ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三十話「ファーストコンタクト」②

竜斗達が現場に到着した時にはすでにもぬけの空であった、辺りを見渡しても何もいない。一体なんだったのかと疑問に思う者、せっかく寝ていたのに無駄骨折らせやがってと思う者と様々だ。

 

「異常はない、帰還しよう――」

 

出動が無駄骨だったと各機は去っていく。竜斗も本土方向へ向いた時だった。

 

「……あれっ?」

 

3Dレーダーの下部に微かな生体反応がある。モニターで下方を見ると、海面に何か浮いているのが見える。ズームするとそるは……。

 

「ひと……か?」

 

アルヴァインはすぐさま海面近くに降下する。再びモニターを見ると木板のような物にしがみついている人がいる。しかし動かない様子を見るとどうやら気絶しているようだ。

 

「お、おんな、の子……?」

 

小、中学生ほどの少女に見えるが、しかし彼は目を疑った。

皮膚が人の色ではなく緑色で手の甲や顔には鱗が生えており、服は紫色のローブのような、何か高貴な服にも見える。

 

(人間……じゃない……っ)

 

……前に早乙女に見させてもらった写真に写る爬虫類の人間の姿が頭によぎる。まさかこの女の子がその――。

 

彼はこのままにしておくワケにいかないと、すぐさまアルヴァインの腕にその女の子をすくい上げてコックピット内に入れ込む。

身体中海水で濡れており磯臭く服が水を吸ってかなり重い。そして寒いのかブルブル震えているので彼は暖まらせようとコックピット内の温度を高めに設定した。

 

そして発進し、すぐに仲間と合流する。

 

“君だけあの場に残ってたが何かあったのか?”

 

仲間のパイロットから通信が入る。彼女のことを言おうとしたが、何か嫌な予感がしたのであえて、

 

「そこに生体反応がありました。しかし、どうやらただの海水魚だったようですっ」

 

“そうか、分かった”

 

パイロットはそれ以上聞かずに通信を切る。彼はホッとし、膝下に眠るその女の子を観察する。

 

――女の子の腕や顔に触れてみた。奇病かと思うも、幼い頃に遊んでいる最中に捕まえたトカゲのようなザラザラした皮膚の感触にそっくり……本物の鱗に見える。

しかし顔立ちは自分達人間と全く同一であり、その四つ編みにされたツインテールの金髪も相まって可憐に見えるようにまだ幼く見える。

紫色のローブのような服には見たことのない高貴そうな紋章が縫い付けてある。

果たして彼女は一体誰なのか……そしてなんであんな所に漂流していたのか……急に知りたくなってきた――。

 

……竜斗は帰還し、ベルクラスに機体を格納するとすぐさまマリアを呼び、事情を話して女の子を医務室に運ばせる。

マリアはその女の子を見て当然驚愕、唖然となったが本人はかなり身体が弱っているみたいで命を消させるわけにいかないとすぐに医務室で治療を始める――。

 

隣の待機室で三人は集まりその女の子について話をする。

 

「あの子もしかして……」

 

「うん……恐らく例の爬虫類の人間だと思う……」

 

「初めてみたけど……案外アタシ達と変わらない容姿なんだね」

 

そんな中、愛美だけは不機嫌そうな表情だった。

 

「水樹、どうした?」

 

「……なんであんなキモい人間を助けたのよ。そのままどっかに流されればよかったのに」

 

その情などない発言に彼はカチンときた。

 

「……なんだよその言い方は、死にかけてたのにキモいやら流されればよかったと言うなよ、無神経すぎるぞ!」

 

「だってキモいんだからしょうがないでしょ、マナは爬虫類なんかだいっきらいよっ!」

 

「それでもお前、言っていい言葉と悪い言葉があるだろうがっ!」

 

珍しく二人が口論を始め、エミリアはすぐに仲介に入る。

 

「ミズキ、そこまでヒドいこと言うことないじゃないっ」

 

すると愛美は涙目になり、ぶっきらぼうでこう答えた。

 

「じゃあ言うけどさ、あれが爬虫類の人間だったら何も感じないの、思わないの?

思い出しなさいよ、マナ達のパパやママ、友達、そして黒田さんや日本の人達はあいつらによって無惨に殺されたのよ!」

 

「…………」

「そんな爬虫類の人間の女を庇うなんて頭おかしいんじゃない?!

