ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十話「ファーストコンタクト」⑤

彼女を潰さないために出力を抑えて飛んでいく。その道中、ゴーラは身を乗り出して彼にこう聞いた。

 

『リュウトさん……』

 

「どうしたの?」

 

『リュウトさんは……辛くないんですか?』

 

「えっ?辛いとは?」

 

『マリアさんから聞いたんです、あなた達の事を……』

 

夜中にあったこと、マリアが自分に話してくれたことをそのまま話す。

 

「まさか水樹が……」

 

『あの時のミズキさんの表情からは凄い憎悪が込められていました。しかし彼女の境遇を考えると仕方ないかもしれません……』

 

彼も愛美の行動を否定することはできない。もし他の者も彼女と同じ立場なら、そういう凶行に及んでも全くおかしくないからだ。

 

 

『やっぱり……許せないですよね、あなた達にこんな酷い思いをさせて……全く事実を知らなかった自分が凄く情けないです……』

 

――すると、

 

「俺も水樹と同じで、確かに俺の親や友達、日本の人々にあんな目に遭わして殺した爬虫人類を絶対に許さないし一生許せないと思う。けどだからって全く無関係の君まで憎む気はないし、寧ろ君のような話の分かる子に出会えて凄く嬉しいよ。それにさ、許せないからこそ、どうにかして向こうと話をつけたい気持ちもある。

 

もう俺達みたいな人間、そして悲劇を増やすワケにいかないからさ――だから」

 

彼女は彼の思いを聞いて幾分か救われる。

 

『リュウトさんの決意を聞いた以上、私はこれ以上いじけているワケにいきません。

お父様にどうにか話をつけないと……』

 

「……ねえ、君のご両親ってどういう人なの?」

 

『……お母様はもうこの世にいません』

 

「あ、ごめん……聞いてはいけなかった?」

 

『いいえ、私が小さな時に病気で……お父様については、厳格で怒りっぽい人かなと。

けど、私達爬虫人類のために心から尽力する尊敬できる人です』

 

「君のお父さんってそんなに凄い人なのか……っ」

 

『はい。リュウトさんのお父上はどのようなお方だったのですか?』

 

「……母さんが肝っ玉系だったから張り合いにいつも負けてたけど凄く優しかったな。

いつも俺の味方になってくれたし、それで母さんから『あの子を甘やかしすぎだ』って言われてたくらいだからね。

今考えると確かにそうだったなと思うなあ、俺自身弱気な人間だしね。

けど毎日が楽しかった。母さんは自分達を引っ張って行ってくれる頼もしい人だったし、行きすぎを抑えるのは父さんの役目だったから釣り合っていたんだよね」

 

 

彼は両親の話になると凄くハキハキと語り出す。それから彼が親を誇りに思うことがよくわかる。

 

 

「だから俺も……両親の子供でよかったと本当に思うよ――」

 

親を失って辛いと思うのにそんな面を少しも見せないで笑顔で答える彼にゴーラはこう思った。

 

(リュウトさん、あなたは本当に強いお方です。私もあなたを見習いたいと思います)

 

そんな時、レーダーにメカザウルスの反応が入る。数は一機……間違いない、ラドラだ。

 

「ゴーラちゃんっ、準備はいい?」

 

『いつでも大丈夫です、ラドラ様に私がこの中にいることを伝えましょう』

 

一方、ラドラも近づいてきているのが竜斗の乗るゲッターロボだと知るが、自分の知らない間に姿が別物になっていることも。

(あのゲッター線の機体なのか……しかし一機だけとはどういうことだ……決闘か?)

