いやー、空いたね。間が。
…すみません。活動報告でも宣ってますが試験勉強が強敵です。
知識ゼロからの一か月で独学。ユーキャンじゃねぇんだぞ。
今回、ちまちまと小分けして書いているので荒いです。ご理解を!
「フハハハ!見るのです!これが『天下無双』と『天の御使い』の力なのです!」
「何をしているのだお主は」
陳宮…音々音が仁王立ちで戦場を前にして喚いていたところを突っ込んだのは、敵兵を粗方片付けて周囲警戒に努めていた星であった。
因みに、芙陽と葵は既に音々音から真名を預かっている。恋と勝敗を決し、葵を紹介した際に音々音が渋々と言った表情で(しかし内心では認めつつ)真名を許したのだ。
「いや…恋殿とあの狐が強すぎて軍師としては存在意義を奪われたような気持ちになり…自棄になってはしゃいでたのです…」
「……そうか…」
星は微妙な表情を作って頷いた。同じようなことを桂花が言っていたが、やはり強すぎるのも考え物なのだろうか。
「う?……お前は確か…劉備の将軍なのです?」
星に声を掛けられた音々音は反董卓連合で見かけた顔に首を傾げた。
星はそう言われて苦笑いをしつつ訂正を入れる。
「私は趙雲。桃香殿…劉備殿の客将だ。本来は芙陽様を主としているのでな」
「おや、そうだったのですか。陳宮と言うのです。真名は音々音。これからは恋殿…呂布殿もそこに加わるのです。ねねは恋殿の軍師…よろしくするのですよ」
「ほう、あの呂布の軍師、陳宮か…私の真名は星と言う。よろしく頼むぞ」
二人は穏やかな雰囲気で挨拶を交わすが、すぐに引き締まった顔に戻る。
その原因は、二人がいる場所から離れた地点……袁術の本陣がある方角から聞こえてくる悲鳴や爆発のように舞い上がる砂塵にあった。
音々音は盛り上がってふざけてはいたが、まだ戦闘は続いている。と言っても消化試合のようなもので、袁術軍は既に壊滅状態。後は残りわずかな本陣を壊滅させればこの戦は終わりを迎えるのだ。
そして悲鳴や砂塵を引き起こしている張本人、芙陽と恋は正にその渦中にいた。
恋は芙陽との共闘が楽しいのか僅かに楽しそうに、しかし黙々と敵兵を吹き飛ばしている。その度に数人が血飛沫を上げ、砂塵が舞い上がった。
芙陽は袁術を探している。目の前に立ち塞がった敵兵は愛刀で一撫でし、次の瞬間には骸となって崩れ落ちた。
袁術軍はその殆どの戦力を失い、既に"軍"としての様相を呈していなかった。
唯々芙陽と恋の猛攻から何とか逃げようとする哀れな群衆でしかなかった。
兵達の混乱は極まっている。その原因の一つは、芙陽達ではなく袁術軍自身にあった。
「張勲様!張勲様は何処へ行った!?」
「何処にもいません!!」
「なんでだよ!?」
「おい!袁術様は張勲様と共にとっくに退避しているぞ!」
「はあ!?聞いてないぞ!?俺たちはどうすんだよ!?」
「とにかく時間を稼げ!少しで良い!袁術様が逃げ切れるまで稼いだら、出来れば生き残れ!」
そう、張勲は芙陽と恋が並び立って袁術軍を蹂躙し始めた時、すぐに逃亡を決意した。逃げ足の速さは大陸でも有数の能力を持つ袁家である。張勲に進言された袁術は勝てないことを理解し、次の瞬間には天幕を飛び出していた。
驚きながらも袁術に付いて行った張勲は、逃げる直前に近く似た兵に『出来るだけ時間を稼ぐこと』を命じていたのだが、今まで物量の力押しでしか戦をしてこなかったのが袁家である。
当然ながら軍師もいない状態で突然『撤退支援のための時間稼ぎ』など出来る訳がない。
今までは細かな指示に至るまで張勲が一人でこなして来たのだ。その慢心と経験不足はここに来て致命的な障害となって袁術軍を襲った。
「もう他の部隊はやられてる!全滅だ!」
「俺たちしか残ってないのかよ!?」
「と、とにかく迎撃態勢を取ろう!」
「馬鹿野郎!こうなったらもう逃げるしかねぇじゃねぇか!」
本陣の兵達は袁術軍の中でも最たる混乱を見せた。
