ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十話「ファーストコンタクト」④

その目からは明らかな敵視、殺意のこもっている愛美に危険を感じるゴーラ――。

 

『あなたは……一体誰ですか……』

 

「…………」

 

ゴーラの問いに全く無反応の愛美。しかし、彼女はおもむろに懐から何かを取り出すがそれは……。

『ひいっ!』

 

それは包丁……右手に持ちぐっと握り締める彼女は今から何が行われるかと思うと寒気が襲う。

それはゴーラもしかり、恐怖した彼女は後退りして昼間教えてもらった呼び出しボタンを押した直後、愛美はベッドに乗り出し彼女に包丁の先端を向けた――。

 

『や、やめて……っ』

 

「マナのパパと……ママの……黒田さんのカタキ……っ!!」

 

彼女から感じるのは激しい憎悪、今にも思いを遂げたい気持ち、それしかなかった。怯えるゴーラの顔に刃を押し込もうと手の力をぐっと加えた――。

 

「…………」

 

しかし、刃が突き刺さる寸での所から愛美はこれ以上力を加えなかった、というより加えられなかった――。

目の前にいるのは自分の憎む爬虫人類、しかし皮膚以外は自分達となんら変わりない、殺されると怯えるただの少女……流石の愛美もその一線を越えることは出来なかった。

 

「マナミちゃんっ!!?」

 

駆けつけたマリアはその光景に仰天、愛美を掴んで引き離した。

愛美は包丁を床に落とし、マリアを振りほどき部屋の入り口へ――その時、彼女はボソッとこう呟いた。

「マナは……アンタ達を絶対に許さないから………」

 

そう言いふらっと出て行った――。マリアはすぐにゴーラの元に駆け寄り何をされたか聞くと、本人もやっと冷静さを取り戻し、首を横に振る。

 

『何もされていません、大丈夫です。しかし彼女は一体……』

 

「……聞けばあなたは絶対に胸が苦しくなるわ、やめておいた方がいい」

 

『教えてください、彼女に何があったのですか?』

 

……マリアは全てを話した。彼女達の友達、両親、そして同じ国の人達が爬虫人類の実験に晒されて犠牲になったことを、それで愛美は爬虫人類を死ぬほど憎んでいると――。

それを聞いたゴーラは心が割れたような絶望感に襲われて、顔が死人のように白くなった――。

 

『……私は初めてその事実を知りました……なんてことを……っ』

 

「…………」

 

『……彼女は恐らく一生私達を許してはくれないでしょう、どんな言葉をかけてやればいいか分かりません……本当にごめんなさい……ごめんなさい……っ』

 

どうすることも出来ない悔しさと悲しさからまた泣き出す彼女にマリアは、まるで我が子のように慰めようと抱き寄せて優しく頭を撫でた。

 

「……私達だって人の事言えないわ、メカザウルスに乗っていたあなた達爬虫人類のパイロットを研究のために解剖したの。

戦争は怖いわね、互いが勝つために非人道的な行いを平然とやるんだから――」

 

『…………』

 

「私達はあなたのような考えを持つ人間が敵側にもいたと分かっただけで凄く嬉しかった。

エミリアちゃんや竜斗君を見る限りあんな目に遭ってもあなた達と仲良くしたいそうだし、どうかそれだけは分かって……」

 

『だといいのですが……』

 

「それにマナミちゃんだって、いつか分かってくれると思う、根は凄く優しいから――」

 

するとゴーラは甘えるような潤んだ眼でマリアの顔を見つめてこう言った。

 

『マリアさん、あなたはまるでお母様みたいです……』

 

「……えっ……っ?」

 

『……私のお母様は私の物心つく前に亡くなったんです。だから記憶に全くないのですが……けど、どこか懐かしく暖かいぬくもりを感じます』

「ゴーラちゃん……」

 

……まるで子供のようにギュッとしがみついてくるゴーラに、もしかしたら幼い頃から辛い思いをしてきたのかも、だからこんな若さでこんなにしっかりしているのか、と長年の経験からの勘から、

 

