ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

7 / 187
第三話「デビュー戦」③

「……なにっ!?ゲッター線で稼働する機体だと――?」

 

「はっ。日本地区のメカザウルス小隊がその機体一機と、母艦と思われる人類軍の浮遊戦艦一隻によって壊滅させられたと……証拠に交戦域において多量のゲッター線反応を確認しました」

 

帝王ゴールはこの報告を受け、この間が激震するほどに憤怒していた。

 

「うぬぅ……っ」

 

怒りのあまり、ゴールの顔が凄く歪んでいた。それほどまで苦悶する理由とは。

「……わかった。直ちに日本、台湾近海に駐屯している第十二恐竜中隊、第十三海竜中隊に伝達せよ。

『あらゆる手段をもってしてもゲッター線を使用する機体とその浮遊戦艦を一刻も早く破壊せよ』とな!」

 

 

「はっ!」

 

家来がその場から去った後、拳を握りしめて座る玉座の肘掛けに叩きつけた。

 

「ゲッター線……我々爬虫人類の天敵……皮膚の弱い我々を、その昔絶滅寸前にまで追いやった災厄のエネルギー……まさかあの猿どもが味方につけたか……くそっ!」

 

ゴールは立ち上がり、玉座の間を飛び出して向かった先は基地内の軍事開発エリア、無数の開発中のメカザウルスや爬虫人類独自の兵器の研究や開発が行われている場所である。

 

「ガレリー、ガレリーはおらんかっ!」

彼の声を聞きつけて、すぐさまやってきたのは猫背の爬虫人類の老人。

黒のマントを身につけ右腕が機械の義手となっている。

彼は恐竜帝国の誇る兵器、科学開発部門の総主任者で、長官の肩書きを持つガレリーである。

 

「これはゴール様。どうなさいましたか、このような汚れた場所においでなされて」

 

「あの薄汚い猿どもが我らの天敵ゲッター線を利用した兵器を開発したと」

 

「……詳しいことは不明ですが、そのようでございます」

 

「直ちに対ゲッター線兵器を設計、開発しろ。

でなければ我ら恐竜帝国、いや爬虫人類に未来はない」

 

「はっ。それについて私どもも今必死で考案中でございます。今しばらくお待ちを」

 

「頼むぞガレリー、期待しておるぞ」

彼に期待の胸を膨らまし、ゴールは開発エリアを後にした。

「サルどもが力を付け始める前になんとか手をうたなくては……っ」

 

――恐竜帝国が地上に現れて数年後の現在、彼らの勢力はロシア、シベリアに駐屯する、小島ほどの全長を持つ、ブラキオ級巨大地上移動要塞『デビラ・ムー』率いる第二恐竜大隊が。

 

アメリカ合衆国、アラスカに駐屯する『デビラ・ムー』と同格のトゥリア級地上移動要塞『ドラグーン・タートル』率いる第三恐竜大隊。

 

そして日本地区の北海道大雪山地下に駐屯する第十二恐竜中隊秘密基地、台湾地区には第十三海竜中隊が主戦線となっている。

豪州、つまりオーストラリアはすでに第一恐竜大隊によって制圧されている。

 

そして世界人類連合はロシア、中国連合は第二恐竜大隊。EU、アメリカ連合は第三恐竜大隊、そして日本自衛隊の主戦力が第十二恐竜中隊、海竜隊と交戦している状況だ――。

 

 

――ロシア、広大な土地のシベリア。大陸性気候の影響で夏と冬場では極端な気候と気温が特徴のこの地に君臨する、恐竜帝国の恐るべき巨大要塞『デビラ・ムー』が居座っていた。

何とも形容し難い異形の怪物の姿をし、そして身体の至るところから茶色いガスのような気体を吹き出している醜い物体である。その周りには千機近くの陸、空戦用メカザウルスが展開、歩哨についていた。

 

――デビラ・ムー、全制御を管理するコンピューターに囲まれたこの中枢部。その場の多数の部下を指揮する爬虫人類の男。

まるで蝙蝠の翼のような頭形、立派なカイゼル髭を生やし、歴戦の経験を積んだ貫禄を持つ中年の武人。

 

――バッティス=ル=オルエセィジ。通称『バット将軍』。

ゴールから一目置かれる人物であり、この第二恐竜大隊総司令官である。

 

「地上人類軍が約二十キロメートル四方に展開、こちらへ進軍してきます。その数五万――!」

 

「各メカザウルス小隊を展開し、迎撃させよ。人間共に自分達が無力だということを思い知らしめるのだ!

我がデビラ・ムーの前には恐るるに足らん!」

 

威厳のある低い声を響かせるバット将軍は自信に満ち溢れていた。

 

「バット将軍。ゴール様から通信が入っております」

 

中央の空間モニターを注目すると立体的なゴールの立ち姿の映像が表れる。“バット、久しぶりだな”

 

「これは我が主君ゴール様。どうなさいましたか?」

 

“実はな――”

 

ゴールは先ほどの情報を話す。

 

「……なんと。人類はゲッター線を兵器として利用したと。それは非常に厄介でございますな……」

 

“その脅威の兵器の存在は今のところ日本地区にしか情報がないがもしやすればシベリア地区の人類軍にもあるやもしれん、決して油断するな”

 

「はっ。わざわざ情報を御提供していただきありがとうございます」

 

“リョド率いる第一恐竜大隊がすでにオーストラリアを制圧しておるのは知っているな。彼に続いて一刻も早くユーラシアを制圧してくれ”

