ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十四話「模擬戦闘」③

「イシカワ……あんた……」

 

アルヴァインのコックピット内の様子をモニターを移し、彼女も彼の様子がおかしいことに気づく。彼が泣いている――ヘルメット越しからでもそれがよく感じ取れる。

 

すると黙っていた早乙女がデスク上のパソコンの前に立ち、カチャカチャとキーをいじる。

パソコン画面に表れたのは、見る暇がなかったためにバックアップしておいたアルヴァインの基本的なスペックデータとこれまでの戦闘における機体のデータ、今戦闘での機体のデータを比較する早乙女。だが恐るべき事実が――。

 

(……初戦以降のエリア51での各戦闘、模擬戦闘でのゲッターエネルギーの出力が空戦型ゲッターロボと同レベルかそれ以下だと……?博士達によって改良されたハズじゃなかったのか?)

 

早乙女はこの眼で見た情報を疑った。

明らかにおかしい……アルヴァインになってすぐの初戦では確かに誰も疑いない高出力を保ち、それ相応の凄まじい性能だった。出力値グラフでその時の線が頂点近くを維持していることが証拠として見せている。

が、それ以降は線がグラフの半分前後かそれより下を維持しているという不可解な事に。

二週間前の夜間戦闘にて、彼がリンゲィの乗っていたプテラノドン型メカエイビス、ミョイミュルにやけに苦戦していたことを思い出す。

早乙女はエリア51でも行われた三人の模擬戦闘時の各機のステータスデータを見比べると。

 

(……アルヴァインの出力がルイナス、アズレイ以下だと……)

ゲッター炉心の故障か……と思ったが戦闘前は綿密に整備点検したはずだからこんなことにはならないのが――にしてもなぜ竜斗の機体、アルヴァインだけこんなに出力値が低いのか、早乙女ですら分からない――。

 

「早乙女さん、どうしたの……?」

 

不思議に感じた愛美がそう声をかけるも、彼は返事を返さず今度は通信機の前に立ち、竜斗に通信を取る。

 

“竜斗、大丈夫か?”

 

と、そう声をかけると彼はすでに涙声になっている。

 

「司令…………僕はっ」

 

彼からすればなぜ思うように力が出せないのか、という悔しさが画面から伝わる。

彼自身がブランクに陥ってるとは言っていたがそれだけではないのかもと早乙女は考えている。

 

“実に不可解なことがある――直ちに戦闘中止だ、機体がおかしいことになっている”

 

「機体が……?」

 

“ああ、やむを得ない。相手と基地の者にワケを話して中止の合図を伝えるから直ちにベルクラスに戻ってこい。再戦したいのならそれは後日にしろ”

 

「しかし……このままじゃ……」

 

 

“いいから戻ってこい!”

 

――結局、早乙女によって二人の対決の決着はつかず、二人は強制的に基地に戻された。

当然ポーリーもこれに対し「ふざけてんのか」と納得するはずもなく文句や愚痴を吐くのを止めることはなかったが仲間達になだめられている。

ベルクラスに戻った竜斗は機体から降りると絶望しきった表情、まるで死人のような顔でフラフラと自分の部屋に向かった。

 

その途中、愛美が駆けつけて「アンタ、大丈夫?」と声をかけるも本人は「一人にさせて」と生気を失ったような弱々しい声で去っていく――。

竜斗は部屋に入るとパイロットスーツのまま、そのままベッドにドサッと倒れ込む。

 

(俺は……一体どうしてしまったんだ……)

 

悔しさからシーツをぎゅっと握り締め、身震いする竜斗は大粒の涙を流し、止まらない――シーツを涙で濡らし目をゴシゴシ拭く。

 

原因が機体か、いや自分か?どちらが悪いのかもうワケが分からないが、ゲッターロボがあそこまでコケにされるのが悔しくてたまらないのだった。

 

「博士、見てもらいたいものが」

 

早乙女はゲッターロボの出力値、スペックデータを印刷した書類をニールセン達の元に持って行き、それを差し出した。

 

「なんじゃこれは?」

 

「各ゲッターロボの強化後のスペックデータ、そしてこれまでの模擬戦含む戦闘時のデータです――」

 

二人はそれを見る。するとニールセンは眉をしかめる。

 

「……確かにおかしいのう。アルヴァインだけゲッターエネルギーの出力値が異様に低い」

 

「どういうことだ?」

 

「ルイナスとアズレイはワシらが改良しただけあって、確かに相応の高い出力を出しているんだが、竜斗君の機体だけは強化前の機体の出力値と同等かそれ以下になっとるんじゃよ」

