ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」⑦

次の日。各人の休息という言葉はない如く、エリア51における戦いの修復活動が行われた。

 

地上に転がるメカザウルスの処理、瓦礫の片付け、基地内の修理……特にメカザウルスの処理については時間が経つこどに屍肉からの醜態極まる異臭が、辺りに陰険な空気が充満しており、さらに原型を留める個体も内部にガスが溜まり 少しの衝撃で爆発して内部の腐った血やかすかに残った内臓が吹き出して機体にかかり洗浄、消毒も大変であったが各人は文句言わずに黙々とやり続ける――。

 

ボロボロになったルイナス以外の二機でも機体が無事だからと作業も行われたが、一番可哀想だったのは何を隠そう愛美である。

仕事とは言え、メカザウルスの残骸を片付けに駆り出された時の彼女は阿鼻叫喚だったのは言うまでもないが、今動ける残り少ない機体で早く片付けを終わらせるために彼女に喝や励ましを与えて何とか涙目になりながらもやっていた。

竜斗はそんな彼女に対し仕方ないといえ、同情を禁じ得なかった――。

一方で機体がないために外の仕事ができないエミリアは基地内の調理場で各スタッフと共に調理服に着替えて必死に昼の炊き出しを作っている。

 

(今のアタシにはこれしかできないからね、少しでもみんなの疲れが取れるようにおいしく作らなきゃっ!)

 

その一心に真心を込めて料理していた。

 

その間、早乙女とマリア他の作業員達とシールドが破られて被弾したベルクラスの点検と修理を行っていた。

 

「島国の日本と違い、やはりアメリカの向こうの戦力は半端ないな。

現状のベルクラスでは対処しきれなくなってきている」

 

 

「ええ、このままでは間違いなく撃沈、もしくは前線において足手まといになりそうですね」

 

「同感だ。ゲッターロボの支援目的の艦なのに逆に支援されるなら本末転倒だな。

ベルクラスを改造、強化する必要があるな」

 

「改良するとすればどこを重点に置きますか?」

 

「まず博士達がいることだし炉心の改良、それによるシールドの強化とエネルギー効率の改善――」

 

「あと個人的に武装のバリエーションがなさすぎて空中戦に対応しきれてないのでいくつかの空対空火器を装備したほうが良いかと」

 

「そうだな、今回の戦闘でそれをよく思い知ったよ」

 

日本では母艦の立場もありながら第一線で頑張ってきたこのベルクラスも、ここでは役立たずになりえると二人は痛感した――。

 

一方でニールセンとキングは基地の格納庫に収納したボロボロのルイナスの修理を行っている。

 

「……ガーランドGだけ見事になくなってるな」

 

「奥の手を使ったんじゃろ。まあもう一つスペアがあるし先に機体全体の修理から始めるか」

――ぼちぼちと修理が始まり、率いる作業員達に指示を出していく二人。

 

「今回は何とか退けたが向こうもおそらく黙っちゃいないだろう、次はもしや倍以上かもな」

 

「ああ、早く向こうに移動してあれの完成を早めなければな。それに連合軍の奴らも待ちくたびれているだろうし――」

 

……しばらくして、早乙女が二人の元にやってきて横に並び、下から修理を受けているルイナスを見上げる。

 

「修理は順調ですか?」

 

「まあぼちぼちだな。お主は今何をしとおる?」

 

「ベルクラスの修理と点検をしてました、それで頼みがあるのですが――少し席を外してもらってもいいですか」

休憩室に移動し、紙コップにいれたブラックコーヒーを飲みながら早乙女がそう言うとニールセンは眉をひそめる。

 

「わしはボランティアをするような善人でない、次はさすがに金を取るぞ」

 

「そう言うだろうと思ってました。ただ今は資金もないので後払いで――」

 

「おい、ワシにツケをとるつもりか?そもそもお前は日本を追い出されたくせに戦争が終わったらどうするつもりだ?自衛隊に戻れるのか?」

 

「さあ?もしかしたら懲戒免職になっていることもあり得ます。

まあどんなことをしても払いますよ、借金もしくは犯罪に手を染めてでも。なんなら私の内臓をどこかに売り飛ばしても構わないですよ」

「…………」

 

「博士の要求する金額は法外ですからね。しかし私はあなたの弟子だから払わないわけはありません、ただその時は私の後を引き継いでゲッター線研究、それを生かして人類の発展に尽力するよう頼みますよ」

 

……互いに無言のまま見つめ合う二人。しかしその間に全くよそ者が入れないような威圧感があった。

 

「ニールセン、こいつ本気じゃぞ。いいのか?」

 

キングも宥めようとしているのか割り入ろうとする。

 

 

するとニールセンから深くため息をついた。

 

「……キサマは本当に食えない奴だ。

分かった、ワシが言うとは思えぬほどの良心的の超格安にしてやる。

では今度、ワシにどこかで外でメシおごってくれるだけでいい。たかだか一回の支払いごときでお前に死なれては色々困るからな」

 

