ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十七話「世界へ――前編」③

――街中を歩いていると結構な広さを持つ書店に差し掛かったのでそこに入る。

 

それぞれ別れて各ジャンルの本棚を覗き見している。だいたいそこで各人の趣味が分かるものだ。

 

エミリアは自ら言っていた通り趣味、手芸用ジャンルのコーナーへ。

愛美はファッション雑誌、レディースコミック系統の女性誌。

 

竜斗は少年漫画、青年漫画雑誌、パソコン、スマホのアプリカタログ、実用書……など。

 

少年漫画雑誌コーナーにいる竜斗の元に愛美がやってきて台に置かれた雑誌を立ち読みし始める。

 

「水樹もこういうの読むんだ」

 

「まあね。ところでマリアさんはどこにいるの?」

 

 

「さあ……」

 

「気にならない?あの人の趣味とか何が好きなのか?」

 

「ま、まあ確かに。あの人のプライベートは分からないしね」

 

すると愛美は小声でこう呟く。

 

「石川、ちょっとマリアさんを探しにいかない?ついてきてよ」

 

「えっ――」

 

彼女は竜斗を無理やり引っ張っていった。

 

一方、マリアは一応女性誌コーナーのとあるジャンル本についてじっと眺めていた。

 

(結婚か……、仕事に集中して気づいたらもうこんな歳だわ……)

 

彼女はブライダルウエディング、結婚情報雑誌を見て気落ちし、深く溜め息をついた。

仕事ばかり打ちこんできたキャリアウーマンな彼女は、恋人としての男性の最近の付き合いは約十年前に本国で、最初はそこに確かな愛があったものの、次第に仕事などから互いのすれ違いが起き、それが原因で別れて以来それっきりである。

 

(アレック……気づいた時にはあなたの心の中には私の姿がなかった……別れてから数年経ってあなたが他の女性と結婚したって知ったあの時は自身も忙しい最中もあって何とも思わなかったけどね。

今だったらあたし、絶対に大泣きする自信はあるわ)

 

今思えば、仕事に打ちこんできたのも別れた後に来る、どうしようもない悲しさ、寂しさを紛らわせるためだったのかもしれない。

 

(機械工学専攻の学生からお父さんの薦めでイギリス軍の技官として入隊して――恐竜帝国が現れてからSMBの開発設計に関わって、司令の計画に興味を持って、日本語を必死に覚えて日本に来て――そして今に至るか……考えてみれば自分自身の幸せなんて考えたことなんかなかった。なにやってんだろ私……)

 

 

――確かに自身が世に役立つ仕事をするのは、彼女の家と自身の誇りであり充実してた。

ただ、この十年間は仕事ばかりのつまらない人生だったと感じる。

 

いくらほとんど完璧にこなせる彼女であれ、心はイチ女性である。

女性としての幸せなどほとんどなかったこの十年間をある意味無駄にしてたなと急に虚しさに襲われた――。

 

 

「マリアさん、結婚情報雑誌見てため息ついてる……」

 

竜斗達は奥の棚角から、気づかれないようにこっそりマリアの行動を監視する。

 

「……結婚とかそういうの考えてるのかな?」

 

「多分……あの落ち込んだ顔を見ると相手いないんじゃない?」

 

「あの人しっかりしてる美人だし、完璧だからモテそうだけど……」

 

「あのね、完璧すぎるのもタマにキズなのよ。男からすればプライド傷つけられることもあるんだって――」

 

二人で様々な考察をしている。

 

「なにやってんの?」

 

後ろからエミリアに声を掛けられてドキっとなった二人は床に倒れ込むがすぐに起きて引っ込む。

 

「なにこそこそしてんのよ、二人とも怪しいわよ」

 

「あんたタイミング悪すぎ……!

マリアさんがどんな本を読むか探っていたのよ、興味ない?」

 

「マリアさんねえ……小説とか読んでそうだけど、で二人は探ってて何か分かったの?」

 

二人はエミリアに話すと「えっ?」と目が点になる。

 

「そういえばマリアさんて結婚する気あるのかな……」

 

「オンナなんだし、その本を眺めて悩んでる姿を見るには一応気はあるんじゃない?」

 

「けどもし結婚するとなったらどんな人なんだろ――」

 

――三人が角でこそこそと考察していると。

 

「なにやってるのみんな?」

 

マリアが現れると三人はドキッとなった。

 

「いやあ……三人でこの棚の本について見てたんですよ」

 

竜斗が苦し紛れに言い訳するもマリアはその棚の本を見た瞬間、彼女も目が点になった。

 

「この本棚の本って……官能小説ばかりじゃない……こういうのに興味あるの?」

 

