真・恋姫✝無双 狐来々   作:teymy

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にゃんぱらり!(先生)

あ、打ち切りじゃないよ?全然続くよ?
ペットショップ前にある自販機横のごみ箱に「ペット」って書いてあると戦慄する作者です。
今回アンチだよ!気を付けて!
説教回は何故か長くなる……。しかも難しい…。
大丈夫かな、芙陽の言ってる事変じゃないかな?って不安でしょうがないから保険材料を投入したくて…。

まぁいいや、さあ行くか!


第十七話 俺たちの闘いはこれからだ!

その日、その存在は、その場にいた多くの者にとって忘れられないものとなった。

 

見ていた味方の兵ですら、その存在に恐怖する。

 

「なんだよ…あれ…」

 

「俺は…夢を見てるのか…?」

 

そして、敵の兵…黄巾賊の男達は、その存在に絶望した。

 

「勝てるわけ…ないだろ…」

 

「金髪…桃色の羽織…」

 

「まさか…一人で黄巾の部隊を壊滅させたっていう…」

 

「馬鹿!あれは女だって話だろ!?」

 

「あんな化け物が、あともう一人いるってのか…?」

 

「俺達は…いつの間にあんな化け物を敵に回していたんだ…?」

 

黄巾賊は既に混乱を極めていた。

立て籠る砦の中で火災が起きたと知らされて慌てて消火をしているところに、砦の外から聞こえてくる怒号。

敵襲だと気付いて応戦に出ると、今度は謎の金髪が生い茂る雑草を踏むが如く死体の道を作り、逃げ出す者と応戦に出る者とがぶつかり、行動が不可能となってしまった。

 

今打ち拉がれているのは迫り来る死神から逃げようとも、退路は混乱して犇めく味方に塞がれ、一歩も動けなくなった者たちである。

 

どう足掻いても、絶望であった。

 

周囲にも同じように一歩も動けず、ただ殺されるのを待つしかない者が大勢いる。

最早唯の順番待ちである。

 

『行列のできる処刑人』

 

ある者は既に生きることを諦め、現実から目を背けてそんなことを考えていた。

 

そうこうしている間にも、彼等の順番がやってくる。

 

立ち向かう者。腰を抜かす者。逃げようと仲間の体を必死で押す者。

 

そんな者等をどこか他人事に見回しながら、何もかも諦めた男は呟いた。

 

「回転率高いなぁ。繁盛してるね、死神様は」

 

場違いにも程がある言葉を紡いだ直後、目の前に件の死神が現れた。

 

男の脳内で、ふとある言葉が木霊した。

それは目の前の死神が発した言葉か、はたまた圧倒的な存在に男が思い浮かべた幻聴か。

 

 

『安心して、死 ぬ が 良 い』

 

 

彼の意識はそこで永遠に閉ざされた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ねぇ……あれは芙陽じゃないの?」

 

「いえ…兵たちが間近で見た限りでは『男だった』と…」

 

「だが秋蘭…あの武勇、あの戦い方は芙陽にそっくりだぞ?」

 

「姉者…私も混乱しているんだ…」

 

「そうか…大変だな」

 

「(イラッ)」

 

戦闘が開始されて早々に発生した異常事態だが、曹操達には目的がある。疑問は取り敢えず頭の片隅に追いやり、行動を開始するため指示を出した。

 

「はいはい。取り敢えずあの男の事は放置しましょう。私たちの目的は張角、張宝、張梁の身柄を確保することよ」

 

言った通り、曹操は黄巾賊の首領である張角、並びにその妹である二人を確保するためにここへやって来た。

彼女が手にした情報によれば、黄巾賊とは、旅の芸人であった張三姉妹を応援するため、彼女たちがよく身に着けている黄色い布、または衣服を身に着けて集まっていたのが始まりだと言う。

しかし、人気が天を突くように上がり、応援団――ファンクラブの人数が膨れ上がった際、次女、張宝が何気なしに放った言葉で歯車が狂いだした。

 

