ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十九話「合流」④

――次の日から、エリア51内の区域だけでなく、区外にも進出して最終的なスペックデータを取るのと操縦に完全に慣れることもふまえて、僕はゲッターロボ……いや、ニールセン博士の名付けたアルヴァインの操縦テストを何度も行った。

空戦型ゲッターロボとは比べ物にならない凄まじい力を持っており、確かにそこから自信と勇気が湧き水の如く溢れ出す。

だがあの時のような強烈な『破壊的な欲望』に駆られることは全くなかった。

あれは一体なんだったのか――そして多少であるがゲッターロボに対する不信感を持つようにもなっていた――。

 

その一方で、エミリアも完成したゲッターロボの操縦テストを兼ねた訓練を監視の元、エリア51外の広大な雪の大地をターボホイール・ユニットを駆使してグルグル高速滑走していた。

 

ほとんどパーツを変えたアルヴァインとは異なり、右腕だけ変えただけなので彼女もいつも通りの感覚で扱えるかと思いきや、アルヴァインと同じく機体の性能を見直し改良されたため段違いに推進スピードや反応速度が上がっていたために、そして久しぶりの実機での操縦もあってか最初は苦労し、何度も地上に転倒してゴロゴロ転がるも、何度も立ち上がり訓練して徐々に機体の感覚に慣れていくエミリア。

 

(リュウトとミズキに追いつくためにアタシ死ぬほど頑張らないとっ!)

 

最初は何度も転ぶ姿を見て笑う者もいたが徐々に、泣き言を言わずに何度も立ち上がり……まるで補助輪を無くした自転車を乗る訓練のようなコトを繰り返して上達していく彼女の努力に全員がまるで惹かれるように注目し、応援の声まで挙がっているほどだ。

 

そしてもう完成に機体の操縦をモノにして帰還した際には大勢の人達から盛大な拍手と喝采が贈られた。

機体を格納して降りると竜斗達がそこに出迎えていた。

 

「おかえりエミリアっ」

 

「リュウトっ!」

 

嬉しさのあまりにエミリアはおもむろに彼をギュッと抱きしめた。

 

「エミリア……キツい……っ」

 

「あ、ごめん……」

 

我に帰り、すぐに彼を離す。

 

「エミリアちゃん、よく頑張ったわね」

マリアからもお誉めを頂き、照れた。

 

「ありがとうございます……けどあんなに凄まじくなってるとは思ってもなくて……」

彼女も竜斗と同じ感想を言い、全員が納得する。

 

「あ~あっマナだけつまんない……早く出来ないかなあ」

 

すると、

 

「ミズキ、なら今からこの機体に乗ってみる?」

 

「え、いいのっ?」

 

エミリアの提案で今度は愛美も彼女の機体の操縦テストをすることになり、すぐさまパイロットスーツに着替えてくる。

だがその、耐圧性を無視してそうな、なんというか……派手で奇抜、実用性よりも色気重視であるパイロットスーツはそれを見た施設の人間はギョッとなっていた。

コックピットに乗り込み、そして再び格納庫から地上に飛び出るゲッターロボ。だが――、

 

「ギャアアアッ!」

 

さすがの愛美も強化されたターボホイール・ユニットを展開して発進した途端にバランスを取れずに豪快に前転して機体は地面に叩きつけられた。

 

“み、ミズキ大丈夫っ!?”

 

「あ、アンタよくこんなの使い慣れたわね……」

 

……しかし何だかんだで結局すぐに愛美も殆ど乗りこなすようになり、気がついたら縦横無尽に動き回っていた。

 

“ヤッホー、やっぱりマナ天才だわ~っ”

 

「…………」

 

あれだけ苦労して使いこなしたのにあっさり彼女に抜かれてすごく悔しくなるエミリアだった。

 

「なあエミリア、ゲッターロボに乗ってた時に何か感じなかったか?」

 

「何かって?」

 

「興奮ていうかなんていうか……物凄い衝動的な、危ない気持ちみたいなの――少しでも湧いた?」

 

 

竜斗からそう聞かれるも彼女はキッパリと首を横に振る。

 