あんな悪魔のようなヤツらは死んで当たり前じゃないっ!」

 

愛美からは爬虫人類に対する憎しみしか感じられない。まあ確かにあんな目に遭えばそう思うのは仕方ないことだが。

 

「俺だって水樹の気持ちは凄く分かるしあんな酷いことした爬虫類の人間を許さないよ。

だからってあの子のせいかどうかも分からないし、それにさっきも言ったけど今にも危ない子を助けてなにが悪いんだよ、命は命だよ」

 

「……イシカワ、敵に情をかけるなんてアンタは底なしのお人好しね。前言撤回するわ、アンタはリーダーに向いてない」

 

「何とでも言えよ、お人好しで何が悪いんだよ。

俺からすれば事情はどうあれあんな小さな子を助けない方がよっぽどおかしいよ」

 

しかし愛美は考え改めずにそっぽ向く。

 

「もういい、マナはあんな人間を見るのもイヤだからねっ!」

 

彼女は一人カンカンで出て行く。その場に取り残される二人は深く溜め息をつくのであった。

 

「けど確かにミズキの気持ちは分かるよ、アタシだって……」

 

彼女の言い分は間違ってはない。そもそも爬虫類に嫌悪感を持つ彼女に、ましてや自分達の親や友達、いや捕らえられた人々全員が奴ら爬虫人類によって見るも無惨な末路を辿ったのだ、憎んでも憎みきれないほどだろう――。

「けど、だからって助けないのは間違ってると思う。たとえ俺がお人好しだと言われても……」

 

彼は今はただ、彼女が回復してくれることを望む。

そして何者か、なぜあんな所にいたのか、など話してみたい気持ちでいっぱいだった。

 

そんな時、マリアが疲れた表情で待機室へ入ってきた。

 

「マリアさん、あの子は……」

 

「……一応処置は施したけど確実とは言い切れないわね。なんせ身体の構造が私達人間と異なる部分が結構あるから」

 

「やっぱりあの子は爬虫類の……」

 

「そうよ。だから後は神に祈るのみね……」

 

すると、竜斗は。

 

「マリアさん、女の子についてはここの人に言わないで下さい。万が一にでも知られたら――」

 

 

「解剖、実験体にされかねないわね。わかったわ、しばらくはここで休ましときましょう。ところでマナミちゃんは?」

 

彼女と何があったか話すとマリアは気難しい表情を浮かべる。

 

「きっと憎しみがぶり返っているのね、こればかりはどうしようもないわ。

確かに言い方は悪いけど否定はできないからね、しばらくそっとしておきましょう」

 

その後、竜斗とエミリアは女の子が目が覚めることを信じて交代で付き添うことにした。

 

――僕達は人類が成し遂げられなかった第一歩を踏み出すことになる。

地球に存在する、もう一つ別の人類である『爬虫人類』であるこの女の子との対話だ。

 

……まさかこんなひょんなことから彼女と巡り会えるのは未だに信じられなかったが――未知との遭遇。

科学者や技術者でもないただの人間である僕は誰にもない地球上で最初の貴重な体験をすることになる――。

 

 

「…………」

 

数時間後、ゴーラはふと目覚める。四方にカーテンがかけられた異質で未知な空気、空間、景色……マシーン・ランドではない無機質な金属で溢れている。

ツーンと薬の臭いがして、そして自分の今いる場所がベッド、そこが医療に関係する場所と理解する。

 

そして肌寒い……自分のいた場所よりは十度ほど低く感じる――。

着ている服も普段着のローブではなく患者着である、誰かが助けてくれたのか……と隣を見ると。

 

「っっ!?」

 

そこには爬虫人類ではない、猿から進化した地上人類の男性がいた。どうやらうたた寝しているみたいだが――。

 

(ここ、どこ……どうなってるの……)

 

彼女にはさっぱりワケが分からない状況、今すぐにも逃げ出したいが、寒さからか身体が言うことを聞いてくれない。

その時この部屋のドアが開き、こちらへ誰かがやってくる。 カーテンを開けると地上人類の女の子がいた。

 

「リュウト、交代し……」

 

 

エミリアだった。しかし二人はついに顔を合わせて沈黙が走るが……。

 

「「ひいいいいっ!!」」

 

二人は大声を上げた。ゴーラは布団に潜り込むように隠れ、エミリアはそこから飛び出すように逃げていった。

 

「……あれ、エミリア……?」

 

