ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十三話「連合軍」②

次の日。作業服姿の早乙女とマリアは基地で働く、これから世話になるであろう各国エンジニア達に挨拶を交わす。

 

「よろしくお願いします。サオトメと助手のマリアです」

 

「こちらこそっ、ニールセン博士の弟子と言うことで期待してますよ」

 

「お役に立てるかどうかわかりませんが」

 

連合軍だけあってアメリカ人だけでなく、イギリス人やドイツ人、フランス人などの欧州人のエンジニアも沢山いる。

 

「おや、マリア君じゃないかっ?」

 

一人のイギリス人技術者がマリアに声を掛けると彼女を誰なのかがすぐに分かる

 

「オーリック技官ではありませんか、お久しぶりですっ!」

 

「まさかとは思ったが、やはり君だったか」

 

互いに嬉しそうに握手をする。

 

「この方は私のイギリス軍時代の上官だった人です」

 

「そうだったのか。よろしくお願いします、日本から来た早乙女です」

 

「こちらこそ。突然と除隊して一人日本へ飛んだマリア君が心配でならなかったのですが元気そうでよかった。どうですか、マリア君は役立ってますか?」

 

「それどころか彼女なしではとてもじゃなくやりくり出来ませんでしたよ。

本当に彼女の力は私にとって必要不可欠です」

 

「それは嬉しい限りです――これからも彼女をよろしくお願いしますよ」

 

――自己紹介を切り上げて、解散させる。

そして各作業に移るためにキングと別れてニールセンに連れられていく二人――目の前にあるその巨大戦艦を壮観する。

 

「いまさらながら、テキサス州の端の地下にこんな巨大戦艦を建造していたなんて……」

 

「ホッホッホ、タートルに唯一対抗できるように我々の技術の粋を集めた艦じゃからな。

海に近いから冷却水として活用できるし、何よりここは目立たないから極秘にしやすい利点があるからな」

 

「博士達アングロサクソン系は本当にこういうスケールの大きいモノを作りたがりますね」

 

「そういうお前もワシと同じ血を持つのだから共感できるものを持つハズだ」

 

「…………」

 

黙り込む早乙女に、なにも知らないマリアは不思議がる。

 

「司令、同じ血とは?」

 

「……私達は唯一の師弟として思想が共通している暗喩だよ」

 

「なるほど……」

 

と適当にごまかす早乙女だった――。

 

「博士、私達はこんな巨大戦艦の何を担当すればよろしいのですか?」

 

「この艦の建造はほとんど終わっていてな。

マリア君もいることだし二人には艦の各システム系統の設定作業、補備をお願いしたい。

当然技術的な訓練勉強も兼ねてワシ達が呼んだりするからすぐにこちらへ来てくれ、色んなレッスンしてやるから」

「了解です」

 

「まあ気楽にやれ、楽しくやらなければ何事も上手くいかんからな。

ここの皆には『来るもの決して拒まず』をたたき込んでおるから何か分からないことがあれば積極的に聞いてくれ、親身になって教えてくれるじゃろう――」

 

その頃、自衛隊の正装に着替えた竜斗とエミリア、そして復活した愛美はジェイド達と共に、これから一緒に共同作戦を取ることになる連合軍のパイロットと顔合わせのために彼らの集まる広場へ向かった。

 

三人はとても緊張している、なぜならこんな自分達を受け入れてくれるかどうかの心配だ。

 

「……少佐、あの」

 

エミリアがジョージにボソッと訪ねる。

「どうした?」

 

「連合軍のパイロットってどういう人達なんですか?」

 

「まあ、良いも悪くも個性的な軍人だよ」

 

そう答えるジョージ。

 

「エミリア、怖いの?」

愛美が気をかけると彼女はコクッと頷く。

 

「うん、だって昨日変な目で見られてたし」

 

「そんな弱腰じゃもっとナメられるわよ、マナみたいに胸張りなさいよ」

 

「うん…………」

 

見る限りでは肝が座っている愛美だが……。

 

「心配しなくても大丈夫だよ。それに俺達もいるしいくらかは安心だろ」

 

と軽くそう言うジョナサン。その余所でジェイドは竜斗に声を掛ける。

「なあ竜斗君」

 

「はい、どうしましたか?」

 

「サオトメ一佐から許可が取れたらでいいが、新しいゲッターロボに乗って再度飛行テストしてくれないか?」

 

「いいですけど、どうしました?」

 

「気になることがあってね――まあその時になってからだ」

 

「?」

 

そう頼まれる彼は一体何の意味なのか分からず頭を傾げる。

 

「さて、そろそろ彼らと対面だ」

 

