ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十二話「オペレーション・ダォイルシエ」①

……二日間後の夜九時。ドラグーン・タートルの司令部ではジャテーゴと部下達は休みもしないでモニターばかりを凝視している。

モニターに映るはエリア51の上空からの映像が。

 

「第三十七、三十八、三十九恐竜中隊は出撃準備完了――」

 

「よし、これより作戦『ダォイルシエ(逃げ場なし)』を開始する。

各中隊はネバダ州にある敵基地を包囲し叩け。

例のゲッター線の機体といくつかの部隊が護衛がつくと思われるが最優先目標は敵施設及び浮遊艦の破壊だ、念頭にいれておけ。

なおゲッター線の機体については一対一に持ち込め、だが無理に倒すことはない。どう持ち込むかは各中隊司令官に一存する」

 

 

各中隊にそう伝えると、ドラグーン・タートルに取り巻く無数のメカザウルス、メカエイビス、恐竜母艦が横隊を成して、その寒い夜空に飛びながら南下していく。その数はなんと四千近く――。

 

 

「ミサイルの用意は?」

 

「計三発すでに装填し、いつでも発射態勢に入ってます」

 

「フフ、我々が地上人類に面白いプレゼントを贈呈しようではないか、但し色々な方向からな……ハハハハハっ!」

 

彼女は高らかに、そして卑屈な笑い声を上げた――。

 

“北米方向よりメカザウルスの大軍がこちらへ南下中、直ちに警戒態勢に入れ、繰り返す――”

 

――エリア51では北米方向から大多数のメカザウルスがこちらへ向かってきていることが分かり、すぐに戦闘準備のサイレンが鳴り響き各人はそれぞれ対空砲、ミサイル砲、SMBに乗り込み全域に配置する。

ベルクラスでも戦闘に移行するために浮上を開始し、竜斗達はすぐさまパイロットスーツに着替えて各機の乗り込む。

 

 

 

“三人共、北米方向より無数のメカザウルスが寄り道せずに一直線にこちらへ進軍中だ。その数はおよそ四千――”

 

今までにないメカザウルスの数に耳を疑う三人。

 

「四千ですってえっ!?どうすんのそんな数っ!?」

 

“だが私達は戦う以外他にない。

それに君達はもう新たに強力な機体があるだろ?大丈夫さっ”

 

「けど四千なんて……日本でもそんな数はいなかったよ……」

 

“……流石はアメリカ側の敵戦力と言ったところか”

 

 

 

日本において戦闘したメカザウルス数をトータルしても全く足りないほどの数。

それもこの広大なアメリカに蔓延るメカザウルスの、それも一兵力でしかなく、それはこの大陸における敵戦力の強大さを意味している――。

 

 

「北米……早乙女司令が前に言っていたアラスカからでしょうか?」

 

“まだそこまでは分からんが、そんな無数のメカザウルスを、そして北米からとなると『タートル』と呼ばれるアメリカ側の敵本拠地からだろうなとは思うが、今はそんなことよりこの現状を切り抜けることに集中してくれ”

 

と、ここで通信が切れる。確かに今はこんな緊急事態をどう打開するかが先決だろうと、彼もそう割り切る。

 

 

「今はここを何とかして乗り切ることだけ考えよう、やるしかないよ。

それに俺達には今まで以上に強い機体があるし、ちゃんと扱えるんだから絶対にいけるよ!」

 

竜斗からそう言われ、二人にもやる気の表情が浮かんだ。

 

“まっ、やるしかないか。こんなとこで死にたくないしね”

 

“うん。もう前までの弱かったアタシ達じゃないことを向こうに見せてやろうよ”

 

三人は勝利することだけに思いを込めて、互いを見つめ、相づちを打った。

 

“では行くぞ、ゲッターチーム発進だ”

 

今まで通り、先にアルヴァインのテーブルから移動し、外部ハッチに止まるとすぐに開口する。

『セプティミスα』を右に携行したアルヴァインは軽く屈伸し、発進態勢に入る――。

 

「アルヴァイン、発進しますっ」

 

カタパルトが射出されて夜空に飛び出した後、ゲッターウイングを展開してメカザウルスの来る方向へ向きを変える。

 