「――それなら喜んで」

 

再び早乙女の勝利という形で交渉が終わる。

 

「ハハハ、さすがのお主もサオトメの前では形無しじゃのう」

 

「けっ…………」

 

キングに笑われて苦虫を噛み潰している。

 

「にしてもサオトメよ、おぬしは怖いものがないのか?仮にも師匠でかつアメリカをも恐れる世界最高の技術者だぞ?」

 

キングの問いに彼は何食わぬ顔でこう答える。

 

「怖いですよ。ただそれ以上に私の意思が勝つだけです」

「……呆れたヤツじゃ」

 

ニールセンでさえ打ち破れないこの頑丈な仮面を被る早乙女にキングも少しばかりぞわっと寒気が襲う。

それからは話が逸れて関係のない雑談をする三人。話に夢中になり過ぎて、携帯する彼のスマホにルイナスを修理するスタッフから「いつ戻ってこられますか?」と電話が来たので、

「お前らに任せるから後はやっといてくれ」

 

無責任にもたったそれだけ伝えて切り、再び雑談に戻ったのだった――しばらくするとニールセンがサオトメにこんなコトを尋ねる。

 

「なあサオトメよ、前々から思ってたがお主のご両親は元気か、今どこで何をしておられる?

 

「えっ……私には両親はいませんが?」

 

「どういうことだ?」

 

「私は物心着く前に孤児施設にいましたから親の顔など知りません、迎えにくるようなこともありませんでした」

 

「…………」

 

いつの間にか、三人の顔から楽しそうな雰囲気はなくなり重くなっていた。

「友達は?」

 

「いませんでした。むしろ周りが何故か私を避けているような感じでしたね、まあ自分は気にとがめませんでしたが」

 

「そうか――」

 

「あと周りから監視されているような妙な視線を感じることがありました」

 

「どうして自衛隊に入ろうと思った?」

 

すると早乙女は腕組みをして珍しく頭を悩ませている。

 

「それが気づいた時には入っていたっていうか……一流大学に入って結構名を馳せていた時に向こうから勧誘されたような感じですね確か。

君なら稼げるからとか研究の場を提供する、好きなだけやればいいとかいろいろと都合のいいことばかり言われてしつこく、強引的に丸め込まれましてね。

 

 

しかし自身も軍事に興味あったし確かにそれならと――これだけに限らず何に関してもトントン拍子に話が進みましたね」

 

 

早乙女の過去について色々問いただしていくニールセン、そして平然と答える早乙女。

 

「最後に聞くぞ、いまさらながら親に会いたいと思うか?」

 

「…………」

 

その問いに黙り込む早乙女。今の彼の頭の中に考え、そして葛藤が入り混じりどれほど複雑になっているのだろうか……。

 

「……まあ見てみたい気もあります。せっかく私を生んでくれたんですし――」

 

それを聞いてニールセンは一息つくと立ち上がる。

 

「ついてこい、お前に見せたいものがある――キングも来るか」

 

「いいのか?」

 

「かまわんよ」

 

三人は施設内にある遺伝子工学エリアへ入り、資料室に入る。

室内を埋め尽くすほどの数の棚に並べられた新しく、そして色褪せた古いファイルに挟まれた書類には一体どんなことが書かれているのだろうか。

 

ニールセンがとある列の棚を見て回り、とあるファイルの前に足を止めると指で示して早乙女に取らせる。

渡されてペラペラ捲ると早乙女にそのページの書類を見せる。

 

「……『ニールセン・プロジェクトに関する重要機密書』……これは?」

 

「最後まで読め、お前なら理解できるはずだ」

 

『ニールセン・プロジェクト』……本人すら聞いたこともない計画名だが彼と同じ名が冠されているのはどういうことか……日付を見ると約四十五年前の計画書のようである。

その計画書に記された英文を読んでいく早乙女――全てを読み終わるとパタンと締めた。

 

「……理解できたか?」

 

「ええ」

 

「では、大体察しがつくはずだな」

 

「もしかしてまさかあなたが私の……」

 

「お前はワシの遺伝子と血を受け継ぐニールセン・プロジェクトの産物の一つなのじゃ――」

 

……四十五年前、彼、ニールセンは若い頃からすでに世界に類を見ないほどの天才で名を轟かせた技術者だった。

各先進国でも、人類の科学の発展のために彼のような天才的な人間を創り出そうと、とある計画が提唱された。

 

それが『ニールセン・プロジェクト』である。

その方法とはニールセンの精子バンクを使い各国の女性の卵子を使い体外受精させると言うもので、各先進国で実験が行われた――つまりニールセンのような最優秀な人間を世界各国で人工的に作り出そうとしたのがこの『ニールセン・プロジェクト』である。