『大陸、獲るわよ!』

 

誰がどこでどこをどう勘違いしたのか、結果的にそれは『現朝廷を排し、我等が歌姫が新たな天下を導く』というあまりにも歪んだ拡大解釈が成され、そのうねりに目的も知らずに合流したならず者たちが便乗して大陸全土を混乱に陥れたのである。

集団心理とは恐ろしい。「豊川信用金庫事件」も真っ青なパニックである。

 

だが、曹操は彼女等の人を引きつける魅力に目を付けた。その力をうまく使いこなす、あるいは誘導が出来るのなら、曹操にとっては強大な武器となる。

 

だからこそ、曹操はどこよりも早く彼女たちを確保しなければならない。

 

もし、彼女たちが他の陣営に発見、保護されたとして、いつ正体が露見するかわからない。

そうなれば、最悪その場で処刑されたとしてもおかしくはない。どちらにせよその才覚を無駄に持て余すだけとなるだろう。

 

「"張角と思わしき男"の情報は、秋蘭?」

 

「既に諸侯が掴んでおります。慎重に事を運びましたが、どうやら信じてくれたようです」

 

張角については名前だけが独り歩きしている状態だ。張角本人の姿、性別、性格などは全くと言っていいほど知られていない。そもそも、現在となっては黄巾賊の大半が張角の姿など見たこともないのだ。

 

ならば、この状況を利用しない手は無い。

 

曹操は各地や諸侯の斥候に偽の情報を掴ませることに成功した。おかげで『張角は筋骨隆々の大男である』という認識が浸透している。……貂蝉ではない。

しかも、情報=噂話のこの時代、様々な誇張が重なった結果、今や張角のイメージは唯の化け物である。……貂蝉ではない。

 

現在出回っている張角の情報は事実と全く異なっており、もしこれが事実であったなら一も二もなく討伐に乗りきっていたであろう容姿に、悪逆非道な行いを満面の笑みで行う怪物。

偶然か、はたまた曹操が仕組んだことか。黄巾賊の中にはイメージにぴったりな男が一人いた。

黄巾賊が本格的な活動(暴走)を開始した後に合流した盗賊の頭の男である。黄巾賊の中でも力が強く、また性格も残虐であった。

野心家でもあった彼自身も"張角"の特徴が自分に一致していると知るや否や、部下の男たちに威張り散らすようになった。

 

「その張角(仮)の居場所は他の陣営も掴んでいるの?」

 

「恐らく殆どに知られていると思われます」

 

「なら、春蘭はそちらへ向かいなさい。偽物の張角の首を獲るのよ」

 

「華琳様?本物の張角を捕えないのですか?」

 

「皆が偽物を捕えに行っている間、私たちが別行動を取っては怪しまれるでしょう。最大戦力である貴女がそちらへ行けば怪しまれることも無くなるわ」

 

「はぁ……?」

 

「姉者、とにかく偽物の首を獲れば良いのだ」

 

「そうか!」

 

「本物の張角の捜索は凪達に向かわせるわ。本物の居場所は?」

 

「大まかですが、掴んでいます。逃亡の方向も」

 

「流石ね。ならばすぐに行動を開始しましょう」

 

「「はっ!」」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「外が騒がしい…始まったわね」

 

「なら、さっさと逃げましょうよ。官軍もいるんでしょ?またあの呂布(化け物)が来るかもしれないじゃない!」

 

「いやぁ……!紅い旗が来るよぉ…!」

 

黄巾賊の本拠。その最奥の天幕の中に、三人姉妹の少女達がいた。

 

三女は冷静に…しかし内心では恐怖で怯えながらも状況を分析する。

次女は焦りを露わに最悪の可能性を示唆した。

長女は過去(トラウマ)を思い出し目に涙を溜めて震えだした。

 

この三姉妹こそ、本物の張角、張宝、張梁である。

 

三人の傍にはすぐに逃げられるよう、既に荷物が纏められていた。

 

「本当はもう少し混乱してから…と思っていたけど、予想以上に混乱が大きいし、何より早い。

 なにか不測の事態でも起きたのかもしれないわ。すぐにでも逃げたほうが良さそう」

 

「なら、行くわよ!

