ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十七話「世界へ――前編」②

……今日の仕事が一段落ついたマリアは、駐屯地外にあるアパートに帰宅し、私服に着替えて食事の支度をしていた。

コンロの鍋にはすでにお湯の煮だっており、湯気が上がっており、冷蔵庫からニンジン、キャベツ、ジャガイモなどの色とりどりの野菜を取り出し、トントンと器用にキレイな形で切っている。

 

(私らしくないわね……今考えるとよくあんなことを切りだせたと思うわ……)

 

――正直、馬鹿な決意をしてしまったと思う彼女。

あの時は竜斗達の心配からか、頭に血が上り感情的になってしまった。

早乙女から言われた通り、カウンセリングをする者としては失態である。

 

「っ……」

 

 

考える余り、手を滑らせて包丁で指を切ってしまった。とっさに血を舐めて水洗いし、救急箱から絆創膏を取り出して傷に巻きつける。

 

 

(あたしとしたことが……)

 

悩みをかき消そうと頭をブンブン横に振った。

 

(けど、言い出したからにはやらなければ……たとえこの先どれだけの苦難があっても……あの子達を少しでも救えれば……っ)

 

竜斗達のことを一心に思う彼女は、今までにない決意の表していた。

 

……生まれてから、ある意味『レール』に沿って生きてきたマリア。

英才教育に受け、真面目に取り組み、そして家の名誉のために勉学も励んで今の地位にまで辿り着いた彼女がそのレールから外れようとしている。

イギリスの名家出身でもある彼女が、日本という島国の、さらに孤児となった三人の一般の子の義母になり、そして彼らのために母国を捨てて日本に帰化すると、両親が知るとどれほど面食らうのであろうか。

絶対に猛反対されるだろうし、最悪勘当されて縁を切られるだろう――彼女がそれを覚悟してまでの人生最大の決意だった。

 

棚に飾る両親の写真を見つめ、手を組み合い、一心に祈る。

 

(お父さん、お母さん……どうかこんなバカな娘をお許し下さい。

しかし、これで彼らを救えるなら私はどうなろうと構いません――そして、神よ、あの子達にご加護を……)

 

そして神に対して指で十字を切るのであった。

 

 

――次の日、マリアはいつも通り三人のカウンセリングを行い今の心境などを聞き、記録している。

 

(……確かに司令のいうとおり、そこまで深刻な状態ではないようだけど――)

 

彼女も意外な彼らの心の強さに感心するが、問題はここからである。

 

(親交を深めるとは言っても、どうしよう……)

 

――彼女は悩む。彼らに「母親として」どう接すればいいか。

今までは仕事上と上の立場として竜斗達と接してきたし、そこからの優しさはあった。

ただ、母親としてとなると、今までのやり方とは全くの別物と考えた方がいい。

子供の気持ちなどは親にしか分からないし、逆もしかり。

そもそも、エミリアはどうかは分からないが竜斗と愛美は生粋の日本人で互いに育ってきた文化や宗教が違う――それらをどう克服するか。

確かに国際結婚のように国の違う者が結婚し暮らすことはよくあるが、マリアの場合は養子という珍しいパターンである。

日本で暮らし、父親もいないし恐らくシングルマザーになるであろう自分に果たして周りから祝福されるのだろうか、そして肝心の竜斗達が自分の子供になることで本当に幸せになれるのであろうか――。

 

それ以前に、自分が母親になるとどのタイミングで言えばいいのかも悩む。

小さな子ならともかく、もう成人に近い彼らにいきなり宣言して錯乱、パニックに陥らせる訳にはいかない――。

 

 

悩みが頭の中をグルグル回り、頭痛を発する。

正直に言って拒絶してくれた方がよっぽど楽かもしれないし、やめようかともすぐに思う。

しかし、早乙女に向かってあんなに力説し、そして「神に誓って」とまで言い張ったのだからやめる訳にはいかない。

 

 

(ああっ、これ以上悩んでても仕方ないわ!それよりもこれからどうするかよ……)

 

まず三人とどこか出掛けて親交を深めるか、何かプレゼントするか……まず自分の全てを知ってもらいたいと色々と考える――そして悩んだ末、これに決めた。

 

彼女はとある部屋のドアをノックし、待つ。

ドアが開くとエミリアがのっそりと姿を現す。

「……マリアさん」

 

