ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十八話『世界へ――後編」④

それそれ準備に取りかかる各人――部屋の整理が終わり次第、マリアから指示をもらいその通りに動く竜斗達。

そして彼女は電話でアパートの大家に話し、家賃、光熱費、水道代、そして多少の修繕費を全て払った後、早乙女の手配した駐屯地にいる体育会系の隊員を使って各荷物、家具を運び出しに行かせた。

……彼らは喜んで引き受けた。

と、いうよりこの駐屯地内の隊員の殆どは早乙女に好意的であり、そして亡命すると言い出した時は悲しみながらも

 

「絶対に生きて帰ってきて下さい」

 

「後は自分達が何とかするので安心して行ってください」

 

などの労いの言葉、激励され、そして頼み事も自ら進んで引き受けてくれたのだった――。

早乙女は入江に通信をかけてこれからの事を打ち明ける――しかし彼は分かっていたかのような口振りだった。

 

“ついにその手段に出たか、君がいなくなってその後の日本はどうなるか不安だが……”

 

「大丈夫ですよ。日本もそんなにヤワじゃないですし、米軍も駐在しています。

私達はこれからニールセン博士のいるアメリカ、ネバダ州にある軍事基地に向かい、共にアメリカに蔓延るメカザウルス共を叩いてきます。もしこれに成功すれば確実に我々人類が有利になりえるでしょう」

 

“ネバダ……宇宙人に関連のある、あの『エリア51』のある区域か。今では対恐竜帝国の機密軍事施設になっていると聞くが――何が行われているの知っているか?”

 

 

 

 

彼の質問に首を傾げる早乙女。

 

「さあなんでしょうね?そこまでは自身でも解りかねます」

 

彼の口調には裏がある……何か知っている、と感じる入江であるが、これも早乙女らしいしそして知っていたとしても重要機密なら喋らないほうが優等生であるとも思っていた。

 

“そうか、ニールセン博士によろしくな”

 

「了解です。あと幕僚長に頼みたいことが……」

 

“わかっておる。君達が無事に日本から出るまで政府の手を抑え込んでおくから安心しろ”

 

「ありがとうごさいます、心より感謝しております」

 

彼に礼を言うと入江は一呼吸置いてこう言う。

“なあ早乙女一佐”

 

「どうなさいました?」

 

“私は君のためにここまで努力と苦労を費やしてきた。

それは君の可能性を信じてきたからだが、それと同時に君のワガママにも付き合ってきた、私がタダで君を見送ると思うか?”

 

トゲのありそうな言葉だが早乙女はニヤリと笑う。

 

「分かってますよ、後々あなた宛てに高級のブランデーを送りますから――」

 

“話が早くて素晴らしい。では、気をつけていけ。向こうの敵は日本以上に手強いぞ”

 

通信が切れると彼はつけていたネクタイを緩ませて息を吐く――。

 

「よし、後は――」

 

一方、マリアによって艦を降りるよう命じられたクルー達は最初は「最後までついていく」と拒否したものの、彼女の説得を受け入れ降りることを決意した――が。

 

「マリアさん、これを持っていってください!」

 

クルー達から何やらお菓子などのお土産を次々に渡される。

ちょうどそこに次の指示を聞きに来た竜斗達にもお土産を渡して激励する。

それに対し、三人はこれ以上にない感動と喜びに溢れた。

 

「皆さん、ありがとうございますっ!!」

 

竜斗と愛美は笑顔で彼らと話す中、感激と嬉しさでエミリアは大泣きし、顔を伏せる。

 

「こんないい人達と離れるなんてアタシイヤ……」

 

 

 

すると一人のクルーだった女性が彼女を優しく撫でて慰めた。

 

「あたし達は心配しなくても元気でやるから。エミリアには司令とマリア助手、彼らがいるんだし安心していってきなっ」

 

激励されて「ありがとう」と何度も感謝する。

その光景に二人もついに日本を離れるのかと、完全に実感した。

 

