「ではあの手で行くか」
「あの手?」
二人は彼に注目する。
「ワシの最高傑作『エリダヌスX―01』はプラズマエネルギーとゲッターエネルギーを共鳴させた複合エネルギーを弾丸として発射する兵器だ。その技術を応用するとするか」
「と、いうことはアルヴァインの動力をハイブリッド駆動からその複合エネルギー駆動に変換すると――」
「そういうことだ、そのシステムに変更するのにいじらないといかんが何とかなるだろう。
成功すれば、もしかすれば竜斗君を乗せても力を引き出せるかもしれんし、更にエリダヌスX―01をアルヴァインでも使えるようになる。どの道二号機も造りたいとこじゃったし――まあまた金がかかるが致し方ない。」
「しかし武装はまた新規にしますか?」
「キング、そこはお前に任せていいかのう」
「しゃあない、ワシがまた何とかしてやるか、何とか今の武装で再利用できるように改造するわい」
「では、それで行きますか」
「にしてもサオトメ、お前と直に関わるようになってからやけに資金と手間がかかるようになったが、お前ははたして疫病神かなにかか?」
冗談か真か、シャレにならないようなイヤミを吐くニールセンだが早乙女はシワも少しを寄せず平然だった。
「まあそうかもしれませんね、すいません」
「心にも思ってないことを軽々しく言いやがって」
「あ、バレましたか」
と、白々しい答えた。
「だが竜斗君のその話が、実のところ正気とは思えんのだが」
と、キングは未だに疑い深い。まあ、そんな怪奇なことなど見たことも聞いたこともない人間だから解らなくもないが。
「しかしさっきの実験で立証されただろ。アルヴァインの炉心は故障ではなく彼に問題があったんだ」
「しかし、そうなるとマナミ君は――」
竜斗と違い、彼女にゲッター線の適性があるという可能性が一番高いと言うことになる。
「なんか竜斗君が可哀想じゃのう、せっかく今まで第一線で頑張ってきたというのにな」
「いえ、彼の場合はそれで良かったのかもしれませんね――」
早乙女がそうフォローを入れた。
「どういう意味じゃ?」
「そのままの意味ですよ、彼の性格を考えれば大体察しがつきますよ」
「……まあともかく、すぐに取りかかるか。またいつ敵が攻めてくるかも分からんしな」
「ああ、そうだな」
二人は立ち上がる否や、ニールセンは何か思いだったかのように早乙女にこう言う。
「あ、一つ言っておくぞ。はっきりいって複合エネルギーを主動力源として使うのはワシも不本意でまだ確立すらしていない。
確かに誰にもなし得なかった高出力の生み出すことには成功したが、それを利用すると炉心、そして機体が耐えられない可能性もあるし、何より竜斗にも扱えきれるかどうかも分からん」
「つまり――」
「最悪の事態も想定しとけと言うことじゃよ。
もう一度本当にこれからもゲッターロボに乗り続けたいか、竜斗君によおく聞いておいたほうがいい。
彼に死んでもいい覚悟がないならワシは絶対に改造せん、分かったな――」
「……確かにニールセンの言うとおりだ。竜斗君には悪いが、ここでリタイアさせるということも考えさせなければならんのかもな、人生退き際が大事だ」
「…………」
「まあ、ちゃんと話あってもう一度聞いておいてくれ、いいな?」
……その後、三人は解散する。早乙女は実験室に安置されるアルヴァインを隔離した測定場からガラス越しで見つめる。
(今まで一心に研究してきた私でさえそんな側面を見せなかったくせに今頃になって、それも竜斗達にだけか……つくづくムカつくヤツだよお前は)
彼の目は次第にギロッと睨みつけるように細まっていた――。
「……そんな結果になったか」
「……はい」
基地内の休憩所。竜斗はジェイドに会い、実験結果を伝えていた。
「君はどうする、このままゲッターロボから降りるか?」
「え?」
「ブランクだけかと思ったがより深刻みたいだ。それも、君の話が本当ならもはや人間の力ではどうすることも出来ないのかもな。
機体のポテンシャルを充分に引き出せないなら間違いなくこれからは戦場で弊害が起きる」
「…………」
竜斗は黙り込んでしまう。ここまで来て「なら降りる」とハッキリ決断出来ないし、言い出せない。
