真・恋姫✝無双 狐来々   作:teymy

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バリケード(クッション)を準備しよう!
サブタイが思いつかなかったのでかなり苦しいです。わかる人いるんでしょうか?
どうも。暑さで右手が溶け出した作者です。
やっと呉に着きました。着いただけで何もしてないような…。
まぁ、次は最初にちょっとダイジェストみたいな感じになるかもしれません。もう賊相手なんて書いても面白くないんですよね…。

取り敢えずタイマン回です。


第十話 (本当に)トラでした。

その日、孫策はいつものように周瑜の眼を掻い潜って城からの脱出に成功した。

今日はたまたま夢に見た幼き日々を懐かしみ、思い出に浸ろうと山中まで歩いてきたのである。周瑜がいれば魚を釣ってもらい、自分は木の実でもとって腹を満たすのだが、生憎と孫策は釣りが不得手であった。何故かはわからないが昔から動物や生き物に怯えられてしまうため、魚も寄り付かないのだ。何よりも釣竿を持ってきていない。

仕方がないと溜息をつくと、孫策は木の実を探し始めた。李でも見つかれば良いのだが、そうでなくとも食べられる実が少しでもあれば多少腹の足しにもなるだろう。

 

多少の時間を掛けて木の実を集める。少ないが李も見つけた。満足げに李に噛り付くが、途端に口の中に刺激が行き渡る。

 

「すっぱぁああ~!なにこれ!?熟してないじゃない!」

 

どうやらハズレを引いてしまったようだ。他の李を食べてみると、そちらは別段酸っぱ過ぎる訳でもなく美味しく食すことが出来る。しかし、それらを食べてもまだ口の中が酸味で満たされており、どうにも気分が悪い。

仕方なく川に向かって歩き出す。口を漱げば大分ましになるだろう。

段々と近くなる川の音を聞きながら木々を掻き分けて進む。しかし、ふと気づいた。

 

「人の気配…」

 

恐らく川辺にいるのだろうその気配は、別段殺気立っているわけでもなく、敵意を感じなかった。草の間から伺うと、少女が一人、川辺にしゃがんで竹筒に水を汲んでいた。馬に積んでいる荷物からして旅人だろう。

孫策は取り敢えず、南海覇王に添えていた手を離し、目的を果たすべく川へ近づいた。

すると葉擦れの音で気が付いたのだろう、馬が警戒するように鳴き出した。

 

「…万里、どうしたのよ?」

 

少女が顔を上げた。馬の様子がおかしいと気付いたのか、周囲を見回す。猫耳のような頭巾が揺れて可愛らしい。

 

「…芙陽様?」

 

「残念、人違いよ」

 

他の人物の名を出されて多少驚きはしたものの、平静に返事を返す孫策。少女は全くの予想外であったようで、突然現れた孫策に警戒を露わにする。

 

「驚かせてごめんなさい。私は水を飲みに来ただけだから警戒しなくても大丈夫よ」

 

必要以上に近づかないよう真直ぐに川へ向かう。手を洗い、水を掬って口を湿らせる。少女は未だに警戒を続けていたが、そこまでの危険はないと判断したのか話しかけてきた。

 

「あなた、この辺りに住んでいるの?」

 

「えぇ、近くの街に住んでいるわ。貴女は旅人さん?」

 

「そうよ。恐らく貴女が住んでいる街に入ると思うけど」

 

「あら、そうなの?私もそろそろ帰ろうかと思っていたところだし、一緒に行く?」

 

「流石にそこまで信用していないわよ。それに私の一存じゃ決められないわ」

 

「さっき言っていた名前のお方?」

 

もしも真名であった場合を考え、名前を呼ばないように尋ねる。

 

「えぇ。私の主よ」

 

「あら、そのご主人様はどこへ?」

 

「果物を取りに行って、今帰って来たところよ」

 

「は?」

 

「儂の事かの?」

 

「!!」

 

突然背後から声が聞こえ、反射的に拳を振るう。が、手応えは無くそのままの勢いで後ろを振り返ると、上体を逸らしてケラケラと笑う白い着物を着た金髪の男が立っていた。

 