彼らの向かった先は会議などが行われる多目的フロア。

そこには多くの人種、男女の混ざる、彼ら連合軍のSMBパイロット達がずらずら立ち並んでいる。

 

全員が入り口へ振り向き互いに顔を合わせる。

 

 

「各員聞いてくれ、彼らが日本から我々に協力するために来てくれたゲッターロボのパイロット達、ゲッターチームだ。

来て分からないことだらけだからよく接してやってくれ」

ジェイドが声を張り上げて彼らを紹介してくれる。

 

――僕達は今、おそらくただの高校生では絶対に成し得ないことに直面している。

これから世界中から集められたよりすぐりのパイロット達と共同作戦をとるのだ、はっきり言って不安以外何事もなかった。

エミリアやジョナサン大尉と同じ白人の多いEU連合勢はジェイド少佐と同じくらいな体格ばかりでそして僕らを見て、何のつもりかその癖のありそうな顔でヘラヘラ笑っているのが多い。

そして少なからず女性もいる。マリアさんのように白い肌でサラサラなショートカット髪、その紺碧眼は僕らを寒気を負わせるような冷たい眼で見据えている――僕が感じたことは彼らとはコトが上手く行かなさそうだ、と――。

 

「ジェイド、こんなケツの白い坊や達を連れてきて冗談がキツいぜ」

 

「怖くなったらママのミルク飲みに行けよ~っ!」

 

周囲に男性隊員達の嘲り笑う声が響く――自分達はナメられていると三人はすぐに実感する。

 

「確かに私達のような正規で入った軍人ではないが操縦の腕は確かだ、現にこれまで激戦地に赴き、見事に勝ち生き抜いている」

 

「へぇ、信じられねえけどな――」

 

 

 

「だがSMBの操縦ができても各人生身での戦闘はどうなんだ?

こんなひ弱そうな身体で何かあった時に対処できんのかい?」

 

「彼らはそういう風に鍛えられてもなければ訓練もしていない。ゲッターロボのパイロット専属だ――それを分かってくれ」

 

それを聞いてまるで辟易するような表情を取る各人。まあ確かに自分達はちゃんと訓練を受けた生粋の軍人だからそう言うのは出来て当たり前、むしろ竜斗達は異例すぎるのだ。

 

「とりあえず互いに友好の握手だ」

 

互いにそれぞれ握手はすれど、あまり快くなさそうな態度ばかりである。その時、

 

「うわっ!」

ひとりの男性隊員が横を通った竜斗に故意に足を引っ掛けて前めりに倒れさせた。

 

「リュウトっ!」

 

ヘラヘラ笑っているばかりで謝りもしないその隊員にエミリアはムッとなってドカドカと入りこみ男性隊員に突っかかる。

 

「アタシ達が気に食わないならはっきり言ってくださいよ、そんな陰険なことして楽しいのかしらっ!?」

 

「なんだと……っ?」

 

――この場は緊迫した空気が漂う。二人怒のこもった真っ赤な顔で互いの主張を譲らない口論を始めた――。

 

「リュウトに謝りなさいよ、ほら今すぐに!

大人のくせにそんなことも出来ないのっ!?」

 

 

「このアマッ!!」

 

癪に障られたその男からの全力の右手を振り上げて殴りかかろうとした。

すると、ジョージがとっさに入り込み男性の手を掴み止める。

 

 

「ポーリー中尉、彼女に手を出して問題を起こすつもりか」

 

「ジョージ……てめえっ」

 

「さっきのは間違いなくお前の仕業だろ、彼に謝れ――」

 

凄い形相で睨むジョージから凄まじい威圧感を感じる。しかしポーリーは謝る素振りを見せるどころか彼の手を振り払い、この場から去っていった。

竜斗はゆっくり立ち上がり服の汚れを払っているとエミリアがすぐに駆けつける。

 

「大丈夫リュウト?」

 

「ありがとうエミリア。こんなの平気だよ。だけどあの人は……」

 

「ポーリー=ヒルズ中尉、イタリア軍所属のSMBパイロットだよ」

 

と、ジョージがそう答える。

 

「気をつけろ、アイツはカッとなるとすぐに手の出る男だ。危なかったなエミリア君」

 

「ありがとうございます少佐っ」

 

「ここにいる全員、慣れない者同士だがどうか互いを理解して仲良くなるようにな」

 

その後、各隊で解散し自由時間になると何だかんだで色んな人が竜斗達に会話を持ちかける――その中の一人が、頭のてっぺんはすでに枯れており、周りの黒髪薄くなっている中年男性。

