第二十九話「合流」①
――昼過ぎ、ベルクラスはアメリカ本土に手前の海域に差し掛かっていた。
艦橋では早乙女、マリア、そして竜斗達は共にモニター越しにアメリカの陸地が見え、ついに本土へ足を踏み入れることに期待と不安に満ちていた。
「司令、僕達はこれからどこに行くんですか?」
「ネバダ州だ、我々の行く先はエリア51という名の機密軍事施設だ」
エリア51……その単語に三人とも引っかかるのか頭を傾げる。
「なんか聞いたことあるわね……なんだっけ?」
「アタシも……っ」
悩むエミリアと愛美に対し、竜斗は何か思い出した。
「ええっと……確かマンガの中でそんなのがありました。
なんかエイリアンが何たらこうたら場所じゃないですか?」
「そうだ。『ロズウェル事件』、エイリアンやUFOで有名なあの区域だ。
あそこに前に会ったニールセン博士や開発スタッフ陣、そして軍事のお偉いさんが沢山働いている。全員粗相のないようにな」
「了解。ところで司令、そこに宇宙人っているんですか?」
「宇宙人?いるよ」
その事実に三人は仰天した。
「と思ったか?いるわけないだろ、あんなのデマだよデマ。引っかかったな」
からかう早乙女に不信感を抱く竜斗達であった。
「けど確か、近くにラスベガスがあるよ。カジノで有名な」
「カジノ!?マナ行きたい!」
彼女は大喜びするが、それに反して早乙女は首を横に振る。
「水樹、そんな遊ぶ大金はどこから出すんだ?」
「マナんち金持ちだから、貯金から引き出して換金する!」
ろくでもないその方法――すると早乙女は。
「それは戦争が終わってからもしかしたら必要になるかもしれないだろ?使わない方がいい」
「ええ~~っ、けどもうマナには……」
「君のご両親が必死で働いて貯めた金を一夜で消えるような賭博に使ったら果たして両親はどう思うかな?」
「…………」
諭される愛美は何も言えず黙り込んでしまう。
「まあ、それでもいいなら私はこれ以上止めないが、それについて二人にもこう言っておく。
もしも水樹のように賭博をしたいなら別に私とマリアは止めやしない。
だが我々はそんな場所に連れていく気もないし、万が一そんなモノに手を出して取り返しのつかないことになっても我々は一切の救いの手を出すつもりはないからな、これは自己責任だっ」
真剣な顔つき、口調で警告された三人は恐怖でゴクッと唾を飲んだ。
だが、すぐに彼は表情が柔らかくなる。
「だが普通の観光での外出なら私達は喜んで付き合おう。エミリア以外の二人は通訳がいるだろうし、彼女ばかり頼るわけにもいかないからな。それにアメリカは日本より治安の悪い地区が多いから安全も兼ねてであるが」
そう言われて安心する竜斗、エミリアに対し、納得し切れてないのかふてくされている愛美だった――。
「司令、もうカルフォルニア州に入ります」
「よし、このまま目的地へ行って向こうと合流しよう」
ベルクラスはついにアメリカの大陸南西岸側に位置するカルフォルニア州に進入する。
しかし入った瞬間にアメリカ軍の戦闘機数機がこちらに向かってきているのがモニターとレーダーで分かる。
向こうの航空領域へ航空便のような正規な進入ではない、所謂不法侵入になるのはもちろん分かっていたので向こうは我々ベルクラスを威嚇、撃墜するために来たのか――いや違う、通信が入ったのですぐに受信すると戦闘機のパイロットがモニターに映り込んだ。
“あなた方は例の、日本から来たサオトメ一佐率いるゲッターチームですね”
「そうです」
英語で話しかけてくるパイロットに対し、早乙女も流暢な英語で返事を返した。
“お待ちしておりました。私達が目的地へ案内します、ついて来てきてください”
「了解。ご親切な対応、感謝する」
どうやら彼らは自分達の案内人だったようだ。安心してそのまま戦闘機についていった。
――ネバダ州。大陸南西部、カルフォルニア州とユタ州に挟まれている州であり荒野、砂漠が多い乾燥地帯である。
先ほどの彼らの話でもある通り、南にある、砂漠の中のカジノ都市ラスベガスが最も有名だろう。
そして我々の向かうのはその州のどこかにある『エリア51』という軍用施設。
地図には乗っておらず、厳重に管理されていると言う話である。
そこには宇宙からやってきたエイリアンが人類に協力しているとも、実はエイリアンなどいないが軍の極秘兵器を開発しているとも、変な噂ばかり立つ場所と言われている。
……ネバダ州南側のまるで雪国と化した広野に入る。
そして人が容易に踏み込めないような苛烈な地形、まるで『禁足地』と言わんばかりの場所にそれがあった――。
そのまま戦闘機に誘導されて着陸場所に到着する。
「着陸態勢に入れ」
「了解」
ゆっくりと水平に降下するベルクラス。凄まじい風圧と衝撃波を発生させてついに地面に着陸に成功した。
「私とマリアが先に降りて施設内の関係者に挨拶をしてくる。
君達は取りあえず部屋に待機しててくれ。あと外はもの凄く寒いから、着重ねしたりコートなどの暖かい服装を準備しておいてくれ」
三人はそれぞれ自室に向かう。早乙女とマリアはコートや手袋などの防寒着を着込み、地上に行き来する専用エレベーターでポートに降り立つとそこに軍用車が近づいてくる。
接近し止まり、中から防寒着と各種装備を施した施設内に属する隊員が先に出て配置に付き、次に開発スタッフ、そしてここの所長と思われるピシッとした軍服を着込む中年男性が現れて、二人は互いに握手を交わす。
