ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十三話「連合軍」③

――次の日の午前中。司令から許可をもらい、僕は昨日少佐の言っていた通りにアルヴァインの再度操縦テストした。

 

もう何回もやっているが少佐は一体何を見たいのか、それが分からない。

しかし、ここは各国の人達に僕達でもパイロットとして役立てることが少しでも理解してもらえればと、僕は張り切って操縦した――。

 

 

それをモニター越しで見る各パイロットはその独特の日本独特である『鬼』の姿と、ニールセン達によって極限にまで高められた高機動性を見せつけられて驚愕と歓喜の声が上がっていた――最も、含む快く思わない何人かは「ケッ」と吐き捨てているが。

 

「…………」

ジェイドは腕組みしながらこつ然とした態度で見ている。

 

何か模索しているような表情だ。するとそこにジョージがやってくる。

 

「流石は竜斗君だな。聞けばあの新しいゲッターロボは博士達が好き勝手に改造したらしいがちゃんと機体に追従してる」

 

「……いや、おかしい」

 

と、彼の称賛を払いのけるジェイド。

 

「どういうことだ?」

 

「エリア51での戦闘でも感じたが、ぎこちないし辛うじてついて行っている気がする」

 

「つまり――?」

 

「北海道の戦闘時に比べて操縦の腕が落ちているような気がするんだ」

 

「そうか?そういう風に見えないけどな」

 

「……俺は好きで長年飛行機乗りをしてきたから挙動を見ただけでも大体分かる。緊張もあるかもしれないが――」

 

と、冷静且つ客観的にそう答える。

 

「お前がそう言うなら確かかもしれないが、原因は?」

 

 

「俺が思うに彼自身の精神的な何かが関わってると思う」

 

「…………」

 

「まあ憶測に過ぎんがな。とりあえずこの後でこれまでに何があったか聞く必要がありそうだ――」

 

操縦テストが終わり、私服に着替えた竜斗はジェイドから「二人きりにしてほしい」と言われてついてきたエミリア、愛美と別れて二人は基地外にある滑走路外の端にある自販機付きの休憩所に行く。

 

「ここからだと飛行機の飛ぶ過程と姿がよく見れるんだよ、私のお気に入りの場所だ」

 

 

彼から紙コップに入った甘いコーヒーを奢ってもらい、渡されると笑顔で『センキュー』と答える。

 

ソファーに座る竜斗と、飛行機が飛んでいく光景を窓からずっと眺めているジェイド。

 

「少佐、どうでしたか僕の操縦――」

 

「それについて君に聞きたいことがある」

 

「え……?」

 

彼も買ったブラックコーヒーを啜る。

 

「正直に言おう。はっきりいって君の操縦の腕は日本の時と比べて落ちている」

 

その言葉は竜斗の心にまるで尖った太い杭が深く突き刺さったような衝撃と痛みが走った。

「……僕の腕が……落ちている……っ?」

 

「エリア51での戦闘時で君の乗るゲッターロボの様子を、闘いながら見ていてそう感じていた。

機体が強化されたことに対することもあるかもしれないが、それにしてもついていっているのがやっとにも感じるくらいにぎこちないし違和感を感じる。つまり日本の時みたいに見てて納得できないのはなぜだ?」

 

「……そ、それは……」

 

本人ですら気づかなかったのにその理由など分かるはずもなく彼は口ごもってしまう。

 

「私にはその原因について、竜斗君の精神面が大きく関わってるんじゃないかと思うんだが?」

 

「…………」

 

「思い出させて悪いがあの北海道で敵基地内での悲劇を引きずっているのかもしれないし、もしかしたら別の原因があるのかもしれない――そこで君に聞きたい、北海道の戦闘から今に至るまでに何か心に残る出来事があったか?」

 

 

 

しかしそう言われると彼には色々と思い当たる節が沢山あるのである。

確かに北海道で両親や友達をいっぺんに失ったこと、そしてここへ来てから爬虫人類の少女、ゴーラと接触したこと、エミリアとの関係――そして彼にとって一番の疑惑が、アルヴァインになってから乗り込むと自分に不可解な現象が起き続け、ゲッターロボという存在が信じられなくなってきていることだ。

ジェイドに自分に解ることを正直に告げる。

 

「……色々あったんだな、君は」

 

数々の出来事を聞いて驚いている。

 

「恐らくそれらによる精神的な負荷もあるが、ゲッターロボを疑っていることが最大の原因かもな。飛行機乗りでもそれで本人の操縦に大きく現れるからな」

「…………」

 

「にしてもゲッターロボからそんな不可解な現象が起きるとは到底信じられないが、君が嘘ついているとも思えないし。

だが、ゲッターロボに乗っていてそんな現象が起きるなら、確かに疑う気持ちが芽生えるのはわかる」

 