「ルイナス、エミリア発進します!」

 

 

「アズレイ、マナ行ってきまぁす♪」

 

二人も順次に投下され、基地のライトで照らされる地上に降り立つとすぐさまメカザウルスの進路へ機体を走らせる。

エミリアの機体、ルイナスの背部には、キングが改造したライジング・サンを装着しているが、見た目的には全く変化したと分かる要素が見られない。

 

「ねえエミリア、またどれだけアイツらを倒せるか勝負する?」

 

と、また撃破数競争を持ちかける愛美。そるにエミリアは意外とノリノリで頷く。

 

「いいわよ、今度は負けるもんですか」

 

「じゃあどっちかが負けたら勝ったほうに今度外出した時になんかオゴるでいいわね?」

 

「オーケーっ!」

 

類を見ない数のメカザウルスがこちらに押し寄せてきているにも関わらず、緊張感など感じられない会話をする二人――すると、

 

「エミリア、死ぬんじゃないわよっ」

 

「アンタもねっ、ミズキっ」

 

この言葉から、二人の間には揺るぎない信頼感が感じられた――。

“来たぞ!”

 

早乙女からの合図で三人は暗視モニターで前方の空を見ると、空を覆いつくすような数の緑色の粒が見える。

拡大すると確かに羽根の生えた化け物、メカザウルスだとすぐに分かる。

そしてさらに恐竜母艦から小さく粒が虫のように湧き出して出て来る――恐竜母艦の所有する戦闘機である。

 

それらを含めると間違いなく五千近くの敵数の計算になり、それを見る誰も彼もがうろたえる。

 

「これがアメリカの戦力……か」

 

初戦でも千機近くの相手に戦ったが、今回はその四、五倍の数を前に息を呑む。

これから始まる、北海道以来の二度目の夜間戦闘を、それすらも遥かに超える向こうからの人海戦術による、ここの攻防の激戦化を――彼は目を瞑り頭の中で、一番効率の良い戦闘行動を考え、想定している。

「一体何事じゃあ……」

 

「博士、これをっ」

 

施設内のモニタールーム。所長のメリオの元に就寝していたニールセンが寝巻き姿で大きな欠伸をしながら出てきた。

それをボーッと眺めて数分後、彼はそのままフラッと出入り口へ向かう。

 

「まだいびき掻いて寝ているキングを叩き起こして兵器開発エリアに来いと伝えろ。ワシは今からアレの最終調整に入る――終わり次第アズレイをこちらに呼び寄せろ」

 

メリオにそう伝えて出て行った――。

 

 

 

「行くぞみんなっ!」

 

 

メカザウルスがエリア内に突入した時、竜斗の合図で各ゲッターロボは一気に動き出す。

 

各メカザウルスは、この広い基地を円で囲むように左右に移動し始め、その中からマグマ砲や溶解液で攻撃してくる。

 

「はあっ!」

 

竜斗はいきなり右臑の側面からビームブーメランを取り出して密集地へ真っ直ぐ投擲し、すかさず腹部をかがめてゲッタービームを放射。

高速回転するブーメランに直撃した時ビームが吸収されて、その膨大なエネルギーから生み出される粒子の波動が四方八方に拡散し、一気にそこに蔓延っていた百五十近くのメカザウルスが高密度のゲッターエネルギーを受けて、皮膚がただれ溶けていき墜落していった。

 

そのままブーメランは高速回転しながら、まだまだ浮遊するメカザウルスの首に狙って勢いよく飛び込み切り落としていく――。

 

その間にアルヴァインはライフルをプラズマに設定し、そして空いた左手首のキャノン砲、計二丁の高出力のプラズマ兵器を駆使して、飽和攻撃に近いほどの無数のプラズマ弾を連射し、メカザウルスを撃ち抜き貫通させて撃墜していく。

そんな時、左右からメカザウルスがこちらへ押し寄せてくるのをモニターで確認した竜斗はレバーを引き込みすぐさまそこから機体を後退させ、弾薬を榴弾、そして直線に設定し固まったメカザウルスの中に次々と弾頭を撃ち込み炸裂させる。

 