 

ゴールから通信が切れると彼はすぐに目の色を変えた。

「我が第二恐竜大隊の全兵士につぐ。

人類軍を容赦なく、そして確実に殲滅せよ、災いの元は根まで断つのだ!」

 

彼の号令が響きわたる――。

 

(ゲッター線が相手となれば並大抵の戦力では太刀打ちできぬかもしれん。

甥のザンキは……武者修業中だったな。呼び寄せることも考えねばならんな)

 

――アメリカ合衆国、アラスカ。アメリカ大陸最北西に位置する土地で降水量が多く、そしてシベリア同様に冬至は凍りつく寒気になるこの土地に、まるでその名の如く亀の姿の、何も攻撃を寄せ付けない鉄壁の装甲を張り巡らせた、デビラ・ムーと同格の巨大移動基地『ドラグーン・タートル』を拠点とする第三恐竜

大隊が駐在していた――。

 

「ジャテーゴ様。ゴール様から通信が入っております」

 

基地内部の基地制御エリア。そこにはデビラ・ムー同様に爬虫人類兵士の総司令官と思われる人物と側近がいた。

気品と威圧感溢れるその尊大で派手な姿であり、その顔は男性ではなく女性。

彼女はジャテーゴ=リ=ザーラ。名前で分かるとおりゴールの妹であり、『女帝』と呼ばれるほどの彼と同格に位置する人物である。

 

“ジャテーゴ、調子はどうだ”

 

「これはこれは兄上。どうなされたか?」

 

ゴールはバットと同じ情報を伝える。

 

「…………」

 

“ジャテーゴよ。決して油断するな。わかったか”

 

「はい……ところで私の王の席はいつに?」

 

「王位を継承するのは我が娘ゴーラだ。お前よりは王にふさわしい器を持つ。ジャテーゴよ、ゴーラが女王になった際は摂政を頼みたい。

そしてゴーラと共に恐竜帝国を繁栄させてくれ”

 

「……分かりました」

 

通信を途切れた時、彼女の表情は険しくなり、一層醜くなる。

 

「ぐぬぅ……いつも玉座に座るしか能のない年寄りがっ!ラセツ、ヤシャ!」

 

「「はっ」」

 

彼女の側近である、右にいる中性的で人類の姿をした戦士、ラセツ。

左には朦々しく、武道派と思わせる筋肉隆々の体躯を持つ爬虫人類の戦士、ヤシャ。

 

「……あの計画は順調に進行中か?」

 

「はっ!もう少しで整います」

 

「ジャテーゴ様の王位継承の日はもうすぐでございますなあ」

 

「今に見てなさい憎き兄ゴール、そして私が王になるに邪魔な存在ゴーラよ。

貴様らを排除し恐竜帝国の真の女王として私が君臨しようぞ!」

 

……どうやら彼女は謀反を企てているようだが、果たして……。

 

――そして日本。北海道、大雪山地下に存在する第十二恐竜中隊の地下基地――。

 

「私がこの恐竜中隊の司令官に就任したラドラ=ドェルフィニだ。よろしく頼む」

 

彼の就任式が行われている最中であった――。

「私のモットーは決して命を無駄にするな、これである。

我々恐竜帝国の礎は犠牲の上に成り立っているが、最近はそれに迷信し自ら命を散らす爬虫人類の若人が多い。

だが我々もまた生物であり命は一つしかない、死ねばそれまでだと言うことを忘れてはならない。

必ずや、死なずに済む他の選択肢はある!」

 

彼の熱い演説、そして今までにない信念ね上官のラドラの信念に心を打たれる兵士も多いが、反面そんな綺麗事を言う若い彼に猜疑心を持つ兵士もいた。

ラドラは自分の司令室に着く否や、なんと自ら室内の清掃を始める。

 

「なんてことをなさいますかラドラ司令!?それは我ら部下の仕事です!!」

 

側近が慌てて彼を止めようとするが、彼は優しく首を振る。

 

「いや、自分の部屋の掃除もできないような司令官は役に立たないよ。

自分の身の回りのことは自分でする、それは誰だっておなじことだ。

決して部下を信用していないのではない、これは私の信念なのだ。

だが私が長期ここにいない場合はさすがに頼みはするがな」

「ラドラ様……」

 

側近は感動した。前中隊司令官は彼と真逆の人物であり、よくこき使われて苦労したものだったからだ、当然その人物の自己中心的で無能さが目立ち、信用など皆無だった。

「ところでお父上であるリージ様は今はお元気ですか?」

 

「父は一年前に病気で亡くなった。元々身体が悪かったからな」

 

「それは……心からご冥福を祈ります」

「ありがとう。衰弱していく父を見るたびに心が痛んだよ。生物いつか死ぬ。最期まで気丈な父だったが死期がだんだん近づく間に父はどれほど恐怖を味わったか計り知れない――」

 

「…………」

 

 

「すまないな、暗い話をして。さっさと掃除を終わらせよう」

 

……掃除を済ませたラドラは自席について机上にあるパソコンのようなコンピューターを使い、爬虫人類にしか理解できない文字で書かれた報告書を黙読する。その最中で。

「ほお……我々の嫌う宇宙線、ゲッター線を動力とする機体と浮遊戦艦……か」

 

彼はその情報に興味を持ち、直ちに詳細を調べ上げる。

 

「人類も我々に対抗できるほどに成長してきているということか……これは興味深い」

 

なんだか嬉しそうな表情をするラドラだった――。

 




三話終わりです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。