『彼女は本当は子供みたいに親に甘えてみたい気持ちを持っている』

 

そう感じたのだった。

 

……マリアは凄く嬉しかった。

こんな異種族の少女が自分を母親として感じてくれるのは。そう言われると自分の母性が一層強まった。

 

「……じゃあ、あなたが今から安心して眠れるようについていてあげるわ」

 

『いいのですか……っ』

 

「ええ、それに私がいるからもうあんなことにはならないわ」

 

『ありがとうございます……』

 

 

 

ゴーラを再びベッドに寝かせて隣に添い寝するマリア。

安心させるように彼女の身体に手をおいてポンポンしながら、子守歌を優しく歌うと彼女も安らかな気分になった。

 

(私、もっとここの人達と仲良くなりたい、そして一緒に平和に向かえるように協力したい)

 

目を瞑りながらそう強く感じている内に眠ってしまうゴーラ。そんな彼女を見届けるとベッドから降りるマリア。

その、年相応の可愛らしい寝顔を見ると、自分達と変わらないと再認識する――。

 

(……こんな優しい子の笑顔を奪うこんな戦争……私達は一体何をやってるのかしら……)

 

急な虚しさに襲われるマリアはその後、彼女は明かりを消して、医務室に鍵を掛けて出て行った――。

 

 

……その頃、マシーン・ランドではゴールは彼女がいなくなったことに気づき、慌てて緊急手配かけていた。

 

「ゴーラ……」

 

愛娘がいなくなったことに絶望し、焦りや怒りを通り越して意気消沈する顔はまさに父親である証拠だ――。

 

「ご、ゴール様、今ラドラ様や他の者も総出で捜索していますから必ずや――」

 

「悪いが、今は一人にしてくれ…………っ」

 

側近が必死で慰めようとするも一向に明るくならないゴールに困り果てていた――この場に一人きりになる彼は、ふとこう呟いた。

 

「なあリージよ、わしはこういう時はどうすればよいのじゃ……?」

すでに亡くなっていていないラドラの父で自分の唯一の信用できる友であったリージにそう問いかけるも答えなど帰ってくるハズはなかった――。

その息子のラドラも一旦、マシーン・ランドに戻っており、開発エリアにて整備を受けるゼクゥシヴの足元で意気消沈していた。そんな彼の隣にはガレリーが彼とは対処的にゼクゥシヴを下から眺めている。

 

「ガレリー様、私はどうしたらよいのですか……」

 

彼女が見当たらないことに対しすでに弱気になっている彼に対し、ガレリーは、

 

「ラドラよ思い出せ。お前の父、リージはそんな弱気な顔を見せる男だったか?」

 

「…………」

 

「もしかしたら陸地に上がって、安全のどこかに隠れているのかもしれん、最後まで諦めるな――だが、もしかしたら地上人類に捕まっているという可能性もあるがな」

 

 

するとガレリーは、彼にあの小粒状の翻訳機を渡す。

 

「これは……」

 

「翻訳機だ。飲み込むことで地上人類と会話することができる。

今度は陸地へ向かい、何とかしてヤツらから情報を引き出せ」

 

「…………」

 

「ラドラよ、なんでワシがそなたにここまで気を使うか。

それはわしもリージの親しい仲だったからじゃのう」

 

「ガレリー様……」

 

「頼むからこれ以上ワシを失望させないでくれ。ラドラよ、お前は父親の血を濃く引き継ぐ子じゃ、やればできる!」

 

ガレリーからそう言われて弱気だった顔がキリッといつもの凛々しい顔立ちに戻った。

 

「了解っ!」

 

すぐさまそれを飲み込む。二時間後、ゼクゥシヴの整備が終わり、再び搭乗して再発進したラドラ。

 

(父さん……次こそは必ずゴーラ様を発見できるように力を貸してください……っ)

 

その思いを胸に再びアメリカ大陸へ飛んでいった――。

 

 

……そして朝一番、ベルクラスに通信が入る。それはアメリカの領空圏に一機のメカザウルスが侵入したと聞き、すぐさま早乙女はモニターに出すとラドラの乗るゼクゥシヴがこちらの方向へ近づいてくるのが分かる。