本陣の指揮は今まで張勲が直接執っていたのだ。それ故か、張勲が不在である今、誰がこの部隊の指揮を執るのか。それすらも誰も分からないまま、無駄な言い争いで時間を浪費する。
「どうすんだよ!取り敢えず誰が仕切るのかだけでも決めようぜ!?」
「じゃあ俺が!」
「いや、ここはこの中で一番階級が高い俺が!」
「馬鹿!お前がまともな部隊運用なんて出来るか!おい、お前やれ!」
「はあ!?なんでだよ!?」
「お前頭良さそうだろ!」
「理解に苦しむ!?」
「良いのか?このままこいつらの誰かが下手な指揮で全員を道ずれにしても……」
「やはりここは俺が…」
「いや、階級が高い俺が…」
「くっ……わかったよ!じゃあ俺がやるよ!」
「「どうぞどうぞ」」
「ふざけてる場合かあああああああああああああ!!!?」
大声で叫んだ彼の言う通り、今はそんなことを言っている場合ではない。
「悪いご(袁術)はいねがー!!」
案の定、彼等の目の前に芙陽が現れた。
彼等が時間を無駄にしている間など、芙陽と恋が本陣を壊滅させるには充分なのだ。
「出たああああああああああああああ!!?」
「何じゃ貴様ら人を化物みたいに!」
「あっすいませ……いやアンタバケモンだろ!?人間じゃないだろ!?」
「まぁ、そうじゃの」
「だろ…?」
「…………」
「…………」
「死刑!」
「「「「ぎゃああああ!?」」」」
名門袁家の圧倒的と言われた大群は、たった一人の介入によりこれ以上ない程呆気なく敗戦を喫した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「芙陽さん!お帰りなさい!」
袁術軍の本陣を壊滅させて劉備軍と合流すると、本陣から桃香が駆けつけてくる。
その後ろからは朱里や雛里もついてきており、一方芙陽の周囲には既に桂花や星、愛紗などの将たちが集まっていた。
「ウム、暫く留守にして悪かったの」
「桂花ちゃんたちがいてくれたからね、大丈夫だよ。
それで、袁術さんは逃げちゃった?」
「儂が現れた次の瞬間には逃げ出したらしい。その判断力は賞賛に値するの」
芙陽と桃香が話をしていると、軍を纏め終えた公孫賛が近づいて来る。
「芙陽、久しぶりだな。突然だが桃香の所に押しかけさせてもらった」
「袁紹にやられたと聞いたが、無事なようで何よりじゃ」
「あぁ、突然過ぎてまともに迎撃態勢も取れなかったよ…面目ない話だがな…」
苦笑いで自傷気味に言う公孫賛だが、すぐに気を取り直して右手を差し出す。
「私の真名は白連。芙陽、これからよろしく頼む」
「ウム、確かに受け取った。こちらも紹介せんとな」
芙陽は白連と握手をした後、後ろで控えていた恋と音々音に手招きをする。
「桃香、こやつ等は新たに儂の従者となった呂布と、その軍師の陳宮じゃ」
「……恋…よろしく…」
「陳宮なのです!真名は音々音なのです!」
「葵ちゃんから話は聞いてるよ!よろしくね、私は劉備玄徳、真名は桃香だよ!」
二人と挨拶を交わした桃香は早速今後の方針を提案する。
「二人ともやっぱり芙陽さんからの客将って扱いで組み込んじゃって良いのかな?」
「音々の主は恋殿ですが、形としてはそうなりますなー」
チクチクと芙陽を攻撃する音々音の発言に、芙陽はどこか懐かし気にケラケラと笑っていた。
「この常に警戒心をぶつけてくる猫のような言動…昔の誰かに似ているのぉ…のぉ桂花?」
「知りませんね芙陽様」
「いやぁ、頭を撫でられたり抱き上げられたりする度に顔を真っ赤にしていた誰かさんを思い出しますなぁ…なぁ桂花?」
「知らないって言ってるでしょ星」
「いや、昔の桂花は割とこんな感じだったと思うぞ?」
「新参の癖にナマ言ってんじゃないわよ赤馬毛」
「赤馬毛!?いや赤くて馬の尻尾見たいだけど!私の時だけ辛辣過ぎないか!?」
白連はどうやら八つ当たりの対象として犠牲になったようだ。
