ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十八話「世界へ――後編」②

――昼。体力練成が終わり解散し、汗を拭いて着替え終わったマリアは司令室に向かう。

 

「……司令?」

 

誰もいない。デスクのパソコンの見ると書類作成の初期段階のまま、そのまま放置されているのが彼女でも分かった。

トイレか休憩、それとも用事か……彼女は今は特に気にしておらず、いずれ帰ってくるだろうとパソコンをそのままにして司令室から出て行った――。

 

だが、午後になってもちっとも早乙女の姿が見当たらない。さすがのマリアも不安に駆られて心配になる。

竜斗達三人、そしてベルクラスのクルーに尋ねても全く彼を見てないという――。

 

彼女はとりあえず司令室で待機していると、モニターに通信が入る。すぐに受信ボタンを押しモニターを展開すると統合幕僚長である入江の姿が映った。

“君はマリア君か”

 

「ご無沙汰です幕僚長、本日はどうなさいましたか?」

 

“……まずいことになった。政府の関係者が君達の艦、ベルクラスへ向かったとの報告を受けた。一佐はそこにいるか?”

 

「いえ……午前中から全く姿を見かけておりませんが……まさか……っ」

 

彼女は耳を疑った。そしてとてつもない不安感が一気に襲いかかる。

 

“ということは遅かったか……犯人はすでに検討がついている。吉野官房長官の差し金だと断言してもいい。

彼は一佐のやることなすことに気に入らず、疑惑を持っているからな。恐らく色々と尋問にかけるつもりだろう”

 

「……私もつい最近司令からそう聞かされました。

私達にもしかしたら身の危険があるかもしれないと……まさか司令本人からだとは……」

 

 

“彼のことだ、ゲッター計画に関する重要機密についてどんな手段を使われようと絶対に口を割らないだろうし、私も一佐を一刻も助けられるように手を打つ。だが、相手は官房長官だ、どんな権限を使ってくるか分からん。

君達の行動全ての制限をかけるかもしれん。下手をすればゲッター計画そのものが政府の管轄化に置かれてしまうことも考えられる”

 

つまり、自衛隊内という管轄化であるが、事実上個人所有である早乙女のゲッター計画に関する全てが政府の手に渡ってしまうということになる。

“もし政府の管轄化になれば計画自体解体される危険性もあるし、聞けばゲッターロボのパイロットはまだ高校生と言う話ではないか。

向こうがそれを知っているかどうか分からんが、もし軍事裁判に持ち込まれてその事実が表沙汰になってみろ、君達は重罪確定だぞ”

 

「……分かっております」

 

“今の法律から行くと早乙女は下手をすれば二、三十年の懲役刑、君は良くても国外永久追放にされてしまう。

一刻も早くなんとかしなければ……”

 

互いのいる場所に不吉を感じさせる空気が漂っている――早乙女が今どこにいて、何をされているのか心配である。

 

「幕僚長、なぜあなたはそこまでして司令に協力を?」

 

彼女はそう尋ねる。

 

「私は彼の未知なる可能性を信じている。

証拠に日本を奴らから奪還できた。こんな素晴らしい希望を、理解できない馬鹿者達の手によって失うワケにいかないからな、君もそう思わないか?”

 

 

「……はいっ」

 

“まあともかく、身の安全を考えて君達はしばらく外にあまり出歩かないほうがいい。

だがもし向こうからやってきても、分かるだろうが自分側から絶対に抵抗するな、ますます不利になるぞ”

 

「了解っ」

 

“よし。君達の無事を祈る。では――”

 

 

通信が切れると、彼女は緊張から解放すべく大きく深呼吸し、吐く。その後司令室の通信機を使い竜斗達を呼び寄せる。

「どうしたんですか?」

 

「あなた達に伝えなくてはならないわ、今の状況を……」

 

彼女は今何が起こったか分かりやすく説明する。当然三人は狼狽した。

 

「早乙女司令が……捕まったっていうことですか?」

 

「な、なぜですかっ?司令が捕まる理由なんて……」

 

