ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十九話「合流」③

パイロットスーツに着替えた竜斗はヘルメットを携えて格納庫で待っていると車両専用ハッチが開く。外を見ると早乙女のジープが現れ、助手席に乗り込んだ。

 

「竜斗、ゲッターロボの操縦は覚えているな」

 

「はい、ここに来てからもシミュレートマシンで感覚を養ってましたから。

それにマリアさんから操縦についても前とほとんど変わらないようにしてあると聞かされました」

 

「よろしい。ちなみにメカザウルスの数は約千機」

 

「千……本当ですか……?」

 

改造後の初戦から余りの敵の多さに気が重くなる。

 

「敵の多さもさすがアメリカというべきか。

しかし君は今までの力でやるのはない、新しく生まれ変わったゲッターロボだ。自信を持てっ」

 

「……はいっ!」

 

……そしてすぐさま施設に入り早乙女に連れられて、すでに格納庫へ移動させられた彼のゲッターロボの元へ向かう。

そこにニールセンとキング、そして開発スタッフとエンジニアが竜斗を待っていた。

 

「博士、連れてきました」

 

「うむ」

 

ニールセンは竜斗と久々の対面するとニコッと笑った。

 

「リュウトクン、タノムヨ」

 

カタコトの日本語でそう告げると、竜斗は気が和らいだのかハキハキと「オーライ」で返す。

その後、彼は目の前に立つ、新しく生まれ変わった空戦型ゲッターロボを見る。

 

(なにこれ……俺の使っていたゲッターロボじゃない……)

 

デザイン的な外見こそは変わってないものの、明らかに自分が乗っていたのとは確実に一回り大きく感じる。

見たことのない形状をした新型ライフル、丸い両肩が六角形状になり……腕や脚部も明らかに増強されて太くなっている。

 

細くスタイリッシュな胴体がここまで変わると自分の馴染み深い機体だとは思えなかった。

 

「竜斗、メカザウルスがもうそこまで迫ってきている。行くぞ!」

 

早乙女に後押しされ、すぐさま同じく口元のコックピットに乗り込む。

前と同じ感覚でシステムを起動させるとレバーを握りしめ、ゆっくり深呼吸する。

 

……あ、やっはり自分の使っていたゲッターロボだ。

この感覚、コックピットの風景、空気……確かに何ら変わりないと感じ、安心感がにじみ出てくる。

 

(ゲッターエネルギーとプラズマエネルギーの出力値……なんだこれ……っ)

 

ディスプレイ上のインジケーターに表示された出力値グラフを見ると前のと比べて段違いに高くなっているのが分かる。

 

“竜斗、発進できるか?”

 

お馴染みの早乙女から通信映像が入り、彼は頷いた。

 

“最初は出力を抑えていけ、ゆっくり身体を慣らすんだ”

 

 

 

「了解です」

 

“各武装についてはいつも通り私が説明する”

 

真上にある外部ハッチが開くと、灰色に染まった曇り空が見え、寒い空気が入り込んでくる。

 

「では空戦型ゲッターロボ発進します」

 

だがその時、ニールセンが早乙女の横から割り込むように映りこんだ。

 

“竜斗君、君の乗っているのは『空戦型』ではないっ!”

 

英語で喋ってくる彼に、何事かと翻訳機を入れるとそう表示された。

 

「え……違うんですか?」

 

“ワシが新しい名前を考えといたぞ。名付けて「ゲッターロボSC『アルヴァイン』」じゃ!

かっこいいじゃろっ、なあ?”

 

「あのう、名前に意味とかは?」

 

“ない。カッコ良さだけでそう決めた”

 

「…………」

 

この人……ちょっとイタい人なのかなあ、とも思ってしまう。と、早乙女を彼を横へ無理やり押し込んだ。

 

“竜斗、そんなことはともかく行け!”

 

……彼は気を取り直して、ついに右ペダルに足を置いた。

 

「では……石川竜斗、あ……アルヴァイン、発進します!」

ペダルをぐっと踏み込んだ瞬間だった。

ゲッターロボはまばたきする暇もないその刹那的な時間の間に、音速という域ねスピードで飛び上がり格納庫内に強烈な衝撃波が巻き起こった。

竜斗はあまりの唐突さと、そしてそのスピードにかかる衝撃と重圧に翻弄され、ついには鼻血が吹き出したのだった。

 

気がついた時にはすでに地上から五百メートル付近の空で留まっていた。

 

その様子を見ていた早乙女、そしてベルクラスにいる女性陣達はあまりの上昇スピードの速さに呆気をとられていた。

 

「ホハハハハ、まだこんなもんじゃないわい」

 

「では拝見させてもらうかのう、ゲッターロボ――いやアルヴァインだったか」

 

頭がキーンと響くような頭痛がしてボーッとしているが、すぐに正気を戻しレーダーを見ると確かに、大雪山の戦闘時を思い出させるような無数の敵の反応が北西側からもう迫っているのが分かる。

その方向に向きモニターを拡大して見るとメカザウルスが雄叫びを上げて、そして爆弾やミサイルで地上を空爆しながら向かってきている。

 

“竜斗、大丈夫か?”

