真・恋姫✝無双 狐来々   作:teymy

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まいどっ!

なんとか10月中に投稿することが出来ました。
最近は朝が肌寒くて起きるのが辛くなってきましたね。
いや、まぁ夜更かしも原因なんですが(笑)
今回は大分長くなりました。途中で切ることも考えましたが勢いのまま書き上げてみると許容範囲内かな、と…。

次回からやっと物語が次へ進みます。


第十五話 優しい王様になるのだ!

芙陽達一行は冀州に向けて歩き続けていた。

貂蝉から聞いた情報で、向かえば新たな出会いがあると聞いたためである。

 

そう説明された桂花と星は情報の信憑性に難を示したものの、元々目指していた北方と方向はそう変わらないと判断し、結局は納得した。

また、芙陽が『天の御使い』であると言う事実を知っている二人からすれば、噂を流した管輅の関係者であると言う事も納得の要因になったようである。

 

芙陽はと言えば貂蝉の言う『新たな出会い』について考えていた。

冀州であることからして何か思い当たることは無いかと思案していたのだが、時期から考えてもそろそろ黄巾の乱が終息に向かうはずである。

黄巾の乱は最終的に冀州で終結を迎えると記憶していた。

 

ならば、新たな出会いとは黄巾賊の頭である張角ではないか。その可能性が高いと思っていた。

だが、黄巾の乱の終結には多くの諸侯が関係していた筈。となると、まだ会っていない未来の英傑となる人物がいてもおかしくはない。

 

いずれにせよ楽しみであることには変わりないので、考えても仕方ないと芙陽は予想を止めた。

 

さて、冀州に向かって旅を続けていた芙陽達だが、冀州まであと一歩と言うところである出来事があった。

芙陽を訪ねてきた者たちがいたのだ。

 

それは前日に泊まった街を出て、森の中で昼餉を済ませて休憩をしているところであった。

男姿の芙陽は一服に煙管を吹かし、星は水を飲んで休んでいる。桂花は万里の世話の最中であった。

 

ふと芙陽が何かに気付き、星の名を呼んだ。

 

「星、後方からこちらに向かってくる人間の気配、三つじゃ」

 

「フム、旅人ですかな?」

 

星にとっては芙陽の人間離れした、というか人間ではないので、化け物じみた気配察知能力には信頼を置いている。

別段驚くこともなく荷物を纏め、武器を傍に寄せた。

桂花も芙陽との旅が長いため、同じように荷物を纏め、万里を連れて芙陽の下へやって来た。

 

「敵意は感じぬが、足早にこちらへ向かってくるあたり、儂等に用があるようじゃな」

 

「敵意が無い?お知り合いでは…?」

 

「匂いには覚えがないの」

 

「ならば、様子見を…?」

 

「それでも良いがの…どれ、ちと見に行ってくるか…」

 

煙管の火を消そうと手に持つ芙陽だが、それを星が止めた。

 

「いや、それには及びませぬ。私が行って来ましょう」

 

「そうか?」

 

「えぇ。桂花、芙陽様の傍を離れるなよ」

 

「分かってるわよ。アンタも気を付けなさい」

 

「では行ってくる」

 

星は槍を手に持って身を隠すように森の中へ消えていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

星が芙陽から離れていたその頃。

 

芙陽が察知した三つの気配は騒がしくも森の中を進んでいた。

 

「本当にこっちであってるのだー?」

 

「さっきの街で聞いた話だとこっちの筈だよー?」

 

「だからもう少し情報を集めましょうと言ったんです!」

 

姦しく進む三人は劉備、関羽、張飛の三姉妹であった。

 

彼女らは一時期身を寄せていた公孫賛の下を離れ、星と別れた後、義勇軍として黄巾賊を討伐する一方、『天の御使い』である芙陽を探すことも諦めてはいなかった。

今回も賊の討伐の帰りに立ち寄った街で、『金髪の青年と青い髪で槍を持った少女を見た』という情報を得、急いで探しに来たのである。

 

「でもでも、モタモタしてたら御使い様が遠くに行っちゃうかもしれないよ!」

 

「それは、そうなんですが…だからと言って軍を放って飛び出すなど…」

 

