真・恋姫✝無双 狐来々   作:teymy

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今日は土曜日!!(願望)

最近『ロボットのモモちゃん』という漫画を買いました。
感想欄でロリロリ言ってる人たちは要チェックや!

閑話です。愛紗のちょっとした過去話。…過去話?
なんだか芙陽がすっかり説教キャラに…。


閑話 時には武器を置いて 其の四

○25.5話 心に余裕を○

 

長く艶やかな黒髪を靡かせ、愛紗は城壁の上から街を見る。

 

晴天の元賑わう商店の多い通りでは、民たちが声を張り上げて自慢の品を宣伝している。

その喧騒を聞きながら、久方ぶりの休暇をどのように過ごすか思案していた。

 

真面目な性格である愛紗は仕事を苦に思わない。それどころか、先を考えると仕事をせずにはいられないのだ。

今日とて本来は仕事に精を出すつもりだった。しかし、反董卓連合から帰って来てからというもの、ずっと働きづめであったことを見かねた桃香が休暇を命令してきたのだ。

 

別段疲れているとは思わなかったが、部屋に戻ると眠気に襲われて昼近くまで寝てしまったことを鑑みるに、やはり疲れも溜まっていたのだろう。

『天の御使い』である芙陽に出会ってから、最近ではどこか頼りがいも出てきた義姉を嬉しく思いながら、愛紗は何をするでもなく城壁へと足を向けたのだ。

 

「あら?愛紗さん」

 

ふと後ろから声が掛けられる。見れば、最近女中となった月が手に何も持たず歩いて来た。

 

「月……休憩か?」

 

「はい。今日はご主人様が街へ出るそうで…午前で仕事が終わって暇を出されてしまいました」

 

クスクスと笑いながら話す月に、愛紗も笑い返す。恐らく芙陽も月の体力を気遣ったのだろう。文句無く働いていると評判ではあるが、やはり慣れない女中と言う仕事。適度に休まねば続かない。

 

因みに月は黒を基調とした服にひらひらと装飾の付いた前掛け、未来で言うところの『メイド服』を着ている。

最初は他の女中と同じ服でも良いかと言われていたが、芙陽が『儂の女中だから区別せんとな!』と言って調子に乗った結果この服が作られた。

余りにも時代にそぐわない意匠であったため皆戸惑っていたのだが、芙陽が何故か首を傾げながら『何か抗えない物を感じた』と困惑していたのでそのままこの服が採用されたのだ。

 

そのような経緯でメイド服に身を包んだ月は愛紗の隣に立つ。

 

「急に休めと言われてどうしようかと…それでお散歩してたんです」

 

「そうか…私も似たようなものだ。互いに働き過ぎらしいな」

 

「フフッ、そうですね。……私もここでご一緒しても良いですか?」

 

「私は構わないが…ただボーっとしていただけだぞ?」

 

そもそも何をしようかと考えている最中であったのだ。愛紗としては無駄な時間に他ならなない。

 

「たまにはそういう時間も良いと思いますよ?私も涼州にいた頃はのんびりとしてましたし」

 

「そういうものか…」

 

これまで駆け足で生き抜いてきた愛紗からすれば、どうしても気持ちが急いてしまう。しかし月はクスリと笑うと愛紗に言う。

 

「ご主人様も言ってましたよ?『焦り過ぎても疲れるだけで良いことは無い』って…」

 

「……そうか、芙陽殿が…」

 

複雑な経緯で名を捨て、女中として生きることとなった月も恐らく焦っていたのだろう。そして芙陽にそう言われ、肩の力を抜くようになったのかと思案する。

相変わらず人を諭すのが上手いと思った。芙陽は時折、気まぐれにそうやって人を導くようなことを言う。

長い時を生きる狐の妖である故か、きっと人間は幼い子供の様に見えるのかもしれない。

 

「私も、芙陽殿に言われて気付いたことは多いな…」

 

ふと、自分も同じようなことがあったことを思い出した。

 

「愛紗さんもですか?……お話を聞かせて貰っても?」

 

恐らく芙陽の話と言う事で食いついたのか、月が期待のこもった目で愛紗を見つめる。

好意を隠さない月は度々桂花と対立している。と言っても、二人ともそれを内心で楽しんでいるようなので周囲も放っているのだが。

 

「私も未熟だったのでな、少し恥ずかしいが…まぁ良いか」

 

苦笑いで答えながら、いつの事だったかと記憶を探る。

城壁の石積みに背を預け、愛紗はゆっくりと語りだした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

桃香が平原を治める様になって間もない頃。

まだ葵が芙陽の眷属になっていない頃に、愛紗は芙陽と共に賊の討伐に出かけていた。

 

まだまだ平原は安定などしていない。自分たちがこれから安定させていくのだ。そのためにも、周囲に蔓延る賊は一掃し治安を回復させねばならなかった。

 

その日は愛紗が賊討伐に出かけることになった折に芙陽も付いて行くと言い出した。いつもの気まぐれだろう。

しかし、この時の愛紗はまだ芙陽を信頼していなかった。

 

