……それから約二週間後。
片付け、修理、大体の作業を終わらせ、ここからはニールセンとキングを連れてベルクラスはテキサス州へ移動することになった。
今度は早乙女がニールセンの約束を果たすために、そして連合軍と合流するためである。
「短い間でしたが、ありがとうございます」
「いえいえ、と言っても何もしてやれませんでしたがこれからの幸運を祈っております」
所長のメリオに挨拶し、ベルクラスはここから飛び立っていく――竜斗とエミリアの二人は休憩フロアに設置された外部の下方モニターを見ながらしみじみと感傷に浸っている。
「数ヶ月間、あっと言う間だったね」
「うん。新しいゲッターロボを乗りこなしたり、物凄い数のメカザウルスの襲来があったり色々大変だったけど離れるのが寂しいね」
二人共、再びメカザウルスから襲われないことを祈っていた。
「あれ、水樹は?」
「気分が悪いからって、部屋で寝込んでるよ」
おそらくはメカザウルスの片付け、処理に関係しているだろう、竜斗はすでに分かっていた。
「……しょうがないよ。人員不足で仕方ないとはいえあんな汚れ仕事をやらされたんだから。
俺も作業中気持ち悪くなったし、いや一緒に作業した人たちも同じだったと思うよ」
「ミズキは爬虫類が苦手なのによく頑張ったと思うよ。下手したらトラウマになりかねないよね……アタシだけ無事な所にいてなんか申し訳ないよ……」
「お前のは機体を動かせる状態じゃなかったんだから仕方ないって。寧ろちゃんと役立とうと仕事見つけたのは素晴らしいことだろ」
「うん……あんな大量にごはん作るのは初めてだったから、洗い物とかで筋肉痛になったよ――」
二人は同時に疲れからのため息をついた。
「さて――」
早乙女とマリア、そしてニールセンとキングの四人は艦橋にてこれからのことを話し合っていた。
「次はお前の番じゃぞサオトメ」
「ええっ、分かっております。しかし私の約束があることも忘れないで下さいね」
「分かっとるわい、嫌みたらしいヤツめ……」
あの一件で二人の関係がはっきりしたのにも関わらず相変わらずの態度で接する早乙女とニールセン。
「博士、連合軍とは現在どこの国が集まっているのでしょうか?」
「アメリカ軍に加えて、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアのEU勢の連合軍だ。
もしかしたらマリア君の知り合いがいるかも知れないぞ」
「まあ一癖二癖ある連中ばかりじゃが仲良くやってくれ」
「…………」
マリアは何故か黙り込んでしまう。
「どうしたマリア?」
「いや……あの子達が無事に彼らと上手くやっていけるかどうか……三人とも正規の軍人じゃないです、一応ただの高校生ですからね」
「まあ、三人とも華奢で且つ社会を知らないような甘い顔だからのう……間違いなくナメられるか突っかかるヤツはいるだろうな。
だが大丈夫じゃろう、ジェイド達もいるし向こうもれっきとした大人だからな」
「それなら安心なんですが」
それでもまだ心配するマリアに早乙女は彼女の肩に手を置く。
「信じようじゃないか、あの子達を。それに何かあればそれを守ってやるのも私達だ」
「司令……」
「さて、もう到着するか。全員降りて顔見せするぞい」
「着陸場所は?」
「すでに向こうと連絡して受け入れ態勢に入っておるから心配するな」
「さすが博士、用意周到ですね」
「当たり前だ」
「まあこいつは遅漏だがな」
「黙れ早漏っ」
キングとニールセンでいがみ合っているその横で辟易するマリアと相変わらず忽然としている早乙女だった……。
アメリカ南中部に位置するテキサス州、メキシコ湾沿いにあるガルベストン付近に近づくと、アメリカに到着した時のように数機の戦闘機形態と化したマウラーが出向き案内をしてくれる。
ついていった場所には沿岸近くの場所に、連合軍の基地と思われるエリア51以上の広さを持つ巨大なポートのある軍事施設へ到着する。
そこの専用ポートにベルクラスをゆっくりと着陸させると施設から迎えの車両が数台向かってくる。
「では、全員降りるかのう――」