「……全然そんなのなかったよ、早く乗りこなさなきゃっていう気持ちだけならあったけど」

 

「…………」

 

――あとで水樹にも聞いてみたけど、エミリアと同じで全くそんな気持ちは少したりともなかったらしい。

アルヴァイン限定なのかと思ったが、初戦以降何度も操縦した僕に、あれから一度もそんな気持ちにならないのもおかしい。ますます分からなくなるあの原因不明の危ない衝動、単なる偶然か――考えすぎて頭がぐぅと痛くなった――。

 

“ほう。君でもそういう劣等感を持つのか”

 

「ええ。やはりニールセン博士達の領域には全く及びません、完全に私とは別次元にいますよ」

 

 

 

“そんな弱気なことを言うな、一佐らしくないぞ。

しかしキング博士はどうか知らんがニールセン博士は超大国アメリカの軍事力の源であり要だからな、無理はないが”

 

早乙女は久しぶりに入江と連絡を取り、互いの今の状況の情報交換をしていた。

 

「今、日本の状況はどうです?」

 

“君を何としても取り締まりたかった政府は非常にご立腹だった。

君達の逃亡に関与したと疑われて私や関係者、朝霞駐屯地の者達は色々とひどい目に遭ったがこの通りだ。駐屯地の方もちゃんと無事だよ”

 

「それについて私達は心配でしたが、安心しました。他には何かありましたか?」

だが入江の顔は穏やかではなくなった。

 

“……実はな、君達が逃げてからメカザウルスによる一、二度ほど侵略を受けた。

出現先は日本から遥か南、オーストラリア方向からだ。一応撃退したがいつまで持ちこたえられるか……”

 

彼から話を聞くと、能面のような早乙女の表情にもピクリと動く。

 

「そうですか。私達がいない間にこんなことが。申し訳ありません、なんか私達が勝手に亡命したあまりに……」

 

“気にするな。日本については私達自衛隊と米軍が協力して決死の覚悟で防衛する、いつまでも他力本願なワケにもいかんからな。君達はアメリカの方を頼むぞ”

 

「了解。では引き続き日本を頼みます」

 

……通信が終わった後、開発用ドックへ戻り愛美の機体の開発を再開する。

ニールセンとキングは例のエネルギー実験をしているため、彼が機体の開発指揮を任されておりスタッフとエンジニアに指示していく。

 

愛美の操縦技術を追従するために竜斗かそれ以上にまで性能を引き上げ、そして機体のコンセプトを考えて『水中で活動することも踏まえた上で、前機体以上の性能を底上げ、特に大火力を有する強襲用の機体』の方針を決め、開発を進めていった。

 

(……悔しいがどうしても博士達の領域にはいきつけん。だが今は私のできる限りのことをやろう、それしかない――)

ベルクラスに積載していたもう一機の予備のBEETに自分の考えうる兵装をつけて、そして腹部の搭載しているプラズマ反応炉の上、つまり胸部内にゲッター炉心を搭載するためのスペースを造り始める。

 

(ゲッター線か……まさに偶然だったな、あのエネルギーと出会ったのは――)

 

彼はあの日を思い出す、突然現れた恐竜帝国のメカザウルスに対抗するためにはプラズマ反応炉では役不足だと思い、それ以上の力を持つエネルギーを考え、次第に宇宙線を変わりに使えないかと考えに至った時だった。

紫外線、ガンマ線、アルファ線……はっきり言ってどれも使い物にならずに諦めかけていたその時、その中の一つがプラズマエネルギー以上の出力値を持つ緑色、赤色の混じった宇宙線が真空管内にほど走るのを。

 

 

(私はこれをひと目見た時からまるで取り憑かれたかのように魅入られてしまった、もうこれ以上のモノは何もいらないと――。

人畜無公害でプラズマエネルギー、いや原子力エネルギーを遥かに越える出力、爬虫類に有効というメカザウルスに対してこれ以上のない切り札、なによりもこれまでの人類の叡智の中で誰も発見できなかった驚異の宇宙線を私が最初に発見したのだ。