「カカカッ、済まぬ。ちと悪戯が過ぎたかの」

 

「貴方、何者?全然気配がなかったんだけど」

 

「なに、通りすがりの唯の旅人じゃよ」

 

「唯の旅人が気配消して私の後ろに立てる訳ないでしょう」

 

「おや、随分と自信をお持ちのようじゃの」

 

「まあね。これでも軍を率いたりしてるのよ」

 

「ほう、お主は将軍かなにかかの?儂は芙陽。お主の名前を聞いても良いかの?」

 

「私は孫策よ」

 

孫策が名乗ると、後ろにいた少女が『え!?』と驚いたような声を出したが、目の前の芙陽と名乗った男は別段驚いた風ではなく、飄々と話を続けてきた。

 

「うむ?孫家の姫様じゃったか。何故こんなところにいるかは知らぬが、これはまた運が良いの」

 

「あら?私の事を知っているのかしら?」

 

「少しはの」

 

孫家の姫君、まして現在は家督を亡き母から継いでいるため、孫家の主である孫策を目の前にしても態度を変えない芙陽に、孫策は面白そうに笑った。

 

「フフフっ、貴方面白いわね。仮にも私は孫家の王よ?なのになーんにも緊張しないでいるなんて」

 

「カカカッ、年下の女子にそんな情けない姿など見せられんよ」

 

「あら?同い年くらいかと思ったけれど?」

 

「そうは見えんかもしれんがの。お主よりはずっと長く生きておるよ」

 

確かに口調は老人のようだし、雰囲気も孫策よりもずっと大人びている。見た目は孫策と同じ程の年齢だというのに、女としては羨ましいことだと思った。

 

「フーン……あ、それより、あの子は貴方の従者なの?」

 

「荀彧と言っての。従者というか…なんじゃ?こう、…まぁ、従者かの」

 

「諦めないでください!まぁ、従者でも良いですけど、私は芙陽様の軍師ですよ!」

 

「軍師?貴方もどこかの将軍なの?」

 

「いや、儂はどの国にも属しておらんよ」

 

「私は芙陽様個人に仕えてるのよ」

 

「へぇ…愛されてるじゃない」

 

「当たり前じゃない!」

 

「なんで貴女が威張るのよ…」

 

鼻息荒く、どこか好悦とした表情で答える軍師に呆れながら、孫策は話を続ける。

 

「それで?貴方たちこの先の街に行くつもりだったんでしょ?」

 

「そうじゃの」

 

「なら私と一緒に行かない?私は貴方たちに興味あるし、芙陽の実力も知りたいし、お城に入れてあげるわよ?」

 

「ほう…ならそうしようかの」

 

「決まりね」

 

パシンッと手を打ち、先導して歩きはじめる。

道中、現在の孫家の状況や黄巾賊の話など、情報をやり取りしながら街へ向かった。

 

「そういえば貴女、なんで森の中にいたの?しかも一人で」

 

荀彧が疑問を口にするが、正直孫策は答えたくない。

『仮にも王』とは孫策自身が口にした言葉である。その自他共に認める王が『政務が嫌いだしちょっと夢見が良かったから抜け出してきた』などと言えたものではない。

 

「フフ…秘密よ♪」

 

「大方政務が嫌で抜け出して来たんじゃろ」

 

「ちょ」

 

「あぁ、芙陽様がそう言うならそうなんでしょう」

 

「え」

 

「お主を見てれば大体の性格は掴める。ジッとしているのは苦手と見た」

 

「あぁーわかります」

 

「なにこの主従!?的確に見抜いてくるのやめなさいよ!?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

城に入ると玉座の間に通され、既に連絡は行っていたのだろう、そこには三人の女性が待っていた。

 

「じ、じゃあ改めて、私は孫策。字は伯符よ。つい先ほどの私への折檻は見なかった方向でよろしく」

 

頭にタンコブを作った孫策が名乗ると、タンコブを作った長い黒髪に眼鏡を掛けた女性が続けて名乗る。

 

「私は周瑜。字は公瑾だ。行き成りみっともない場面を見せてしまって申し訳ない」

 