しかし優顔でまるで父親のような雰囲気を持つドイツ軍所属のリーゲンだ。

 

「よろしく頼むゲッターチーム、私はリーゲン=ヘルマン。ドイツ軍所属のパイロットだ」

 

それを聞いて、ドイツ人の血を持っている彼女、エミリアは目を輝かせた。

 

「ワオっ、アタシのお父さんもドイツ人でフランクフルト出身なんです、あなたは?」

 

「おおホントか!私はミュンヘンだ、よろしくなっ」

 

ドイツ人の血を持つ同士で盛り上がる中、愛美は先ほどの女性隊員に声をかけられる。

 

「アナタかわいいわねっ♪」

 

「な、なによ……」

女同士なのに、まるで先ほどとは打ってかわりときめくような瞳で見つめるこの女性……。

 

「フフッ、私はフランス軍所属のルネ。日本の女の子ってこんな可愛いんだ……あとであたしの部屋に来てイイことしない?」

 

「ひいっ!」

 

色目じかけで詰め寄りなんと頬に何度もキスをしてくるルネに流石の愛美もドン引きし怯える。

 

「おい少尉、マナミはアンタの趣味に合わないんだ。それに先客がいるんだ!」

 

ジョナサンは自分に指差すとルネは「フン」とふてくされる。

 

「ジョナサン、まさかこのヒト……」

 

「まさにそう」

 

「さすがにマナはオンナとエッチしたくないわ……」

 

レズビアン……彼女がいわゆる同性愛者ということがわかり、更に震え上がる男好きの愛美。

 

「男よりあたしがいいことを教えてあげるわ、気が変わったら来てよねっ」

 

そう、堂々と言い告げた――。

 

「石川竜斗です、よろしくお願いします…………」

 

「……イギリス軍所属のアレン=フェルドだ、よろしく頼む」

 

竜斗と目の前に対面する、ジェイド以上でまるでプロレスラーのような筋肉隆々で剃り上げたブロンド短髪、そして見るものを震えさせるような強面の男性隊員に挨拶するが凄く無愛想で且つ口数が少なく会話が続かない――握手もするが手の大きさはかなり差があり彼、アレンから見ると竜斗が完全の子供にしか見えなかった。

しかし寡黙だが何となく優しそうな雰囲気を持つ人だ、と竜斗は感じていた。

 

―今日はとりあえず、各人の顔見せと交流で一日が終わった。

中には、あのポーリー中尉のようにやはり僕達に対して快く思わない人もいたが親切に接してくれる人がほとんどで僕らはそれで不安感がほとんどなくなった。

そして英語で話せる人達ばかりで助かったが、そもそも僕達が英語を喋れなかったら実際は交流は大変なことになってただろう――エミリアや他に英語を教えてくれた人達に本当に感謝した。

 

それにしても、僕に足を引っ掛けて、そしてエミリアにも手を出そうとしたあのポーリー中尉がどうも引っかかる。これから何かイヤなことが起こらなければいいんだが――。

 

 

その夜、三人はエミリアの部屋に集まり英語の勉強をしている最中、今日あったことについて話題になっていた。

「にして今日はいろいろあったね」

 

「不安だったけどほとんどの人達が優しくしてくれて楽しかったわ」

 

「マナ、ルネってフランス軍のレズの人からいきなりキスされて誘われたの……キモチワルイ」

 

愛美は分かりやすく本当に嫌な顔をしている。

 

「エミリアももしかしたら気をつけたほうがいいよ」

 

「うん……」

 

「イシカワ、アンタも気をつけたら?軍隊はゲイが多いってジョナサンから聞いたからあんたみたいな童顔のかわいい男は常に注意していないと掘られるかもよ?」

 

「…………」

 

「けど世界の人達ってホント十人十色ね、個性的な人達ばかり――」

 

「……けど、あのポーリーって人が凄く危なそうに感じる。キレると手が出るらしいし」

 

「確かにムカっときて対抗したけど……けど少佐が助けに入らなかったらアタシ、どうなってたことやら……っ」

 

エミリアは恐怖からか身震いしし、怯えているように見える。

 

「正論言われてカッとなって手を出す男はマジサイテー、マナはあんな性格の男とは付き合いたくないね絶対」

 

「……なんかあまり関わらない方がいいのかも。まあ、これからはあの人には気をつけような」

 

しかしポーリーに限らず他にも竜斗達に対してナメた、見下した態度を持つ隊員もいる、そんな彼らと分かり合えるかどうか分からないがそれでもここにいる以上は協力するしかない、例え気にくわない同士でも。

それが社会における人間の折り合いと言うものだ――。

 


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