「そうなって別に君の責任でもなければ恥でもない。我々で言えば病気や怪我をして軍を除隊するのと同じことだ」
ある意味では救いとも言える選択肢を竜斗に与えるジェイド。だが、
「……しかし、僕はこのまま引き下がりたくありません。
乗り始めてからここまで来て突然ゲッターロボに認められないとか、そんなワケの分からないことに納得できるハズがありません。
それにエミリアと水樹の女の子を差し置いて男の僕だけ去るだなんて……」
「しかしせっかくのゲッターロボの力を引き出せない君が乗ってもしょうがないだろ。
今の君が無理して乗ってそれで万が一命を落としたら、それこそ仲間に迷惑し悲しみ、それそこ本末転倒だよ」
「…………」
「竜斗君、ちゃんと後先を考えてからいってほしい。これは君の人生がかかっているんだぞ」
今の彼では間違いなく戦場で戦い抜ける確率は非常に低い。命を落としたり、これからの生活に支障をきたすほどの大怪我をすることだってある。
そうなれば本来送れるハズの人生が自分の意地っ張りで狂うことになる。
「君はそこまでしてでも乗り続けて戦いたいのか?」
ジェイドから真剣な口調で問われ、竜斗は――。
「……数日前に話しました爬虫人類の女の子にこう言いました。
「何とか向こうと和解したい」と。今は向こうも攻めてきているので戦う以外ないですが僕はそうなることを今でも信じて進みたいんです、いつか向こうと和解できることを。
だから僕はそこまで言った以上、ここで引き下がりたくなんです!」
「…………」
「それに、それが僕のここにいる存在意義でもあります――」
ジェイドは「フウ」と大きく息を吐き、腕組みをする。
「そこまで考えているのなら君の意志を尊重したいの山々だ。
だが問題は、君がもうゲッターロボに乗ってもポテンシャルを引き出せないということだ」
「それは……早乙女司令が何とかすると」
「だが何とかできなかったらどうするんだ?君のブランクは治っても機体の方を解決出来なければどうにもならん」
「…………」
「竜斗君、もう一度言う。
これから先のことを見据えて考えてほしい。私だって何とかしてやりたいが、君の身体や命は一つしかないことも分かってくれ――」
……その後、二人は別れて竜斗は行く宛もなくフラフラ歩く。
(俺……どうすればいいんだ……)
どうにもならない現状に打ちひしがれる竜斗。役立ちたいのに役立てない不可抗力……これほど辛いことなんかないのは誰でも同じである。
(どうすることもできないのか……)
このまま無理にゲッターロボに乗り続けても間違いなくチーム全員、そして自身に迷惑をかけてしまうのも事実。
彼はかつてない分岐点に立たされていた。
自身の退き際を理解し降りるか、それとも覚悟の上で乗るか……彼の心は揺らぎに揺らいでいた。
一方、離れた場所の通路でエミリアとジョージは先ほど行った実験についての会話をしていた。
「竜斗君に一体何があったのだろうか――」
機体を強化されてから、ほぼ竜斗にだけ理解し難いことばかり起こり続け、二人は正直困惑した。
「彼が手を抜くとは考えられないし……全く、ゲッターロボとは一体……」
「…………」
「メカザウルスの侵攻が強まるこの状況下で、こんな事態に陥るなんて本人はもっと困ってるだろうな」
「リュウトはどうしてもゲッターロボの力を引き出せなくなったと泣いてました……少佐、リュウトはこれからどうなるんですか?」
彼はその問いに口ごもってしまう。
「少佐!」
「……本人はどう考えてるか分からないが、ゲッターロボの力を引き出せないのならこれから戦い抜くのは厳しいだろう――従ってここで降りることも考えなければいけなくなる」
それを聞いて彼女は多大なショックを受けた。
「それは……もうリュウトはゲッターチームから外れるってことですか?」
「もしかしたら戦わないだけでサオトメ一佐のように指示するような指揮官的な立場に落ち着くとか君達を支援するサポーターとしても考えられるが、君達とはもう共に戦場へ出れなくなることも十分考えられる」
「そんなあ……これまでリュウト、いや三人で協力してきたからアタシ達は戦場でも生き残ってこれた、アタシとミズキの女二人じゃとてもじゃなく戦っていけません!」