 ほら、天和姉さんも荷物持って!」

 

「ふえーん!」

 

「待って。あの本がまだ…」

 

「そんなの良いよぉ!早く逃げよう!?」

 

「姉さんの言う通りよ!」

 

「……そうね。出来るだけ早く移動しましょう」

 

張梁の頭に一瞬だけ過ったあの本。自分たちを大きな舞台に立たせてくれた。

しかし、大きすぎる力を制御することが出来なかった。

張梁は全てを一からやり直し、このような失敗は二度としまいと誓った。

 

(あんな力に頼らなくても、姉さんたちと一緒なら…)

 

新たな決意を胸に、三人は荷物を抱えて飛び出した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「御三方、化け物が此方に近づいてきています!お早く!」

 

そう叫ぶのは張角達三姉妹をかなり初期の頃から応援し続け、黄巾賊が暴走した後も三人を支え、危害が加えられないように守って来た親衛隊の男だった。

逃亡のため僅かな親衛隊を伴って移動を開始したものの、黄巾賊討伐連合は破竹の勢いで迫ってきていた。

 

その主な要因と言うのが…

 

「っ…なんなのよアイツ!?あれは呂布じゃないの!?」

 

「違うわ!呂布は別方向に進んでるって…」

 

「なんで私たちはいっつも強い人に追われちゃうのぉ!」

 

そう、開戦とほぼ同時に出現した謎の金髪の男だった。

男は暫く黄巾賊の本体を相手に暴れまわっていたのだが、砦の中で暴れていたと思ったら急遽進路を変更。

寸分違わず三姉妹の逃亡方向へと迫って来たのだ。

 

これに気付いた親衛隊はすぐさま対処に動く。

三人を逃がすことを最優先とし、そのほとんどの戦力を金髪への迎撃に充てた。

しかし、親衛隊とは言っても名ばかりの元・農民である。兵隊でもない彼らはすぐさま壊滅し、時間稼ぎにもならなかった。

 

「クソッ!天和さん、地和さん、人和さん…。今から我々も奴の迎撃へ向かいます。しかし、恐らく大した時間は稼げないでしょう。

 とにかく全力で逃げて下さい………ご武運を」

 

「…わかりました。有難うございます」

 

彼女らに着いていた残りの親衛隊も後方へ向かい、とうとう残るは三姉妹のみとなる。

 

「とにかく急ぎましょう。荷物を捨ててでも全力で走るのよ!」

 

「親衛隊の皆さんでも時間稼ぎにはならない」

 

「お姉ちゃんもう疲れたよぉ…!」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?このままだと殺されちゃうのよ!?」

 

「嫌だよ~!」

 

「なら我儘言わないで。姉さんの荷物は諦めましょう」

 

「そうね、今はとにかくここから離れるのが先決なんだか――」

 

 

 

「――――見ぃつけた」

 

 

 

「「「!!!」」」

 

突如後ろから聞こえてくる死神の声。

 

三人が振り返ると、血に濡れた一振りの剣を持つ、金髪の男が立っていた。

その表情は楽しそうな笑み。

この状況でケラケラと笑い、血塗れの剣とは対照に全く汚れの無い着物。その不自然さが際立っている。

輝く金髪に白い着物、鮮やかな桃色の羽織。その美しさは逆に三人に恐怖を与えるものだった。

 

「カカカッ。砦の中で聞こえてきた会話を頼りに探してみれば……こんな娘たちが黄巾賊の張角らだったとはの」

 

楽しそうに言う男だが、逆に三人は震えが止まらない。

 

「さて、お主等……どこへ行こうと言うのかね?」

 

「あ…あぁ…」

 

「そんな…こんなにも早く…」

 

「………っ」

 

