ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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何気に投稿話数100回目になりました。まだまだ続きます。


第三十五話「存在意義」③

「――と、言うわけだ」

 

早乙女から急遽、呼び出された竜斗は、ニールセンからの忠告を伝えられた。しかし本人はうんともすんとも言わず黙り込んだままだ。

 

「竜斗?どうした、イヤなのか」

 

「いや……それは凄く嬉しいです……」

 

と言うものの、彼は全く喜んでいない。というより、何かしこりがあるかのような渋りが表情に出ている。

 

「先ほどの君の悔しさが全く感じられないな、何があった?」

 

すると竜斗は言い渋るように小声でこう言った。

 

「もしかして僕は……不要な人間ですか?」

 

「竜斗……?」

 

「さっきジェイド少佐に相談したら「降りることも考えろ」と言われました――」

 

早乙女に先ほど二人の会話の内容を全て話した。

 

「それで僕は、もしかしてここには要らない人間なんだろうかと――さっきから、そればかり考えてしまって……」

 

早乙女が今の彼から感じるのはまるで最初に出会った時のような「弱気」な竜斗である。

逆戻りしたかのように今の竜斗には最近まであった前向きさが微塵も感じられなかった。そんな彼に早乙女は落胆した。

 

「だったら本当に降りるか」

 

「え……?」

 

「私は竜斗のために頑張って何とかしてあげたかったが、今の、昔に逆行したかのような弱気な君を見て、心底ガッカリしたよ。

君にこれ以上期待するのはやめる、君をチームから外すことにしよう」

 

早乙女のその冷たい眼、言葉は彼の心を極寒の中にいるような窮地へと追い込んだ。

 

「これからはエミリアと水樹の二人に頑張ってもらうことにする。君はここにいても邪魔だ、誰かに頼んで日本へ送っていってあげよう」

 

早乙女は彼に背を向けて去ろうとしたが気が動転して青ざめた顔の竜斗は彼を引き止めた。

 

「司令、僕はただ――!」

 

何か言おうとするが逆に早乙女が口を出し、彼の発言を覆い被さった。

 

「確かに君が今、苦悩に翻弄されているのは凄く分かる。

だが「自分は不要な人間ですか?」、君からそんな言葉は聞きたくなかったよ――」

 

 

そのまま早乙女は去っていく。竜斗はまるで電池の切れた人形のようにその場に力無くへたり込んでしまった――。

 

「俺は……俺は……一体、何をしているんだ……」

 

ボソッと気持ちのこもってない無機質な口調でそう言い吐いた――。

 

「ちっ、全然ムシャムシャが止まらねえ」

一方、ポーリーは昨日のことに対し、未だに気が収まっておらず苛立っていた。

 

「何だってんだ一体!機体が不調だから中止?都合が良すぎるぜ全く――」

 

未だに根に持っているようで、彼の悪い癖である――。

そんな時、通路の向こうを見ると偶然エミリアを発見するポーリー。ニヤッと何かを企むような不気味な笑みを浮かべて早歩きで彼女の元へ向かった。

「よう」

 

「…………」

 

ポーリーと対面すると見るも嫌そうな顔をするエミリア。

 

「……私に何か用ですか?」

 

「偶然通りかかっただけよ」

 

「あら、そう。失礼します」

 

彼女はさっさと去ろうとするもポーリーに腕を捕まえられる。

 

「何するんですか!?」

 

「ちょっと面貸してくれよ」

 

彼女を近くの雑品保管室に連れ込むポーリーは明かりをつけてドア前に立つ。あたかも彼女を逃がさないようにするかの如く――。

 

「な、何するつもり。人を呼ぶわよ!」

 

「何もしないさ。ただ話がしたくてね」

このラテン系で何を考えているか分からない危ない男、ポーリー。

強気に応じる彼女だが内心は得体のしれない恐怖でいっぱいだった。

 

「なにそんなに警戒してんだよ。もしかして初対面の時のことをまだ根に持ってるのか」

 

「当たり前じゃないですか!」

 

「けっ。ところで聞いたはなしなんだが、二人は付き合ってるんだってな」

 