 

 

キングは「はっ?」と声を上げて二人で論議を醸す。

 

「そんな馬鹿げた話があるか。故障か、あの子が手を抜いているか」

 

「言っときますが彼は慎重で決して油断するような性格ではないです。

それに常に綿密な整備点検をしてますから炉心の異常の可能性も低いと思います」

 

「だが、ワシらはちゃんと各炉心を確かな腕で改良したハズだろ、手を抜いた覚えはない。現に改良後の初戦闘では――」

 

「ああ、あの時だけは出力値が高いのにそれ以降はなぜか見事に下降しておる。

サオトメよ、おぬしはどうみる?」

 

「……解明できるかどうか分かりませんが、とりあえず個人的にある実験をしてみたいと思います」

 

「実験?」

 

「後日、機体を精密に点検整備した上で三人にそれぞれ別々に乗せて起動テストしてみましょう。私個人としては炉心ではなくゲッター線そのものがあやしいと思います」

「ゲッター線?なぜじゃ、単なるエネルギーじゃろう?」

 

「いや、私達の想像を遥かに超える恐ろしいエネルギーかもしれませんよ。

いや、禁断の果実とも言うべきか――」

 

「禁断の果実……旧約聖書でアダムとイブが神の言いつけに逆らって口にしたというあれか」

 

「はい、発見者の私が言うのもなんですが我々には安易に手を出してはいけないモノ、それほどの神懸かりな何かがあると思います。

もし彼が二機に乗ってアルヴァインだけ出力が低ければ炉心の問題だったというだけです。

しかしこれには竜斗自身が絡んでいると思います――」

 

「なんか哲学的になってきてますます意味が分からんぞい……」

 

……三人は沈黙する。こんな不可解な現象はゲッターロボ以外のSMBには発生したことのない未曽有の事態だ、開発者なら尚更だ。

 

 

「ところで竜斗君はどうした?」

 

と、ニールセンから先に口を開き、早乙女にそう聞く。

 

「かなり落ち込んでます。一応また再戦の機会をやると前向きな言葉を言ったのですが、実質の完敗です。

竜斗にはそれが慰めにならないでしょう」

 

「そうか……」

 

ニールセンも珍しく落ち込んでいるように溜め息を吐く。

 

「あなたが彼を心配するのは心外ですね。自分の開発した兵器以外は憐れみをかけないと思っていましたが」

 

「違うわい、ワシらが手塩をかけて大改造したゲッターロボが、あんなただのSMBにボロ負けするだなんて関わったものとして信じられんのだ。キングもそう思わんか?」

 

 

「ああ、腹立たしくてしょうがないわい。一刻も早く原因を解明せねばな。これで機体が不調か、竜斗君が手を抜いているか……」

 

「もしくはそのゲッター線に原因があるのか、考察の追究は起動テストをしてみてからにしてみましょう」

 

……一方で、エミリアはベルクラスに戻り、竜斗に会おうとしたが途中で出会った愛美に止められる。

 

「今はアイツに会わないほうがいいわよ、かなり落ち込んでるから」

「そんな……」

 

「まあほっといたらその内立ち直るっしょ。心配しなくていいんじゃない?」

 

「だといいんだけど……」

 

二人は食堂に行き、コップにジュースを入れて対面するように席に着く。

 

「にして、リュウトがあそこまでボロ負けするとは思わなかった……」

 

「なんか今日はたまたま機体が不調だったみたいし――」

 

「いや、違うの。ジェイド少佐から聞いたの、リュウトがブランクに陥ってるって――」

愛美に彼から聞いたことを全て話す。

 

「へえ、アイツがね」

 

意外にも驚くような素振りを見せない愛美。

「――ゲッターロボを信じられないか……確かに、たまに機体から不気味のような何か変なのを感じる時はあるけどね、エミリアはある?」

 

「アタシは……あっ!」

 

何か思いつき、声を上げる。

 

「対馬海沖の戦闘の時にアタシ、リュウトの機体に乗ってた時あったよね。あの時ゲッタービームを撃とうとして出力を上げたら許容量を遥かに越えて止まらなかったの。

サオトメ司令がすぐに緊急停止してくれたから助かったけど、もう少しでゲッターロボが爆発する寸前だったって聞かされてゾッとした」

「ふうん、やっぱり何かあるわね。

けど、マナは戦闘中はあの憎たらしい爬虫類を倒すことだけしか考えてないし、それにそのために乗るゲッターロボが強力だから疑う余地はないんだけど」

 