 

しかしアルヴァインは武装しておらず、寧ろ何もない平地へ向かい飛んでいく。ラドラも警戒しつつ追っていく。

 

(何がしたいのだ……)

 

そしてそこに降り立つアルヴァインは不動の姿勢を取る。まだ警戒するラドラだったが、何かに気づいた。

 

(機体の口から何かが出てきている)

 

拡大すると、そこには前に自分に何か叫んでいた地上人類の男と隣には捜していたゴーラの姿をモニターで目撃し、唖然となった。

 

(ゴーラ様……なぜ……)

 

ワケが分からない彼だが、一度冷静になりゆっくりと自分も機体を地面に着地させた。

ゼクゥシヴも同じく不動の姿勢をとり攻撃する気配などないようだ。そのまま様子を見ると、向こうから声が聞こえるので拾うと、

 

“聞こえますか、僕はただこの子を返しにきただけです。安心してください”

 

「…………」

 

まさか彼女を送りにきてくれたのかと……しかし万が一、罠の可能性もあるかとやはり警戒心がとれないラドラだったが、

 

“ラドラ様、この方は海に漂流していた私を保護してくれ、治療も施してくれました。どうか信用してください”

 

彼女の実声が聞こえた。彼は考えた後、覚悟を決めてコックピットを開けて姿を見せた。

 

『ラドラ様……応じてくれたのですね……』

 

そしてついにこの時が。地上で竜斗、ラドラは対面し、彼女を向こうに渡した。盗聴器や何かつけられていないか確認する彼を竜斗はじっくりと彼を見つめる。

 

(この人がラドラさん……)

 

ほぼ人間の顔立ちであるゴーラと違い顔は、口先の長くザラザラしてそうな皮膚、ワニかトカゲの顔をしたまさに爬虫類の顔だが、パイロットスーツ着だが体の引き締まったその身体の構造は自分達人間そのもの……正に爬虫人類の名に恥じない外見である。

ただの爬虫類にない黒い鶏冠のような髪を生えていることから彼らは進化した種族なのだと分かる。

そして何もつけられてないことを知ると、ラドラは律儀にも彼に頭を下げた。

 

『この方を無事に届けたことに感謝し礼を言いたい、本当にありがとう』

 

 

 

「ど、どういたしまして……」

 

怖そうな外見に反して紳士な態度に正直驚く竜斗。

『キャプテン』という爬虫人類のエリート戦士と聞いていたが、敵であろうがちゃんと律儀に礼を言えるのは立派だと感心した。

 

『ではゴーラ様、行きましょう。ゴール様がまっておられます』

 

『はい……』

 

彼女も丁寧にお辞儀してゼクゥシヴに乗ろうとした時だった。

 

「あ、あの……っ」

 

竜斗に呼び止められて二人は立ち止まった。

 

「ぼ……僕はもうあなた達と戦いたくありません!」

 

大声でそう伝える彼にラドラの顔は一変した。

 

「ど、どうにかして戦争を止められないんですか……僕達はどちらかが滅ぶまで戦うしか方法はないんですか……?」

 

 

その悲痛な本音を震える声で伝える竜斗。

 

「だけど僕はもうイヤなんです、どっちも傷つき、死ぬ姿なんか見たくないんです……僕達はただ、平凡に生きたいだけなんです……」

 

しかしラドラは無言のまま彼女をゼクゥシヴに乗せると自身も乗り込み、そのまま上空へ飛び去っていったのだった。

 

竜斗は去っていくゼクゥシヴの後ろ姿を見て、少しでも思いが通じていればと切実に祈るのであった。

そしてゼクゥシヴのコックピット内では、彼の本音を聞き、何も言わず黙り込む二人だったが、先に沈黙を破ったのはラドラだった。

 

「……ゴーラ様、私はこんな時代に生まれなければよかったなと思います」

 

「ラドラ様……」

 

「あの少年と再び会えば、残念ながら現状では戦う以外他ないでしょう――ゲッター線に敵対する、我々爬虫人類に課せられた使命、十字架のようなものです。

だからこそ私はあのような言葉は聞きたくなかった、彼があんなことを言わなければ思う存分戦えるのに……」

 

彼もまた竜斗の叫びが届いており、本当にこれでいいのかと葛藤させていたのであった。

 

