ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第四話「悪夢」①

――気づいた時、蛍光灯の光が差し込んだ、目が悪い自分でもそれは分かる。そして薬品独特のツーンとした匂いもあり、学校にも同様の場所があったのを覚えている、ここは保健室か――

 

「あ、リュウト起きた?」

 

「…………」

 

目覚めた彼の瞳は虚ろである。

 

「あれ……っ」

 

「ここは艦内の医務室。戦った後ね、ゲッターのコックピットから出たとたんに気を失ったからここに運ばれたの」

 

「……ゲッター……?」

 

その言葉が耳に入った瞬間、彼は突然スイッチが入ったかのようにとっさに起きた。

 

「あっ、俺生きてる!?」

 

「ちゃんと手足ついて生きてるから安心して」

 

彼は思い出そうとするも分からない。早乙女の指示ばかり聞いていたことしか思い浮かばない。

 

「ビックリしたよ。あんな大量のメカザウルスを撃ち落とすなんて。

サオトメさんの言うとおりゲッターのパイロットに向いてるね」

 

「…………」

 

「あ、ごめんねリュウト。死にそうな思いしたのにそんな軽はずみなこと言って……」

 

「いいよ。早乙女さん達は?」

 

「今司令室にいる。どうする、行く?」

「……うん。とりあえず――」

 

彼はベッドから下りようとするが、エミリアがおもむろにあるものを差し出した。

 

「とりあえずこれはいて……っ」

 

それは下着、つまりパンツである。彼はまさかと思い、おそるおそる自分の下半身を見た。数秒後固まったが、

 

「ウギャアアアアアアアアっっ!!」

 

当然の如く、絶叫したのであった。そう、彼は下半身丸出しであった――。

 

「だってオシッコ漏らしててびしょびしょだったんだもん――しょうがないよ、あんな目に遭ったんだから。

けどアタシじゃなくてマリアさんが処理してくれたから……っ」

 

彼にとってまさに一生の恥を負った気分になった。

 

――そして着替えた竜斗とエミリアはすぐに司令室に向かうと彼女の言った通り早乙女とマリアの二人がいた。

何かを話していたみたいだが、すぐに気づいて振り返る。

 

「竜斗、おはよう」

「…………」

 

竜斗はマリアが視界に入るたびに顔を真っ赤にして、目を合わせないようにしている。一方彼女も彼の仕草の理由に気づいたのか苦笑い。だが、

 

「竜斗、お前ションベン漏らしてたんだってな。それでマリアに介されたと、ハハハ」

 

「司令っ!!」

 

全く空気を読まずにその場で笑う早乙女へ睨みつける竜斗。

 

「まあくだらん話はやめてとりあえずご生還おめでとう。どうだ、生き残れた感想は?」

 

「……実感がありません。あの時は必死でしたから――」

……まあそうだろうなと竜斗以外の全員が思う。

 

「竜斗はゲッターパイロットとしての才能は素晴らしい。あの時の君は戦神のようだったよ」

 

おだてる早乙女に対し、竜斗は反応にこまる複雑な表情をしていた。

 

「機体の性能と武器に頼っていたのがほとんどだがパイロット訓練はおろか戦術の基本すら学んでもない民間人の君にしてはよくやったよ」

 

「…………」

 

「だがな君がパイロットとしての色々な訓練をちゃんと受ければ、ゲッターロボのポテンシャルを十二分に発揮できると思うんだがなあ」

 

また遠回しで誘う彼に竜斗は……。

 

「……どうせ断ろうとしてもあなたは僕を強引に乗せるんでしょ?魂胆が見え見えです」

 

「お、分かっていたか。察しが早いな」

「……分かりました。ただし条件があります。

もし全てが終われば僕をただの民間人として帰してください」

 

「それは分かっている。そもそもこの頼みや君をゲッターに乗せたこと自体が異例なんでね、これが上層部にバレたら私達は重刑確定だ。

これから君に自衛官として、そして階級を与える。今後の行動をやりやすくするためのものだ」

 

「……わかりました。あと、僕達の両親に会いたいのですが――」

 

「悪いが今は無理だ。君にはしばらく極秘で私の指揮下で行動してもらう。君のご両親にこれが知れたら猛反対するだろうし、民間人に知られるだろう。

そうなると色々と不具合なことが起こるんでな。しばらく辛抱してくれ」

 

