「敵の増援からすぐに第三十九恐竜中隊壊滅、残り二中隊も危険です――」
ドラグーン・タートル艦司令部ではエリア51の上空モニターからこちら側の戦局が思わしくないことを確認するジャテーゴ。
「よし。向こうも疲弊しきっている頃だ、各ミサイル発射用意にかかれ。
目標、ネバダ中部にある敵軍事基地。
三発それぞれ西側、東側、そして地下深くから直接基地を狙え」
彼女からそう告げられ、ドラグーン・タートルの左右舷、そして潜地用発射口が開くと長身且つ極太のロケット弾が姿を現し、今にも飛び出そうと噴射器がスタンバイしていた――。
『リンゲィがやられただとっ!?』
『…………』
その事実がリミルとクランに衝撃を与え、特にリミルは苦い表情をしていた。
『くっ……』
すると彼の元にクランから通信が入る。
『これよりドラグーン・タートルからミサイルが撃ち込まれる、退避するぞ』
そう持ちかけられるが彼は首を横に振る。
『……いや、リンゲィの仇を取るのが先だ』
『リミル……ミサイルがここに着弾したら間違いなく基地はおろかネバダの半分近くは消し飛ぶ、いくらオーヴェのバリアでも耐えられまい』
『けっ、リンゲィを失ってこのままおめおめとジャテーゴ様の元に帰れるかよ。アイツの無念を晴らせるまではなっ』
通信が切れるとクランも大きな溜め息を吐きながらも再び操縦桿をぐっと握りしめる。
『やれやれ、あのバカに付き合うしかないか』
そんなことを言う割りには彼から今まで以上のやる気が凄く感じられる――。
……互いに間合いを取りながら様子を見ているルイエノとルイナス。じわじわとゆっくり前に進みながら互いにどう動じるか息を潜めている。
(さっきリュウトが勝った……だったらアタシだってやればできるはずなんだ……)
ルイナスは絶えずドリルをフル回転させていつでも攻撃できるように待ち構える。
一方のルイエノは再び両手足をマグマ熱で発熱させ、軽いフットワークをとり続けてどんな状況にも瞬時に動けるようにしている――。
「はあっ!」
先に動いたのはエミリア。右腕のアーム、ガーランドGを突き出して先端部の砲口から高出力のプラズマ弾を絶えず連続で撃ち出す。
対してルイエノはそれを左右ステップと爆転、宙返り、ムーンサルトのような華麗な技を次々に披露しながら余裕綽々と避ける――完全に遊ばれている。
しかし彼女は被弾させることだけに集中して、今度は動き回りながら絶えずエネルギーの続く限りプラズマ弾を放つ――。
『くどい、弾の無駄使いだ』
ルイエノは着地した瞬間に地面を走り出してこちらへ急接近してくる。
バラまかれたように向かってくるプラズマ弾達をジグザグ走行で避け進み。
ついにルイナスの背部に回り込んだ。
そこからなんと腹部をがっしり掴むとそのまま後ろへ力強くで引き込み放り投げた。
まるでそれはバックドロップ……このメカザウルスはプロレス技まで操るのか。仰向けで倒れ込むルイナス、そして地面に叩きつけられて相当なダメージを受けているエミリアは完全にまいっていた。
彼女は疲れとそして痛みでその霞む目でモニターをよく見ると画面中央には再び発熱した右足をこちらへ向けて急落下してくるルイエノの姿が――。
『終わりだ』
コックピットのある胸部目掛けて落ちてきている。当たれば間違いなく自分は潰されて即死だ――。
(アタシはこんなところで終わりなの――)
と、彼女は全てを諦めかけたその時、ふとある言葉が浮かび上がった。
『エミリア君にも扱い易いように改造しておいたが三機の中では一番性能は劣るだろう。
もし、どうしようもない時はこれを使え――ただし一発限りの奥の手だ』
それはルイナスの概要について説明を受けている時、最後の武装説明にてニールセンからとある秘め言を言われていたのを思い出し、彼女のその青い瞳は覚醒した。
(今がその時だっ!)
ルイナスはその状態で間近に迫ったルイエノへ右腕そのものであるガーランドGを向けた時、
『!?』
なんとガーランドG丸ごとミサイルとして打ち上げ、落下スピードに乗ったルイエノは避けられるはずもなく直撃した。
『ば、バカな――――』
カッと眩く光り、そして球体状に膨れ上がり爆発した。周辺にその衝撃波が拡散して何もかも吹き飛ばした。
ルイナスも強烈な爆風に流されていく――。
爆心地は小さいキノコ雲が出来ており遠くからですぐに確認出来るほどだ――。
音、衝撃波、そして光は別場所で戦っている各人を振り向かせる。
「あそこは確か……エミリア君が戦っている場所じゃないか!?」
まさか彼女の身に何かあったか……物凄い不安に襲われる全員。
それは竜斗も同じで真っ青な表情で彼女に通信モニターをかけるも画面が暗い。
「エミリアっっ!!」
何度も、そして必死に大声で呼ぶ。すると、
“リュウト……アタシ勝ったよ……”
小さい声だがちゃんと彼女の実声が聞こえてくる。
「大丈夫かっ!」
“うん…………なんとか……ホントに死ぬかと思ったよ……アハハッ……”
……どうやら命については心配する必要がないようで彼は安心して身体がだらんと崩れた。
「今から迎えに行こうか?」
“ちょっと疲れてしばらくここで休むから大丈夫……心配しないで今やるべきことをやってリュウト――”
……ルイエノはあの強烈な爆発で完全に消し飛んでおり、ルイナスは爆心地から約数百メートル離れた場所で、爆発をモロに受けてもはや戦える状態ではないほどのボロボロな状態で倒れていた。
『クランまで……クソっ!』
二人の生体反応がなくなりついに自分だけになってしまい、流石のリミルはもはや唖然となっていた――。
その時だった、再び地上からハッチが飛び出て開くと中からアズレイが飛び出し、地上に立つ。
「これでマナはもう敵なしよっ!」
アズレイは背中から折り畳まれた物体を取り出ししっかり直列に伸ばして固定すると、それは身の丈あるかどうかという凄まじくそして細い長身を持つ兵器、対物ライフルと思わせるニールセン自慢の新兵器『エリダヌスX―01』の姿があった。
初めて見るジェイド達、そして竜斗、早乙女他の者はたちまちその兵器に目が釘付けになっている。
“マナミ、それは一体……?”