「儂は黄蓋。字は公覆という。よろしく頼むぞ」

 

次に名乗ったのは銀色の髪を高い位置で一つに纏めた女性、黄蓋。

そして最後に、溢れんばかりの大きな胸を露出の高い服で申し訳程度に隠している小さな眼鏡の若い女が名乗った。

 

「私は陸遜と申しますぅ~。字は伯言ですぅ~。よろしくお願いしますねぇ~」

 

間延びした声で陸遜が自己紹介を終えると、孫策が再び喋りだす。

 

「本当はもっと仲間がいるのだけど、今紹介できるのはこれだけね。今の私たちの状況は道中で話した通り、袁術に力を削がれているわ」

 

「ふむ。話に聞いた通りじゃの。

 儂は芙陽。大陸の外から来たため字や真名は無い。唯の旅人じゃ」

 

「私は荀彧。字は文若。芙陽様の軍師として仕えているわ」

 

桂花は芙陽の一歩後ろで控えている。

 

「有難う。それで芙陽、貴方の旅の目的は?」

 

「そうじゃの。大陸の観光と言ったところかの。取り敢えず今は次代の英傑を見るべくフラフラと彷徨っている」

 

「次代の英傑?」

 

「うむ。この病んだ大陸でも折れず、次代を切り開く力を持った英傑に興味があっての。ここへ来たのも孫策、お主を一目見ようと思ったからじゃよ」

 

「あら、私が英傑足る人物だと?」

 

「江東の虎、孫堅の名は大陸に響いておる。その娘の孫策の名もな。もっとも、今は檻に入れられているようじゃがの」

 

芙陽の言葉に孫策は少しバツが悪そうに身じろいだ。そこで、黙って聞いていた周瑜が口を開く。

 

「芙陽殿。『病んだ大陸』と仰られたな?貴殿はこの大陸をどう思っている?」

 

「死に体、じゃの。病魔は全身に行き渡り、床に伏せり、蠅を追い払う力もない」

 

芙陽の言葉は、大陸自体のことを言っているわけでは無い。この大陸を治めるべき王朝のことを指している。周瑜にもそれを理解することが出来た。

 

「ではこれからどうなると?」

 

「蠅を追い払うことは難しくない。それこそお主等や儂の見てきた英傑が解決するじゃろう」

 

「なら何が問題になるんですかねぇ~?」

 

「自分たちの上に立っている者が死に体である、ということが露見するのが問題じゃの」

 

「なるほど~。死に体に従う道理はありませんからねぇ~」

 

「必ず反乱が起きる、と」

 

軍師たちの会話を聞いていた孫策も話に加わった。

 

「私の背後を取った実力と言い、頭も切れるようね」

 

「なに、経験の差じゃよ」

 

「祭…そこの黄蓋とどっちが上なの?」

 

「策殿。瘤に血が溜まっておりますぞ。儂が血抜きをしてやろう」

 

「ちょ、悪かったわよ!微妙に怖いこと言わないでよ!」

 

「儂からすれば黄蓋もまだまだ小娘よ」

 

「「は?」」

 

「「ほう」」

 

芙陽の言葉に呆気にとられる孫策と陸遜。目を見開いてはいたが感心したように声を漏らす周瑜と黄蓋。反応は綺麗に二つに分かれた。

黄蓋は自分よりも年上だというどう見ても年下の男に尋ねる。

 

「芙陽…殿?貴殿は一体おいくつか?」

 

「クフフ…芙陽で良いよ。秘密にしておいた方が面白いじゃろ」

 

「フフ…その若さの秘訣、教えてもらいたいものじゃの。妖術か何かか?」

 

「妖術ではない、とだけ言っておこうかの」

 

「貴方やっぱり面白いわ。ねえ芙陽、これからどうすつもり?私を一目見たいだけなら目的は達したんでしょ?」

 

「そうじゃの、お主の人となりを一目見れれば良いと思ったが、こうして知り合ったのならもう少し見ても良いと思える。そこで、短い間じゃが客将として迎えてくれればと思っとる。

 元々情報を集めるために暫く滞在するつもりじゃったしの」

 

「そうね…私としては願ったりなんだけど、冥琳?」

 