「サオトメ一佐、お待ちしておりました。私はここの現所長を務めているメリオ=フリークと申します」
「こちらこそどうかよろしくお願いします、色々至らない点が多々あると思いますが――」
「いやいや、あなた達が着てくれて凄く心強いですよ。
ここで長話するのは何ですから基地内に歓迎しますよ、ニールセン博士やキング博士、他開発スタッフがあなたに会いたがっていますから」
彼らは車に乗り、離れた場所にあるエリア51の中枢部に入っていく。
その途中に何重にも分けられた鉄壁のゲートやあちこちに建てられた監視塔、対空砲やミサイル砲、自動機銃……アメリカ軍の現主力SMBであるマウラーが多数配備されており虫一匹も入れさせないような厳重ぶり。
冬景色の中の無機質な空間、まさに要塞とも言える施設である。
地下への入り口を車ごと入り、地下格納庫へ降りていく。
各隅々にコンテナが積み重なり、広々とした空間でひんやりとしたこの場に到着すると車を専用駐車場に止めて降り立つ。
「案内します、ついてきて下さい」
迎えにきた他の者を解散させると所長の後についていく早乙女達。
その途中、様々な研究施設を目にする。
兵器、薬物開発、エネルギー工学……ここにはありとあらゆる人類の希望が詰まっており、早乙女は正直胸が奮いだっていた、こんな素晴らしい場所にこれたのだと。
所長室に到着するとヒーターが入っており今着ている防寒着がもう不要なぐらいだ。
許可をもらってコートを脱ぎ、側にいた部下に服を預けさせてもらう。そのまま中央のソファーに案内されるとそこにはニールセンと、もう一人の老人男性がコーヒーの飲みながら雑談していた。
「お、来たか。おまえさん達はどうやら日本から追い出されたようだな、ホホホ」
「そうです、今の私達はただのはぐれ者ですよ」
イヤミか皮肉かどうか分からないような会話をし、早乙女はもう一人の老人に握手を交わす。
「確か、前に一度会ったきりじゃったな。パーティーの時、こやつのお供として」
「ええ、頼りないですがよろしくお願いしますキング博士」
「君はニールセンの一番弟子らしいからな、期待してるよ」
マリアも二人に挨拶を交わしてソファーに座り、部下の出したコーヒーを飲みながら雑談を始める。
現在のアメリカの戦況はやはりこちらが劣勢に陥っており、その為に我々ゲッターチームをアメリカ、ヨーロッパの連合軍に組み入れたいということを所長から聞かされる。
「ところであの子らはどうした?」
「今艦に待機させてます。明日辺りでも内部を案内しようかなと。ところであなた方が開発中の攻撃戦艦とはどこに?」
「ここではなくテキサス州の地下で建造中だ。
なんせ四キロ以上の全長を持つ空陸両用戦艦で、ここでは開発する広さがないのでな。近い内に向こうで見せてやるよ」
「ありがとうございます、そして私側の約束はどうしますか?連合軍と合流する前に機体を何とかしないといけないのは?」
「それを考えてたんだが、ここにキングがいるし、手っ取り早く先にここで大改造を行おうと思う。装備品についてはすでにわしらで開発し、用意しといた。もし文句をつけるなら改造はなかったことにするぞ」
「あなた方の腕で開発した代物なら愚痴をつける気はないですよ。
ただ、あの子らに扱いやすいようにするためにコックピット内の改造は自分と彼女でやります、いいですね」
「そこは好きにしてくれ。では明日から開始する。いつまでもゆっくりしとられんからな。施設内の搬入を手伝ってくれ」
「了解です」
――ついに始まる各ゲッターロボの改造、次の日からゲッターロボをベルクラスから施設に搬入し、SMB工場の各ドックに到着すると早乙女とマリア、そしてニールセン、キング他開発スタッフによる作業が始まった――が。
「なんじゃこれは?黒こげではないか」
「北海道の戦闘でこうなったもんで――」
GBL―Avengerを撃って焼け焦げたまま放置されていたため所々錆びている空戦型ゲッターロボを見て彼は呆れていた。
「もう一機はどうした?」
「同じく戦闘でマグマに飲まれて失いました、ただ動力炉のゲッター炉心は初期に開発した試作品を改造して使います」
「流石に機体までは考えておらんぞ、どうするんだ?」
「予備のBEETがあるのでそれを使います」
無事なのはエミリアの機体だけで、初日から色々と難航しているようだ――。
その様子を案内された竜斗達はその開発光景を外の通路から覗いていた。
「……なんか上手くいってないみたいだな」
「うん……無事だったのはアタシのゲッターロボだけだったからね……」
二人は窓から見つめている間、愛美は一人キョロキョロとしているので竜斗はそれに気づく。
「水樹、どうした?」
「ジョナサンがここにいるのかなって……」
ここで彼に会えるかなと淡い期待をしていた。
「……最初に会った時はあんなにジョナサン大尉を嫌がってたのに今は逆かよ」
「なによ、ワルいっ?」
「いや別にっ」
あれほど『外国人のムサい男はお断りと言っていた』と断言していた愛美のこの変わりように呆れる。
「ワタシ達はこっちと協力するために来たんだから必ず会えると思うよ、心配しないで」
「うん。さすがエミリア、石川と話が違うわあっ」
「だって女だもん、恋した時の気持ちは分かるからね」
「…………」
女子二人で盛り上がる中、ただ一人の男で疎外感を感じてしまう竜斗だった。