部屋で寝込む愛美以外の全員は合流し、艦から地上に降りると車両から護衛の隊員達と基地の所長と思われる正装の軍服を着た男性が彼らの元に現れる。
「あなた方が例のサオトメ一佐率いるゲッターチームですね、お待ちしておりました。
ようこそ遠い日本から遥々と、私はこの基地を任されているリンクと申します」
「こちらこそよろしくお願いします」
早乙女のみならず全員が彼に握手を交わす。
「おや、ゲッターチームは三人いると聞きましたが?」
「もう一人の子は、気分が優れないので自室で休ませてます」
「そうですか。ニールセン博士にキング博士、お久しぶりです。最近ネバダのエリア51で大量のメカザウルスから強襲にあったそうで――」
「ああっおかげで酷い目にあったがな。わしらの留守中に何かあったか?」
「いえ特には。ここではなんです、続きは施設内へ」
そして彼らは車両に乗り込んで施設内に向かう。海沿いに近いのか微かな潮の匂いがする。
そして渓谷などに囲まれて悪条件な場所にあったエリア51と比べてかなり平地でオープンな場所にあるため爽やかな開放感があり雰囲気が正反対だ。
周りには補給倉庫や武器庫、整備工場、SMBや車両の格納庫様々な施設が設置されており、そして数多くの隊員や軍事車両が行き交うこの地帯は、竜斗達にとって朝霞以上の広さを持つ駐屯地と思えた。
そしてしばらく行くと再びエリア51のような地下施設内への入口がありそこに各車両が入っていく。
十メートル、五十メートル、百メートルいや千メートル以上の遥か地下へ降りていくとやって車両の駐車場に到着し各車両をぴったりと止めると全員が降り合流する。
「では、ついてきて下さい。一佐達は初のお見せになるものがあります」
リンクの後ろについていく。狭く、そして入り組んだ通路を通っていくとそこには……。
「うわああっ……」
竜斗とエミリアは思わず驚きの声を上げる。
目の前に広がる光景はまるで地下に都市があるのかと思うほどの広大な空間に、そしてベルクラスの二倍、三倍、いやそれ以上の巨大な戦艦が存在している。左右の先が見えないほどの奥行きがあり、その戦艦もその先へ伸びていっている。
「まだ出来上がっておらんが、これが我々連合軍の母艦となる『テキサス級空陸運用戦闘母艦』だ。
動力はステルヴァー同様にプラズマエネルギー、グラストラ核エネルギーのハイブリッド駆動を採用しておる」
早乙女とマリアも初対面によるあまりの凄さに唖然となっている。
「アラスカの敵基地『タートル』の対決戦兵器でもある。どうじゃ?」
「……やはり私はあなたには敵いませんね」
「そうじゃろう。では今日はゆっくり休んで明日から本格的に取りかかろうか。完成間近だし」
「ええ、しかし私がこの巨大戦艦の開発に携わることに役立つでしょうか?」
「勉強がてら手伝えってんのだ。
それにベルクラスという艦を開発する技術と経験を持つお前を高く買ってんだワシは」
「まあやれるだけやりましょう」
「うむ、それでええ――」
次に地下施設の案内がてら、今度は離れた区域にある各国のSMBのある各ドッグを訪れる。
そこにはマウラー、ステルヴァー以外にも各国の個性的なデザインや武装をした見たことのない機体も発見する。
「スゴい……初めて見る機体ばかりだ……」
騎士のような銀色の甲冑を着込んだようなフォルムの機体、胴体の細いステルヴァー以上に鋭角的なフォルムを持つ機体、厚い装甲と重火器、肩から突き出た長い砲身からは砲撃主体と思わせる重装備の機体……どれもこれも各国の特徴がよく現れている――。
マウラー、ステルヴァーが立ち並ぶその広いアメリカ軍専用の格納庫へ向かうと各パイロットやブラック・インパルス隊員達がそこで集まっている。
「おっ、ゲッターチームっ!」
ジョナサンが彼らを発見してすぐに駆けつける。
「大尉か、少佐達は?」
「仕事があるので今は別々です。俺達は指示があるまで今は待機中なんです」
「そうか。またこの子達と一緒に戦うことになる、よろしく頼む」
「こちらこそ……あれ、マナミは?」
事情を話すと彼は「オゥ」と悲しみ混じりの声を上げた。
「後で俺も艦に来てもいいですか?マナミに会いたいので」
「かまわんよ、君なら彼女も喜ぶだろうし」
