ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十四話「模擬戦闘」①

「日本からの援軍がまさかあんなガキ共とはな」

 

基地内の休憩所。ポーリーと他の隊員が竜斗達について嫌みたらしく話している。

 

「日本政府はヤキが回ったのか。あんな自分自身も守れんような細草のようなヤツらを我々に回したなんてな――」

 

「聞く話によると、サオトメ一佐達ゲッターチームは事情があって日本から亡命してきたとな」

 

それを聞いた全員が驚き、そして呆れて開いた口が塞がらない。

 

「じゃああいつらは母国からも見放された野良犬ってことじゃないか」

 

「そんなはぐれ者チームを受け入れるなんざ、ここもかなりのお人好しだな」

 

ポーリーは「ケッ」と吐き捨てるとイスから立ち上がり、一人出て行こうとする。

 

「ポーリー、どうした?」

 

「あんなあいつらが仲間だと絶対に認めん。

俺が如何に自分らが無力かを分からせてやる」

 

「分からせてやるってどうやってっ?」

 

「『公平』な手段でだよ」

 

そういい、ポーリーは飛び出していった。

彼は至るところに竜斗達を探し回る。すると内部の通路で偶然、竜斗が対面で歩いてくるのが分かる。

 

軍服のズボンポケットに手を突っ込みながら歩くポーリーに対し、向こうから歩いてくるのが彼だと分かりすぐに用心、警戒する竜斗。

「よう小僧、確か名前は?」

 

「……石川竜斗です、確かあなたはポーリー中尉でしたよね」

 

「ああ覚えてくれて嬉しいね。ここには慣れたか?」

 

「……来たばかりでまだ何も知りません」

 

気さくそうに話してくるが、竜斗は気を緩めなかった。

何か怪しい、それしか感じられなかった。

 

「おいおい。なにこじんまりと固まってるしてるんだよ、何もしてないだろ」

 

「…………」

 

「あの時のことにまだ根に持っているのか?」

 

「……それよりもエミリアに手を出そうとしたのが許せないんですっ」

 

「エミリア……あのオンナのことか。悪かったって、なあ」

軽々しくそう謝るが、明らかに体格の違うエミリア相手に間違いないなく本気で殴ろうとしていてジョージが助けに入らなかったら一体どうなっていたのか……それに対し、全く謝罪の念を感じられず竜斗は許せるはずなどなかった。

 

「ところでよう、お前たちは俺達連合軍に協力しに来たんだよな。

だがお前達が本当にこれから戦力としと役立つのか俺は信じられねえワケよ」

 

「な、何が言いたいんですか……?」

 

「それで考えたんだが俺と対決しないか?」

 

と、そう提案するポーリーに竜斗は当然「はっ?」となる。

 

「対決と言ってもSMB同士でってことだよ。

ゲッターロボってのはそんなに凄い機体なのか知りたいだけよ」

 

「操縦テストをしたばかりですが、見てなかったんですか?」

 

「見てたさ。確かに凄まじい機動力を持つSMBだ。

だが、たかが機動力だけ凄いなら大したことないさ。

それよりもどんな戦闘能力を持つか知りたいんだ、なあどうだ?」

 

しかし竜斗自身はバカバカしく思う。

そんな理由でもし、最悪どちらかが命を落としたらどうするつもりか。

 

「結構ですっ、もう失礼します」

 

彼はポーリーから去ろうとした時だった、

 

「逃げんのか?それじゃあ俺らにナメられても仕方ねえな。日本から来た助っ人がこんな腰抜けだとは拍子抜けだぜ――」

明らかに挑発してきている。しかし竜斗はそれを無視していこうとする。だが、

 

「確か……エミリアとか言ったなあの女?」

 

彼女の名前が出た途端、竜斗の足は止まり振り向く。

 

「ああいう気の強い女は好きなんでな、ククク」

 

「エミリアに、何をしようというんですか……っ!」

 

「お前がそうやって俺の挑戦を拒むなら俺にも考えがあるってことよ。

ああいう女は無理やり押さえつけて楽しむのにちょうどいいぜ」

 