「……司令を快く思わない人間がたくさんいるの。

それが自衛隊内だけでなく日本政府にもね。

早乙女司令ってあなた達も分かる通り、人を選ぶ性格なのは知っているでしょう?」

 

確かにあんなエキセントリックな性格ならな、と三人は納得する。

 

「それにゲッター計画、つまりゲッター線の実験とゲッターロボ、そしてベルクラスの開発、建造のために国家予算のほとんどと借金するほどの多額の資金を使ったとなると……そこも原因になっているのかもしれない」

 

 

「司令は戻ってこられるんですか……?」

 

「……まだそれすらも分からないわ。一応、私も手を尽くすけど相手が相手だからね、厳しいわ。

捕まっているとすれば、一応拷問のような暴力行為は禁止されているけど……安心はできない」

 

「じゃあもしもですよ、最悪の方向になったらどうなるんですか?」

 

「まず、ゲッター計画に関する全ての所有権は日本政府に渡る。そうなるとゲッターロボやベルクラスは政府に渡り、煮ようが焼こうが好きにされる。

そしておそらく司令と私は軍事裁判にかけられることになる。

あなた達一般人の高校生をパイロットとして運用した、それを出されると重罪確定になる。

そうなると司令はもう約二、三十年は刑務所行き、私も懲役を受けるか良くても母国のイギリスに強制送還されて日本内では二度と会えなくなるわね。

 

まあ、あなた達はおそらく罪に問われないから地元に送り返されるだけ――」

 

複雑な気分になる竜斗達。確かに自分達が罪にならないのならその安心もある。だが、ここまでゲッター計画に関わってしまった以上自分達だけ無関係面するのは嫌だし、何より早乙女とマリアともう会えなくなる、ということほど嫌なことはなかった。

 

「僕達は自らゲッターロボに乗りたいと言って戻ってきたのに……まだ戦いは終わってないのにここでリタイアするのはイヤです!」

「ワタシもっ!」

 

「マナも!それに早乙女さんとマリアさんから離れるのはイヤっ!」

 

三人の決意を聞いて、マリアはその嬉しさと、これからの不安が混ざって複雑な心境となる。

 

「……とにかく私からあなた達に言えることは、指示があるまでは駐屯地外の外出は控えた方がいいわ。

もしかしたら誘拐されるってこともありえるからこの艦内でも自分の身のまわりを常に警戒して。

そして各部屋にいる時は常に通信機を入れておいて、戸締まりはしっかりすること――」

 

「はいっ!」

 

「あと、もし見知らぬ人間からゲッターロボとかに何か聞かれても絶対に何も知らないと答えてね、あなた達は戦争で家を失ったから、仕方なくここに住まわしてもらっている人間だと答えるように――」

 

 

マリアは何かを思いついたように司令室のデスクの引き出しから円いスイッチのような物を三つ、彼らに渡す。

「もしさらわれそうになったら抵抗せずに、すかさずこれを押して私の元に直接反応が来るからすかさず駆けつけるわ、だから常に携帯すること」

 

「「「はいっ!」」」

 

「みんなこんな目ばかり遭ってキツいと思うけど、今は頑張って耐えてね。

私もあなた達の負担を減らす努力をするから……」

 

「いえ、これ以上早乙女司令やマリアさんばかりに負担をかけたくないです。

これからは自分達の出来る限りのことをやっていこう、みんな!」

 

竜斗はそう力強く発言し、二人は迷いなく頷いた。

そしてマリアは、三人、特に竜斗に対し成長したなと内心感心し、喜んでいた――。

 

「……あの、マリアさん」

 

突然エミリアが恥ずかしそうにもじもじしながら彼女の耳元にコソコソ何かを伝える。

 

「三人共、今の内に何か欲しいものがあったら買い出しに行ってくるから伝えてね」

 

そう言われ、各人欲しいものをマリアに伝え解散する。

 

「ところでエミリア、なんでさっきあんなよそよそしくしてんだ?」

 

「そ、それは……その……」

 

顔が真っ赤になるエミリア、すると愛美が肘で彼の横腹に強くつついたのだった。

 