三人同時に「ゲッ!?」となり、振り向くと棚に置かれた本のタイトルが全てイヤらしい名前ばかりで埋め尽くされていることに気づき、仰天する三人――。

 

「ところで、そろそろ他の場所へ行きたいと思うけどエミリアちゃん、決まった?」

 

「は、はい、一応……」

 

「じゃあ私がお金払うからレジに行きましょう、二人は?」

 

「僕たちは大丈夫です……っ」

 

……そしてレジ精算を終えて外に出る。 エミリアはマリアに申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「マリアさん……本当にすいません……」

「いいのよ気にしないで。さて他に行きたい場所は――」

 

「も、もう大丈夫です。それよりもマリアさん自身は行きたい場所はないんですか?」

 

「私?今のところ特にないわね……それに今日はあなた達のために付き合ってるから心配しないで――」

 

ニコッと笑む彼女だが、三人は内心かなり彼女を心配していた。

気前のよさといい、本のことといい、何かあったんじゃないかと思ってしょうがなかった。

 

一応、この後三人の、とりわけ女子達の行きたい場所を探して、見つけて入るが買おうとすると絶対にマリアが進んで自腹を切りそうなので欲しい品を見つけても我慢して結局買わなかった二人――なんだか悪循環に陥っているようにも感じる。そうしている内にもう午後二時過ぎになり、もう一つの目的のために車に戻る。

「一体どうしたの?何も買わないの?」

 

「い、いえ……特に欲しい物なかったので……ねえミズキ」

 

「…………」

 

負い目を感じて気を使っている二人に対し、マリアには欲しいものがなくて残念だと思っていた。

「そう、残念ね……けどまた探せばちゃんとあるわよ、諦めないで」

 

「は、はい……」

 

……二人には本当は欲しい物は色々あった、しかしこれ以上彼女から出させるのは流石にないと感じていたのだった。

 

「次は夕食ね。近くのスーパーに言って食材を買いましょう」

 

「何を作るんですか?」

 

「今は冬だし全員食べると考えて、日本特有の寄せ鍋料理と、他にも手作りのオードブルを作ろうかなっと思ってるの」

 

 

 

三人はそれを聞いて喜んだ。

 

「ワオ、それ最高ですね!さあていっぱい食べ……」

 

瞬間に竜斗、愛美からジロッと冷ややかの視線を送られて気落ちするエミリア。

 

 

「いいじゃないの、鍋料理はヘルシーなんだし今日はそんなことを気にしてても楽しくないわよ。

エミリアちゃんには明日にでもいいダイエット方法を教えてあげるから気にしないでね」

 

「ありがとうございます!」

 

「あと、途中で早乙女司令も来るから五人で食事よ」

 

「司令も?」

 

「仕事が片づいたら来るって」

 

竜斗達は腕組みし、何かを考える。

 

「マリアさん、早乙女司令って休みの日はないんですか?」

 

「休みを取ろうにもすべき仕事がたくさんあるし、それにあの人自身が仕事好きだからね」

 

「へえ……、それで身体持つんですか?」

 

「司令はタフだからね、ある意味それは才能の一つよ」

 

それを聞いて感心する竜斗達であった。そしてスーパーマーケットに寄って四人で鍋の食材などを選んでいく。その時の微笑ましい様子は完全に親子そのものである。

 

食材を買い、車のトランクに詰め入れてマリアのアパートへ向かい、彼女の自宅に入る。

 

「へぇ、凄く清潔感が凄い。間取りはどうなんですか」

「1LDKよ。狭いけど我慢してね」

 

「大丈夫です。家賃は?」

 

「八万二千円よ。準備できるまで奥の洋室で待ってて」

 

三人はダイニングよりの奥の洋室に入る。

ソファーや液晶テレビ、クローゼットや本棚やタンスにシングルベッド……コレクションラックや至る所に彼女のお気に入りの、日本ではあまり見ないタイプのアンティークな食器やオルゴール、宝石箱など様々なアイテムが置かれている。

インテリアと家具が沢山あるのにその整頓と清掃の行き届き、そして芳香剤のいい香りがするこの清潔の部屋は彼女の性格を感じさせてくれる。

 

「スゴくオシャレな部屋……」

「うん。外国的な上品な感じがスゴいなあ」

 

竜斗と愛美は部屋の風景に見とれている。その中でエミリアだけは何か懐かしむような感慨深い表情だ。

 

「……お父さんの実家もこんな感じだったわ」

 

「そういえばエミリアのパパってどこ生まれなの?」

 

「ドイツのフランクフルトってとこ」

 

「え……確かアメリカから来たんじゃなかったの?」

 

「それはお母さんの出身地よ。国際結婚して最初オハイオに住んでて、そこでアタシが生まれて、小学校に入る前に日本に来たのよ」

「じゃあアンタはハーフだったってこと?」

 