「中尉、あなたって人は……っ」

 

ポーリーのやろうとしているその残虐非道な行為をすぐ理解した彼は歯ぎしりを立ててぐっと睨みつける。

「別に断ってもいいぜ。ただしその後どうなるか知らねえけどな、ハハハハ!」

 

 

彼は立ち去っていこうとした時だった。

 

「……分かりました。中尉との模擬戦闘を受けて立ちますよっ」

 

エミリアに危険を及ばせたくために、ここは彼の挑戦を受ける決意を聞き、ポーリーはニヤリと不敵な笑みを返す。

 

「そうだ、それでいい。ではその模擬戦闘のルールについて話す。

戦闘場所はメキシコ湾。せっかく俺の挑戦を受けてくれた君に敬意を評して得意そうな空中戦をやろう。制限時間は一時間――」

 

「は、敗北条件は?。ゲッターロボにはバリアがありますが」

「ならそっちはバリアが切れたらでいいさ。

こっちは……そうだな、ダメージ損耗率半分を超えたらにしよう。帰還もあるからな」

 

「……………」

 

「俺が模擬戦闘の許可をとってきてやろう。君は直ちに準備をしておいてくれ」

 

そういい、彼は去っていく――が、

 

「竜斗だったな、一つだけ言っておく。キミも承諾した時点でこの模擬戦闘は成立したということだ、土壇場になって逃げ出すようなことをするんじゃないぞ」

 

「わ、分かってますよ」

 

「なら安心したよ。せいぜい楽しませてくれ。

あと今あった会話については誰にも言うんじゃないぜ、いいな」

 

今度こそ去っていくポーリー。彼の後ろ姿を見て竜斗は疑念と不安が渦巻き複雑な心境だった。

 

まるで自分が勝つと言わんばかりの溢れる自信……そして何を企んでいるんだ、と。

 

一時間後、ポーリーがどうやって丸めこんだか分からないが模擬戦闘の許可をもらえることができ、それが基地内にすぐに広まる。

当然、竜斗の周りにはエミリア達が駆けつける。

 

「リュウト、なんでいきなりあの人と!?」

 

「エミリアは気にしないで、俺とあの人の問題だから」

 

……実際は、断れば彼女が酷い目に合わされかねない。

ポーリー本人はそれが本気かどうかまでは分からないが、しかし竜斗は彼から何かを企んでいるような、その内にあるどす黒いモノを感じ取った。

そしてこの模擬戦闘でも暗雲を感じる――。

 

「本気か竜斗君?」

 

ジェイドが尋ねるとコクっと頷く。

 

「僕は確かにポーリー中尉に挑戦を承諾すると言いましたので、今更やらないわけに行きません。

大丈夫ですよ、ただの模擬戦闘ですから――」

 

そういう彼から並みならぬ重い雰囲気を感じ取るジェイド。

 

「竜斗君、ポーリー中尉は確かに性格に難があるが、操縦に関しては非常に優秀だ。決して油断するんじゃないぞ」

 

「……はいっ!」

 

しかしジェイドも今の彼が例のブランクに陥っていることに、最悪の事態になるのではと不安もある。

「それでは行ってきます、皆は安心して見ていて下さい」

 

「リュウト……気をつけて」

 

「大丈夫、モニターから安心して見てて」

 

竜斗は彼らと別れて基地の入り口前に待機している早乙女のジープへ向かう。

乗り込むと運転席に早乙女、そして助手席に何故か愛美が居座っている。

 

「早く乗れ」

 

後部席に乗る発車し、ベルクラスへ一直線で向かっていく。

 

「イシカワさ、あのポーリーって男に関わらないほうがいいと言ってたわりには一体あったのよ?」

 

「……あの人がゲッターロボの戦闘力を知りたいと言ってきたんだ。

ただ操縦テストで見せた機動力だけじゃ俺達が役立つかどうか分からないからって――」

「ふ~ん。にしてもあの男がそこまでネチネチしつこいだなんて、キモいったらありゃしないわっ」

 

