ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十四話「模擬戦闘」②

「二機とも、メキシコ湾に入りました」

 

「うむ。始まったら二機の動きをモニターで追っていけ、絶対に見失うなよ。あと二人の安全を最優先に注意しろ」

 

「了解」

 

「では見せてもらうか、日本のゲッターロボかイタリアのラクリマ・クリスティ、どちらが上か――」

 

所長のリンク、いや基地内の人間、そしてベルクラスにいる早乙女と愛美は各所のモニターに注目する。今から始まる「日伊」の対決が――。

 

「準備はいいな、小僧」

 

「…………」

 

メキシコ湾上空千メートル付近で竜斗の乗るアルヴァインとポーリーの乗るSMB『ラクリマ・クリスティ』がそれぞれ構えて対面する。

『キリストの涙』という意味を冠するこの黄金色の重装型SMBの性能はいかに。

 

(大盾と槍……近接戦闘に持ち込まれると危ないかもな)

 

竜斗は向こうの見た目と武器からどんな戦法で来るのか想像する――そして。

 

“二機とも、準備はいいか?”

 

「いつでもいいぜっ」

 

「オーケーです」

 

と、二人の承諾を得た時リンクから、「スタート」と模擬戦闘の開始の合図が言い渡された。

 

瞬間、最初に動き出したのはアルヴァイン。操縦テストで見せた高い機動力を持って相手を中心にグルグル飛び回り、攪乱をはかる。

 

(まずは相手の出所を探らなきゃ)

 

飛び回りながらセプティミスαを構えてプラズマ弾を連続で撃ち出す。

 

案の定ラクリマ・クリスティは大盾を前に出してその場で同じく回り始め、プラズマ弾が大盾に当たると掻き消された。

 

攻撃を続けるアルヴァインだが、向こうもこちらの動きに合わせて、且つ堅牢に守りを固めておりプラズマ弾全ては大盾に塞がれる。

 

(守りが固いっ)

 

先が進まないと分かった竜斗はレバーを引き、アルヴァインの動きを止めた。

そこから右臑からブーメランを取り出して、照準をラクリマ・クリスティに付けて全力で投擲した。

 

「ちいっ、こしゃくな」

 

回転するブーメランは軌道を変えて、まるで相手から動きを読ませないかの如くクリマ・クリスティの周りを変則的にグルグル飛び回る。

そして隙を見つけたブーメランは機体の首元目掛けて後部へ向かっていく。

しかしポーリーにそれを読まれており、右手に持つ槍の素早く縦に振り払らわれてブーメランに直撃。そのまま機能停止し海へ落ちていった。

 

「まだまだ先は長いんだ、楽しもうぜ」

 

今度はラクリマ・クリスティの大盾を前に出すと中央が左右にスライドして開き、中から仕切りに入った丸い物体……小型ミサイル弾頭が計九発、一発ずつアルヴァインへ向けて発射した。

 

ミサイルだと分かった竜斗は素早い操作で弾薬を散弾に変更し、変形したライフルをミサイルに向けて何発も撃ち込む。

前方にばらまかれた小さい弾がミサイルに当たり誘爆し前は硝煙で何も見えなくなる。だが、

「もらったあっ!」

 

見上げるとなんと鋭い槍を先を向けて急降下してくるラクリマ・クリスティの姿が。

竜斗はすぐに左レバーを引き込み、機体を翻した瞬間に槍が押し出されて空を突く。

 

「!?」

 

大振りかぶったと思いきや、そのままの大盾をアルヴァインを向け表面上下から金属錐が飛び出る。

 

「盾は立派な鈍器だということを知れっ!」

 

背部のブースターを点火し勢いをつけて体当たりをかました。

 

「ぐっ!」

 

バリアは張られるもそのぶつかった勢いに吹き飛ばされるアルヴァインだがすぐに態勢を整え、左腕プラズマキャノンを突き出し発射する。

しかし、高出力のプラズマ弾をもってしても強固な盾には貫通せずかき消される。

 