 

 

しかしこれはチャンスだと思い彼は竜斗、そしてゴーラを呼び寄せる。

 

「前に戦ったあのメカザウルスだ……てことはあの中にラドラって人が……」

 

『間違いなくラドラ様です。あの機体はラドラ様以外には操縦できないと聞きます……』

 

「じゃあ多分、君を……」

 

彼らはすぐに彼女を必死で捜していると分かる。

 

「竜斗、今すぐパイロットスーツに着替え、この子をゲッターロボに載せて発進しろ」

 

「…………」

 

「なぜ君を呼んだか分かるな?それは君なら一番安心して彼女を渡せるからだ」

 

何故なら竜斗は一度向こうと接触を試みた人間だ、しかも前と同じ相手なら彼が彼女を引き渡すのに最も適任だ。

 

「……分かりました。ゴーラちゃん、行こう。今しかもう君を返すチャンスは回ってこない」

『……分かりました』

 

「マリア、彼女の服は?」

 

「すでに洗濯して乾かしました。今すぐ持ってきます」

 

「彼女を連れていき、着替えさせてから格納庫へ行ってくれ」

 

「了解、ゴーラちゃん行くわよっ」

 

 

『はい。サオトメさん、本当に短い間でしたがご親切感謝いたします』

 

彼女に深くお辞儀されて、彼も優しい笑みを見せる。

 

「また会えるといいな、君ならいつでも大歓迎だよ」

 

『私も、次に会える日が本当に楽しみですっ!』

 

すぐに彼女はマリアと共に出て行った後、早乙女は竜斗にこう伝える。

 

「これは戦闘ではなく彼女の引き渡しが最大の任務だ。

しかしもしかしたら向こう側はどんな手段を使うか分からんが向こうから攻撃を仕掛けてくるまでは絶対に手を出すなよ。

もし何かあっても私達がついているから心配するな、彼女を頼んだぞ」

 

 

「はいっ、けど司令?」

 

「どうした?」

 

「失礼ですがあなたがゴーラちゃんに対して優しかったのは意外でした」

 

「何を言ってる、私はいつでも心は善人だ。分かるだろ?」

 

「……ハハっ、そうですねっ」

 

軽い笑みの二人。そしてすぐに竜斗は格納庫へ向かった。

到着するとすぐにパイロットスーツを着用すると同時に、マリアとエミリア、そして紫色のローブに着替えたゴーラが駆けつけてきた。

 

「リュウト、もうゴーラちゃんが向こうに行っちゃうんだね……」

「けどこのままいてもいけないからね、ご両親が心配するだろうし……」

 

そして竜斗達はやはり愛美がいないことに気づく。

 

「一応マナミちゃんに部屋のドア越しから伝えたけど「行かない」って……」

 

しかし、これはどうしようもないことだとすでに分かっていたことだ。

 

「じゃあ、ゴーラちゃん行くよ」

 

『はい。皆さんほんの僅かの間でしたが本当にありがとうございました、このご恩は一生忘れません』

 

するとエミリアは笑顔で手を振って見送った。

 

「また会えるといいね、アタシ待ってるから――!」

 

『エミリアさんもお元気で――』

 

マリア達が格納庫から去った後、ゴーラをコックピット座席の後部に乗せ、竜斗は座席に座りシステムを起動させてハッチを閉める。

 

テーブルが外部ハッチへ移動し、固定するとハッチは開門。寒い朝の空気が格納庫内を満たした――。

 

“出撃するのは竜斗、君だけだ。向こうへ攻撃の意思はないと伝えるために私がここの部隊に適当に丸め込んでおいた。後は全て君に任せるぞ”

 

「ありがとうございます。ゴーラちゃん身体に力を入れて!」

 

『はいっ!』

 

そして――。

 

「石川竜斗、ゲッターロボSC『アルヴァイン』発進します!」

 

カタパルトを射出されて外へ飛び出したアルヴァインはゲッターウイングをすぐに展開し、空高く飛翔しラドラのいる位置へ飛んでいった。

 


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