ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十五話「存在意義」④

……竜斗はマリアに頼んでベルクラスへ戻る。彼女の運転する車の中では基地内の様々な騒動からか、異様に寒い雰囲気だった。

 

「……竜斗君、安心して。エミリアちゃんは無事だから」

 

「……はい……っ」

彼女は少しでも竜斗を安心させるために優しく励ます。しかしそれ以上に落ち込んでおり、顔を全く上げない。

 

「あたしや司令がちゃんと三人を見てなかったばかりに……本当にごめんなさい……」

 

目を離していた隙に、こんな危ない目に遭ったことに凄く負い目を感じているマリア。

 

「……マリアさんのせいじゃありません。僕が、リーダーの僕がしっかりしてないばかりに――」

 

と、申し訳程度にフェローを入れる竜斗だった。

 

「今、エミリアはどうなんですか?」

 

「一応鎮静剤を打たせて部屋で休ませてるわ――けど下手したらトラウマになりかねないことだから安心はできないわね」

 

「…………」

 

彼には分かる。ポーリーのしでかそうとしていたことに対するエミリアの気持ちが。何故なら自分も愛美によって同じ目に遭ったからである。

 

「あっ……竜斗君……もしかして思い出しちゃった……?」

 

「――いえ、大丈夫です」

 

「ごめんなさい……」

 

非常にこの場は気まずい空気が流れてしまった――するとマリアは話題を変えてこんな話をする。

「それにしても竜斗君、あなたに何があったの?ゲッターロボの出力が全然上がらなくなって――」

 

やはりゲッターロボに関わる者として彼に異変について質問する。竜斗はこれまでに何があったのかを、そして先ほど早乙女と愛美に何を言われたのかを、彼女に全てを打ち明けた――。

 

「……なるほどね」

 

「もう、僕はこれ以上どうしたらいいのか分かりません……僕はまだここで終わりたくないのに、みんなはやめろやめろと――頭の中がそればかり飛びまわってパンクしそうなんです」

 

すると――。

 

「……あたしは正直、未だに三人にゲッターロボに乗って戦うことには反対なのよね」

マリアはそう答える。

 

「確かにこれまでのあなた達の戦果は本当に素晴らしいし、司令の期待通りあなた達には素質があると思う。

けど、結局あなた達は自衛隊所属とか、どう取り繕っても一般人という事実には変わりないのよ、正規で入ったワケじゃないからね。

そんなあなた達を毎回戦わせることに私は不安でしょうがないのよ。

もし何かあったらあなた達のご両親にどう顔向けすればいいか――てね」

 

「…………」

 

「だから正直な話、あなたが乗らないと決めるのなら私はそれで一つの安心は生まれるわね、エミリアちゃんとマナミちゃんはこれからも乗るならそれはそれで本当に不安だけど」

 

自身の思うことを正直に打ち明けるマリア。

 

「竜斗君自身は乗り続けたい気持ちなのに確かに周りから降りろとか一方的に言われると確かに誰でもヘコむかふてくされるわね。

けど、これはあなた自身のためを思って、一つの選択肢をわざわざ言ってあげていることも忘れちゃダメよ。

決してあなたが嫌いで言っているワケじゃないから」

 

「…………」

 

「私からも、こればかりは自分で決めなければいけないと思うし、それを周りに伝えなきゃいけない。

これは誰かに決めてもらうような他力本願はしてはいけないこと、それでもし何か悪いことが起こったら自分だけでなく決めてもらった本人も気分悪いでしょ。

周りから色々言われたけど、それでも乗り続けたいと思っているは間違いなくあなたの本音、それを決定的にできるかどうかよ」

 

「マリアさん……」

 

「大丈夫。私は何があって竜斗君の、いや三人の味方だから。

あなたやエミリアちゃん、マナミちゃんがどんな選択をしても受け入れるし協力も全力でする。

だから――気を楽にして自分の思うようにやりなさい。

私は竜斗君達は我が子にように思ってるから――」

 

そう言われ、竜斗に変化が。

彼は知らず知らずに大粒の涙が溢れ流していた。止まることなく身震いしている、それは彼の心の中に溜まっていた大量のストレス、怒り、悲しみなどの負の部分が放出していた。

それを見たマリアはそんな彼の頭を優しく撫でてあげたのであった。

 

「竜斗君はチームリーダーとしての義務を果たそうとしてたから、凄く大変だったでしょうね。

それは私や司令、そしてみんなもちゃんと理解しているはずだから――正直辛かったわよね」

 

彼は顔を伏せて嗚咽する。しかしそれが彼の心の重荷を軽くしていったのであった――。

ベルクラスに到着すると、格納庫内に入り彼を降ろす。

 

「エミリアちゃんは今、自室で休んでいるけど付き添いたい?」

 

「……はいっ」

 

「分かった。もし何かあったら連絡して。あたしは基地に戻るわ、まだ仕事があるから」

と、車のドアを閉めようとした時、竜斗は。

 

「マリアさん、さっきはありがとうございます。おかげで幾分心が軽くなりました」

 

お礼を言われて、ニコっと笑うマリア。

 

「竜斗君、これからも悩んだりしてどうしようもなくなったらいつでもあたしに頼っていいからね。

出来る限りのことは協力するし、アドバイスしてあげる。それが私の使命だからね」

 

そう告げられ、彼女と分かれた竜斗はすぐさまエミリアの部屋に向かった。

中に入るとベッドでは彼女は静かに眠っている。どうやら今は落ち着いているようだ。イスを借りて彼女の横に座り彼女を見つめる。

 

頬に湿布が張られており、泣きはらした証拠に目元が赤い。あの男、ポーリーから暴行を受けたのだ、彼女の受けた肉体的外傷、それよりも精神的外傷は計り知れない――。

そんな彼女を見て、自分の問題ばかりに囚われて彼女を守れなかったことに対し、彼は今やっと実感しそれを後悔する。

愛美の言っていたことは正論だ、そばにいたはずの自分の彼女を守れず、怒らずウジウジしていた自分の愚かさに恥じた。

 

(……父さん……母さん……黒田一尉…………こんな今の俺を見て嘆くかもしれない――けど、これからどうすればいいんだ……?)