「ありがとうございます」
「――しても大尉、彼女がホント好きなんだな」
「ええ、未来の嫁さんですから。ではまた後で!」
そう言い切るとその場にいる全員が呆れてたような顔だ。彼は笑みを返して再び仲間の元へ戻っていった――。
「ああやって言い切れる大胆な大尉はやっぱりスゴいなあ……俺はとてもじゃないけど言えないよ」
自分にない要素を持つ彼に竜斗は憧れるように見つめている。
「大尉は大尉、リュウトはリュウトなんだから気にしないの。アタシはそんなリュウトが大好きなんだから」
と、エミリアはフォローを入れると彼は照れた。
「ジョナサン大尉は明るくていいですね」
「ええ。腕もいいしアメリカ軍のムードメーカー的な存在ですからね彼は」
リンクからも彼に対する評価はなかなか良いようだ。
「じゃが、女好きでそれで色々と問題を起こしているのがタマにキズだがな」
「あと無鉄砲で自信過剰なのもな」
ニールセンとキングの二人が余計な事を口走りリンクはゴホンと咳き込んだ――。
その後案内が続く。その道中、各国軍の隊員ともすれ違うも何故か変な目で竜斗達をジロジロ見てくる。当然、それを感じとる竜斗達。
「……やっぱり俺達見られてるね」
「うん。アタシ達がゲッターロボのパイロットと知ったらなんて思うかしら……」
北海道の時のように、初対面時の米兵のような視線を再び経験する二人はこの先どうなるのか少し不安であった。
――変な視線。しかしそれは北海道の時とは違っている。
それは何か卑屈そうな、見下しているようにも感じる寒い視線だ。
多分、僕達はそんな人たちに混じって行動することになると思うけど、果たして僕達三人、甘ちゃんの高校生達が彼らと関わり何の問題もなしにやっていけるのか――。
「マナミっ」
「ジョナサン……」
その夜、自由時間を使い彼は私服で愛美の部屋に訪れると、彼女はベッドから寝たまま迎えていた。
「大丈夫かい?」
「ええ……何とか……けどもうあんな作業はゴメンよ……夢にも出てきてキツい……」
「かわいそうなマナミ、俺がどうにかして苦しみから解き放ってあげたいのに……」
クサい台詞を言う彼に彼女はクスッと笑う。
「ジョナサン、ならマナを抱きしめてよ……」
彼はベッドに座りこみ彼女を抱きかかえる。
「それでいいのか?」
「うん、ありがとう。凄く安心する」
二人は熱く密着したまま話をする――。
「君の部屋は凄くキュートだ。ホントに女の子って感じがする」
「それ誉め言葉?」
「ああっ。俺達の住まいは無機質でムサクサいからさ、凄く新鮮味を感じるよ」
「ここは軍隊だもんね。確かにマナの部屋は異質に感じるし日本のモノばかりだし――」
「……マナミ、また君達と一緒に戦うことになる。よろしくな」
「マナからもよろしくね、あの二人もね」
「ああっ、ジェイドとジョージも喜んでたし、あと他の仲間もたくさんいるから俺達ならきっと上手くやっていけるよっ――」
会話が弾み、時間が足りなくなるくらいに過ぎていく――ジョナサンもそろそろ基地に戻らなければならなくなり時計を見てあっと驚く。
「俺、もう各隊の点呼だから帰るわ」
「うん……また明日元気だったらまた会いにいくわ」
「ああっ、だけど無理すんなよ」
――すると、
「ジョナサン、最後に熱いキスしてよっ」
「いいのなら喜んで――」
二人は互いに強く包容し甘くとろけるくらいの、見ていて恥ずかしくなるくらいの深い口づけをする――。
「じゃあまたな」
「うん、おやすみ……」
彼は手を振り部屋から出ていった。
「……次はエッチできそうね、楽しみだわ、フフ……」
彼女は顔を真っ赤にしてうっとりしていた。
(もしかして次は……?)
ジョナサンも左の親指、人差し指で輪を作り、右の人差し指でその輪の中を通すと段々と意気揚々になりしまいには「イエーイっ!」と大声を張り上げた。
「た、大尉……?」
ちょうどそこに居合わたエミリアがそれを見ており唖然となっていた。
するとジョナサンはルンルンで彼女に近づき、頬に軽く口づけをして、
「グッナイ♪」
と言い去っていった。
「…………」
彼女はキスされた頬を押さえて呆然していた……。