「……それでも私はいつか、互いが友好を結ぶ日が来ることを信じ、そうなるよう努力します……ラドラ様、あなたもそれが分かるはずです」

 

「ゴーラ様……」

 

「実は保護されている短い間に彼、リュウトさんとその仲間の人達と、差し支えのないことですが色々と話を交わしました――それで彼ら地上人類と友好を深めたいと一層感じました」

 

「リュウト……あの少年の名ですか?」

 

「はい。あなたと似ている方でした、優しく良識的で……先ほどでも分かりましたよね、彼は心から私達と共存を望む人物だと――これ以上の悲劇は食い止めなければなりません」

 

「…………」

「これから私はお父様に説得を試みます。戦争をやめるべきだと、そして同じ地球人類同士和平を結び、共に地球で生きていくべきだと。

恐らく一筋縄にはいかないでしょうが、それでもやらなければなりません。希望がある限り……」

 

ゴーラの決意は本物だ――彼もそうなるのなら願ったりであるが、それでもしかすれば彼女に何か危険が及ぶのではないか、それが一番心配で、そして今の自分ではどうすることもできない立場であることを嘆くのであった――。

 

 

マシーン・ランドへ帰還しゼクゥシヴを格納すると二人はすぐにゴールの元へ向かった。

途中、彼女が無事に戻ってきたことによる喜びと安心、そして見事連れ帰ってきたラドラへの祝福の声が上がった。

 

 

王の間に入り、待機しているとゴールがやってきてついに親子は対面した。

 

「ゴーラ……っ!」

 

「お父様っ!」

 

二人は親子として抱き合い喜びあったのだ。そして膝を地面につけて頭を下げているラドラに目を向けてご機嫌な態度でこう伝えた。

 

「ラドラよ、よくぞ我が娘を無事に連れ帰った、誠に礼を言うぞ」

 

「はっ、ありがたき幸せっ」

 

「二度とこのような事が起こらぬようにゴーラ直属の親衛隊を結成しようと思うのだが……ラドラよ、その功績に讃えてそなたを親衛隊長として任命したい」

 

二人はそれを聞き驚く。

 

「お父様……それは本当ですか……っ?」

 

「ああっ、お前もこれからラドラと一緒にいられて嬉しかろう」

 

「……はいっ凄く嬉しいです!」

 

「どうじゃラドラよ、引き受けてくれるか?」

 

同じくラドラには断る理由などなかった。

 

「私はこれ以上のことなどありません、喜んでゴーラ様にお仕えしたい思いです」

 

「では決まりだ。他の者は後で決めておく。ラドラよ、ゴーラを頼むぞ!」

 

「例えこの身が朽ちようと彼女をお守りいたしますっ」

 

……二人にとって願ってもないことに喜ぶゴーラ達だった、ラドラが彼女自身に仕える騎士(ナイト)に任命されたのだから。

 

彼は任じられた後にゴーラの元に向かい跪く。

 

 

「ゴーラ様、何なりとご命令を」

 

「ラドラ様……私はあなたに守ってもらえることを、そしてあなたといつも一緒になれることをどれほど待ちわびたことでしょうか。

では私から最初の命令を伝えます――」

 

「はっ」

 

すると彼女は優しく微笑んでこう言った。

 

「私と二人きりの時だけは『ゴーラ』と呼んで下さい」

 

「え……っ」

 

「私もその時はあなたを『ラドラ』と申します。それほど私達は親密な仲だということです、受け入れてくれますか?」

 

戸惑う彼だったが、考えた末、頷いた。

 

「承知しました」

 

「ではラドラ、これからどうぞよろしくお願いします、頼りにしてますよ」

 

「こちらこそ、ゴーラ……ん?」

 

「……ぷっ……っ」

 

様をつけない名指しに慣れないのか変な感じになり、可笑しくなり吹き出した二人は今、幸せそうな表情であった。

 


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