その後恋と音々音、そして呂布隊の方針が決められ、彭城まで引き上げようとした劉備軍だが、その前に芙陽が桃香に近づいた。
「桃香……これは相談何じゃがの…」
「どうしたの?芙陽さんが珍しいね?」
桃香もこの芙陽の様子には驚きを隠せない。いつもは自分一人でなんでも決めて周囲を振り回すような芙陽が、態々"相談"と前置きをしてまで話を切り出すのは初めて出会った。
「ウム。流石にこれ以上はちと不義理だとは思うのでな、お主の許可が下りなければ諦めるつもりじゃ」
「う~ん…取り敢えず話してくれないかな?」
今まで散々芙陽に世話になって来た手前、出来れば許可を出したい。しかし、桃香は一国一城を預かる身である。そう易々と判断してはいけない。
「実はの、袁術を追いかけようと思ってな」
「袁術さんを?」
「袁術がここまで大規模な軍事行動を起こしたとなれば、伯符が動かない筈がない。それを見に行ってみようかと思っての」
しかも、袁術は手ひどく敗北しているのだ。この好機を孫策が、まして周瑜が黙って見逃すなどあり得ない。そもそも『反乱が終わってからの乱世』に好機があると教えたのは芙陽なのだ。
「あ~孫策さんと仲良かったもんねぇ………う~ん…どれくらいで帰って来るの?」
「それほど長居をするつもりは無い。それと、桂花を連れて行こうと思っておる」
「桂花ちゃんを?」
「伯符の所へ行ったらぐるっと回って孟徳にも会って来ようと思ってな」
「え、曹操さん?それ随分と長い道のりにならない?」
「儂が桂花を乗せて運べばそう遅くはならん」
桃香は考え込む。出来れば行かせてやりたいものだが、如何せん理由としては物足りない。桂花まで連れ出していくというのであれば尚更のことである。
桂花は正確には芙陽の臣下であり、本来なら芙陽が『連れて行く』と言うのなら桃香に拒否権は無い。
しかし今回のように芙陽が桃香に"相談"したと言う事は、桃香が多少でも強く拒否を示せば諦めると言っているに他ならない。
「二つ、聞かせて?」
「何じゃ?」
「まず一つ。孫策さんはまだわかるけど、曹操さんにまで会いに行くなんて…急にどうしたの?」
桃香はもう少し踏み込んだ所まで聞いてみることにした。
芙陽は少し考えるとすぐに語りだす。
「桃香…お主は感じなかったか?反董卓連合が終わり、朝廷もその価値を無くし……新たな時代の幕が開けたことを」
「……芙陽さんがずっと言ってた、乱世…」
「そう。袁紹が白連を攻め、袁術がお主を攻め……既にこの大陸は動き出している。
今まで儂が会って来た英傑達…奴等がどんな生き方をしていくのか…儂は出来るだけこの目に収めたいと考えておる」
「芙陽さんが会った人達…だから曹操さんも?」
芙陽は頷き、思い返した。今まで会って来た多くの英傑足る人物。
その中でも今、芙陽と桃香を中心に集まっている者たちと、今も別の地で乱世に挑もうとしている者たち。
そして、未だ再会できていない風と稟。
芙陽はこの世界でできた初めての友の顔を思い出し、空を仰ぐ。芙陽の知ってる史実通りなら、曹操に仕えている筈だ。もしかしたら会えるかもしれないと、仄かな期待を抱いていた。
「長きを生きる儂等にとって、人の生はあまりにも短く、激動の時代では尚更のもの。だからこそ、儂は出会った者たちと多くを語り、その生を見届けたい」
「……そっか…」
桃香は芙陽が何を思ってそう願ったのかは分からない。ただ、芙陽の顔が少し寂しそうに見えた。
『長きを生きる』
その辛さが理解できない桃香は、唯"そう言うものだ"と漠然と受け入れるしかなかった。
「それに、恋が襲われた怪しげな者達のこともある。奴等の事を伝えてやろうと思ってな」
芙陽は左慈や于吉の襲来を楽しみにしているが、その為に曹操や孫策が利用されるのは面白くない。
彼女らは芙陽にとってかけがえのない友人なのだ。
「そっか…恋ちゃん一人じゃ危なかったって聞いたし、曹操さんや孫策さんを仲間にされちゃったら私たちも苦戦しちゃうもんね」