と、彼女はウンザリしているような口振りだ。

 

「まあ竜斗がここで良いとこを見せれば彼ら連合軍も分かってくれるよ。

立ち会わなかったが、聞けばやっぱり各国の隊員からナメられたんだって?」

 

「はい……」

 

「気にするなよ。君達は元々ゲッターロボを操縦だけするという契約でここまで来たんだから。

竜斗、ゲッターチームの誇りにかけてゲッターロボの力、そして君の培った成果を思う存分見せてやれよ」

 

と、早乙女はエールを送った。

 

ベルクラスに到着したジープはすぐさま格納庫へ車ごと入れ。竜斗は降りると更衣室に向かいパイロットスーツに着替え、アルヴァインに乗り込みシステム起動する。

(……少佐から俺がブランクだと言われたけど……今はそんなことよりやるしかないんだ)

 

その言葉が竜斗の抱える不安の一因なのは事実であった――。

 

“竜斗、準備はいいか?”

 

「はい、いつでも――」

 

“よし。ポーリー中尉の乗るSMBについて少し調べたが、機体の名は『ラクリマ・クリスティ』、アルヴァインと似て地、空戦及び近、中射程攻撃を得意とする機体だそうだ。

ゲッターロボより性能は高いとは思えんが、だからと言って決して油断するなよ”

 

「了解。司令、あの……」

 

“どうした?”

 

「……もし、僕がブランクだとしたらどう思います?」

 

“……ブランク?君がか?”

 

竜斗はジェイドから言われたことを話す――。

 

“君がブランクか……確かにあり得る話だ。

確かに少佐の言うとおり、解決するには自分自身が乗り越えねばならんことだ。すまないが私からはどうすることもできん”

 

「……そうですよね、すみませんでした」

 

謝る竜斗に早乙女は、

 

“なぜ君が私に謝る必要があるんだ?君にはそういう他人行事な部分を持つが、それも原因の一つかもしれんな”

 

「…………」

 

“いつも言っているだろう。何事も強気でいけ、君も男なんだから貪欲にとな。正直に言うが、君はゲッターロボの操縦については才能はあれど、実力は水樹のほうが確実に上を行っている。

それは彼女自身のポテンシャルもあるが、同時にそれを持ちあわせているからだ。

彼女の性格は戦闘に関しては必要不可欠且つ伸びる要素だからな”

 

と、彼にはまだそういう弱味の部分を持っていると早乙女から指摘される竜斗。

 

“君と出会った時にも言ったが、そういう部分がせっかくの才能を殺してしまうことになる。まあこれ以上は君の戦意を無くすことになりかねんから今はもう言わないがどうする、もし不安でしょうがないなら中止するか?”

 

「い、いえ。大丈夫です」

 

“では今は勝つことに集中しろ、わかったな”

 

「了解っ」

 

――そして機体の乗るテーブルがカタパルトへ移動し、外部ハッチが開く。

 

「アルヴァイン、石川竜斗発進しますっ」

 

外に飛び出したアルヴァインは普段通りセプティミスαを携行して遥か空中へ上がっていく。

 

レーダーを見ると一つの反応が高度六百メートル付近に留まっている。

その場所へ飛翔すると、そこには全身眩いほどの黄金色のマッシヴな体型の機体が、背部にあるゲッターウイングのような滑空翼付きユニットのブースターを吹かしながら滞空し、待ちわびている。

左手には身体がスッポリ入るほどの六角形の大盾(スクトゥム)、右手には身の丈ある長い柄の先には錐形の突起物……すなわち槍のような武器を携行し、頭には兜のような装飾を取り付けた、まるで古代の重装歩兵のような姿のSMBである。

 

(なんだこのSMB……)

 

その時、竜斗の元に通信を受信し、開くと画面に現れたのはあの男ポーリーだった。

 

“よお、よく逃げずに来たな。その勇気だけでも高く評価するぜ”

 

「…………」

 

“では、行こうか。俺達のバトルステージへ――”

 

そう言い、二機は揃って基地を南下し、メキシコ湾上空へ飛び込んでいった。

 


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