「フム…失礼だが、貴殿らの実力をまだ私達は把握していない。そこで模擬戦をしてもらおうと思う。荀彧は文官としていくつかの仕事をしてもらいたい」

 

「心得た。桂花」

 

「はい。必ずや成果を示します」

 

「じゃあ決まりね!芙陽の相手は私が…」

 

「祭殿。芙陽殿の相手を頼みたい」

 

「ええー!!?なんでよ!?」

 

「まだ実力が分からんのだ。お前に任せられるわけないだろう」

 

「でも多分祭じゃ勝てないわよ?」

 

「ほう、芙陽はそこまでの力を持っておると?先程『後ろを取られた』と仰られたが…」

 

「それもあるし、私の"勘"もそう言ってるわ。『下手をすれば私も負ける』ってね…」

 

孫策の表情が快活な少女のものから獣じみた戦士の顔に変わる。『負けるかもしれない』と言いながら、その口元は楽しそうに吊り上がっている。

 

「芙陽様」

 

「ん、なんじゃ?」

 

桂花が小声で話しかけてくる。今までは主と王の会話だと発言を控えていたのだが、懸念が一つあったので口を開いたのだ。

 

「模擬戦は良いのですが、袁術の子飼いとなっている孫家の現状、常に間者がいる筈です。あまり派手なことをすると孫家に不利になるのでは?」

 

「ウム。現に今でもネズミが三匹ほどうろついているしの」

 

「では?」

 

「そうじゃの。…孫策」

 

「聞いていたわ。流石ね、芙陽も荀彧も」

 

「雪蓮、間者か?」

 

「えぇ、ちょっと潰してくるわ。芙陽は先に準備運動でもしていて頂戴」

 

「なら先に行かせてもらおうかの」

 

「儂が案内しよう。荀彧、お主も付いてこい」

 

「わかったわ」

 

「私は鍛錬場の人払いをしておこう」

 

「頼むわね、冥琳」

 

5人は素早く行動を開始した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「お待たせ、待った?」

 

「いや、全然」

 

「じゃあ殺ろっか♪」

 

「よし、殺ろう♪」

 

「は~い審判を務めさせていただきます陸遜でぇ~す。

 お二人ともわかっているとは思いますが~……わかってますよね?わかってるんですよね?殺しちゃだめですよ!?"模擬"戦ですからね!?"模擬"の意味知ってますよね!?」

 

うがー!と必死に述べる陸遜だが、二人は既に完全に戦闘態勢に入っている。

 

「冗談じゃよ陸遜」

 

「そうよ、安心しなさい」

 

「うぅ~ならいいんですけど…」

 

「それで、決着はどうする?」

 

「そうじゃの、"相手の首を飛ばしたら勝ち"で」

 

「そうね♪」

 

「冗談じゃないんですか!?」

 

「はぁ、穏、落ち着け。雪蓮も芙陽殿もそのくらいにしてやってくれ」

 

それまで成り行きを見守っていた周瑜が呆れながら言う。黄蓋は二人が陸遜をからかう光景をニヤニヤと笑いながら眺め、桂花は何が気に喰わないのか膨れている。

 

「荀彧、お主は何を怒っとるんじゃ?」

 

それに気付いた黄蓋が桂花に問い掛ける。

 

「別に、なんでもないわよ」

(芙陽様ぁ…苛めるなら私を苛めて下さればいいのに…なんでそんな無駄に胸の大きいユルユル軍師なんか…)

 

最近は芙陽にからかわれたりするとなんだか気分が良い桂花(マゾ)であった。

 

「ま、そろそろ始めるとするかの」

 

「そうね、貴方の実力、見せて頂戴」

 

腰の常の鯉口を切る芙陽と、南海覇王を抜き構える孫策。

相手の出方を伺う二人の間で闘気がぶつかり合い、見ている者にも緊張が走る。

 

「思ったけれど、随分と細い剣よね」

 

「刀という儂の国の形での。切れ味は他の追随を許さぬよ」

 

「折れそうだわ」

 

「ところが儂のは特別製でな、絶対に折れんよう作られておる」

 

「抜かないの?」

 