「…………」

 

「エミリアはどうする?君はここから降りるか?その時はこのことは機密にすると守ってもらうぞ」

 

だがエミリアはすかさず首を横に振る。

「いいえ。リュウトを一人ここに残させるわけにはいきません。ワタシも残ります。

それにサオトメさんにマリアさん。何があっても絶対にリュウトを守ると誓ってください。こんなことに巻き込んでおいて、それは無理だとは言わせないですよ」

 

「できる限りのことはする。だが戦いで生き延びれるかどうかは結局彼にもかかってくる。

それくらいは君も理解できるだろ?」

 

「…………」

 

彼女はムッとするが、渋々ながら納得したようだ。

 

「あと私は感じたが、君は竜斗に対して過保護だと思うんだ。それじゃあ竜斗はいつまで立っても成長しないぞ、突き放すことも大事だ」

 

「よ、余計なお世話ですっ!」

 

「まあともかく、我々は君達を快く迎えよう。これからよろしく頼む」

 

そして互いに握手を交わした。

 

「今後についてだが、我々の本拠地である朝霞駐屯地に向かう。そこにベルクラス専用ドッグベイがある。

竜斗は私とマリアで君にゲッターパイロットとしての訓練と戦術座学、つまり戦い方について講座する。

基本的なことで難しくないし君ならすぐに理解できるだろう」

 

「わかりました」

 

「あと基本的に服装は私服でいい。だが私の指示があった時には自衛官の制服に着替えてもらう。

後でサイズを計って支給する。

あと制服のクリーニングはともかくワイシャツなどのアイロンは自分でしろ、そういうのは自分自身でするものだ」

 

まるで母親のように早乙女から言われる日常の小言について竜斗は少しうんざりする。

 

「リュウト、あたし手伝ってあげようか?」

 

「お、ありが――」

「おい、そんなふざけたことをするのは私が許さん。これは彼自身のためにも言ってるんだ。

大人になった時に、大体のことは一人で出来なくてはロクな人間にならんぞ」

 

「「…………」」

 

その後、竜斗達は早乙女達と別れて艦内の歩く。

 

「あ~あっ、こんな面倒なことになるなんて……」

 

「けど最後のはサオトメさんに一理あるな。

リュウトは男なんだから、アタシがいなくても一人で出来なくちゃ」

 

「よくいうよ、さっきノリノリで手伝おうかって言ったクセに」

 

「あ、あれは……っ」

 

「……けどよくエミリアが俺に対して過保護ってのは妙にしっくりきた」

 

「……アタシは、これからリュウトに何かしてあげたらなって……っ」

 

笑いを混じる雑談をする二人だが、互いにはあとため息をつく。

 

「リュウト、お願いだから死ぬようなことしちゃダメよ。

ワタシ、こんなこと早く終わらせてリュウトと一緒に帰りたいよ」

 

「うん……だけど早乙女さんは俺を必要としてくれたのは正直凄く嬉しいんだ。

気弱で学校でも地味だった俺をここまで頼りにしてくれるなんて、男として最高だよ」

 

まんざらではないかのように自信溢れる発言と顔を見ると、今までなかったような彼の一面を見た。エミリアはそんな竜斗に嬉しくなった。

ちょうどそこで通りすがった作業員に、笑顔で手を振ってくれたのだった。

 

「お、君はさっきの戦闘でゲッターロボに乗ってた子だな。スゴいじゃないかこんな年で。高校生か?」

 

「はい、一応……」

「さすがだなあ。困ったことがあったら何でも相談するといい、ここのみんなはいい人だかり親切にしてくれるハズだよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

作業員は去っていく。竜斗は良い気分に浸っていた、ここの居心地は悪くないな、と。

 

「もしかしたら俺、英雄になれたりして……」

 

「フフ、英雄ね……もしかしたらね」

 

 

二人は大きく笑った。

 

――僕はこの時はまだうかれている余裕があった。

今まで経験したことのない新鮮さがあったし――何よりもゲッターのパイロットとして僕を必要としてくれるのが嬉しかった。

だが、実はこの有頂天もそこまでの話。すでに泥沼に足を浸かっていたのであった――。

 

「ちょっとトイレに行ってくるね」

 