「そっちは朱里ちゃんと雛里ちゃんに任せたから大丈夫だよ!」

 

「愛紗は心配し過ぎなのだ!」

 

三人で言い合いながら進んでいたのだが、その騒がしさから偵察に来ていた星は離れていながらも三人に気付き、呆れながら声を掛けることにした。

 

「相変わらず仲が良いのか悪いのか…声が大きいですぞ、桃香殿」

 

森の中から響く声に関羽は一瞬身構えるが、すぐに現れた人物に目を見開いた。

 

「星!?」

 

「星なのだ!」

 

「星ちゃん!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

芙陽と桂花は星が帰って来るのを警戒しながら待っていたが、芙陽が森の中から聞こえてくる声を聞いて警戒を解く。

 

「どうやら星の知り合いのようじゃの」

 

それを聞いて桂花も警戒を解き、そのまま待っているとやがて四人が姿を現した。

 

「只今戻りました」

 

「うむ、ご苦労であったの」

 

芙陽に頭を下げた星は、すぐに連れてきた三人を見る。

 

「この三人は以前伯珪殿の所で共に客将をしていた劉備殿、そしてその義妹である関羽と張飛です」

 

「は、初めまして!性は劉、名は備。字は玄徳と言います!」

 

「私は劉備様が家臣、関羽。字は雲長と申します」

 

「鈴々は張飛!字は翼徳なのだ!」

 

三人が自己紹介を終えると、芙陽も挨拶を始める。

 

「うむ。儂は旅人の芙陽という者。今はそこの星と桂花、趙雲と荀彧の主もしておる」

 

ここまで普通に挨拶を交わす芙陽だが、内心では劉備について考えていた。

 

名前を聞いた最初こそ『この娘が劉備か』と関心を持ってはいたが、彼女を見ているうちにどこか落胆の気持ちが湧き上がってくる。

 

その落胆の原因は彼女の内面にあった。

 

結論から言えば、乱世の王の器では無かった。

 

王としての器はある。芙陽の知る歴史からも『徳』の器があることは分かる。

だが、それは『治世の王』としての器だ。

乱世はそれだけでは渡れない。彼女の器は、乱世の後にこそ力を発揮するものではないか。

芙陽はそう考えていた。

 

芙陽が考えている側から、星が話を進める。

 

「劉備殿は以前から芙陽様を探しておられましてな、今日は偶然近くで情報を聞いて追いかけて来られた様です」

 

「ほう、儂に何か話があると?」

 

芙陽が尋ねると、劉備は緊張しながらも前に出た。

 

「じ、実は星ちゃ…趙雲さんから芙陽さんが『天の御使い様』だと聞いて…お聞きしまして!」

 

たどたどしくも話す劉備。芙陽は優しく笑った。

 

「公の場でも無し、そう緊張しなくて良い。堅苦しい挨拶も慣れていないのなら楽にして良い。それでは伝えたい事も伝えられぬよ」

 

「は、はいぃ…」

 

芙陽に言われ肩の力を抜く劉備。一気にふにゃりとしてしまうその様子に、関羽が溜息をついていた。

 

「確かに儂は噂で流れておった『天の御使い』で間違いないじゃろう。それで?」

 

「は、はい!私たちは今、この乱れた世の中に平和を取り戻そうと活動しています。そこで『御使い様』の芙陽さんに、私たちに協力してもらえないかと思って…」

 

「……」

 

ピクリ…と、芙陽の眼が一瞬だけ鋭くなる。それに気付いたのは芙陽の家臣である桂花と星のみ。

劉備たち三姉妹は気付かず、そのまま話を続ける。

 

「芙陽さんが協力してくれるなら、私たちはより早く夢に近づくことが出来ます。

 ……お願いします!私たちに力を貸してくれませんか!?」

 

勢いよく頭を下げる劉備に、後ろで控えていた関羽と張飛も同じく頭を下げる。

 

「……」

 

沈黙する芙陽。星はいつの間にか芙陽の後ろに下がっており、桂花も口を挟むことなく控えている。

 

「…頭を上げなさい」

 

「は、はい!」

 

劉備が姿勢を正すと、後ろの二人も頭を上げて背筋を伸ばした。芙陽の返答に緊張しているようだ。

 