と、誰から聞いたか分からないことを唐突に口に出す。

 

「……それが何か?」

 

「あんな甘っちょろいなよなよしたガキみてえな男のどこが好きなんだ?」

 

「そ、そんなのアタシの勝手です!それにリュウトのことをあなたにああだこうだ言われる筋合いなんてないっ」

「へっ、昨日俺にボロ負けしてたクセに……ゲッターロボは高性能と聞いたが検討違いだったな、もしくはアイツ自身が扱えるだけのセンスがないのか――」

 

「…………っ」

 

「あれのどこが良いか分からねえな。あんなヤロウより優れている人間なんかいくらでもいるんだぜ?」

 

彼は卑しいその笑みを彼女に見せる。

 

「ともかく、昨日の結果でお前らのここでの立場は最低になったってことだ。

惨めな目に遭いたくなけりゃさっさとしっぽ丸めて日本に帰ればいいのさっ」

 

そこまで言われ、辛うじて抑えていた彼女もついに堪忍袋の緒が切れた。

 

「さっきからアタシ達を貶すことしか言わないで……アンタこそ、人をバカにすることしか考えないただの人間失格じゃないか!」

 

「なにい……」

 

「確かに昨日はリュウトは負けたけど、それを肴にして人を貶すことで自分が優位だと思い込む、アンタのやってることは器の小さい、ケツの青いガキだって言ってんのよ。

今に見てなさい、アンタはいつか痛い目を見ることをね!」

 

彼女は彼をグッと睨みつけてこう啖呵を切る。

 

「アンタこそアタシ達ゲッターチームをナメんじゃないわよ!

今はリュウトは不調だけどいつかボコボコにやられればいいんだわ!!」

 

と、叫んだ瞬間ポーリーは憤怒し彼女を強引に押し倒した。

 

「……おい、誰にモノ言ってやがる。体で身の程を教えてやろうか?

テメェみたいに口の減らない生意気な女を強引に屈服させるのが大好きでな!」

 

「よっほどアンタ屈折して育ったのね、いっそう哀れだね!」

 

「このクソアマ!」

 

彼はなんと彼女の着ている上着を強引に破り脱がし、着用するブラジャーと白い素肌が露見した。

 

「これでも俺にたてつくか?」

 

「アンタになにされようとアタシは屈しないから!

アタシは生まれは違えどこれでも日本人よ!『ヤマトダマシイ』ってもんを見せてやるんだから!」

 

「……何が日本人だよ。お前どうみても白人じゃねえか。なんでわざわざ黄色人種(イエローモンキー)の日本人だと思い込むか理解に苦しむぜ」

 

「人種差別?ついに薄汚い本性の出したわね!

アタシは何があろうと死ぬまで日本人だと言い切ってやる、それがワタシの誇りだ!」

 

と言い切る彼女――だが、ついにブラジャーを取ろう手をかけるポーリーに抵抗して頬に平手打ちをかますエミリア。

「……もう、許さねえ!」

 

ポーリーが怒りに任せて放った全力の拳が彼女の顔面に……しかし彼女はとっさに顔を傾け床に叩きつけられる。直撃は避けたが拳が彼女の右頬をかすり、数センチの痣が出来た。しかしポーリーの拳が再び引き上げられて今度は腹部へ向けられた――。

 

「……なんだ?」

 

ちょうどそこにジョージが通りかかり雑品室がガタガタとそして何か揉めている声が聞こえたので不思議に思い、すぐ開けるとそこには上半身裸にされたエミリアにのしかかり、拳を振り上げているポーリーの姿が。

「エミリア君!!?」

 

慌てた彼はなりふり構わずポーリーを押し飛ばし、彼女を保護した。

 

「し、少佐……」

 

「な、なんでこんなことに……」

 

無理やり破り剥がされ、はだけた服から見える素肌、そして彼女の右頬に出来た痣……何をされたか誰でも分かる、今の彼女の無残な姿についにジョージはブチ切れた。

 

「キサマ、エミリア君に何をした……っ!!」

 