「エミリアちゃん、あなた料理が得意らしいわね、実はお願いがあるのよ――」

 

そして今度は愛美の部屋に訪れる。同じようにドアをノックするとすぐに彼女が出てくる。

 

「マリアさん、どうしたの?」

 

「マナミちゃんは料理が得意?」

 

「料理?いえ、したことないですけどどうしたんですか?」

 

「あのね――」

 

二人に何かをお願いする彼女。それから二日後の休日の午前中。

竜斗、エミリア、愛美の三人は私服に着替えて地上エレベーターの入り口付近で待っていると一台のオレンジ色の軽自動車が目の前に止まる。窓が開くと運転席に座るマリアが手を振っているが見え、すぐに彼らは車に乗り込む。

「これがマリアさんのマイカーですか?」

 

「ええっ、狭いけどガマンしてね」

 

警衛に外出許可証を見せて駐屯地を出る四人。

 

「みんなどこ行きたい?」

 

すると愛美が真っ先に手を上げる。

 

「マナ服見たいから街に行きませんか?」

 

「いいわねえ。みんなは?」

 

「じゃあアタシは本屋に行きたい、あとぬいぐるみ用と服飾用の生地が欲しいです!」

 

「ならマナも新しいマムチューぬいぐるみ入ったらしいそれ見てきたい!それから新しいクッションと枕も欲しいし、あとネイルも!」

 

「じゃあアタシは――」

 

「僕は……」

女子二人の主張と意見ばかりの中で、ただ一人男で戸惑う竜斗に二人とも「あっ……」と気づいてしまう。

 

「竜斗君、あなたの行きたいところもちゃんと行ってあげるから。

今日は私にいっぱい甘えていいのよ」

 

「……じゃあ、欲しいパソコンあるから家電店に!」

 

「分かったわ。じゃあどっちから先に行く?」

 

四人で決め合った結果、竜斗の方から先に行き、その後街に行くことにした。

 

「にしてもマリアさん、今日みんなでお出かけしようとかどうしたんですか?」

 

「……三人とも今までヒドい目にあってきたからね。私から何か出来ないかなと思って。

今日は嫌なことを忘れて楽しみましょう、みんな!」

 

張り切るマリアに対して不思議になる三人。

 

――そして家電店につき、店内に入っていく。

竜斗はパソコンコーナーへ行き、見回る。途中で足を止めてテーブル台に無数置かれたパソコンの一つに注目する。

 

「竜斗君、もしかして欲しいパソコンはそれ?」

 

「はい……けど……っ」

 

彼は値段を見ると溜め息をつく。

 

「足りないの?」

 

彼は自分の財布の中身を確認する。するとやはり落ち込む。

 

「今まで欲しくては少しずつ貯めてたんですけど……やはり足りません。けどしょうがないですね」

――だが、

 

「よければあたし、半分出してあげるわよ」

 

「えっ!」

 

彼女の申し出に当然彼は慌てふためく。

「い、いえいえそんな失礼なこと――!」

 

「竜斗君はこれまで一番頑張ってたんだから、これくらいするわよ。全部有り金使ったんじゃこの後困るでしょ。全額は無理だけど半分なら出せるわ」

 

「けど……」

 

好意としても、半分出すとしても十万近い金額であり、凄く気が引ける。彼は困惑する。

 

「いったじゃない、今日は思いっきり甘えていいって。

大人の親切は素直に受け取るものよっ」

 

「………………」

 

結局半分出してもらうことになり、それでついに購入するが当然負い目を感じてしまう竜斗。

精算が済み、後送の為の手続きを書き終えるとそこに他のコーナーに回っていたエミリア達が駆けつける。

 

「リュウト買ったのそれっ?」

 

「うん……」

 

「どうしたの?買った割に全然嬉しそうな顔してないけど」

 

「……マリアさんが半分お金を出してくれたんだ」

 

それを聞いた二人は「ええーっ?」と声を同時に上げる。

 

「ウソ……いいなあ……」

 

「マリアさん石川だけズルい!」

 

「あなた達も何か欲しい服あったらよほど高くない限り一着二着でも買ってあげるわよ」

 

「えっ、ホント!?」

 

愛美は飛び上がるほど喜ぶがエミリアだけあ然となっている。

 