――亡命。生まれ育った日本に背を向けて去ることに対して僕達には確かな不安と恐怖があった。

つまり僕達は『はぐれ者』になるということだ。

そして向かうは遥か海の向こうのアメリカ。完全に育った文化が違うその地でこんな僕達を受け入れてくれるのだろうか――言葉も司令やマリアさん、エミリアがいるとは言え何時も対処できるとも限らない、正直不安でしかなかった。

だが決まった以上はそれに従うしかないし、そして自分達も同意したことだ。

 

――あの時、ジョナサン大尉の言っていた「アメリカで待ってる」という言葉をふと思い出す。

まさかこんな形で叶うとは思ってもみなかった――。

 

――昼過ぎ。夜中に出発すると言われて部屋で自由にしてていいと言われた三人は各部屋で寛いでいた。その中でもエミリアはデスクに向かい両手を組み、一心に祈っていた。

 

(お父さん、お母さん……ワタシはこれから生まれ故郷のアメリカに行きます。もしかしたら二度と日本に帰れないかもしれません。

……正直、日本を離れたくないけど、世界を救うためにそんなワガママはやめます。

こんな未熟な娘ですが必死で頑張りますのでどうか天国から見守ってて下さい……)

 

もうこの世にいない両親へ祈っていたのだ――一足先に自由になった両親に。

 

(リュウトやミズキ、司令やマリアさんがついてくれるから心配しないで……けど、アタシのこれからの晴れ姿をもう見せてやれなくなったのは本当に悲しいです――)

 

彼女の瞳から一筋の涙が流れ出ていた――すると、ドアをコンコンと叩く音が。開けるとそこに愛美が立っていた。

 

「ミズキどうしたの?」

 

「これから都合のいい時でいいからマナが英語を話せるようにレクチャーしてよ」

 

「え?」

彼女の頼みに驚くエミリアだった。

 

「これから長くアメリカに居座るんなら最低限英語を話せなきゃいけないかなと思ってね。アンタばかり通訳に頼るわけにもいかないでしょ?」

 

「ま、まあそうだけど……」

 

「マリアさんは忙しいし、なら一番本場の英語を知ってるアンタから学べば一番最適と思ってね――それに」

 

「……それに?」

 

「ジョナサンと英語で話したいの。マナを勝利と幸福の女神と言ってくれたし……あそこまでマナを大事に思ってくれる男なんて今まで付き合ったヤツでいなかった。

だから……マナはジョナサンとマジで仲良くなりたい、愛してあげたい」

 

 

大胆な本音を告げる愛美。エミリアは呆気に取られるも微笑ましいとも思い、優しく笑む。

 

「……わかった。今からする?」

 

「うん!」

 

二人は仲良く部屋に入るとすぐにまた部屋をコンコンと叩く音が。開けるとそこに竜斗が立っていた。

 

「リュウト……」

 

「エミリア、頼みがあるんた。俺に――」

 

「もしかして『英語を教えてくれないか?』って?」

 

「え……なんで分かったの?」

 

竜斗も愛美と同じ腹であった。すると後ろから愛美がひょこっと現れる。

 

「あら、石川も来たの?」

「まさか水樹も?」

二人はチームを組むと考えることも同じになるのかと感心する。

 

「フフ、じゃあ三人で仲良くやろっ♪」

 

――部屋でエミリアによる英語のレッスンが始まった。

日常で使いそうな英単語の読み書きの繰り返し、会話における発音のニュアンスやイントネーション、間の取り方……素人なりに試行錯誤しながら頑張ってレクチャーするエミリアに、二人はそれを暖かく受け入れそして合間にふざけやジョークを入れて心の底から笑い声を上げる彼ら三人は大親友のように楽しく行い、やる気の起きない学校の授業より遥かにモチベーションは高かった。

 

今の三人はまさにチームとしての親和性が最高に達した瞬間であった――。

 

(悪いことばかりじゃない――こんな素晴らしい仲間がいる限り、本当はワタシは幸せなのかもしれない)