男の質問に答えられず、この状況に絶望する。

最早どうすることも出来ない。

 

逃げる?この早さで自分たちに追いついた男だ。逃げきれるわけがない。

戦う?自分たちは武術は愚か武器すらも持っていない。一瞬で殺される。

後は…

 

「ちぃ達を、どうするつもり!?」

 

姉の張宝が無意味な問いを投げかける。しかし、少しでも時間を稼いでくれるならと三女の張梁は感謝した。この間に何とかして打開策を練らなければ。

 

「さぁ、どうしたものかの?ここで殺しても良いが、殺さずにどこかへ引き渡しても良い。あぁ、儂が引き取ってやっても良いの」

 

何のつもりかはわからないが、男は話に乗って来た。だが、その内容はどれも絶望的なものばかりだ。

ここで殺されずとも、どこかに引き渡されれば殺されるだろう。もしかしたら三人とも奴隷として凌辱の限りを尽くされるかもしれない。この男が引き取ったとしてもそうならないとは思えない。

 

張梁が考えを巡らせていると、男が意外なことを言い出した。

 

「それとも、ここは見逃すのが良いかのぉ…」

 

「えっ…!?」

 

思わず声が出てしまう程の驚愕。

一体この男は何がしたいのか。それを考えるより先に、張角と張宝が食いついた。

 

「本当…?」

 

「…良いの?」

 

流石に訝しげではあったが、二人が聞くと男はケラケラと笑って頷いた。

 

「まぁ、ここでお主等が逃げたとして儂は困らんからのぉ。

 ……しかし、いくつかの質問には答えて貰おう」

 

「……わかりました」

 

「人和?」

 

「私たちが無事に生き延びるためには、もうこれに賭けるしかないわ」

 

「人和ちゃん……なら、質問には人和ちゃんが答えて」

 

「天和姉さん…良いの?」

 

「ま、人和が一番頭良いしね」

 

「ちぃ姉さん…。わかった」

 

「決まったかの?」

 

「えぇ。お待たせしました」

 

男はいつの間にか煙管を取り出して煙を吐き出していた。三姉妹にはそれが何の煙なのかわからず、不思議に思ったものの、それは頭の隅に追いやって質問に備えた。

 

「まず、お主等は何故黄巾賊を立ち上げた?」

 

「それは…私達の意思ではありません」

 

「ほう?」

 

張梁は黄巾賊が成り立った経緯を説明した。勿論自分たちがそんなつもりではなかったことを強調して。

 

「フム、わかった。なら次の質問じゃ。何故、官軍や諸侯等に助けを求めなかった?」

 

「…黄巾賊と呼ばれる人たちの中にも、私達を応援してくれる人が大勢いました。官軍に助けを求めたりすれば、善意で私達を支えてくれる人たちも区別なく討伐されてしまうと考えたからです」

 

「……成程。なら、最後の質問じゃ」

 

最後。その言葉に緊張が走る。これまでの二つの質問で大きな間違いを犯したとは考えたくない。この最後の質問で失敗することは許されない。

 

「お主等は、これからどうするつもりかの?」

 

「……どう、とは?」

 

予想外の呆気ない話題に、質問の意味を捉えかねる。

 

「そのままの意味じゃよ。ここから逃げたとして、どう生きていくのかが気になった」

 

「…私達は歌が好きです。歌を歌っているときが一番楽しい。なら、歌で人々を楽しませ、幸せにしたい。そのための活動をしていきます。勿論、今回のような失敗は二度としません」

 

「私もっ!…私も、歌が好き。歌は皆を笑顔にできるから…!」

 

「私だって歌が好きよ!私が変なこと言ったから今回はこんなことになっちゃったけど、もうこんなことにはさせないわ!」

 

「ほぉ…」

 

男は感心したように頷いている。

三人の鼓動はこれまでになく激しくなっていた。この男の返答次第で自分たちの運命が決まるのだ。

 