「ゲッター線が僕達人類に進化を促したとも聞きましたが……もう一体何なのか、不気味としか思えません」

 

ゲッターロボに秘める謎の現象と力……二人は共通して頭を悩ませる。

 

「少佐、腕が落ちているなら僕は一体これからどうなるんですか……?」

 

「……機体には一応ついていってるが腕が落ちているということは単純に、それだけ戦場での生存率が下がると言うことだ。

今まではなんとか生き残ってこれたが、これからはどうなるか分からん。

それに仲間達の足を引っ張り迷惑をかけることにも繋がり敗北につながる原因にもなる」

 

「そんな……っ」

 

いきなり身も蓋もないことを言われて、絶望に味わう竜斗だった。

 

「……ではどうすればいいんでしょうか――」

 

「悪いがそればかりは私にはどうすることもできん。

つまり、君自身で解決するしかない」

 

「…………」

 

「君は今、ブランクに入ってることになる。

それは君の精神的な面、特にゲッターロボに対する疑心が大きく関わってると思う。

一度疑う気持ちを持つと振り払うのは困難だ」

 

「…………」

 

「だが私も何とかしてあげたいから協力はする。

ブランクというものは誰にでも有りうる、現に私だって理由は違うが一時的にブランクに陥った時はあるからな」

 

「……少佐がブランクに?」

 

「ああ。自分はいつもの調子なのに定期的に行うテストで今までより遥かに結果が落ちてきて本当に焦った。

もしかしたらブラック・インパルス隊から外されかねないとな。

私は凄く悩んで考えた、朝、昼、夜問わず苦しむ悩んだ、仲間にも聞いたりした――そして行き着いた答えが自分は慣れすぎたことで心のどこかに隙がたくさん出来ていたことが原因だと。

それから心機一転して自分は誰よりも劣る、だからこそ最初からもう一度鍛え直すと決めて何事も全力で取り込んだ。

するといつの間にか今までの本調子に戻っていたと言うわけだ。

……というわけで結局、自身がどう乗り越えるかどうかにかかっている。

竜斗君の場合はもう原因は分かっているようだから後はそれをどうにかするだけだと思う、私より断然楽な方だよ」

「はあ…………」

 

しかしながら、いきなりそんなことを言われたので意気消沈する竜斗。

 

「……少佐達はなんで僕らにここまで気をかけてくれるんですか?」

 

「竜斗君?」

 

「僕達は確かにここではゲッターロボを動かすことしか出来ません。

現に北海道でも基地内では少佐達と違い、銃を持てずについていくだけの足手まといになっていたの事実ですから、そんな僕らはきちんと訓練を受けている正規軍人のポーリー中尉や他の人達にナメられても文句は言えないです。そんな僕らをどうしてここまで――」

 

そう質問されたジェイドは言うのが照れくさいのか頭をポリポリかいた。

 

「まあ何というか、私達は一度バディを組んだ者同士だし、私自身は君の操縦技量と才能を高く評価してる。

だからこそブランクを越えられず、挫折したまま埋もれてほしくないから何とかしてあげたいんだ」

 

「少佐……」

 

ジェイドは一息つきこう話した。

 

「しかしなんだ、私達は似ている点が多いような気がして放っておけないんだ。君はもしかしてイジメとか遭わなかったか?」

 

「え……?」

 

見事当てられてドキッとなる竜斗。

 

「その顔を見ると当たっているようだ。実は私も子供の頃はイジメられっ子だったからな」

 

「え……少佐が……」

今の彼から到底思えない事実を聞かされて唖然となる。

 

「周りが白人がほとんどの環境で育ったからな、『黒人』てだけでイジメられたよ。

あと、その頃の私は気が小さかったから余計にな――」

 

人種差別。自分のより重い理由でイジメを受けていたことを知り竜斗はショックを受けた。

 

「竜斗君を見てると結構自分と共通する部分を感じるんだよ。

私達だけではない、ジョージとエミリア君、ジョナサンとマナミ君、互いの共通点が凄く似て通ってる部分が多く感じないか?」

 

確かにそう言われるとそうかもしれない。ジョージについては分からないがジョナサンはまさに男版の愛美である。

 

「ジョージ少佐はどうか分からないんですがそんなにエミリアと似ているんですか?」

 

「ああ。あいつは基本的に誰にも差別しない優しさと正義感を持つし、あと誰もが認める努力家だ。

ブラック・インパルス隊の中ではジョージはお世辞にもセンスはないが、それを補うくらいの尋常じゃない努力でここまで上り詰めた男だしな。

一方でジョナサンは未知なる、そして天性の才能を持っていてSMBの操縦技量いや、あいつの秘めたポテンシャルは私はおろか、隊内では間違いなくダントツだと思う」

 