ラクリマ・クリスティも同じく右手を突き出すと前腕からビーム・シリンダーのような小型ビーム砲がせり出され、そこからプラズマ弾を連続で放ってくる。

さらに大盾に内蔵型された小型ミサイルで追撃する。

 

アルヴァインはそこから飛び上がり、まるで戦闘機で行うかのような華麗なマニューバで全弾回避していく。

 

「はあっ!」

 

空いた左手で折り畳まれたトマホークを腰から取り出して真っ直ぐ展開するとゲッターエネルギーの刃が背反った斧刃に沿って発振され、そのまま叩き斬るようにラクリマ・クリスティへ急降下していく。

落下に乗り相手の脳天へあとわずかに迫るアルヴァイン。

ラクリマ・クリスティはすかさず大盾を振り上げてトマホークの刃をガードした。そのまま力ずくで盾で振り払いのけぞったアルヴァイン磨けて槍を突き上げた。

鋭利な先端が機体から発したバリアに当たり弾かれる、かと思いきや、

 

「甘いっ!」

 

ポーリーの握る右レバー横にあるボタンをぐっと押し込むとそれに連動して槍にプラズマエネルギーが流れ込み、それを動力として先端の刃部が「ドン」と音で凄まじい力で押し出された。

その瞬発力と勢いに乗ったその刺突専用の鋭利な刃はいとも簡単にバリアを突き破り、それどころかゲッターロボの腹部に深く突き刺さった。

 

 

「なっ!」

 

竜斗は腹に突き刺さった槍をすぐに抜き取ろうとする、だが深く食い込んでなかなか取れない。

 

「まだまだあっ!」

ポーリーはさらに右レバー横のボタンを押した時、槍を通じてゲッターロボ全体が電流した。

 

「わああああっ!!」

 

コックピットにも電気が流れて彼にも感電し、痛々しい悲鳴を上げた――。

 

「リュウトっ!!」

 

「ウソだろっ……竜斗君が……」

 

「…………」

 

基地内から見ていたエミリア、ジェイドとジョージ、そしてジョナサンは彼の苦戦ぶりに心配と不安に満ちた声を上げていた。

(……先ほどから動きが凄くぎこちないし鈍い反応速度、迷いのある行動ばかりだ)

 

改造された高性能のゲッターロボ、そして乗りこなしていた竜斗がここまで追い込まれるとは。

これもあのブランクか、それともこれがポーリーの実力なのか……。

 

「イシカワ、あんたやる気あんの!?真面目にやりなさいよ!!」」

 

ベルクラスの司令室で黙ったままの早乙女の隣で観戦する愛美は彼に痺れを切らしていた。

 

「キング、アルヴァインがイタリア人なんぞにやられとるぞ」

 

「竜斗君が前に見せてくれた反応とは思えないほど劣化しとるな、何かあったのかのう」

 

休憩がてら見ていたニールセン達も何かおかしいと感じ取っていた。

みんなが思うこと、それは本人でも感じていた。

 

(うまく思うようにいかない……)

 

彼自身も今までの調子でないことに薄々と気づいていく。

それどころか日本での戦闘、そしてこの機体での初戦闘時のような凄まじさが全く見られない。

 

思えばエリア51での夜間戦闘でもそうだった……今の彼はジェイドの言うとおり機体に「動かす程度」でついていっているだけだ。

 

(そんな弱気なこと考えるな……今は勝つことに集中だっ!)