ビームブーメランのエネルギーが切れそうになった時、モニターでブーメランに照準を合わせてゲッタービームをピンポイントで当てるとエネルギーが拡散すると同時にエネルギーが回復、再び活発化して次々とメカザウルスに襲いかかっていく。

 

不意をついて右側から首長竜型メカザウルスが大口を開けて急接近。

しかしアルヴァインは瞬時に腕部全体を被う丸型の盾、シェルバックラーを前に当てやり、それに噛みつかせる。その間に左手でトマホークを持ち、首を真っ二つにし、胴体が落ちていくが無情にも、盾に噛みついた頭部が未だに残っていた。

「…………」

 

竜斗はそれを見て、複雑な気持ちを抱く。

 

気持ち悪いから?

 

いや、それよりもメカザウルスとは爬虫人類がパイロットとして搭乗する個体以外にも、生きた恐竜自身の意思で動く、または人工知能を埋め込まれた個体もあることを、ゴーラから聞いた。

 

戦争のために生体兵器として使われた罪なき恐竜達に対し、彼は哀れに思えていた――。

 

「……あっ!」

 

その時、メカザウルスの群れが施設内へ向けて急降下していく。

それに対し、基地内に張り巡らせた対空砲、ミサイルによる一斉砲撃が始まる、隙間もない弾幕が張られる。

直撃して怯んだり、撃墜されるメカザウルス、しかしかいくぐって更に接近するメカザウルスから基地内に空爆をかけて周辺は焦臭い粉塵に包まれ、夜だと言うのに遠くから見ればパレード、またはドンパチ騒ぎに見間違えられるほどに明るく、そしてうるさい、そんな光景だ。

 

竜斗は基地内に押し寄せるメカザウルスへ急速で向かい、ライフル、プラズマキャノンで追撃する。

しかし恐竜母艦から発進された小型戦闘機がアルヴァインにたかりはじめ、各火器で集中放火して妨害してくる――。

 

(数が多すぎる……っ)

 

アルヴァインを持ってしても、向こうからの数が物を言う人海戦術に頭が痛くなってくる――。

しかしそうしている間にも、多くのメカザウルス達がドンドン地上へ降下していき、空爆がさらに激しくなる。

 

対空、ミサイル砲台が破壊されて地上の戦力が少なくなっていく――。

 

“ちょっとリュウト、いくらなんでもアタシ達だけじゃまかない切れないよお!”

“石川さ、こんなに空から押し込まれてやる気あんのォ!?

リーダーでしょアンタ!!”

 

「俺だって必死でやってるよ、つべこべ言わないでくれ!!」

 

二人から助けの声や愚痴を言われてさらに頭が痛くなってくる――。

 

そんな時、ベルクラスがアルヴァインの近くに到着しミサイル、機関砲を一斉砲撃を開始する。

 

“今から援護に入るぞ竜斗、地上に向かうメカザウルスは私達に任せて君は引き続き空中のメカザウルスを頼むっ!”

 

「助かりますっ」

 

艦底からゲッターミサイルを目一杯撃ち込み、地上に向かうメカザウルスの大軍のど真ん中にピンポイントで直撃させる。

 

「マリア。艦主砲を展開し、メカザウルスを一気になぎはらえ」

 

「了解っ」

 

全機関砲で弾幕を張りながら艦首が展開し、砲身が姿を現しプラズマエネルギーが内部に収束する。

 

“離れろっ”

 

彼の合図にアルヴァインはすぐに艦の後方へ下がったと同時に砲身に溜まったエネルギーが外へ一気に溢れ出して、その蒼白色の輝かしい光線は、まるで道標のように夜空を照らしながら射線上にあるもの全てを飲み込み、破壊し、そのまま遥か先へ一直線に伸びていく――。

 

光線が消えると再びアルヴァインは前線に飛び出していく。それと同時に砲撃でメカザウルスが粉砕されてポッカリ開いた隙間の奥から、巨大な物体が近づいてくる。

「なんだあれ……」

 

モニターカメラをズームアップすると、プテラノドンのような物体。しかしメカザウルス、いや自分の機体より遥かに巨大である。

それがこちらへ急接近するとメカザウルス達は道を開けて、何故かアルヴァインの目の前に止まった。

 