「ではあなたは?」

 

「私は……他人からは冷静沈着で要領がいいとは言われたことがあるがな――本当かどうかはわからんが」

 

 

もしかしたらジェイド達は自分達の鏡の存在で、例えるなら竜斗達ゲッターチームをアメリカ人で置き換えたのが彼らとも言えるかもしれない、竜斗は「ああ、なるほどな」と妙な納得をする。

「……少佐はなんで軍隊に入ろうとしたんですか?」

 

竜斗はそう質問すると彼は残りのコーヒーを飲み干して、窓から空を眺める。

 

「私は小さい頃から空に憧れていた。鳥のように大空を自由に飛びたいと……いつも思い描いていたよ。

さっきも言ったが私は内向的だったからいつも家で本を読んでた、それも鳥や飛行機に関するものばかりな。

その内、私は本気で飛行機乗りになりたいと思うようになった。

 

だから私はその夢を叶えるために学生時代は勉強、そしてスポーツを頑張った。その過程でやはり人種差別とか色々と苦難があったけど、

 

『絶対にパイロットになる』

これをモチベーションにして一心に励んできたらいつのまにか内向的な性格がなくなっていてな――私は最初民間機のパイロットになりたいと思っていたが、その頃にちょうど軍からスカウトがあってね。

いっぱい稼げるし、君のその屈強で卓越した身体能力を生かしたいなら是非と――確かにその気持ちは十分にあったから軍隊に入ったんだ」

 

「…………」

 

「それで私は空軍パイロットを目指して入り、様々なテストや訓練を受けて――そして今に至るということだ。

軍に入隊して本当によかったと思うよ。ここは人種差別はない実力主義だし、何より念願の飛行機乗りになれたんだからな」

 

イジメられっ子が何らからきっかけや夢を持ち、それを励みにする。

もう亡き黒田の入隊動機に色々似ていることに気づき、軍隊で頑張る人の考えがどこか共通しているんだなと彼は感心する。

 

「それで君は何か夢を持つのか?」

 

「僕ですか……いや特には……戦争が終わったら普通な生活がしたいっていうぐらいで……」

 

「それでいいんだよ。今はこんな人類存亡に関わる、戦火が渦巻く世の中なんだから普通の生活をしたいのは世界中で誰もが願うことなんだからそれが夢で十分さ。

『君は普通の生活をしたい、この夢を叶えるために戦争を終わらせるよう一心に励む』

 

これでいいじゃないか。違うか?」

 

「……確かにその通りです、なるほどっ」

たとえ小さなこともようは考えようだと改めて実感する。

 

「私だってこんな血なまぐさい戦争を早く終わらせて妻や息子にいっぱい家族サービスしてやりたいと思ってる」

 

「なるほど、奥さん……てっ?」

 

瞬間、彼は「エエッ!」と驚きの大声を上げジェイドもビクッとなる。

 

「しょ、少佐ってもしかして結婚してるんですか?」

 

「ああ、教えてなかったが私は妻子持ちだ」

 

 

懐からスマートフォンを取り出して、画面に映る家族の画像を出して竜斗に見せる。

 

「妻のアマンダと息子のロイだ、今年で四歳になる」

 

パーマのかかった黒人女性の隣に可愛らしい顔の幼児を抱きかかえる彼の姿を見て、家庭ではちゃんとジェイドもパパをやっているんだなと竜斗は和む。

 

「いつでもすぐ出撃できるように長らく基地で寝泊まりしていてマイホームには帰られないんだ、だが毎日のように向こうに電話をしていて息子の声も聞いてる――家族っていいよ、守るべきかけがえのない大切なものだからそれすらも自分の励みになる」

 

「…………」

 

「聞くところによると竜斗君はエミリア君と出来てるときいたが?」

 

彼は照れで顔が真っ赤になる。

 

「はあ……大好きです……向こうも同じみたいです……」

 

「相思相愛か。てことは日本人とアメリカ人の国際カップルになると言うわけか――」

 

するとジェイドは竜斗の元へ行き、胸に握り拳の押し付ける。

 

 

「ブランクの乗り越えにしても、恋にしても悔いのないように全力で頑張れよ。私は君ならと大丈夫だと強く感じる。

私達も出来るだけのことは協力する、だから何があってもめげるんじゃないぞっ」

 

「はいっ、これからもよろしくお願いします少佐っ!」

 

二人は互いに強く握手し、これからも一緒に戦う仲間、そしてバディだと誓い合った――。

 


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