桃香は芙陽のその気持ちには触れず、王としての懸念を挙げる。
少し考えた後、頷いて言った。
「分かりました。…でも、桂花ちゃんを連れていくのは?」
「桂花には今まで儂が軍師としての指導を行ってきたが、実際目に見て学ぶとではやはり違うからの。
乱世を迎えた今、他国の軍師が何を考えているのか知ることは得難い」
と、そこまで語った芙陽だったが、不意に表情を穏やかな、しかし苦笑いに変える。
「それに、あれには最近寂しい思いをさせていたからの。曹操の元へ向かう事だし、友人に会わせてやろうかと思ったんじゃが」
恋仲としては少々桂花を放置しすぎたと、芙陽は軽く反省していた。
「儂の臣下とはいえ今はお主の客将でもある。今、桂花に抜けられてあまりにも困るようなら考え直すがの」
芙陽としてもこの話は無理に通すつもりは無い。断られたのなら少し残念だが納得するつもりであった。
「うーん……よし、芙陽さんや桂花ちゃんたちに甘えてばかりなのもあれだしね。気を付けて行ってきてね?」
桃香は少し悩んだが、許可を出すことにした。
今言った通り、芙陽とその臣下達に甘えてばかりではこの国の主として示しがつかない。
桃香の理念は『皆で協力して平和を実現する』だが、それは"甘え続けても良い"と言う事にはならないのだ。
現状、芙陽の臣下達を客将として雇い、その協力を欠かせない桃香たちだが、桃香自身は内心でこの状況に少し不安を覚えていた。
もし、芙陽が桃香との約束通りではなく、桃香を見限る以外の何か別の理由でこの国から立ち去ることになった時、桂花、星、恋、音々音、そして恐らく月と詠も付いて行くだろう。
そうなれば徐州の力は大幅に減る。半減と言っても過言ではないだろう。
桃香はこの国の"王"として、少しでもこの状況を改善するため、芙陽に遠征の許可を出した。
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「…我が母、孫堅を失い、長く辛い雌伏の時を経て、待ちに待った時が来た…。
これより呉の大号令を発す!
今こそ積年の恨みを果たす時だ!宿敵、袁術は『天の御使い』に敗れ力を失った!この好機を逃さず、奪われたものを取り返すため!
立ち上がれ!お前たちの死は呉の礎となり永遠となる!
決して死を恐れず、誇りを胸に前進せよ!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
怒号を上げ、荒い息を吐きながら進む大軍団。
孫家の全軍が向かうのは揚州。袁術の敗走を聞きつけ、今こそ好機と判断した孫権と周瑜は以前から進めていた策を実行する。
反董卓連合の頃から少しずつ少しずつ進めていた各地方の豪族や民衆の引き抜き。
袁術に露見しないよう勧めるのは骨が折れたが、それが実を結びこうして軍を立ち上げることが出来た。
今、各地に散らばった孫家の仲間たちが兵を民衆に偽装し、十万人規模の一揆を起こしている。
敗戦直後の袁術にはそれを抑える力も暇も無く、当然その討伐には孫策が起用された。後は各地の仲間と合流しながら袁術の元まで進軍すれば良い。
士気高い孫策軍は袁術が何の準備もする間もなく揚州の城近くまで進軍した。
モタモタと開戦準備を進める袁術軍に孫策たちが呆れているが、そこへ更に袁術を絶望させる報が両軍に飛び交った。
即ち、
『狐来々』
タイトル回収。一回やってみたかった。
ルビ振ろうかと思ったけどやめました。なんかルビ付けたら"コレじゃない感"が出たので(笑)
因みに元ネタの『遼来々』は演義の造語らしいですね。本当は『遼来遼来』だとか。
泣く子も黙る張遼の演義よりも派手な正史は恋姫では見られないので狐で代用(笑)
だって霞に「山田ぁ!」とか言わせられないし…。
来月は一話投稿できるかできないか…それくらいになると思います…( ;∀;)
誤字、脱字報告、感想などお待ちしております。