「劉備よ、いくつか質問をする。正直に答えよ」

 

先程の雰囲気とは打って変わり、真剣な……厳しいとも言える表情で芙陽は言った。

 

「…わかりました」

 

その表情に多少驚きながらも、劉備は気を引き締めて頷いた。

そこからは芙陽の容赦のない質問攻めが始まる。

 

「お主の夢とは?具体的に」

 

「大陸の皆…民も、民を守る人も、皆が飢えずに、争いもなく、平和に過ごせる世の中にすること…です」

 

「では、お主はそのために今まで何を?……最初から」

 

「最初は愛紗ちゃんと鈴々ちゃんと…後ろの二人と色んな村や街で盗賊を退治したり、困っている人を助けたりして…。

 それから白連ちゃん…公孫賛さんの所で客将として働いて…それから義勇兵を集めて黄巾賊を退治して回ってます」

 

「その義勇兵はどうやって集まった?」

 

「公孫賛さんの所で、許可を貰って募集しました…」

 

「今は何をしている?」

 

「今は私たちの軍師…諸葛亮と鳳統が率いて別行動をしてます…」

 

目に見えて気力を失っていく劉備に、関羽の表情が歪み始める。

 

「これからは何を?」

 

「これから…えっと、また黄巾賊を退治するために情報を集めます」

 

「それから?」

 

「え…それから…」

 

「例えば、黄巾賊が全滅したとして、それから?」

 

「えっと…また困っている人を助けるために、各地を回って…」

 

「……」

 

「えっと……」

 

「……質問を変えよう。もし、儂の協力が得られたとして、どうするつもりであった?」

 

「え…それは……同じでした…。また賊を退治して回って…」

 

「なら、何故儂を引き入れようと思った?」

 

「……『天の御使い様』なら、何か知恵とか…力があって、……えっと…」

 

「……」

 

「……その…」

 

芙陽と劉備の間に沈黙が流れようとした。

しかし、その直前に関羽が限界を突破し、手に持つ青竜偃月刀を構えて叫ぶ。

 

「いい加減にしてください!!」

 

偃月刀の切っ先を芙陽に突き付け、怒りを露わに叫び続ける。

 

「さっきから聞いていればなんですか!?唯々桃香様を責める様に意地の悪い質問をしてばかり!我らの夢を馬鹿にしておられるのか!!

 貴殿に正義の心は無いのか!!」

 

叫ぶ関羽に、俯く劉備。張飛は何を思っているのか、唯芙陽を見つめている。

桂花と星は事の成り行きを静かに見守っているが、その表情は若干の"呆れ"であった。

一方、芙陽は関羽の殺気を一切気に留めず、劉備を見ている。

 

「……劉備、続きを」

 

「っ、芙陽殿!!」

 

関羽を無視し続けた芙陽だが、一つ溜息をつくと、ここでやっと関羽を見た。

 

「関羽。……ちと黙れ、お主に発言を許可した覚えはない」

 

だが、出てきた言葉は更に関羽の怒りに火をつける結果となった。

 

「っ!?…貴、様ああああ!!」

 

 

 

「黙れ」

 

 

 

「!?」

 

だが、関羽を襲ったより強い殺気で、振りかぶった偃月刀を止めてしまう。

張飛は動きこそしなかったが、丈八蛇矛を持った手に力が入る。

 

「先程からキャンキャンと…五月蠅いことこの上ない。今はお主の主と話している。お主が口を挟んで良い場では無かろう。

 それと、相手が気に喰わないからと言って叫び、刃を突き付け、恫喝し、それでも言う事を聞かない者を切り付けるのがお主の言う"正義"か?