「儂の国の構えの一つでの。相手に間合いを気取らせないものじゃ」

 

「なるほどね…」

 

会話をしていても二人に隙は無い。

孫策は内心で焦っていた。明らかに芙陽に動く意志は見られない。時折わざとらしく隙を見せたりすらする。

 

(完璧に誘われてるわね…)

 

孫策が焦っているのはそれだけが理由ではない。芙陽のあの構え。放たれる闘気。表情。どれを観察しても"底が見えない"。

普段なら勝ち筋を教えてくれる自らの"勘"が、『下手に動けばやられる』と告げている。

 

「ま、でも…行くしかないのよ、ね!!」

 

孫策は覚悟を決めて地を蹴った。一瞬で芙陽の目の前まで移動し、右手の南海覇王を振り上げる。

芙陽の刀の間合いは予測済み。正確ではないが、鞘の長さである程度の間合いをはじき出す。

南海覇王の間合いは体が覚えている。近すぎず遠すぎず、理想的な位置で攻撃に入る。

視線と殺気で牽制(フェイント)を入れ、更に左拳を入れ警戒を誘う。

芙陽の両手は腰の刀に添えられたまま動かない。

孫策は極限まで集中していた。自らの剣と芙陽の刀。その二つの動きに神経を注ぐ。

芙陽に接触するまであと一歩。その時点で南海覇王は速度を持って芙陽へ迫っている。

芙陽はまだ刀を抜かない。

 

(獲った―――!)

 

確信―――それが彼女の"油断"であった。

 

 

 

「見事」

 

 

 

ただ一言、芙陽の声が聞こえたと思うと、全てが終わっていた。

 

孫策の剣は空中で止まっていた。元々寸止めのつもりで放った攻撃である。芙陽の眼前で止まっている筈の南海覇王なのだ。

 

しかし、芙陽はそれよりも半歩前にいた(・・・・・・)

 

芙陽は刀を鞘ごと腰から引き抜き、拳二つ分ほどだけ白刃を見せて孫策の喉に当てている。南海覇王を握った孫策の右手は芙陽の顔のすぐ横で止まっている。

 

孫策の頭は事態を把握していない。

理解していることは一つ。勝利を確信したその瞬間、芙陽の体が透けた(・・・・・・・・)ように見えた。

そして気が付いた時には己の剣は何も捕えることが出来ず、芙陽の刀は孫策の首を捕えている。

 

「そ、そこまで!」

 

陸遜の声で孫策が我に返る。そして理解した。

 

「……負けちゃったわね」

 

その言葉で芙陽は刀を納め、腰に戻した。

 

「良い一撃であった」

 

優しい声を孫策に掛ける。孫策は『当たらなかったけどね』と悔しそうに顔を顰めたが、それもすぐに微笑みに変えた。

 

「祭、芙陽が何をしたのか見えていた?」

 

孫策が黄蓋に問い掛けるが、黄蓋は動揺しながら答える。

 

「策殿……儂には特別何かしたようには見えなかった(・・・・・・・・・・・・・・)が…」

 

「なんですって?」

 

孫策も首を傾げる。

黄蓋の動揺は『芙陽が一瞬で孫策を倒したこと』が理由ではない。それも理由の一つではあるのだが、それよりも黄蓋を動揺させたのは、『何故孫策があんなにもハッキリとした敗因(・・・・・・・・・)を理解していないのか』と言う事であった。

 

「どういう事?私には芙陽の姿が透けたというか、ぶれたように見えて、次の瞬間には勝敗が決まってしまったとしか…」

 

「雪蓮、私達には雪蓮が芙陽殿に突っ込み、芙陽殿はそれを素早く躱したようにしか見えなかったぞ?」

 

「はい~。私はなんで雪蓮様があんなに簡単に捉えられたのかわかりませんでしたぁ~」

 

「そうじゃの。いつもの策殿ならあれくらい避けて次の攻撃に移れると思ったんじゃが…」

 

どうやら観戦していた者たちには孫策が『簡単に負けた』ようにしか見えていないらしい。

孫策はこれ以上考えても分からないと答えを求めて芙陽を見る。

 