 

「は、はいっ。けど発進したら気がついたらもうここに……」

 

“明らかに上昇速度が音速レベルだったな”

 

音速……前の機体でもそこまで出せなかった域だ。

 

“博士達がやりたい放題で改造した機体だ、どれほどのポテンシャルを持つか分からん。やはり最初は出力を抑えていけ、下手したら君が操縦するだけでミンチになりかねん”

 

メカザウルスの大軍がエリア51の領空圏内に接近し、いつも通りの感覚で操縦を開始した。

 

「えっ……」

 

前進するためにレバーをゆっくり前に押し出したが、「ドン」っと言う強烈な音と共に凄まじい推進力で前方を駆けていった。

 

 

彼は言葉でなく、悲鳴を発していた。それは完全に機体の壮絶な機動力に翻弄されている証拠だった。

直線上にいたメカザウルス数機に体当たりのようにぶつかり、突き飛ばして大軍の真ん中に一瞬で到着した。

メカザウルス達は何が起こったか理解できず、そしてその視線はゲッターロボ……いやアルヴァインに集中される。

 

「……っ」

 

Gがかかり鼻血をさらに吹き出す竜斗。周辺のメカザウルスは獲物を見つけて雄叫びを上げたすぐに、アルヴァインに突撃でマグマ砲やミサイルで飽和攻撃を開始する。

 

 

しかし竜斗はすぐさまレバーを巧みに動かしてすぐそこから機敏な反応を持って瞬時に離れる。

攻撃全く行わず、ただ鳥のようにあちこちに飛び回り敵の攻撃の回避ばかり、まるでいたちごっこしているアルヴァインは本当に『操縦テスト』をしているようである。

 

「ホホホ、竜斗君にはキツすぎたかのう」

 

「だが、その内慣れるじゃろうて」

 

呑気に観賞しているニールセンとキングだった。が、二人の読みが当たっていたのか竜斗は徐々にスピードに慣れてきており、段々と感覚を掴んでいた。

 

(スゴい……慣れてきたら全て分かる。前のゲッターロボとは大違いだ)

冷静さを取り戻した彼はやっと機体の真髄が見えて驚愕する。

その凄まじい機動力、反応速度……だが、操縦はこれまでとなんら変わりない、これならまさに敵なしだと思ったほどで彼から興奮から来る笑みが生まれていた――。

 

アルヴァインは新型ライフル『セプティミスα』を構える。

竜斗は使用弾薬を『プラズマ』に設定する。可変式なのに変形しないのを見ると今の形状が標準のようだ。

 

トリガーを引くと高出力のプラズマ弾が数発、連続的に発射されてそれらがメカザウルスに直撃し、装甲ごと身体を貫通し撃ち落とす。

 

レーダーを見ると大量のメカザウルスが固まって押し寄せてきたので竜斗はすぐに『散弾』に変更する。

するとライフルの銃身が約一メートル短くなり、代わりに口径が大きくなる。その形状はセミオート式のショットガンのようだ。

 

それを群がってくるメカザウルスに向けて照準を合わせて発射すると『バン』という爆音と共に薬莢内に詰まった大量の小さな弾が強力な運動エネルギーに押されて扇状にバラまかれ、迫っていたメカザウルス数匹の頭部に直撃、皮膚はおろか頭蓋骨は粉砕し、中から脳髄が汚くはじけ飛んだ。

アルヴァインは少し後退しつつさらに散弾を連射し、迫り来るメカザウルスの頭、胴体を見るも無残なグチャグチャな姿へと変えていった――。

 

後方からメカザウルスが迫ってきているのが分かると、空いた左手で腰からゲッタートマホークを取り出して振り向くさまにメカザウルスの首を瞬く間に切断した。

アルヴァインはすぐさま密集地帯から離れ、弾薬を『榴弾』に変更する。

銃身が太くなり、銃口の口径もさらに広がる。まるでグレネードランチャーの形状だ。

さらに榴弾には弾道項目があったのでそれを見ると『直線』と『曲線』があり、『直線』にして両手持ちで銃を構える。

発射された弾は直線の通りに飛び、密集地に着弾し炸裂、メカザウルス達に金属の破片が突き刺さり、破りそして衝撃をモロに受けて吹き飛ばされ地上へ落下していった。

 