「それを今披露してあげるから見ててよっ!」
両手持ちに構えて、上に銃口を向ける。その狙い先は当然ウルスラ。
『来い、どんな兵器だろうがリュイルス・オーヴェのバリアを破れるわけがないっ!』
向こうもそれに気づいているも避けることをせずに寧ろ受け止めようとしている。
アズレイのフル稼働するゲッター炉心、プラズマ反応から高密度の各エネルギーが供給線を通って銃身に送られていく――そしてチャージ完了を知らせるアラームが鳴り響く。
「これでも食らえメカザウルスっ!!」
意気揚々にトリガーを引いたその時、まるでこの世のモノとは思えない、まるで宇宙的な甲高い音が発せられた……しかし銃口から弾丸か何かが発射されたところが全く見られなかった。不発か……と思いきや――。
『なに……バリアが……』
ウルスラを見ると腹部に見事に円状の大穴が開いている。
次第に機体全体がスパークし出して小爆発が起きた。
『な、何があった……』
リミルはワケが分からないままその機体の大爆発に呑み込まれ、肉片、装甲の破片が四散し地上へ降り注がれた――。
そしてこの光景を見ていた全員も何が起こったか分からず呆然としていた――。
「ゲッター線をも超える凄まじいエネルギー反応を確認……司令、これが例の……」
「ゲッターエネルギーとプラズマエネルギーによる複合エネルギーによるものだろう、博士はついに完成させたか――」
そして作った本人も地下施設のモニターから見て大いに喜んでいた。
「射撃テストにして実戦テストは無事クリアしたか……ワシは今、最高の一時を味わっているぞい」
「凄まじい威力じゃな、ニールセン。これが貴様の夢にまで見た傑作兵器か」
「ああっ、これの実現こそがワシの夢じゃった。」
彼はまるで童心に帰ったような顔である。
「――子供の頃、ワシが一番ハマっていたとあるテレビゲームに登場したエイリアンの武器……これを見た瞬間からワシはそれに魅入られてしまった。
あの独特の形、発射音、そして凄まじい性能……ワシは人生かけてでも開発すると決めて兵器開発の技術者を志した」
「それがお前のバイブルということか」
彼はコクっと頷いた。
「『エリダヌスX―01』。
ワシが魅入られたそのゲームの同名武器を、形と音こそは違うがついに実現した――ワシはもうこれで思い残すことはないわい」
感慨に浸っていると通信が入り、モニターに映すと早乙女が現れて拍手を叩く。
“成功したんですね、おめでとうございます――”
「ありがとよ」
“まさか、あの強力無比のバリアをいとも簡単に貫通するとは全く思いませんでしたよ”
「ふん。バリアの破壊前提で開発した兵器じゃぞ、できて当たり前だ……だが色々と不具合が出てるじゃろうな――」
彼の言うとおり、アズレイの各炉が一発撃っただけでレッドゾーンに入っていた。
「あちゃあ……次に撃てるのは時間がかかりそうね……」
機体、そして銃身から水蒸気のようなものがもくもく上がっている。
それほど二種の異なるエネルギーを組み合わせた複合エネルギーが生み出した高熱の冷却が凄いと言うことだ。
メカザウルスの掃討が全て終わり、全員が一息ついている。
“ようオヤジ、相変わらず兵器開発に精を出しているのか?”
“お久しぶりね”
キングの元にあの二人、ジャックとメリーから通信を受けて喜ぶかと思いきや何故か苦々しい表情をしている。
「ふん、今までどこほっつき歩いていた?この親不孝者共が」
“南米を渡り歩いて気楽に旅をしていたよ。その途中に連合軍から要請を受けてな”
“メカザウルスが出現したり、メキシコのギャングとか麻薬のシンジケートとかと対峙したりしてたけど色々と楽しくやってたわ”
旅路に起きた、嘘としか思えないような様々な出来事についてまるでただの散歩をしてきたかのように軽々しくそう話す二人。
「まったくお前らはいい歳こいて、いつまでもそんなことしてる場合じゃないだろ。なんで軍を辞めたんじゃ?」
“完全な自由がないからさ、なあメリー”
“ええっ”
「お前らな……」
――その時だった。再び警報サイレンが高らかに施設内に鳴り響く。
“緊急事態、北西、北東の超高度上空から謎の飛行物体が音速域を保ちながらこちらへ接近しています、数は二つ――”
「なにっ!?」
早乙女達からもベルクラスのレーダーでそれを感知しており、すぐにズームを上げて成層圏近くの領域のモニターに映すと確かに丸い何かがロケット推進でこちらへ急接近してきているのが……。
「これはまさか……」
「弾道ミサイル……ですか」
その細長い鋭角な先端を持つ胴体を見ると二人はすぐに何かが分かった。