「なんだこいつはっ!」

 

するとこのプテラノドンはその細い頭部でクイクイと後ろへ動かしている。

これは『ついてこい』とでも言っているのか……。

 

「……誰か乗っているのか?」

 

……彼は動こうとせず。一方のプテラノドンも、浮くためにそこから巨大な翼をはためかせているが前や後ろにも動こうともしない――。

 

 

“竜斗、相手はどうやら君を誘っているようだ”

 

「おそらく。ということはあの中には……」

 

“爬虫人類のパイロットがいるのだろうな。どうする、誘いに乗るか?”

 

「…………」

 

……そして彼は考えた結果、

 

「……行きますっ」

 

“いいのか?罠かもしれんぞ”

 

「そうだとしてもこのまま立ち止まっているのは時間の無駄ですし、もし戦うというのならすぐにケリをつけて戻ってきます」

 

“……君はそう言うなら私は止める気はない。

よし、ここは私達が凌いでおくから安心して行ってこい、けど戦うならなるべく早くな”

「任せて下さい」

 

竜斗は自身の機体と腕の乗り切ることを信じて、急加速してそのプテラノドンの後ろを通り過ぎて外に飛び出す。

そしてプテラノドンも方向展開し、すぐさまアルヴァインの元へ向かい、対面する――。

 

「…………」

 

再びその場から立ち止まり、そして様子を窺っている――だがその時、通信機にザーザーとノイズが入り乱れるも、しばらくしてそれも治まると、何か鮮明に声のような音が聞こえてくる――それは知的な雰囲気を感じる低音域の男の声だ。

 

“……聞こえるか、ゲッター線の機体よ……私はキャプテン・リンゲィ……お前に決闘を申し込む……”

 

彼は分かった。このプテラノドンから通信をかけてきていることに――そして自分達地上人類の言葉を使うと言うことはゴーラと同じく翻訳機を使っていることも。

 

これは再びの説得のチャンスだとわかり、彼は急いで通信の周波数を調整してよりよく聞こえるよう調整する。

 

「あ、あなた方に僕達の言葉が分かるのならどうかこのまま引き下がってもらえないでしょうかっ!僕はあなた達爬虫人類と戦いたくありません!」

 

彼の思いを伝えると向こうは一瞬、間を置いて沈黙する。だが――。

 

“……我々はそれに応えることは断じてできぬ、いざ尋常に勝負っ!”

 

彼の願いが叶わず、頭部の口から大量のマグマをアルヴァインへ吐き出した。すぐさま横へ移動し避ける。

 

「くそおっ!」

 

ゴーラやラドラのように思いを通じることはなかった――竜斗の顔は苦渋に染まった。

プテラノドンの背部にある装甲版が扉のように左右に開閉すると中から本体より遥かに小さいプテラノドンの姿をした子機が十、二十機ほど飛び出して前に出る否やアルヴァインへ向けてマグマ、ミサイル、機関砲、溶解液を一斉に放ってくる。

すぐに上昇して高速で飛び交い回避するもその子機も同等の速度でアルヴァインを追撃してくる。

 

弾薬を散弾に替えて、動きながら近づいてくるプテラノドン型子機を一匹に銃口を向けて発射すると見事直撃して原型すら留めないほどに破壊した。

 

『甘い』

 

だがその時だった、本体はアルヴァインの真上にさしかかっており、その鈎爪のような両足で器用に掴み取り、身動きを封じた。

それをチャンスと言わんばかりに子機達は一斉に各火器を放ち、浴びせてきた。

バリアが張られたために機体自体は無事であるも早く抜け出さねばと振りほどこうとすると、本体プテラノドンは足に力を入れて勢いよく地上へ向けて蹴り落とした。

急降下してこのまま地面に叩きつけられるかと思いきや、彼は冷静にペダルを押してウィング部のブースターを再点火し、スレスレの所で落下エネルギーを相殺して地上に降り立った。

 

(やはり戦うしかないっ……)

 

――向こうは自分を殺す気だ、話し合いに応じない。

彼は複雑な思いからか歯ぎしりを立てた。

 


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