 

エミリアはこの一時がいつまでずっと続いてくれればと思っていた。

 

――整備を終えて、燃料、弾薬、機体を全て載せて完全に準備の整えた夜中〇時過ぎ、艦橋にはすでに早乙女とマリアが待機していた。

 

「準備はいいか?」

 

「ええっ」

 

「では発進する――」

 

全制御システムを起動させて、発進態勢に入るベルクラス。

そして真上の巨大なハッチが左右にゆっくり開き、冬寒い快晴の夜空が広がるのが見える。

 

「マリアすまないな。私のために付き合ってくれて」

突然の謝罪をする早乙女。家、祖国、誇り、全てを捨てることになったマリアを心配しての言葉か。しかし彼女は気丈に振る舞いこう返す。

 

「司令が謝るなんてらしくないです。

私は自分の意思であなたについていくことを決めました。

 

だからこの先どうなろうとあなたと運命を共にします」

 

「マリア……」

 

「それに、あの子達を陰から支え、守るのも私の務めです。彼らのご両親が天国で安心できるように……」

 

彼女の決意を聞いて、もう思い残すことはなくなった。

 

「――では行くぞ!」

 

「了解っ!」

 

ベルクラスは轟音と共に水平浮上し、遥か大空へ飛び上がる。

 

 

――地上では、なんとベルクラスを見送りにクルーや駐屯地の隊員は外で手や旗を振っていた。

 

「彼らにこうまで応援されると、死んでも頑張ざるを得なくなるな」

 

「ええっ。皆さん、気をつけて……」

 

それをモニターで見た二人は嬉しく思い、そして彼らにも「日本を頼むぞ」とエールを送る。

 

上空二〇〇〇メートルに達したベルクラスは太平洋側へ進路を取り、ジェットエンジンをフル稼働。最大全速でアメリカへ前進した――その数分後。

 

「司令、レーダーに多数の反応確認。ベルクラスの後方より近づいてきます」

 

モニターで後方を移すと空に多数の黒い粒――BEET、戦闘機の部隊でベルクラスを必死に追跡しつつ、そしてその位置からの集中砲撃が始まった。

プラズマ弾、ロケット弾、空対空ミサイル、ヒート弾……無数の弾丸がまるで雨のようになって押し寄せてくる。

だがベルクラスはそのまま最大全速で海へ飛び出し、アメリカ方向へ飛翔していく。

 

―ベルクラスに搭載された大型のプラズマ反応炉、ゲッター炉心の二つのエネルギーを掛け合わせたハイブリッドジェットエンジンによる、これまで人類がなし得なかったほどの凄まじい推進力がグーンと部隊から引き離していく――それに向こうからの砲撃も何故か、全くとは言わないがバリアに触れる弾頭はほん少しだけである。

 

いやむしろ当たらないように仕向けている、そのやる気がないようにも見えるその攻撃。

実は建て前上は政府の命令で攻撃しているも、彼らは早乙女達ゲッターチームの味方であった――。

 

 

そして太平洋沖に出たベルクラスはモニターを確認し、もう向こうが追ってくる気配がないのを確認するとスピードを緩めて推進速度を安定させた。

 

「マリア、アメリカの敵基地は確かアラスカに駐在しているとの話だったな――」

 

「はい。敵の戦力は不明ですが土地の規模などを考えると日本以上の長期、激戦が予想されます」

 

「ああ、だがここまで来たからには後戻りはできない、やるしかないんだ。

それが我々『ゲッターチーム』の使命だっ」

 

真下が海しかないこの太平洋上を悠々と渡るベルクラス、新たな戦場『アラスカ戦線』へ向かう彼らの運命や如何に――。

 




長かったですがこれで第二部である日本編は終わりです。次は第三部『アラスカ戦線編』に入ります。

修正や資料集め、これまでの設定集、そして一、二話ほどの番外編なども投稿したいので本編の投稿は少しお休みになります。すいませんがご了承下さい。

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