と、そう言い切る愛美。

考えれば、戦闘中に相手を問答無用で倒すことだけを考えてる彼女と、向こうと戦いたくない考えを持ち葛藤している竜斗と思考と行動が真逆であり、確かに早乙女の言うとおり、それが戦闘において彼女の才能を引き出しているのかもしれないし、それが彼自身を弱くしているのるのかも知れない。

 

「リュウト、どうするんだろう。このまま元に戻らなかったらもうゲッターロボに乗らなくなるかも……」

 

 

 

深刻そうな顔をしているエミリアに対し、愛美は。

 

「まあ石川次第じゃないの。アイツがそこで挫折するならそこまでの男だったってことだけ。

けどどうしても乗りたいなら、ブランクから抜け出したいなら、アイツなら色々考えて悩んで解決策を見いだすでしょ。

マナ達も協力はすれど、救いの手を差し出すのは今じゃない、イシカワ自分がもうどうしようもない状況に陥った時が一番最適だと思うの」

 

「ミズキ…………」

 

――愛美がそう説く。

 

 

「ミズキはやっぱりスゴいね。アタシはそんなことを少しも考えられなかった」

 

「……まあマナもアイツにこれからもリーダーやってもらいたいし。

アイツがもしリタイアしたり外されたらマナがチームリーダーになるからね、リーダーなんて絶対にかったるいからイヤなだけよ」

 

「フフ……ミズキらしいや」

 

二人はクスクス笑った。

 

「ねえ、考えたら今、絶好のチャンスじゃないの?」

 

「え、絶好のチャンスとは?」

 

「おそらくイシカワは今、一番の壁にぶち当たってる。

それで乗り越えるか乗り越えられないか、アイツが今まで以上に大きく成長する絶好のチャンスってこと。

しばらくアイツを冷たく突き放してみたらどお?」

 

「え……ワタシにそんなことできるかしら……っ」

 

「エミリア、ここでしくじったらイシカワが一生いくじなしになるかもしれないし、もしかしたらマナもベタ惚れるくらいにアイツが男らしく、頼れるぐらいに生まれ変わるかも。そう考えたら、それに賭けてみない?」

「…………」

 

彼女はそれについて少し黙りするもすぐに頷く。

「うん。リュウトがここでもの凄く成長するならアタシ、心をオニにしてやってみる」

 

それを聞いて愛美は「よしっ」と相づちを打った――。

 

――次の日、三人は早乙女の指示で基地内のSMB用の実験室にゲッターロボを搬入する。無数のチューブに繋がれた縦長上の狭い一室が三つ、そして厚い壁に隔離された場所にある測定場にはすでにニールセン、キングそして各技術者が配置についてスタンバイしている。

マリア含む各作業員綿密な整備点検を受ける間、早乙女からこう指示が出させる。

 

「君達は今から各ゲッターロボに搭乗してゲッター炉心の出力を上げてみてくれ。

最初は君達の機体から、次は横にずれる形、つまり竜斗がルイナス、エミリアがアズレイ、水樹がアルヴァイン……という感じだ」

 

「そ、それで機体の異変が分かるんですか……?」

 

 

「そこまでは分からんが、とりあえず言われた通りにやってくれ」

 

三人は無言で頷く。

 

「あとこれだけは言っておく。

決して手を抜くな、炉心が限界などを考えず、ひたすら高みを目指す一心で限界以上を目指して欲しい。でないと実験の意味が成さなくなる。

私がもういいといった時には出力を下げてくれ、もし止まらない場合は緊急停止回路を作動させるから何の心配するな」

 

ただ三人が各機に乗り込んで出力を制限なく上げていくだけの実験だが、

 

「特に竜斗、君はそれをよく守って行ってくれ、絶対に手を抜くなよ」

 

竜斗にだけ早乙女に妙にしつこく注意される。

まあ元はと言えば自分の原因からこうなっているからと感じるが、この実験に対しても何か引っかかりを感じているが今は言われた通りにやろう、それで原因がはっきりするならと心機一転する。

 

 

――昨日、ゲッターロボに不調があると言われて今からの実験を行うワケだけど、原因が自分のブランクだけじゃないのか。

果たしてこの実験で何が解るのか、それで何か解決する方法が見つかるのか。

僕はそれならとトコトンやってやるという意気込みを持ち、それぞれ各通路を通り、ゲッターロボに乗り込んだ――。

 


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