義姉である桃香が頭を下げてまで傍に置いている。それが何故なのかは勿論理解しているが、初めて出会った時のことが、まだ愛紗の胸にしこりを残していた。

 

桃香の言葉を、夢を鼻で笑われたような気持ちになり、自分を抑えられなかった。

勿論こちらに非があったのは承知の上だ。だが、だからと言って納得できるかと言えばそう簡単な話ではない。

 

芙陽は気にせず歩いているが、愛紗と芙陽の間には言い知れぬ気まずさが漂っていた。

 

その空気に率いていた兵達が辟易しながらも、賊が根城にしているという廃村に到着する。

身を隠しながら近づいて行けば、昼間だというのに酒を飲んでいる男たちの笑い声が聞こえてくる。

 

そして、泣き叫ぶ女の声も。

 

愛紗の目に裸の女が嬲られている光景が映った瞬間、彼女は飛び出した。

 

「悪党共が…覚悟しろ!!」

 

手に持つ青竜偃月刀を振り回し、動揺する賊を次から次へと骸へ変えて行く。

愛紗に続いた兵達も同じように目につく賊へ斬りつけて行き、廃村は一瞬で戦場となった。

 

怒号飛び交う中、芙陽の姿が無い事に気付く。軽く辺りを見回しても戦っている様子もない。

何をしているのかと怒りも湧き上がるが、気にしている場合でもないと戦闘を続け、大将の首を獲ったところで女たちを保護した。

涙を流しながら一か所に集められると、数人の女が忙しなく周囲を見回している。

まるで何かを探しているような必死な姿に、愛紗が声を掛けた。

 

「何をしている?」

 

「子供が…子供たちが捕まっているの!あの子たちはどうしたの!!」

 

「!!」

 

涙を流しながら訴える様子に、恐らく自分の子供も捕まっているだろうことは容易に想像できた。

愛紗の中に焦りが生じる。あの混乱の最中、早々に見切りをつけてこの場を離れた者もいるだろう。その卑怯な立ち回りに憤るが、まずは子供たちを確保せねばならないと兵に命令を出す。

しかし、賊を殲滅するために殆どの家の中は捜索済みだ。状況は悪かった。

 

「子供たちは無事じゃ。少し離れたところにいたのでな、じきに兵が連れてくる」

 

と、そこで掛かった声。探していた芙陽のものだ。

話の内容に女たちは安堵しているが、愛紗はそれよりも単独行動に対する怒りが大きかった。

 

「芙陽殿!一体どこに…」

 

そう叫ぶが、芙陽は愛紗を無視して歩き出す。文句を言おうと愛紗も後を追う。

芙陽が向かった先には賊の死体が集められていた。奇襲であったために幸いこちらの兵は負傷者はいたものの死者を出さずに済んでいる。

芙陽はその賊の亡骸を前にすると、いつものように黙祷を捧げた。

 

愛紗には我慢できない行いであった。

 

「芙陽殿!!単独で行動した挙句、賊如きにそのような態度…我等を馬鹿にしているのですか!!」

 

「黙れ」

 

「黙るものか!この者等はたかが賊だ。我が義の刃に倒れた獣だ!私は畜生などに払う敬意は持ち合わせていない!」

 

愛紗は芙陽を厳しく糾弾した。

単独行動についてや、普段の桃香に対する態度。そしてこの賊に対する黙祷のこと。

しかし、芙陽は黙って黙祷を続けていた。

 

「何も言い返さないのですか?いいえ、言い返せないのでしょう!芙陽殿にどんな信条があるのか知らぬが、貴方のそれは正義ではない!」

 

やがて芙陽が目を開けると、ゆっくりと愛紗に向き、その瞬間愛紗の身体が宙に浮く。

 

「…!?っがあ!?」

 

一瞬の間をおいて、愛紗は吹き飛んで廃屋へ叩きつけられた。

 

「何を…!?」

 

続きの言葉は発することが出来なかった。既に目の前に芙陽がいたのだ。

 

「お主はまるで成長せんな。ぎゃあぎゃあと喚くばかりでうるさくて仕方がない。

 あの者等は人の手により既に沙汰は済んでいる。その骸を辱めるなど獣でもせんよ。

 …良いか。死した者に裁きを与えるのは生きる者ではない。それをしようとするなら、お主は畜生にも劣る」

 

「何…!?」

 

「お主の先の話。聞いていて呆れるしかなかったぞ。

 単独行動?それを言うならお主の暴走はどうなのだ」

 

「私は暴走など!!」

 

「女たちを見て頭に血が上り、碌に情報収集もせず飛び出したのは暴走ではないと?だとしたら軍を去れ。足手まといにしかならん。

 儂が単独で動いたのはお主が暴走したからじゃ。子供たちがどうなるところだったか教えてやろう。

 賊が殺すか連れて逃げるかで揉めていたぞ?」

 

「っ!!」

 

