「ハハハッ!次はどいつだ!常山の昇り龍、趙子龍が相手になろう!!」

 

一匹の龍を称えるように、雲の隙間から月が姿を現した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おぉ、掃除をしたからかの。月もこちらを見に来たようじゃ」

 

戦場を駆けながら芙陽は笑う。何人の敵を切っただろうか。数えてはいないが、十や二十ではないだろう。

抜身の愛刀『(とことわ)』を掲げる。顔を出した月に照らされた刀には、刃こぼれの一つもない。

 

「うむ…美しいの、常よ。良い刀じゃ」

 

満足げに笑った芙陽だが、ふと視界の片隅に移った物が気になり、足を止める。

建物と建物の間。その薄暗い空間を、男と女が走っていた。否、走っていたのは男だけだ。女の方は引き摺られるように手を引かれながら、必死に抵抗していた。

 

「おや、この状況でも自らの欲を手放さぬとは。ある意味大物じゃの」

 

ケラケラと笑いながら二人の下へ駆ける。芙陽の接近に気付いた男は、女を抱き寄せ、その首に剣を当てて叫ぶ。

 

「てめぇ!女の命が惜しけりゃ近づくんじゃねぇ!!」

 

男の言葉に笑いを堪えながら、芙陽はその場に留まり、刀を鞘に納めた。

 

「クフ。まああまり大声を出すでないよ」

 

「助けてぇ!」

 

「うるせぇ!!…クソッ、俺の…俺の食い物も、女も、手下も、全部パぁだ畜生!!」

 

「おや、お主は此処の大将であったか」

 

「あぁそうだよ!テメェらが全部ぶっ壊しちまったけどなあ!!」

 

「そうかそうか…」

 

男の話を聞いて芙陽はニタリと、厭らしく、そして獰猛に笑った。

 

 

 

「大将首は…そこらの男より美味いかの(・・・・・)?」

 

 

 

突如襲った殺気は、男を怯ませるには十分であった。

 

「う…ひぃっ」

 

「ひっ」

 

殺気に襲われた男と、巻き添えを喰らった女の足が竦むと、芙陽は一瞬で男から剣を奪う。

それと同時に男の手を叩き、力が緩んだ腕から女を解放した。

 

「は…ぁあ?」

 

男が唖然としていると、既に自分の手元から離れた女と、女の肩を抱いた芙陽がいた。

芙陽の手には男が持っていた剣も握られている。

 

「て、テメェ!」

 

「まあ落ち着け。……娘、歩けるならばこの先へ走れ。儂の兵が保護してくれる筈じゃ」

 

「は、はいぃ!!」

 

女の肩を優しく撫で、逃げるように促すと、一目散に駆け出した。

それを見届けた芙陽は男に向き直り、手に持っていた剣を投げ渡す。

 

「なっ、なんのつもりだ!?」

 

「大将なのだろう?ほれ、大将らしく掛かってこんか」

 

ケラケラと挑発してくる目の前の女に、男も覚悟を決め、剣を握る。

 

「く、そっがああああああああ!!!」

 

走りながら剣を振りかぶる男。芙陽は男の勢いを殺さず腕を掴み、捻りながら投げ飛ばす。

 

「がはっ、あ、があああああああああああ!!」

 

背中を叩きつけられた衝撃の後、剣を持っていた腕に走る激痛に男は叫ぶ。

見れば、いつの間にか剣は握られておらず、肘から先は奇妙に捻じり曲がっていた。

 

転げまわりながら叫ぶ男の後ろから、女の声が降り注いだ。

 

「さて、一騎打ちも済ませたし、そろそろ終わりにしようかの?」

 

声と共に軽く、何かが弾けるような音がした。

 

痛みに耐えながら男が振り向くと、人よりも大きな狐がそこに鎮座していた。

 

「へ、……ひ、ひぃ…ば、化け物…」

 

 

 

「安心すると良いぞ、小僧。痛みを感じる間もなく腹の中じゃよ」

 

 

 

月明かりの届かない闇の中、男の悲鳴が響き渡る。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「荀彧!」

 

荀彧が砦内部で戦後の処理を支持していると、野戦を終えた星が声を掛けてきた。

その体を素早く観察する。着物に所々血が付いているが、怪我をした様子はない。返り血だろう。

 

「あら、趙雲。無事だったのね」

 

「フフフ、お主の弓隊が援護してくれたのでな」

 

「その割には一番先頭で盛り上がっていたようだけど」

 

「よく見ているものだ」

 

当たり前よ。と鼻を鳴らす荀彧に笑う星。

 

「芙陽殿はどうされた?」

 

「さぁ?一人で走り回っていたから、迷子にでもなってるんじゃない?」

 

そんな馬鹿なと呆れる星だったが、丁度件の芙陽の声が暗闇から聞こえてくる。

 

「儂をお探しかの?」

 

姿を現した芙陽。身に着けた白い着物と羽織には、返り血の一つも付いていない。

 

「おや、芙陽殿。口元にまだ血が付いておられますぞ?」

 

「む?ちゃんと拭いたんじゃがの」

 

星の冗談を真に受けて口元を拭う芙陽だが、それに驚いたのは星と荀彧の方だった。

 

「芙陽殿。……喰いましたな?」

 

「……大将首を、の」

 

「アンタ……考えないようにしてたけど、やっぱり妖怪なのね…」

 