 それなら目に入る人間一人残らず殺してしまえば良かろう」

 

「それは違う!」

 

「違う?何が異なると言う?」

 

「貴様が我らが大望を侮辱したからだ!」

 

「いつ、儂が侮辱した?儂は唯、質問をしていただけ。なのに、何故お主は"侮辱"と受け取った?」

 

「それは…!」

 

「そこにいる劉備が答えられなかったからだろう。だが、儂が答えられない質問をしたか?言葉に窮するほどの質問をしたのか?」

 

「くっ…!」

 

「理解したのなら下がれ。これ以上の"狼藉"を働くのなら…」

 

大きな音がして芙陽が煙に包まれる。

 

そこにいたのは巨大な金色の獣。馬よりも大きな狐であった。

 

 

「ここで三人纏めて喰ろうてやろう」

 

 

「「「っ!!?」」」

 

低い声でそう言う芙陽。その殺気は劉備はおろか、関羽や張飛まで恐怖で震えてしまう程だった。

 

「……もう一度言う。下がれ、関羽」

 

芙陽の言葉にビクリと体を震わせた関羽は、震える手を押さえながら武器を降ろし、後ろへと下がった。

 

芙陽はそれを見届けると、姿はそのままに殺気を抑え、その場へ腰を据える。

 

「さて、劉備」

 

芙陽が呼べば、今度は劉備が身体を震わせた。

芙陽は笑うように喉を鳴らすと、今度は優し気な声色でもう一度口を開く。

 

「もう怖がらなくても良い。ここからは落ち着いて話す場じゃよ」

 

劉備の震えは止まらない。だが、俯いていた顔を上げ芙陽を正面に捉えることは出来た。

 

「……あ、愛紗ちゃんが…ごめんなさい…」

 

子供の様な謝罪。だが、最初に出てきた言葉がそれであったこと。それが芙陽に笑みをもたらした。

 

「前にも同じようなことがあってな、その時も主が頭を下げることになった。

 関羽、己の短絡的な行動が主を辱めることがある。それを覚えておくと良い」

 

悔しそうに関羽は顔を歪めたが、やがてゆっくりと頭を下げた。張飛はずっと黙っていたが、悲しそうな表情で同じように礼をした。

 

「さあ、もう頭を上げなさい。

 ……それで、劉備よ。先の質問の意味…理解はしておるかの?」

 

「それは…はい」

 

「ならば聞こう…お主の言葉で良い。ゆっくりで良いから、聞かせてみよ。」

 

「……私は、唯皆が平和に暮らせたら良いなって、それだけ考えて…それしか(・・・・)考えていませんでした…。

 どうやって平和にするか…それどころか、"平和"がどんなものなのかも…深く考えたことなんて、なかったんです…。

 だからこれからどうすればいいかなんて答えられなかったし、芙陽さんを探してたのだって、『なんとかしてくれるだろう』っていう、適当な気持ちで…芙陽さんの事だけじゃない…。

 今別行動してる朱里ちゃんや雛里ちゃんにだって、頼りっきりで…私は唯、『こうしたい』『ああしたい』って言うだけ…」

 

話していくうちにまた俯いていく劉備。その声は徐々に涙声になっていく。

 

「私には"決意"とか…"覚悟"とか…なんにもなかった…。唯、なんとなく『平和』って言い続けるだけだった…そういう、ことですよね…?」

 

自らで結論を出し、涙目で芙陽を見る。

だが、芙陽は苦笑いだ。

 

「…概ねは、理解しておるようじゃの」

 

「概ね…ですか?」

 

「どうにも奴は影が薄いのぉ…伯珪の事じゃ」

 

「白連ちゃんの?」

 

「真名で呼ぶくらいだ、親しい仲なのじゃろう。ま、だから奴も強く断れなかったんじゃろうが…。義勇兵を伯珪の所から募ったと言ったな?」

 

「はい…」

 

劉備はいまいち何の話なのか分かっていないようで、首を傾げながら返事を返している。

 

「奴の街を見てどう思った?」

 

「…この時代に良く治安を守ってるな、と」

 

「そう、伯珪は良く治めている。それもほぼ一人でな。

 じゃが、そこへお主が義勇兵を募って出て行ってしまえばどうなる?ただでさえ人材不足で悲鳴を上げている伯珪は、失った人材の補填も行わなければならない」

 

「……!」

 

ここまで来てようやく芙陽のいいたいことを理解する。

芙陽はそれを見て溜息をつきながら、後ろで控える星に呼びかけた。

 

「星よ」

 

「はっ」

 

「劉備たちが抜けた後、伯珪はどうであった?」

 

「…やはり参っていましたな。少なかった睡眠を更に減らし、民からの苦情も増えるばかり…」

 

「…お主そのような状態で抜けてきたのか?」

 