「お主が包囲もせずに突っ込んだからじゃ。ああいう手合は勝てぬと分かれば目的を『逃亡』か『嫌がらせ』かに変える。

 儂が探し出したころには得物を振り上げていたところじゃった。あと一歩で殺されていた」

 

「……私は…!」

 

「さて、あとは儂の桃香への態度か。儂は今、桃香の相談役。時に奴の考えを否定するのも仕事なんじゃが、要らぬというなら儂は去る。その程度の器なら喰う必要も無くどこかで死ぬじゃろ」

 

「私は…間違っていたのか…」

 

うなだれてしまった愛紗を見て、芙陽はやれやれと溜息を吐いた。

 

「お主は全てに正誤を付けようとするな…」

 

「私は正義の心で動く…だから…」

 

「お主の正義は尊いものじゃ。しかし、正義とは一つだけか?」

 

「……」

 

「違うじゃろ。生きるために足掻くことは悪か?生きるために殺すことは悪か?

 正義はお主だけの物ではない。まして"常識"のように他者に求める物でもない。

 "正義"とは己に課した信条の事じゃ。それは誰かに押し付けて良いものではない」

 

「正義を…押し付ける…」

 

「皆が皆お主の"正義"に倒れれば平和か?…それは、桃香の言う平和と果たして同じ物かの?」

 

桃香の夢は『皆が仲良く』だ。愛紗の"正義"を振りかざし、逆らう者を押し潰して手に入れられる物ではない。

 

「自国を繁栄させること。一族と民を守る事。他者と手を取り合う事。それぞれが正義じゃよ」

 

曹操、孫策、桃香を思い浮かべながら芙陽は語る。

 

「それと…お主は今一国の将。正義よりも守らねばならぬものがある」

 

「……民、ですか…」

 

力なく答えた愛紗に、芙陽は優しく頷いた。

 

「分かってきたようじゃの。国とは民。民を犠牲にして成す正義は桃香に無い」

 

「私は…それをしてしまったのか…」

 

「桃香もお主の様子を心配していた。帰ったら話し合っておけ」

 

そう言って芙陽は背中を向け、煙管を取り出しながら歩いて行った。

愛紗はよろよろと立ち上がり、芙陽の名を呼ぶ。

 

「芙陽殿。申し訳なかった。……そして、有難うございました」

 

煙を吐き出しながら、芙陽は手を振った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「その後、桃香様とよく話し合ってな…それ以来視野が広くなったと皆に言われるよ」

 

「そんな事が…」

 

「芙陽殿には感謝している。あの時の事が無ければ、私は桃香様と意見を違えていたかもしれない」

 

「私もです。こうして過ごせているのはご主人様のお蔭ですから…」

 

城壁の上、二人は笑いあう。

 

「それにしても、ご主人様にお説教なんて…羨ましいです…」

 

「月のそれは…何かの病気かと思う」

 

「へぅ…」

 

先程までここにいた少女と同じ人物とは思えない月。一体何があったのか、愛紗には想像もつかない。

 

「個人の趣味嗜好を悪く言うつもりは無いのだが…しかしどこから見ても変態にしか見えんのだ…。

 いや、普段の可憐な姿を見れば純粋に芙陽殿を好いていて、芙陽殿からもたらされる痛みすら快感として感じられるなら……いかん、変態だ」

 

「へぅ…あの、真面目に考察されると恥ずかしいです…」

 

暫く二人でくだらない話をしていたのだが、そこに件の芙陽が現れた。

 

「おぉ、ここに居るとは奇遇じゃの」

 

「芙陽殿、どうされたのです?……まぁ、その手に持つ酒瓶で全て察しましたが」

 

「お主等もどうじゃ?今日非番じゃろ」

 

「芙陽様っ、芙陽様!あの、ちょっと私にお説教してもらえませんか!愛紗さんの話を聞いて羨ましくなってしまって…」

 

「もうその発言が説教ものだが……敢えて無視する!」

 

「そんなっ!……あ、でも、これは何か…これで…」

 

「お主…無敵か…?」

 

珍しく驚愕を露わにする芙陽と、頬を赤く染めていやんいやんと体をくねらせる月の阿保主従。

 

その様子に吹き出しそうになりながら、愛紗は芙陽に言った。

 

「たまにはお付き合いしましょう。星のサボり癖の原因がわかるかもしれません」

 

「バカモン碌に働いてない儂の心が痛むじゃろ」

 

「遠回しに攻撃を…いえ、なんでもありませんよ」

 

「昔はバカみたいに正直な娘だったんじゃがのぉ…」

 

「そんな風に思ってたんですか…」

 

今日はよく眠れそうだと、盃を受け取る愛紗であった。

 




閑話にしては長め。
愛紗との絡みが少なく、桃香説教回で納得するにはちょっと足りないと感じて出来上がった話です。
そこにフットワークの軽い月ちゃんを絡めました。動かしやすいなぁ月…。
次も閑話になるかはわかりません。

「宝くじ買ったから奢ってやるよ!」とホクホクした顔で言ってくる友人。
夢にときめけ。しかし現実は見ろ。


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