「芙陽…貴方が何をしたのか、教えてくれるかしら?」

 

問われた芙陽は意地悪くニヤリと笑うが、回答自体はすんなりと答えた。

 

「なに、唯"半歩前に進んだ"だけじゃよ」

 

「……はぁ?」

 

意味が分からないと怪訝な顔をする孫策に、ケラケラと笑いながら芙陽は説明を始める。

 

「特別なことは何もしておらん。本当に半歩前に進む、それだけでお主の動きは封じることが出来た」

 

「その半歩がどうだって言うのよ?」

 

「半歩進む瞬間、いつ動くのかが問題となるんじゃよ。儂はお主が牽制を出し終わり、攻撃が儂に当たる直前に進んだ。つまり、お主が勝利を確信し、それまで意識していた間合いを忘れた瞬間に動いた。するとどうなるか?儂の姿がぶれるか、あるいは一瞬消えるかのように見える」

 

「…信じられない話だけど、身を持って体験してるからわかるわ。確かに私には芙陽が一瞬"透けた"ように見えたもの」

 

「ほぇ~そんなことが出来るんですねえ~」

 

「まるで妖術じゃの」

 

「カカカッ、お主等も練習すれば出来るようになるぞ」

 

芙陽の言葉に孫策と黄蓋が反応した。武人としてより強くなる事には興味があるのだろう。

話しているうちに、いつの間にか桂花が芙陽の隣に立っている。

 

「芙陽様、お疲れ様でした」

 

「ウム、久々に楽しめた」

 

「格好良かったですよ」

 

顔を赤らめて芙陽に擦り寄ってくる桂花の頭を撫でる。気持ちよさそうに目を細めた。

満足した桂花は孫策たちに向き直り、口を開いた。

 

「それで、芙陽様の実力はわかったでしょう?」

 

「えぇ。是非とも力を借りたいわね。できればそのままウチに入ってくれればいいんだけど」

 

「済まんがそれは出来んの。まだまだ旅を続けたいのでな」

 

「でしょうね。だからその時まではよろしく頼むわ」

 

「承知した」

 

「では、すぐに芙陽殿の受け入れ準備を始める。荀彧には試験としてまずそれを手伝ってもらう」

 

「わかったわ」

 

「芙陽は取り敢えず今日の訓練に出てもらおうかしら。ウチの兵を見てもらいたいの」

 

「ウム。時間が空けば街も見たいんじゃが」

 

「訓練が終われば案内するわ。それと今日は歓迎の宴を開きましょう」

 

「なら儂はその準備を…」

 

「祭殿には芙陽殿受け入れを手伝って貰いますよ」

 

「なんじゃと!?」

 

「祭様は軍部筆頭ですから~お願いしますよ~」

 

「くぅ~…嫌じゃ!」

 

「穏、祭殿を必ず連れて来い。良いな」

 

「無理ですよぉ~」

 

「出来なければ次の給金は大幅に減る」

 

「鬼ー!!?」

 

「祭殿は全額です」

 

「儂に……死ねと…?」

 

ギャーギャーと騒ぎながらそれぞれが歩いていく。

 

「ねぇ、芙陽。私は本当に英傑足る人物?」

 

「見込みはある。後はお主次第じゃよ」

 

「そう…なら、問題ないわね!」

 

「ほう、自信ありかの?」

 

「私は孫策。当然じゃない」

 

「カカカッ、そうか。ならまずは今宵の宴じゃの」

 

「あら、どうして?」

 

「英雄は酒にも強い」

 

「フフフ、それこそ問題ないわね!」

 

狐と虎。二匹の獣の出会いであった。




芙陽の使ったあれは色んな所で『縮地法』と呼ばれたりします。
中国だとなんか仙術らしいですね。瞬間移動のことらしいですけど。

次はどこまでやろうか…。
美尻孫権を出すか、その前に離れて袁術の所へ行くか…。
孫権を出したら若干フラグが立ちます。袁術の所へ行くと「綺麗な袁術」へ一歩近づきます。
かなり迷う二択ですね~。

芙陽のキャラ絵…難しいです。才能が…絵と文の才能が欲しい…


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