だとしたら鬼の所業だと不安になる芙陽。

もし肯定するようなら星にも説教をしなければならない。

 

「まさか。私にしては珍しく精力的に働きましたぞ。改善が軌道に乗るまでは旅支度も出来ませんでしたからな」

 

「ならば良い…さて、劉備。

 お主は集まった人を束ねる主…それは勢力が大きくなればやがて王となる。ならば、己の判断で出た結果を正しく認識しなければならない」

 

「…はい」

 

星から聞いた公孫賛の実状に、顔を青くする。

 

「儂は今までに何人かの王を見てきた。

 

 公孫賛。恵まれない状況でも奮闘し、全般に秀でて自分の民を全力で守る者。

 曹操。お主と同じく大陸の平和を願い、そのための天下を目指し、確固たる決意を持って覇道を進む者。

 孫策。奪われた民、家臣、そして故郷を取り返すべく、己を捨てて王たらんとする者。

 それ以外にも、儂が元いた国で見た数々の王。

 

 劉備よ、お主は奴らのような王になれるかの?」

 

「……」

 

俯く劉備。両拳は強く握られ、下唇を噛んで、目も閉じられる。

だが、やがて絞り出すような声で語り始めた。

 

「…私は、愛紗ちゃんや鈴々ちゃんみたいに力も強くないし…頭だって朱里ちゃんや雛里ちゃんほど良くもない…」

 

「……」

 

芙陽は静かに聞き入る。

 

「どんくさいから白連ちゃんみたいに一人で政治なんてできないし、迫力なんて出せないから曹操さんみたいに覇道なんて進めない。

 ……だから、孫策さんみたいに"王"らしくなんてできない…」

 

下を向きながら語る劉備だが、そこで拳を更に強く握り、勢い良く前を――芙陽を見た。

 

 

 

「それなら私は……『王』じゃなくて良い」

 

 

 

その言葉には後ろで聞いていた彼女の妹達が驚くが、劉備は構わずに話を続けた。

 

「私は一人じゃ何も出来ないから…きっと皆にいっぱい、無茶なことを言うと思う。

 頭だって良くないから…教えてくれなきゃわからないことも沢山ある。

 強くなんてないから…皆がいなきゃ、戦えない。

 そんな『王』はいらないって、皆が言うなら…私はいなくたって良い」

 

その表情は、少し悔しそうで……だが、

 

「でも、それでも私を『王』と言ってくれる人がいるなら…絶対に諦めない!」

 

その目は先程とは真逆の深い色を示していた。

唯の少女であった先程には無かった『覚悟』があった。

 

「私は…私が必要とされなくなるまで、皆と一緒に歩きたい!

 これから仲間をどんどん増やして、困ってる人を沢山助けて、他の人たちとも仲良くなって…」

 

劉備の言葉を黙って聞いていた芙陽だが、ふとニヤリと少しだけ笑みを浮かべる。

『覚悟』を伴った劉備の言葉。再び願うその『夢』の内容に、少しだけ具体性が出てきた。

 

「そうやって私たちの『輪』を広げていったら、最後には平和がある筈だから…!」

 

「…それがお主の『王』としての形、か。まるで子供の言う話じゃの」

 

語り終えた芙陽が劉備にそう言っても、彼女は言われて当然と思っているのか気にした様子もない。

 

「だが、夢とは…野望とはそういう物じゃ。誰もが不可能だと笑い、問題も山ほどあり、困難な道。

 お主は、夢のためにそれらを乗り越えることが出来るかの?

 夢のために、時に夢とは真逆の方向を向かねばならん。その矛盾に耐えられるかの?」

 

ふと漏れた笑みを完全に消し、威圧しながら問う。

 

これからの乱世。その中で、争わずに夢を叶えようなど無理な話である。

劉備の先程の言葉、『他の人たちとも仲良く』。乱世の和平など薄氷の上に立っているようなものだ。

そんな世を、目の前の少女は果たして乗り越えられるのか。

 

「きっと沢山弱音を吐くと思う。迷惑だって沢山かけるともう。

 でも、挫けたりはしない!」

 

唯の少女らしからぬ瞳で、劉備は声高く宣言した。

 

 

 