男は煙管の煙を一つ吐き出して、灰を落とすと懐に仕舞った。その動きにすら三人はビクリと反応してしまう。

そして、ふと笑みを漏らすと口を開いた。

 

 

 

 

「……やはり、ここで殺した方が良いかの」

 

「「「!!?」」」

 

驚愕。ただその一言に尽きる。

どこで返答を間違えたのか。三人は最早その答えを探すことも出来ず、混乱していた。

 

「お主等の志は立派なものじゃったよ。自分たちを応援してくれる者を決して見捨てず、自分たちの持てる力で、人々に笑みを与える。それは立派じゃ」

 

「なら、なんでよ!!?」

 

「お主等、なんで今回の犠牲を綺麗さっぱり忘れとるんじゃ?」

 

「え…」

 

「……?」

 

「……あ…」

 

長女と次女は首を傾げ、三女だけが何かに気付いたようにその顔を青ざめさせた。

 

「お主は気付いたようじゃの。

 最後の質問、これからのこと。確かに立派で、理想的じゃ。

 しかし、お主等は今まで何をしてきた?たとえそれがお主等の望んだことではないとしても、お主等がやったことで何人の犠牲が出たと思っている?」

 

「それは…でもっ、仕方ないじゃない!」

 

「仕方ない?仕方がないから犠牲を完全に無視し、自分たちは新たな夢に向かって進むと?

 お主等は歌で人々を幸せにしたいと言ったな。数多の犠牲、何の罪もない民を死に追いやり、女子供がどれだけ傷付いたと思う?

 それだけの物を無視し、忘れ、自分勝手に生きるお主等が、歌で何を伝えたところで幸せになど出来るのか?」

 

男の話に、張角と張宝も顔を青ざめさせている。自分たちがしたことの大きさ、その結果で出た犠牲。それに初めて気付いたのだ。

 

「このような時代だ。誰かの犠牲の上に生き延び、望みを叶えることが否定しない。これは時代に関係なく儂は否定することはしない。

 じゃがの、だからと言って犠牲を忘れる…死者を踏み躙るようなお主等を、好ましいとは思わん」

 

「……」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

芙陽は三人を見つけると、その楽観的な姿勢に少しばかり憤りを感じた。

死者を冒涜することを嫌悪する芙陽だからこそ、彼女たちの起こした"結果"と、それに対する認識の甘さが許せなかった。

 

芙陽が言った事で、俯き、悔し気に、悲し気に震える三人。

 

しかしここで、一人の人間が現れた。

 

「張角、張宝、張梁とお見受けする」

 

「「「!!」」」

 

「私は曹操様の家臣、楽進と言う。……そちらは…まさか…!?」

 

かつて曹操の下で短期間ではあるが鍛錬をつけた少女。楽進は芙陽を見ると、驚愕に顔を染めた。

 

「芙陽…様…?」

 

芙陽は何も言わない。楽進の中では女であった芙陽の姿が浮かんでいるのだろう、混乱の極みであった。

 

「済まぬの、儂の事については"いずれ分かる"としか言えぬ」

 

「それは…」

 

「それより、どうしてここに?」

 

「……はぁ。私は曹操様に命じられ、張角、張宝、張梁の三人を保護するため参じました」

 

まだ何か言いたげな楽進だったが、この男が自分の知っている芙陽ならこれ以上食い下がっても無駄であろうことはわかっていた。

楽進の言葉に芙陽は感心し、意味を理解できなかった張角と張宝は首を傾げ、意味を理解できても意義を理解できなかった張梁も首を傾げる。

 

「ほう…」

 

「保護?」

 

「はい、曹操様に彼女たちを殺す意思はありません」

 

「信じられるの?」

 

「詳しい説明は曹操様から直接される。身の安全は保障しよう」

 

「……わかりました」

 

「ちょっと人和!?」

 

「落ち着いて。さっきも言ったけど、もう私達に道は残されていない。そこの男との話し合いも決裂したと言っていい。

 なら、付いて行くしか選択肢は残されていないわ」

 