だがメカザウルスもそのまま黙ってやられるハズもなく、各マグマ砲やミサイルをアルヴァインへ、まるで雨のように隙間もない集中砲火を繰り出すもすぐにそこから脱出。

 

追撃してくるもその驚異の機動力とスピードを持ってことごとく避け、さらにヤツらを掻き回し、翻弄しトマホークを持ち、急接近し瞬く間に真っ二つにして素早く移動し他のメカザウルスへ。

こんな鈍そうな外見を裏切り、まるで韋駄天のような神速で攻撃を繰り出すこの機体はメカザウルス、いやニールセンとキング以外の者全員を仰天、唖然とさせた。

 

「ワオ…………っ」

 

浮上して迎撃態勢に入っていたベルクラスの艦橋内にいる女性陣達は竜斗の操縦するゲッターロボのあまりの凄さに言葉を失っていた。

 

「まだまだ新しい武装あるぞ」

 

左手を突き出して、手首上にある固定されたキャノン砲を展開。そこから発射されたのはライフル以上の高出力プラズマ弾はメカザウルスを一撃どころか、さらに後ろで重なったメカザウルスを無数と貫通して撃破していった。

連射性能も良く、何発も連続で撃ち込み射線上のメカザウルス多数をたちまち破壊していく。

 

「両腕の小盾、シェルバックラー付き高出力プラズマキャノン砲、次は――」

 

機体の脛の側面が縦に開き、中からせり出る二羽折りされた謎の金属物体を取り出す。

それを前に向かって力強く投げ込むと自動的に『くの字』に開き、円環状に高速回転する。

まるでブーメランと化した物体の外側全体が緑色の光、所謂ゲッター線のビーム刃が発振された時、まるで意思を持つかのように回転しながら飛び回り、多数のメカザウルスの首元をピンポイントで次々と切断していく。

 

「ビームブーメラン。メカザウルスの生体反応を感知して『首』だけ狙うようどこまでも追跡するように作ってあるぞい」

 

 

「キング、なかなか画期的な面白いのを作るじゃないかっ」

 

「じゃろう。いやあそれよりも自分の兵器の活躍は酒のいい肴になるわ」

 

「ホントのう。兵器はワシらの彼女みたいなもんじゃからなあ、ハハハッ!」

 

二人はどこから持ってきたのか、酒瓶に入ったテキーラ、ウイスキーを飲みながらワイワイ楽しんでいる。

 

次第に酒気が入ってくる二人は

 

「ナイス、ヘッドショットっ!」

 

「キルキルキル――っ!!」、

 

「ジェノサイド」

 

などと平然と口走り、笑い声を上げている。

はっきり言って異常であるが、早乙女含むそこにいる人間は誰も驚いていない。

なぜなら彼らに共通するのは「殺戮」専門の兵器開発者、今の光景は二人でテレビゲームをしているような感覚で楽しんでいるようなものだ。

 

エネルギーの切れたブーメランが律義にも自動的に戻ってくる。その時通信が入り、モニターにはキングの顔が映り込んだ。

 

「えっと確か……キング博士でしたよね?」

 

“竜斗君、戻ってきたブーメランをメカザウルスの密集地に再び投げて、ゲッターエネルギーのビームを当ててみろ”

 

理由は分からなかったが言われた通り、再び展開して投擲し、一定距離を達した時、腹部のゲッタービームを発射。

高速回転しながら真っ直ぐ飛ぶブーメランに後から続くように直撃した時、ビームが吸収されてそこから回転しながら吸収したゲッターエネルギーを広範囲に円環状に拡散放射した。

すると周囲のメカザウルスの皮膚がたちまちドロドロに溶け出して、残った装甲と機械だけが地上へ雨のように墜ちていった――。

キングはドヤ顔でこう言った。

 

「リフレクタービーム機能、面白い仕掛けじゃろう?ついでにブーメランにエネルギーを供給するオマケ付きじゃあ」

 

……早乙女は考えもしなかった様々な新兵器と機能を目のあたりにし、ますます自分の未熟さを思い知ったのだった――。

 

……そして配置したエリア51周辺の地上部隊はただ上空を眺めているだけで攻撃など行わなかった。

 

「ゲッターロボとか言ったか……スゴいな」

 

「……どうやら俺達の出番はなさそうだな、これはっ」

 

 

もはや竜斗だけで飛ぶ鳥を落とす勢いで撃墜しており、攻撃する必要などなかった。

音速以上で縦横無尽に動き回りながら、メカザウルスを腹部のゲッタービームで溶かし、腕のプラズマキャノンで撃ち落とし、ブーメラン、トマホークで首や胴体を切り落とし、ライフルの各弾薬を使い分けていくアルヴァイン。

 

 

そして竜斗本人も機体に慣れ、まるで自分の手足のように動かしている。

 

(スゴい、スゴいぞこれはっ!)