全く知らなかった事実に驚きを隠せない愛美。

 

「けどなんで日本に?接点なくない?」

 

「日本で仕事したいってこともあってね、貯金も結構あったから引っ越してきたの。

そもそも国の違う同士の両親の共通点が『日本びいき』だからね、それで偶然的に出会って気が合って結婚したってことなの。色々周りから反対されたらしいけどね。

そして日本に引っ越してきた場所がなんとリュウトの家の近くだったってわけ」

 

「へえ……これもある意味、奇跡ね――」

 

「エミリアちゃん、マナミちゃん、やるわよお」

 

見回っているとマリアから呼ばれた二人はすぐに行く。

 

「お、俺は?」

 

「アンタはここでゆっくりしていれば?ここから向こうはオンナの世界よ」

 

竜斗を置いてきぼりにして部屋から出て行く。

ダイニングキッチンにいくと、エプロンを来たマリアが食材と鍋を出して、準備を整えている。

二人に予備のエプロンを渡してつけさせる。

 

「じゃあ始めましょうか。まずエミリアちゃんはどんなことをしたい?」

 

「アタシは基本的に切るのも味付けもできますよ、難しいのも本があれば――」

 

「じゃあは鍋の野菜切りと仕込みを頼もうかしら。

マナミちゃんは初めてということで、私と一緒に簡単なことからやりましょう」

 

「はあい」

 

女性陣達はダイニングキッチンで料理を開始する。エミリアは各野菜切りと鍋の下地作り、マナミはマリアと一緒に米研ぎから始める。

ここで遺憾なく腕前が発揮されるのはエミリア。

得意分野なこともあり野菜、豆腐を包丁で器用に、そして綺麗な形にして切っていく。

 

「さすがねエミリアちゃん」

 

「えへへ……」

 

ゲッターロボの操縦では一番下手くそと軽んじられているエミリアもここでは腕を奮えるとはりきっていた彼女に嫉妬するように横目でジロジロ見る愛美が。

 

 

 

(今に見てなさいよ……マナだってすぐに……)

 

「マナミちゃん、そんなにガシガシ洗うとお米が割れちゃうわよっ」

 

「あっ……」

 

「アハハッ、ミズキ落ち着いてっ」

 

「くう……っ」

 

ここでは流石にエミリアに軍配が上がっていた。

しかし何だかんだ言いつつもマリアに、教えられてだんだんと技術を呑み込んでいく愛美。彼女は要領がよかった。

そんな彼女は初の家庭的な暖かさに心が満たされていく感じがした。

 

「……マナさ、いつもママにごはんを作ってもらってた」

 

そうボソッと口にする。

 

「料理なんてしたくないと思ってたけど……やってみると案外面白いんだね……」

 

「ミズキ……」

 

「マナミちゃん……」

 

だんだんと声が震えていく彼女に二人は注目した。

 

「こんなことなら早く習っておくべきだった……今さらマナの手料理をパパとママに食べさせてあげたかったって思えてきた……」

 

彼女の目からポタポタと涙が溢れていた。

 

「マナ……二人に感謝してる……色んなことを教えてくれて……ホントにありがと……」

 

マリアはそんな彼女の身体を優しく寄せて抱いた。

 

「マナミちゃん……きっとご両親は喜んでいるわよ、ちゃんと成長してるって……っ」

 

エミリアも手を洗い、タオルで拭き彼女の頭を撫でた。

 

「……アンタホントに変わったね。アタシ、今のミズキが一番好きよ」

 

「エミリア……」

 

「アタシ、今はもうアンタとチームで凄く嬉しい。これからも女の子同士で一緒に頑張りましょ、よろしくね」

慰めてもらった愛美はこれほど嬉しく思えたことはなかった――彼女は今、心が満たされていて本気で感謝していた。

 

 

「あ、あの……」

 

洋室方向を見ると竜斗がひょこっと現れた。

 

「竜斗君どうしたの?」

 

「いやあ、暇なんでみんななにしてるかなって……水樹どうしたんですか?」

 

「え、いや今作ってるハンバーグの下地に使うタマネギが目に染みちゃってね。彼女初めてだから」

そう上手く切り返すマリア。

 

「ならリュウトも手伝ってよっ」

 

「お、俺なんかに出来るかな?」

 

「今の時代男も料理できなきゃダメだよ」

「…………」

 

こうして料理は全員でやることになった。

エミリアは鍋用の野菜切りと仕込み、愛美と途中参加した竜斗はオードブル用のハンバーグの形作りに悪戦苦闘し、マリアは他の料理の下拵えをしつつ二人にレクチャーしている。

 

――そのアットホームな情景は以前の戦いの傷を癒やす一時であった。

 


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