「ああ。どこかぶらついているよ」

 

エミリアと別れ、彼女はいなくなった。

彼は一人はぶらぶら歩いていた――が。

 

「イシカワ~~っ♪」

 

「!!?」

 

背後から突然寒気を襲わせる甘い女の声が。とっさに振り向くとそこにはなんと、愛美が満面の笑みで立っていた。

 

「み、水樹…………っ」

 

彼の一番の天敵である彼女がそこにいたのだった。やられた、一人でいる時を突かれたのだ。

 

「ちょっと来なよ。ちなみに逃げたらどうなるか、ここは逃げ場がないのはわかるわよねぇ~♪」

 

「~~~~っ!」

 

……竜斗は近くの更衣室に連れていかれた。先ほどとは一転してビクビク怯える彼に対して、愛美は腕組みをして、まるで女王様のような高圧的態度を取りながら竜斗を見ていた。

 

「さぞかしいい気分でしょーね。あんなお手柄立てたんだから……」

 

「…………」

 

竜斗の頭の中は真っ白だった、そして顔も。何故なら――。

すると彼女はスカートの右ポケットからスマートフォンを取り出して画面を素早くスライド、ポチポチ押している。するととっさに彼に体を密着させて画面を見せつけた。

 

「!!!?」

 

竜斗は戦慄した。それはエミリアでさえ知らない、そして自分にとって誰にも絶対に見せられたくない、思い出したくもないおぞましく忌々しいモノ――かつて放課後の学校において、今みたいに一人でいる時に彼女率いるグループによって、理科室で暴行されて丸裸にされて身体中に落書きされて泣き崩れる自分の、『リンチ』の最中の写真だった。

 

「これナニか覚えてる?あのガイジン女やここの人達に見せたらどう思われるかしら♪」

 

彼女はガタガタ震えて何も出来ない竜斗をいいことに脅しにかかる。その無邪気な笑みの裏にあるのは凄い悪意だ。

「マナねえ、今すごくヒマなんだ。学校みたいにここにユカやレイナ達がいないし、連絡とろうにも圏外で一人ぼっちでさみしいの、遊ばない?」

 

「…………っ」

 

「さあてなにして遊ぼーか。ちょうどこの中にシャワー室あるし前みたいに水責めしよーか、それともこの画像みたいにまた裸にして……そうだァ、あんたは皮かぶったほ〇けいチ〇コだったよね、落書きしてまた写メってあげよーか?」

 

竜斗はついにへたり込んでしまった――。

 

「や、やめ……やめて……くれっ」

 

子供のように怖がる彼に愛美はあざ笑うかのように高笑った。

 

「キャハハハハっ、ウソよウソっ。そんなことしたらまたアイツにバレてメンドーだしマナの立場ワルくなるしぃ。

しっかし情けないわねえ、男のくせに。いつもならあんたの『エミリアちゃん』が助けにきてくれるのに、今回どうしたのかな?」

 

そばのロッカーをガアンを蹴り上げて、さらに彼に突っかかる愛美。

 

「たかが巨大ロボットに乗って、あのキモい爬虫類たちを倒したからってチョーシのってると……イタい目見るわよ?」

 

それは彼へのこれからに対する警告なのか、それとも彼女自身による脅しなのか――。

 

「フフフ、ココつまんないから降りようかなと思ってたけど……やっぱり残ろっと。凄くいい『遊び相手』がいるし。じゃあね♪」

 

そう言い捨て愛美は入り口ドアを乱暴に開けて更衣室から去っていった。そして誰もいなくなったこの室内で彼は突然、手で口を押さえて立ち上がり、近くの洗面台に行くなり胃の中の物を全部吐き戻してしまった。

咳き込んで苦しそうに呻く彼はもう戻すものがなくなるとその場で崩れるようにうずくまって嗚咽した。

彼女にまた『オモチャ』にされてしまうこともあるが、さっきまで浮かれていることに対する現実。

そして逆らうどころか何一つも言い返せなかった自分の、男としての情けなさに痛感していた。

 

 

そうだ、いつもエミリアがいたから、助けてもらってたから――こんな弱虫で臆病のままじゃ強くなんかなれない、こんなことではとてもじゃなく『英雄』になんかなれない――どうすれば強くなれるんだろう。

自分自身にそう問い、嘆いていた。

 


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