 

煩悩を振り払おうと必死な竜斗。腹部に開けられた穴からオイルがまるで血のように垂れ流しているがいっこうに構わず、再びライフルを構えて距離を取るアルヴァイン。

弾薬を榴弾、弾道を曲射に変えて盾を越えるよう角度を合わせて撃ち込む。

弧を描いて飛んでいく弾頭。

しかしラクリマ・クリスティは大盾に機体を寄せて縮こまり弾頭は大盾に当たり破裂、破片は塞がれて機体には何のダメージもない。

 

「くそっ!」

 

彼らしくなく心に余裕がなくなり焦り始める竜斗。

 

「クククッ、あの機動力といいゲッターロボはかなりの高性能機だと聞いたが、全く手応えないな。機体はそうでもやはり所詮パイロットの問題か」

 

ポーリーは勝利を確信し始めている。するとラクリマ・クリスティがブースターを点火し勢いをつけ、槍を振り上げて突進してくる。

アルヴァインは一目散にそこから逃げるもポーリーは逃がすまいとしつこく追ってくる。

弾薬を散弾にして飛び回りながら迎撃するも大盾を前に突き出し無理やりにでも突進してくるラクリマ・クリスティ。

 

「ああもうイライラするっ!石川は一体何してんのよ!」

 

押される彼の姿に悪態をつき始める愛美だった。

 

「マナだったらあんなヤツ相手に簡単にコテンパンにできるのに――」

 

その横で相変わらず無表情のままの早乙女。一体何を思っているのだろうか。

 

「もらったあ!」

 

ラクリマ・クリスティ、アルヴァインと顔を合わした瞬間、兜の中央にあるサファイア色のレンズがまるで太陽のような眩い白色光を発し、カメラアイに直撃させた。

「うわあっ!」

 

光がモニターを通してコックピット内全体を照らして、竜斗の眼にモロに入り彼はレバーから手を離して目を押さえた。

 

「おらあ!」

 

無防備と化したアルヴァインに槍を突き出して、先端を再び突出させて今度は腹部を貫いた――。

ガチガチと固まるアルヴァイン……その姿に竜斗を応援する者達は一気に絶望へと追いやった。

 

「まさかここまで…とは…っ」

 

「ウソだろ……」

 

ジョージとジョナサンは、彼が一方的に押される予想外な展開に唖然となっている。それはエミリアもしかり――。

 

「リュウト……どうしたの一体……っ」

前と比べて弱体化している、彼女から見ても明らかだ――。

 

「ジェイド、竜斗のヤツどうしたんだよ!?」

 

ジョナサンが彼に聞くが彼は何も答えずただモニターを凝視している。

 

「ジェイド、黙ってないでなんとか言えよ!」

 

するとジェイドは固く閉じていた口を開く。

 

「竜斗君は今ブランクに陥ってる」

 

「ブランク……?」

 

その言葉にジョージ以外の全員が初めて耳に入る。

 

「ブランク……リュウトがですか?」

 

「ああ、今の彼は本調子ではない。

しかし、それでも機体の性能で補えるはずだがまさかあそこまで苦戦するとは思わなかった――」

 

 

「なんでリュウトが……?」

 

「色々な悩みもあるが、特に他にとある事情で彼には今、ゲッターロボ自体を信じられないんだ。

だからそれが大きく操縦に出てると思う」

 

と、誰もが初耳な事実を知る。

 

「ゲッターロボが信じられないってどういうことだよ?」

 

「そのままの意味だ。機体を信じられないから考えに迷いばかりでて本来彼にできるはずの的確な行動ができないだ――」

 

「じゃあリュウトは……このままだとどうなるんですか?」

 

「別にここで負けても彼はそれをバネにして立ち上がれればいいが……最悪の場合は挫折したままもう立ち上がれなくなるかもしれん」

と、ジェイドは淡々とそう告げる――。

 

槍をゆっくり引きずりだし、情けかそこから離れて間合いを取るラクリマ・クリスティ。ポーリーは手応えがなく歯痒い表情だ。

 

「け、なんか弱いものいじめになってんな――」

 

 

一方、目が回復した竜斗はヘルメットを被っていても、息を大きく乱して心に余裕がない状況だと分かる。

 

(なんで……前みたいに上手くいかないんだ……)

 

ブランクというこの現実に悔しさから目頭が熱くなり、涙がこみ上げて身震いしていた――。

 


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