「いつかきっと来る平和に向かって、皆と一緒に歩き続けます!」

 

 

 

少しの沈黙。

芙陽と劉備の間に漂う緊張感に、他の四人は固唾を飲んだ。

 

「芙陽さん」

 

沈黙を破ったのは劉備。

 

「なんじゃ?」

 

「お願いがあります」

 

「…言ってみなさい」

 

劉備は一つ深呼吸をすると、最新と同じように勢い良く頭を下げた。

 

「今、私がした決意を、見届けて下さい!」

 

これには芙陽も軽く目を見開いてしまう。

他の四人も同様に驚いていた。

 

「どういうことかの?」

 

「…私は今まで『なんとなく』でやってきて…決意したと言ってもまだなんにも出来ません…。

 でも、皆と一緒に…皆が私に協力してくれるなら、そうも言ってられないから…。

 だから、私に『王』を教えて下さい。そしてもし、私が『王』になれなかったのなら……」

 

劉備は真直ぐに芙陽を見ている。芙陽も劉備の眼を見て、何が言いたいのかを理解した。

 

「命を賭ける。と言っているのだな?」

 

「はい」

 

「お主が王たり得ぬと儂が判断したなら、喰われても文句は無い、と?」

 

「はい」

 

「それまで、儂に見届けよ、と申しておるのか?」

 

「…はい」

 

立て続けに確認を取る芙陽だが、そこで後ろで拳を強く握り耐えている関羽を見た。

 

「お主等の主はこう言っておるが?」

 

「…正直に申しますと、納得はしかねます。ですが、桃香様も覚悟あっての事…それを踏み躙れば、主を侮辱することと同じ。

 ならば、我が武はその覚悟を支えるために振るいましょう。」

 

「…張飛はどうじゃ?」

 

芙陽はこれまでずっと黙っていた張飛にも意見を求めた。幼い風貌である彼女だが、これまでの話を理解できなかった訳ではないようだ。

芙陽達の言葉を完全に理解しているわけでは無いだろう。

しかし、その瞳には幼さゆえか、はたまた彼女の芯が強いのか…迷いは一切見られなかった。

 

「お姉ちゃんがそうしたいなら鈴々は文句言わないのだ!鈴々には難しいことわかんないからね!

 鈴々はお姉ちゃんを守って、弱い人たちを守って、一緒に戦う愛紗や朱里や雛里、皆を守るのが仕事なのだ!」

 

「カカカッ!そうかそうか。良い、お主はそのくらい単純な方が動きやすかろう。

 ……さて、劉備よ」

 

もう一度劉備に厳しい目を向け、芙陽は最後の問いを投げかけた。

 

「はい」

 

「最後にもう一度聞く。

 お主が挫け、『王』になり得なかった時…儂がその息の根を止める。それで文句は無いのだな?」

 

「…はいっ」

 

一呼吸置き、力強い瞳で芙陽と見つめ合いながら、劉備はその契約を交わす。

芙陽はその瞳と覚悟を受け止めると、今までの厳格な雰囲気を振り払うように、ふと息をついて目を閉じた。

 

 

 

「良かろう。お主の道、儂が見届ける」

 

 

 

『仁』の者、劉玄徳。

金色の獣を前にして、彼女の命を賭けた闘いが始まった。

 




もう桃香が動かしづらくて…
芙陽に怒られて凹んでるとこまでは調子よく書けたんですが立ち直ってからが…。
正直最後の方はほぼ勢いだけで進んでます。一応プロット通りにはなってるんですよ?
そして他の人がほぼ空気…!どうしてこうなった。

ぶっちゃけます。
作者は劉備、関羽の事は嫌いではありませんが、同じ勢力にいないときの彼女たちは苦手です。
呉ルートの時の、多分孔明の指示なんでしょうが同盟を一方的に破棄したり、魏ルートでは曹操に我儘言ったりで…北郷君がいないだけでこうも違うものかと思ったりしました。
恐らく北郷一刀の存在が蜀陣営に多大な影響を与えてるんでしょうね。
今回の劉備は北郷君がいないので蜀ルートなのに他ルート寄りの劉備ちゃんになってます。
あくまで作者の個人的な見解なので、他の意見等あるとは思いますがご了承下さい。(ビビり)


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