竜斗はふと起きて、眠たい目をこする。前を見ると掛け布団がもぞもぞと動いている。

彼は不思議に思い、布団を取るとゴーラは怯えに怯えてうずくまっていた。

 

「あ…………」

 

竜斗は一気にもの凄い緊張が走る。

ついに目覚めた、初めて対面する爬虫人類の女の子に顔が真っ赤になり、心臓の鼓動がドクドク――と小刻みに早くなった。

「あ、あの……」

 

彼女に声を掛けるがヒドく怯えて固まっている。

しかしどうにかして緊張を解いてあげなきゃ、と彼は決死の覚悟でこう言った。

 

「ぼ、僕の言葉がわかりますか……」

 

彼女に怖がらせないように彼なりに優しく尋ねてみる。

「ぼ、僕は何もしないから……話が分かるならどうか怖がらないで……」

 

すると翻訳機の効果が発揮し彼女に彼の言葉が変換され、シュオノアーダとして聞こえた。

 

すると震えが少しずつ止まっていく。ゆっくり顔を上げて彼を見つめる。

――種族独特のまるで宝石のような紅の、そして猫眼をしている彼女は震えながらもゆっくりと口を開いた。

 

 

『わ、私の言葉が分かりますか……?』

 

言葉が通じた、聞き入れた竜斗は大喜びで頷いた。

 

「君も僕の言葉が分かる?」

 

『……はいっ、分かります』

 

……二人は凄い安心感に包まれた。どうやら無事に互いの話が通じたようだ。

 

「助かってよかった……もしなんかあったらどうしようかと……」

 

『あのう……私に一体何があったのかわかりません……どうやって私を……』

 

「君は近くの海で漂流している所を助けたんだ、危ない状態だったからここに運んで治療してもらったんだ」

 

『……そうだったのですか。本当にありがとうございます、感謝の気持ちでいっぱいです』

 

どうやら敵意はないと分かり、互いはもっと安心する。

 

「先で悪いけど君の名は……?」

 

 

『私はゴーラと申します、本名はゴーラ=ブ=ライ』

 

変わった名前だ。確かに自分達人類には珍しいと思う。

 

「俺は石川竜斗」

 

『イシカワ……リュウト……変わった名前ですね……』

 

「俺も君の名前を聞いて凄く珍しいと思うよ」

 

二人は何故かおかしく思い、そして安心からかクスっと笑った。なんだかんだでもう打ち解け合っている二人は流石である。

 

ちょうどそこにマリアをエミリアがマリアを連れてやってきたが、すでに二人で普通に会話しているその姿を見て唖然となった。

 

「ワオ……もう普通に話してる……すごいリュウト……」

 

「ええ……こればかりは私も流石だとしか言いようがないわっ」

 

後ろにいる二人の存在に気づき、彼は振り向いた。

 

「安心して、二人は僕の仲間だから。

エミリアにマリアさん、この子は僕らに敵意はないから大丈夫だよ」

竜斗を信じてエミリア達は恐る恐る近づくも、すぐに挨拶と自己紹介を交わし、そこでやっとお互いに安心だと実感した。

 

『あなたが私を治療してくれたのですね、誠にありがとうございます』

 

マリアに深くお辞儀するゴーラ。

 

「い、いいのよ、それよりも助かってよかったわ。

ところで今、身体に不都合なところはあるかしら?」

 

そう聞かれると彼女は身を抱えて身震いしている。

 

「寒いの?結構室内温度を高めにしてあるけど」

 

『……今の室内温度はあなた達地上人類には適温のようですが、私のような爬虫人類にとっては少しばかり寒いです。申し訳ないですが少し温度を上げて頂けないでしょうか――』

 

やはり彼女は自分達と違う種族だと実感する。

それに『地上人類』、『爬虫人類』という竜斗達にとって聞き慣れない言葉も出てくる。これは彼女から色々と貴重なことが聞けそうだ、竜斗達は興味がさらに湧き出してきた。

 

 

 

――案外楽に通じ合い呆気を取られた。僕は驚きつつも彼女、ゴーラが話の分かる人物でよかったと本当に思っている。もし襲いかかってきたのなら間違いなく僕はなすすべなくやられていただろう。

そして僕は彼女に、いやこんな出来事に巡り会えたことに凄く感謝する。

もしかしたら和平について話し合えるかもしれないと思ったからだ、その希望を頼りに僕はさらに足を踏み入れようとした――。

 


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