「…………っ!」

 

ポーリーに元へ向かう否や、胸ぐらを掴み引き寄せた。

 

「今度彼女に手を出したら、殺すぞコノヤロォーーっ!!」

 

ジョージの放った全力の拳が顔面に直撃し、彼は吹き飛ばされた。

 

床に仰向けになりノビるポーリーに目もくれず再び彼女の元へ向かった。

 

「大丈夫かっ」

 

「少佐……ワタシ…は……っ」

 

――彼女は酷く怯えていた。涙を浮かべて地震にあっているかのように身震いが激しい。

先ほどまで強気に対抗していた彼女も実は強がりだったことがよく分かる。

 

「……こわい……こわい……助けて……っ」

 

素肌がさらけ出した姿が全く気にならずにただ恐怖しか感じていない彼女に、タダ事ではないと察知したジョージはすぐに自分の着ている服を脱ぎ彼女に被せる。

 

「……とにかく今すぐここから出て医務室にっ。立てるか?」

 

しかし彼女は立とうとしても足がガクガクにすくみ上がり立てない。そこでジョージは彼女を抱きかかえて立ち上がった。

「もう大丈夫だから安心しろ」

 

と、頭を撫でて安心づけるジョージにエミリアはようやく助かったと感じて、緊張から解放されて声を上げて泣きながら彼に抱きつき離れようとしなかった――。

ジョージは早乙女とマリアに事情を説明して、彼女を引き渡した。

 

「エミリアちゃん……っ」

 

泣きじゃくる彼女の哀れな姿に二人は唖然となる。

 

「……感謝する少佐。よく助けてくれた」

 

「いいえ、本当に偶然に発見しただけですから。しかし一線だけは超えてなくてよかった――」

 

「しかし……明らかに私達の責任です――私達がいながらこんなことになるなんて……」

 

 

この後、エミリアはマリアに連れられてベルクラスに戻り、医務室で治療と自室休養に入った。

 

 

……ポーリーがエミリアに手をかけたことがすぐに基地に広まる。

ポーリーは警備隊に連行されていき、仲間達は鼻血まみれの本人を見て唖然となっていた――。

そして同じく、その事実を知った愛美は慌てて、休憩室で相変わらず落ち込んでいる竜斗の元へ駆けつけた。

 

「イシカワっ!!」

 

しかし彼も彼でどんよりしており、顔を落として上げようとしなかった。

 

「アンタ、何してるの……エミリアがあのクズ男にヤられそうになったらしいのに……こんなとこで何してるの……聞かなかったの……?」

 

しかし彼に反応がない。まるで死人のようである。

 

何故なら彼自身も、先ほどでの早乙女とのやりとりのことで絶望しかなかった。

「…………っ!」

 

だが、それに見かねた愛美も彼の態度に我慢ならずに彼の頭を掴み、無理やり顔を合わせグッと睨みつけた。

 

「……アンタ、自分の彼女があんな目に遭ったってのになんで少しも怒らないのよ!何とも思わないの!!?」

 

「水樹…………俺は……もう……」

 

彼女が見たのは昔の竜斗、見てると吐き気がするくらいの弱気な彼の表情。

そんな彼に対してついに愛美の堪忍袋の緒が切れた。

 

「そんなにウジウジしたいならもうゲッターチームのリーダーなんかやめちまえよお!!!」

 

顔を真っ赤にして彼に大声で怒鳴りつける。

 

「もういい。チームのリーダーはマナがやる、もうイシカワになんか任せてらんない!

それどころか、アンタの顔なんかもう見たくもない、どっかに消えろ!!」

 

と、大粒の涙を浮かべて感情のままに吐き出す愛美に彼は呆然となった。

彼を突き放すと背を向けて愛美は腕で目をこすった。

 

「……マナはアンタは信じてたのに……何とかなると信じてたのに……期待したマナが馬鹿だった……。

マナがやっと認めたアンタは一体どこに行ったのよ……戻ってきてよ……っ」

 

と彼女も拭いても拭いても溢れる涙を流しながら彼の元から去っていった――。

 


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