「じゃあ君は竜斗君の問題を今すぐ解決できるのか?」
「そ、それは……っ」
はっきり言ってできない。実際自分でも彼の身に何が起こっているか、一体何がどうなってるのかも分からないのに解決できるはずがない。
「それにはっきり言わせてもらう。君は竜斗君がいないと自分達は戦い抜けないと言った。
だがそれは裏を返せば君は所詮その程度の実力だったと認めることになるぞ。
そもそも君達のようなポンと乗った素人同然の三人がここまで無事だったのが不思議なくらいだ、そう思わないか?」
「…………」
「俺だって出来ることなら何とかしてやりたいさ。
彼の操縦に関する才能は俺には持ってないものばかりで、正直嫉妬したくなるほどでこれからも必要だとも思う。
しかし、ここは結局掛け値なしの実力主義だ、自他の人間の命がかかっているからな。
どうにもできないなら……自身が苦難の壁を乗り越えられないならそこまでだったと見極めて諦めて降りるしかない、それか他の分野に移るか――君達、そして俺達のいる世界はそういう世界なんだよ」
ジョージは腕組みをして壁に背もたれる。
「俺達ブラック・インパルス隊もそうだ。
空軍のよりすぐりの隊員を集めた選抜隊だから気を抜くとすぐに外されてしまうからチームメイトは常にそこで生き残るかどうかの瀬戸際にいるんだ。
俺だって辛うじてついて行ってるが、いつ外されてもおかしくないのが現実だ。しかし俺は外されないためにも、上に立とうと向上心を持って常に努力しているつもりだが、それでも報われないこともあるからな」
「少佐……」
「あとさ、日本にいる時にも何回も同じことを言ったと思うが忘れたか?君の欠点は操縦技術やセンス云々より、そういう感情を持ち込んでしまうことだ。
もし彼がいなくて戦えないと思うなら君も正直降りた方がいい。
戦場でそんな女々しい感情を持ち込むのは非常に迷惑だ。
もし彼がそういう決断をしたなら、君自身も本気でこれからどうするか考えておけ――」
と、彼女にそう言い放った。
「へえ、竜斗がねえ」
そして愛美はジョナサンと会い、同じく先ほどの実験について話していた。
「昨日エミリアから聞いた話だとただのブランクかと思ってたけど実際はそれより酷いかもしれないって……」
昨日冷たく突き放すと言った愛美も流石に彼が心配であるような素振りである。
「ステルヴァーはそんなこと今まで起こったことがないからなあ」
「ジョナサンはどうすればいいと思う?」
「俺もそんなこと起きたことも聞いたこともないし、分からないからノーコメントだ。
しかしまあ、最悪ゲッターロボから降りるしかないのかもな」
やはり彼も、その選択肢を出した。
「マナミは竜斗に対してどう思うんだ?」
と聞かれて、彼女は。
「マナだって今何が起きているか分からないけど……アイツは降りないと、なんとかなると信じてる」
と、愛美はそう答える。
「アイツはマナ達チームを纏めるリーダーなんだもん、自分のリーダーを信じてやれなくてどうするのよ」
と、前向きにそう伝える彼女にジョナサンは。
「……そうだな、流石は俺のマナミ、そういうポジティブさが好きだわ。
俺も竜斗がこのまま終わるようなヤツじゃないと信じてるよ、一見華奢そうで意外な芯の強さを持っていると思うし――」
「でしょ?マナもそう思う。
アイツは最初、確かにビクビクした女々しいヤツだったけどマナから見て凄く成長したと、そしてこれからも期待できるって本当に分かったから今回もアイツは何だかんだで乗り越えられると信じてあげたい」
「ああ。それに博士達もいるしなんとかなるよ」
――と、この二人だけはポジティブに彼の可能性を信じているようだ。
「それで竜斗は?」
「多分、今も落ち込んでいると思う」
「じゃあ俺がアイツに喝入れてやろうかな」
「どう入れるの?」
と、聞かれて彼は何故か腰を前後に振っているが……。
「ジョナサン……まさかアンタそんな趣味が……」
えげつない行為を想像した彼女は顔を真っ青にしてドン引きした。
「ジョークだよ、ジョーク!!俺は女しか興味ねえよ!!」
と彼は弁解するも彼女はさらに引いて距離を置き始め、彼は必死で弁解しているまるでいたちごっこをしている二人だった。