「う~ん、人和ちゃんがそう言うなら、お姉ちゃんは賛成かな」

 

「お姉ちゃんまで…もう、わかったわよ…」

 

三姉妹は楽進に付いて行くことに決めたようだ。しかし、芙陽が楽進に声を掛ける。

 

「儂はこやつ等を殺そうかと思っていたところだが…それはどうする?」

 

「「「っ!?」」」

 

「ふよ……貴殿は、この者等を何故殺そうと?」

 

「自らの罪を忘れ、死者から目を背き、それでも同じ道を歩もうとした。これでは再び繰り返すだけだと判断したのでな」

 

「……ならば、どうすればこちらに引き渡していただけるでしょうか?」

 

「フム…」

 

芙陽は考える。曹操がこの三姉妹を欲している理由は恐らく求心、そして士気の向上に利用するためだろう。

 

芙陽が考えている間、楽進は内心でこれまでにない緊張に苦しめられていた。

いざとなれば戦闘になる可能性もある。

しかし、目の前の男が芙陽であった場合、自分が勝てる見込みは無いに等しい。別人であったとしても、先程の黄巾賊相手の闘いを見るに芙陽と同等の力を持っている。

この窮地を乗り越えるには、何としても戦闘は避けなければならなかった。

 

「……そうじゃの」

 

考え込んでいた芙陽が口を開くと、楽進と三姉妹はわかりやすく肩を震わせた。

 

「楽進、曹操に伝えよ。

 『三人の罪を理解させること』

 これが守られなかった場合、儂はこの三人を殺しに行く」

 

「……それが、条件の全てでしょうか…?」

 

意外なほど軽い条件に楽進は首を傾げるが、守らなければ三人は殺される。今後の事は曹操に判断を仰いだ方が賢明だろう。

取り敢えずこの場は曹操への伝言を受ければ三人は引き渡される。楽進はその案を受け入れた。

 

「必ずお伝えしましょう…。それで、貴方は…」

 

「……これも曹操に伝えてくれ。『じきに全て話す』と」

 

「……わかりました」

 

未だ納得のいかない楽進だったが、不意に芙陽が苦笑いで頭を撫でる。

近づく気配も読み取れなかった楽進は驚愕するも、やはりこの男は芙陽なのかと思えば腹も立たなかった。

 

「さて、お主等…自らの罪についてはもうわかっているな?」

 

芙陽が三人に向けば、その足は力を無くそうとばかりに震えだす。

 

「次に会った時、己の罪を理解できていなかったら……その命、儂が終わらせてやる」

 

静かにそう言い残すと、芙陽はゆっくりとその場を後にした。

 

 

その直後、砦には『曹操配下の将が張角を討ち取った』と言う情報が駆け回り、戦意を完全に失った黄巾賊は壊滅することになる。

こうして、大陸に騒乱をもたらした『黄巾の乱』は幕を閉じた。

 

だが、これは来たる戦乱の序章、それも前半に過ぎない。

 

これからを見据えながら、芙陽は呟いた。

 

 

 

「……洛陽、か」

 




はい、と言う事でシスターズ説教回でした。嫌いじゃないんだけどなぁ。

やっと黄巾の乱が終わりました。長かったなぁ…。
まぁ反董卓連合の終結まではサクサクっと進めようかと思います。
その前に閑話挟むかもしれません。今回は時間稼ぎじゃないよ?芙陽のお城での生活風景を書きたいな、と。もしかしたら本編扱いかもしれませんが。

『異世界どうでしょう計画』はなんだか皆さん好意的なようで…。作者も色々考えてみました。
今のところゼロ魔が有力ですね。ツンデレへの欲求が溢れそうです。
ハイスクールは何故か別主人公になってました。どうしてこうなったのか作者にもわからない…。ただ、こちらは既にある程度設定が出来上がりつつあります。何故だ!?
どちらにせよ、恋姫がひと段落しないと書けないですけどね。


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