荀彧はドン引きである。芙陽を認めた心に抗ってしまうのはこの際仕方がなかった。流石に人を喰うのは無い。

 

「星、お主随分と興奮していたようじゃの。笑い声が此方まで聞こえてきたよ」

 

実際は砦まで聞こえてくるなどあり得ないが、そこは芙陽の人外聴力。星の声はしっかりと聴いていた。

 

「いやお恥ずかしい。これほどの戦は初めて故、少々気が昂ぶりました」

 

「クフフ、これからもっと大きな戦がいくらでも起こる。精進するのじゃな」

 

「勿論」

 

笑いながら語っている芙陽と星だが、荀彧は芙陽の話を考えていた。

 

(さも当然のように『これから戦乱の世』になるって言うわね。…一体どこまで先を見通しているのかしら?)

 

「ねえ、芙陽」

 

「なんじゃ?」

 

「アンタが戯志才たちに聞かせたこれからの事、私にも聞かせて頂戴」

 

「ふむ。まあ時間はある。ゆっくり聞かせてやろうかの。差し当たり今日城に戻ったら儂の下へ来い」

 

「アンタと二人とか怖いんだけど」

 

「お主が妙なことをしなければ何もせんよ」

 

ケラケラと笑う芙陽に若干警戒しながらも、これから聞かされるであろう話に胸を躍らせる荀彧。しかしそれを悟られないよう、顔を背けながら言う。

 

「時間があれば聞きに行くわ」

 

自分から頼んだにも関わらずこの態度。それを見ていた星はやれやれと首を振った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

城に戻った公孫賛軍は、戦後処理は明日からと言うことで解散になった。

荀彧は最低限の処理を終え、言われた通り芙陽の下へ向かう。しかし、どうも城へ戻ってから芙陽の姿を見ない。

部屋に戻ったのかと宛がわれた居室を見ても、明りは付いていない。念のため声を掛けても返事は来ない。

 

「どこへ行ったのかしら?」

 

もう少し城を探してみようと、荀彧は歩き出した。

 

 

 

一方、芙陽は城に入らず、ブラブラと散歩をしていた。折角月が顔を出したのである。煙管を口に咥えながら、どこかで一服してから城へ戻ろうと考えていた。

この時点ではまだ荀彧との約束を覚えていたのである。

 

「あ、あの!」

 

突然声を掛けられた。見れば、若い女が芙陽の下へ駆けてくる。どこかで見た顔だと首を捻る芙陽だが、印象が薄いため思い出すことはできなかった。

 

「先程は助けて頂いて、…ほ、本当に…有難うございました!」

 

お礼を言いながら、思い出したように涙を流し始める女に、芙陽もやっと心当たりに気が付いた。

よく見ればこの女、盗賊の大将首に捕まっていた女である。芙陽が解放した後、無事に兵に保護されたのだろう。周囲を見ると、同じように保護された者たちが身を寄せ合っているのが伺えた。

 

先程剣を当てられたことを思い出したのだろう、涙を流しながら未だ恐怖に震える女に、芙陽は優しく声を掛けた。

 

「無事で何よりじゃよ。先程は怖い思いをさせてしまったからの」

 

優しい声色に顔を上げた女は、月に照らされ金色に輝く芙陽に見とれてしまった。

 

「あの……良ければ、お名前を…」

 

「儂かの?儂は芙陽という」

 

「芙陽様……」

 

頬を桃色に染める女を見て、芙陽は内心でニヤリと笑う。

 

「娘、男たちに弄ばれた哀れな娘よ。儂が癒してやれるのならば、すぐにでも癒してやるものを」

 

悲しそうな顔で女の頬を撫でる芙陽。少女は頬を撫でられながら、更に芙陽へ近づいてきた。

 

「あぁ、芙陽様…私は、芙陽様に癒して貰いとうございます……しかし私は穢れた身。その御心で充分でございます…!」

 

「お主は穢された。しかしその穢れは濯ぐことができるじゃろう?その役目、儂が引き受けても良いものか」

 

近づいてきた女を抱き寄せ、鼻が付いてしまいそうなほど近づきながら優しく頭を撫でる芙陽。

 

「芙陽様…!芙陽様がそう仰って下さるのでしたら…私はすぐにでもこの身を芙陽様に捧げます…!」

 

芙陽は内心で笑った。―――『掛かった』と。

 

「うむ。では行こうか」

 

「あぁ、芙陽様……!」

 

芙陽に手を引かれ、頬を染めた女と二人、暗闇へ消えた。

後日、この女が『金色の姫と月明かりの下で』という"薄い本"を出して成功を収めるのは、別の話である。

 

 

 

「アイツ……どこ行ったのよおおおおおおおおおおおおお!!!?」

 

同じ月の下、荀彧が叫んでいたのも、別の話である。

 




はい、と言うことで戦闘終了です。迫力が足りない気がする…。
荀彧落とそうと思ったんですけど流石にチョロすぎるかなって思ったのでちょっと悪戯したんですが…なんか別の子が引っかかってますね。なんでだ。

次回は曹操の下へ向かおうと思ってます。えぇ。思ってはいるんです。
作者の唐突な予定変更の可能性はあります。
つまり、後書きを書いている時点でまだ何も進んでないんですよね。
執筆率ゼロです。さあ、ギアあげて書くぞー。勢いに任せるぞー!


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