「バカ、そんなことを女の子に言わせないの!アレよ、アレ」

 

「アレ……あっ……」

 

彼もようやくその意味に気づき言葉を濁した。

 

 

――司令の安否が心配だ。しかし僕らにはこの状況を打開する術も力もない。だから今はただ祈り、待つしかない。

この先については結局、神のみぞ知る、それだけだ――。

 

各クルーにもその事項を伝え、特別警戒態勢に入るベルクラス。それからどれだけの政府の人間が来ただろうか。五人、十人、いやそれ以上だ。

圧力をかけて色々な質問をされたが全員は様々な言い訳をするなど、断固として真実を言うのを避けた。

強硬手段に訴えるような者もいて、竜斗達にもその魔の手が来たが、言われた通りにボタンを押しマリアに知らせ、話し合いに持ち込んだこともあった。

彼女の巧みな話術で引き下がらせて、それでも力で屈服するような手段に出た際は彼女もやむを得ず武力行使を行った。

……ただの無力な女性と思い込み油断していたその者は、元軍人で護身術にも長けている彼女によって背負い投げや巴投げ、払い腰などの柔道技で呆気なく張り倒されてしまった。その時、男が見た彼女は――まるで鬼のような顔であり、思わず萎縮するほどだった。

 

そんな生活が続く中、約一カ月後。正月だと言うのに全然正月らしいことをしなかった上旬……やっと早乙女は突然と帰ってきた。

 

「司令……っ」

 

だが早乙女の今の姿に全員は絶句した。それは酷かった。

殴られたのか腕や顔中があちこちに傷とアザだらけで、1ヶ月前に比べて痩せており、無精ひげばかりで手入れしていない様はまるで拘束させられていたと感じさせられる。

気は保っているようだが足がもつれており歩けるのがやっとに見えた。

 

「やあ……みんな……」

 

四人の元へ向かおうとした彼だけ、もはやそこで歩く体力などなく倒れ込むが全員が駆けつけて身体を起こし支えた。

「はは、こってり絞られたよ…………っ」

 

「しゃべらないで下さい!みんな、司令を医務室に運ぶから手伝ってっ!」

 

艦のクルーにも呼びかけ、急いで全員で彼を医務室に持ち運び、マリアによって傷の手当てと栄養剤の点滴が行われる。

しばらく待合室で竜斗達が待機しているとそこにマリアが入ってきた。

 

「司令は大丈夫なんですか?」

 

「ええ、命に別状はないわ。脳波の異常もなければ精神的異常も全くないしこのまま休んでいればすぐに復活できる」

 

 

それを聞いて三人はひと安心し深く息を吐いた。

 

「よほど酷い目にあったと思うのに、治療中に、自分がいない間の私達について心配してたわ。そこまで気を保っていられるのはさすがだと思う」

 

 

恐らく拷問を受けたのだろうが、そんな中でも自分達を心配してくれる彼に対して不憫でならなかった。

 

「……なんでサオトメ司令がこんなことをされなければいけないんですか!?

何も悪いことをしてない、それどころか日本を奴らから守ったじゃないですか!!」

 

いても立ってもいられなくなったエミリアはそう嘆いた。

 

「おかしい……絶対にこんなのおかしい、こんなヒドいことをしたヤツらは気が狂ってるとしか思えない!」

「エミリア……」

 

じたんだを踏む彼女に竜斗、愛美も同情をせざる得なかった。

 

「……一体なにをしたっていうの……ただ私達はヤツらから世界を守りたいだけなのに……なんで……全然良いことないじゃない……」

……無情感が漂うこの待合室。

 

ここまで来るのにどれだけの苦労と悲しみ、そして涙を流したか。

大雪山との戦いでほとんど一生分の涙を流したのに、まだ次々に押し寄せてくる不幸。

まるで精神を凌ぎ削る耐久レースをやらされているようにも思えて、全員がやるせなくなるのは分かる、人間すら信用できなくなるかもしれない。

 

――しかし世の中上手く行かないのか現実であり、それを乗り越えていくかどうか、それは各人の真の力とも言えるだろう。

 


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