これ以上の幸せなんかなかった、独り占めしたかった――だが、これまでの起こった様々な現象、突然のエネルギー上昇、竜斗の変貌にしても……原因は何一つさえ解らない。

私はこのエネルギーの全貌についてはまだ数パーセントも満たないだろう……まあそこにそそられるんだがな、ハハッ――)

早乙女からは意気揚々な雰囲気が感じられた。

ゲッターロボとゲッター線を恋人と言うくらいだ、彼はゲッター線という摩訶不思議なエネルギーに人生を捧げ、そしてたとえ命を奪われてもいいとさえ思っていた。

 

 

――休憩室。一旦休憩室しているニールセンとキングは熱い無糖のコーヒーを飲みながら雑談している。

 

「わしの読みが当たったな。見事ゲッター線とプラズマエネルギーと共鳴反応を起こし前の実験、いや人類史上最高の出力を叩き出したわい。

まあそのせいで各エネルギー炉にえらい負荷がかかってイかれてしもうたが」

 

「また直せばいいことだ。しかしゲッター線というのは恐ろしいものじゃのう、サオトメはよくこんな凄まじいエネルギーを発見できたもんだ」

 

「人類は全世界の大地、山、海底、空……ついには宇宙にまで進出して殆ど調べ尽くしてたと思ってたが、まだまだ地球も捨てたもんじゃないな。

次はグラストラ核エネルギーと複合してみよう、これで楽しみがさらに増えたな」

 

実験は成功し、二人は興奮し、室内が響く程の歓喜の声を上げていた。

彼らも早乙女と同じくゲッター線という未知のエネルギーに凄い興味を持つと同時に、これまで発見できず、自分とあろうものが弟子の早乙女に先を越されたという悔しさも入り混じってもいた。

キングは懐からクシャクシャになった残り少ないタバコの箱を取り出し、ジッポライターを取り出して火を付ける。

一服してニールセンにこう切り出す。

 

「なあ、サオトメはおぬしの弟子じゃったな。今回初めて共同作業したが詳しいことは知らん。果たしてどういう男なんだ?」

 

「まだまだ未熟なヤツじゃよ、技術にしても発想力にしても、何から何までわしの域に辿り着くにはまだまだ努力が必要だ。

だがウィットで恐ろしく肝の据わっていて何を考えてるか分からん。

あの顔には何重にも重なった仮面のような――わしでさえヤツの本質を掴めん」

 

彼も懐からタバコではなく太い葉巻を取り出して、同じく愛用のジッポライターで火をつける。

葉巻独特の甘いようで苦みのある煙の臭いが辺りに充満した。

 

「ほう、おまえがそこまで言うのなら大した男じゃのう――」

 

「現にアメリカ政府でさえワシに対して弱腰の姿勢なのに、サオトメだけはワシを臆してないどころか逆に飲み込もうとするヤツじゃ、決して油断できん。

ではキング、おぬしから見たサオトメはどうじゃ?」

 

「愛想がないし、それにまだまだ思考の柔軟さがないのう。

だがヤツから滲み出る雰囲気やゲッターロボのこれまでのデータを見て、何か感じたことはある」

 

「それはなんだ?」

 

「おぬしに似ておる、全てとは言わないがお前との共通点が沢山あると感じた」

 

それを聞き、ニールセンは何故かフッと軽い笑みを浮かべる。

 

「ヤツは……今はまだヒヨッコだがいつの日か、ワシのレベルに行き着くかそれ以上の域にいくだろう――予想ではない、確信だ」

 

「お前がそこまで期待しているとはそこまでとんでもない男か。その根拠は?」

 

「根拠?それはな――サオトメはワシの血、遺伝子を受け継いでいるからな」

 

「……なに?」

 

ニールセンの話から彼についてを色々知らされ、キングから笑顔がなくなった。

 

「サオトメはそのことを知っているのか?」

 

「さあな。ヤツは知っていても知らなくてもワシにはどうすることもできん、自分の運命を受け入れるしかなかろう」

 

「ということはサオトメは――」

 

「――ということになる。それでワシの弟子とか単なる偶然か、いや必然か」

 

……最初のような笑顔と笑い声と消えて静まりかえる二人、早乙女に隠された真実とはなんなのだろうか。

 


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