 

自分がまるで雷神になったかのような感覚になり、興奮からか気分はハイになっており、さらに熱気が高まっていく――。

 

「やるじゃないか竜斗君、すでに扱いきれているな」

 

「わしのいった通り、大した男だ」

 

二人からも高評価を得ている、早乙女もそれを聞いて無表情だが内心は喜び、奮えだっていた。

 

(思う存分力を揮え竜斗。たくさんの悲しい思いを奴らにぶつけろ!)

 

それに応えるように、まるで鬼神と化したゲッターロボ、アルヴァイン。

だが、彼らとは逆の思いをしている者もいた。

 

「リュウトが……なんかオニみたいになってる……」

 

「……エミリア?」

 

彼女はその姿に恐怖心が芽生えており、顔が強張っていた……。

 

「うがああああっ!!」

 

彼女の言うとおり、竜斗からは考えられないほどに恐ろしい形相で、低くうねったような雄叫びを上げて、メカザウルスを次々と血祭りに上げていく――今の彼は阿修羅のようになっていた。

「竜斗君…………?」

 

その不気味なまでの異様さはマリアや愛美にも感じられていた。

 

「確かにいつものイシカワじゃないかも……」

 

「こわい……、アタシなんかこわい……」

 

冷静で堅実だったあの竜斗が今ではまるで悪鬼のごとく暴走しているようだ。

 

(新しい力を手にして溺れかけているな……)

 

早乙女でさえそう感じていた――。

 

まるでちぎっては投げ、ちぎっては投げてを繰り返してメカザウルスの肉塊が次々に地上へ叩きつけられて散乱し、まるでこの世の地獄絵図と化していた。

それでももう残り少ないメカザウルスをなんと頭部を握り潰したり、首元を掴んで捻り折り、トマトを潰すような生々しく気持ち悪い音が響きながら首を無理やりブチ切り始めるなどこれまでの竜斗からは考えられない攻撃だった。

機体のデザインと相まって、まさに『鬼』の名に恥じぬ姿を晒していた。

 

 

「やめて……リュウト……」

 

その光景と今のゲッターロボの所業に対してエミリアはもう見るに堪えられなくなっていた。

 

「やめてリュウトーーっ!!」

 

彼女の悲痛の声が、通信越しで彼の耳に届き、「ハッ!」を我に帰った。

 

「あれ……俺……っ」

 

彼はモニターを見ると畏れを成した僅かのメカザウルス達は退却し、地上にはその死骸があちこちに散らばっていたのだった――その時ちょうど早乙女から通信が入る。

 

“竜斗、気がついたか?”

 

「司令……僕は……」

 

“今はとりあえず危機は去った、戻ってきて休め”

 

彼の言われた通り、施設へ帰還する。

機体を格納してすぐさま点検を開始されるも、全く被弾していないため異常などどこにもなかったが問題は本人であった。

 

――司令から何か覚えているかと聞かれても答えられなかった。

戦闘中、ゲッターロボの凄まじい力に興奮すると同時に物凄い欲が衝動的に湧き出した……それに流された後は全くどんな操縦をしたのか覚えていなかったが司令から自分の行った所業について聞かされた。

信じられなかったが確かにそう行っていたと言われて恐怖からか鳥肌がたった。すぐに精密検査を受けたけど鼻血を出したぐらいで脳波……身体の異常はなかった……。

ベルクラスに帰った後、みんな僕をスゴく心配しており、特にエミリアは酷く恐がっていて今にも泣きそうだったから心配させないようにいつも通り「大丈夫だよ」と優しく答えて安心づかせた――けど何が起こったんだ一体……。

ゲッターロボは前から危険なモノを感じてたがなんともなかったしあまり気にしてもなかった。だがこの時から初めてとてつもなく強大な力が動き始めているのを漠然と感じるようになった――。

 

そして早乙女も整備を受けるアルヴァインを見上げながら――。

 

(あの竜斗があそこまで豹変するか……ゲッター、お前は一体何なんだ?)

 

彼もゲッター線に対して、前から抱いていた疑問がさらに増していた。

 


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