それが日本でも行われ、その課程で誕生したのが彼、早乙女だと言うのだ。

 

「……しかしその頃はまだそういう技術があまり進歩しておらず、実験で生み出された子の殆どは長く生きられなかった上、倫理的問題からすぐに頓挫し全ては闇に葬られた。

ワシもただ精子を提供しただけで深く関わっておらんかったからどんな子が生まれたかも分からんかった。

しかし後に分かったのだ、日本という島国でそれが成功し、そして順調に成長しているワシの血を分けた子がのう」

「それが――私だと?」

 

「そうじゃ。言わばお前はワシと日本人の混血児ということになる、つまりお前の父親は事実上ワシだ」

 

「…………」

 

確かに彼の顔は日本人にはない部分、雰囲気を持ち合わせている。

昔からハーフと間違えられたこともあったが……その理由、そして今まで謎と感じていた真実を、彼は今知った。

 

「ショックを受けるかもしれんが、聞いた話によるとお前の母親にあたる女性はのう、お前を育てたくないと言って施設に入れたそうじゃ――その理由は、そうやって出来たお前を育てるという重大な責任に耐えきれなかったのと、なにより気味悪かってな……」

「…………」

 

「お前が監視されていたといっていたのも、自衛隊に無理矢理勧誘されたのも、お前がこれまで全てとんとん拍子に事が進んだのも……おそらく政府がこの事を知っていたからだろう、親なしである都合のいいお前を手中においておくためにな――」

 

「……ではあなたと出会って弟子になったのも……」

 

「偶然など、どこにもなかったということだよ。

全てそうなるように仕組まれ、進まされてきたと言うことだ――」

 

彼はようやく掴めたその事実に対し、動揺しているように見える。現に顔がヒドく強張って身震いしている。

 

「――これがお前の真実だ。いずれお前も知らなければならないことだからな。だが、さすがのお前もショックか……」

――しかし。

 

「――かと思いました?」

 

ショックを受けているように思えた早乙女は突然、フッといつものような能面のような態度を取る。

 

「サオトメ……お前」

 

「私は『普通』はゴメンですからね。むしろ好都合ではありませんか」

 

と、平然とそう言い切る早乙女。

 

「あなたの血と細胞を持つ……これでやっと分かりました。

なぜあなたと開発思想など、所々似ているのか、そして私の出生と過去の謎が」

 

「ではお前はそれを受け入れると言うのか」

 

「受け入れないわけがないでしょう。なぜならあなたのおかげで今の私がいるのですから。

最高ではありませんか、こんな素晴らしい頭脳を自ら貰えたなんて――」

 

「…………」

 

「普通に生まれ育ったのなら間違いなく博士に会うこともなかったし、そしてゲッター線を発見しゲッターロボを開発することもなかった。

私はメカザウルスに怯えて逃げ回って、そして命を落とす一般人の一人だったかもしれませんね」

 

むしろ嬉々である彼にショックを受けるのかと思っていた二人は唖然となった。

 

「ではワシを父として受け入れることはできるのか?」

 

「これに関しては私達はこれまで通り師弟関係でいいです。水臭いですし……何より赤の他人同士の方が後々都合がいいでしょう」

 

「……そうじゃのう、ワシもその方がしっくりくるな」

 

「もしかして二人とも、私がショックを受けると思いました?」

 

二人はコクっと頷く。寧ろ、そんな重大な事実を知りそうやって簡単に、そして嬉しそうに受け入れるのは古今東西見ても早乙女だけである。

 

「……しかしこれだけは言わせてもらいます。どんな出生だろうが私は私です――さて、そろそろ私はベルクラスに戻ります」

 

きっぱりとそう告げると彼はそこから出て行こうとする。

 

「サオトメ、もう一度聞くが、お前はこの戦争が終わったらどうするんじゃ?

ワシも歳でこの先短い、お前がもしよければ後を継いでもらいたいとも思ってるんだが」

彼の足は止まる。すると振り向きこう答えた。

 

「さっきも言いましたが私は私です。自分の思う通りの道に進みます――」

 

「ではなにを――」

 

「あの子達、竜斗達ゲッターチームも大雪山での戦闘で三人とも親なしになりましてね。

それからですかね、私に父性というものが芽生えまして――」

 

「ということはお前は……」

 

「あの子達だけの父親になれたらいいなと思ってますので。では――」

 

そう告げ、出て行く早乙女。その後ニールセンは深くため息をつく。

 

「お前はこれでよかったのか」

 

「ああ、寧ろこれで吹っ切れたよ、しかしあやつは実際はどう感じているやらな」

 

「強がりと言うか。しかしまあ、だれにもサオトメを止められないな」

 

「ああ、実際にワシでさえ敵にまわしたくないヤツよ――あやつだけはな」

 

少しばかり二人から笑い声を溢れた後、仕事に戻ろうとその場から去っていった――。

 


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