 

――彼は悩んでいると、外からドアをノックする音が聞こえる。開けると目の前にジョージが立っていた。

 

「少佐……」

 

「竜斗君か。君も彼女が心配だったか」

 

二人は中に入り、眠る彼女の前に立つ。

 

「少佐がエミリアを助けてくれたそうで、本当にありがとうございます」

 

「いやあ、俺も偶然だったんだよ、けど手遅れになる前でよかった」

 

「ポーリー中尉は?」

 

「恐らく問題を起こしたから懲戒処分くらうだろうな、多分本国に強制送還されるだろうから君達を脅かす奴はもういなくなるよ。まあ、俺も後が大変だがな」

 

「……え?どういうことですか?」

 

「あんなヤツでも顔面殴って怪我させたからな。もしかしたら俺も何かしら処分を受けることになるかも」

「そんな……少佐は助けに入っただけじゃないですか」

 

「しょうがない、これも規則だ――それにしても彼女が立ち直ってくれればいいんだが」

 

「…………」

 

彼が暗い表情を落としていると、察したジョージは。

 

「ここじゃあなんだ。少し外で話さないか」

 

と、言われて二人は艦内の食堂に行きジュースの入ったコップを持って席に座る。

 

「エミリア君は置いといて君も今、凄く大変な目に遭ってるだろう」

 

そう尋ねられてコクっと頷く竜斗。

 

「はい。もう何がなんだか分かりません――」

 

「俺、いや誰もが想定すらしていない事態だからな。

その本人である君がもがき苦しんでいるのは一目で分かるよ。君はこれからどうするんだ?」

 

「僕は…………やっぱり乗り続けたい気持ちでいっぱいです。目的がありますからこのままここで終わりたくないし、何よりチームメイトを守りたい気持ちでいっぱいです」

 

「……なるほど。君がそこまで考えてるなら俺からは何も言えないな」

 

「しかし司令や水樹に見限られたみたいで……」

 

自分と二人の間に何があったかを教えた。

 

「言っておくが竜斗君、二人は君へ本気でそう言ったワケじゃないと思う。

それは今の弱気な君に一喝したんだよ。もし本気なら君に何も期待してないことだから恐らく二人は君に「じゃあ自分の好きにしろ」と言っていると思う」

「…………」

 

「あと、そう言われて悔しいと思うなら見返してやろうとか何かしら行動を起こすべきだ。

例えば――ゲッターロボに乗れないなら他のSMBに乗ってやるとかさ。考えると色々やるべきことが頭に浮かぶだろ?君は賢いんだから」

 

と、今まで気づかなかったことを言われて「はっ」となった。

 

「俺からの視点だけど竜斗君の才能は正直素晴らしいものを感じるよ、あのジェイドも君を見込んでるし。

アイツはブラック・インパルス隊の中でもかなり視野の優れた持ち主だから、他人の才能を見分けるのに長けているしそれでなお、君を気に入るのははっきり言って凄いことなんだよ」

数日前にも本人からもそう言われたのを 思い出すが、その時はお世辞か何かだろうと軽い感じでそんなに凄いことだとは思わなかった。

 

「ブラック・インパルス隊のメンバーの多くは、前の戦歴を見て君のことを高評価をしてたよ、普段は他人への評価に興味を示さないジョナサンも君を認めてるし。

けど君の弱点はその優しい性格かな。

悪いことではなく、寧ろいいんだけど、戦闘が肝心になるこの分野、仕事にとっては致命的な要素。

君のそのせっかくの才能を持て余し、下手すれば押しつぶしてしまいかねないんだよ」

 

『その弱気な性格が君の才能の殺している』。前にも早乙女から言われた彼の短所をここで突かれ、そこでやっと、これは本当のことなんだ、と彼は思い知った。

「軍隊にいる以上は自分達は戦うことを契約しているワケだから、いざと言うときに非情、またはなにくそと強気にならないと軍隊にいらないってことになるんだよ、向いてないってことだから。

もし君の言うとおりこれからも乗り続け、そして戦っていきたいならそこは覚えておいたほうがいいと思う――遊びじゃないんだから」

 

「……うーん、僕にそれが出来るかどうか――」

 

「まあ無理じするつもりはないね、人それぞれの個性ってもんがあるから」

 

彼は一呼吸置き、こう言う。

 

「竜斗君、いやゲッターチーム全員にこれだけは言っておく。

いつまた戦闘が起こるか分からないこんな空気の張り詰めた状況の中でも、君達のために手を尽くして協力してくれる人達が沢山いるってことを忘れちゃいけないし、そして感謝しなければならない」

 

 

「…………」

 

「君達は周りの支援があってこそ初めてここに居られる。

竜斗君達は正規軍人でもなければそのように訓練を受けてないからね、ポーリーや他国パイロットが冷たく接するのも理解できる」

 

いくら才能や能力や戦歴があろうと関連性のないよそ者だと、受け入れてもらえないしそれを理解してもらえないと言うことだ。

 


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