「マリアさん……いいんですかホントに……?」

 

「お金のことなら心配しないで。

これも今まで頑張ったあなた達へのご褒美でもあるんだから――」

 

優しい笑みでそう返すマリアだが、『今日は何かおかしい』と彼女からそう感じるエミリアだった。

 

――そして次に街に向かう。竜斗が前に愛美に連れられてきた場所である。

車を駐車場に止めて街を歩き出す。

 

「アタシ、ここに初めてきたけどこんなに人がいる場所があったんだ……けどここまで人がいるなら全然寒くないね」

 

もう季節は冬で寒い中、人がさかんに出入りする場所はいつもと変わらない風景である。

まず愛美の行き着けの場所へ向かう、今回は前に来た所と違うアパレルショップだ。

来店するとスタッフ達に「いらっしゃいませ」と声をかけられ、その後それぞれが店内の品物を見て周る。愛美はハンガーにかけられた服を見ているとそこにエミリアがやってきて、耳元でこう呟かれる。

 

「ねえ、マリアさん今日どうしたのかな……」

 

「どうしたって何が?」

 

「なんかさあ、気前が凄くいいし……」

 

「言ってたじゃない、マナ達へのご褒美だって。それなら素直に受け取った方がいいわよ」

「……それにさ、なんかいつものマリアさんと違うような気がするのアタシだけかな?」

 

「えっ……」

 

「優しいには優しいんだけど、いつもみたいな落ち着いた優しさじゃないの。

何か無理しているような優しさなのよ……」

 

それを聞いて愛美の手が止まった。

 

「なんかねマリアさんらしく冷静じゃないのよ、アタシ達を喜ばせようと見栄を張っている感じがする」

 

「……そう言われれば確かに今日のマリアさんは違和感があるわね……」

 

「そもそもご褒美とは言うけどワタシ達の買いたい物はともかくリュウトのは十万以上も出してくれてるのよ……今日初めてマリアさんと出掛けてそこまで出してくれると思う……?」

 

 

「………………」

 

二人は妙な不安感になる。いくらマリアが優しいとはいえ、ここまでしてもらうのは正直気が重くなる。

「二人ともなにやってんの?」

 

竜斗が現れ、二人は彼にさっき話していたことを話す。

 

「俺もそれが引っかかるんだよ……何かあったのかな?」

 

「……もしかして両親や友達を亡くしたワタシ達を気遣ってくれてるのかな?」

 

「……あり得るかも」

 

三人は今日のマリアの『異変』について話し合うが、実際はそれ以上に重い事実が。

しかし彼らはそれを知らない、知った場合どのような反応をするだろうか――。

 

「決まったかしら?」

突然、当の本人がひょこっと現れて全員がとビクっと怯んだ――。

 

「あら竜斗君まで。二人の服探し手伝ってたの?」

 

「あ……はい、そうです」

 

「エラいわね。決まったら持ってきてね♪」

 

ニコッと微笑み、去っていくマリアに恐怖すら感じてくるのであった――。

この後、愛美はなんだかんだでなかなか高い品物を選んで持ってくるが、マリアは躊躇することなくすぐに支払った。

 

「次はエミリアちゃんね、買いたいお店は決まってる?」

 

「い、いえ……」

 

「じゃあ歩きながら探しましょう」

 

三人は街中を散策する。一人元気で前を歩くマリアに対し、後ろから観察するように彼女を見る三人。

 

 

……アイボリー色のトレンチコートを着込んだマリアは長身でスレンダーな体格なこともあってモデルばりにサマになっている。

そしてクールビューティーを思わせる知的フェイスにメガネのアクセントはまさに「知的な英国美人」そのものである。

普段はポニーテールにしている彼女もプライベートでは髪を下ろしており、ブロンドのサラサラなセミロングが一層美しさを際だたせている――。

 

「マリアさんってモデルか何かやってたのかな……」

 

「さあ……けどプロモーションはハンパないわね……歩き方もきれいだし」

 

「いいな……アタシなんか……っ」

 

エミリアは腹の肉を上着越しからつまんで落胆している。

「……なんか太っちゃったのよお……どうしよう……」

 

「確かにアンタはいつもよく食べるからねえ。カロリー消費してないでしょ」

 

「エミリアはここ数ヶ月ぐらい……秋になってからやけにメシ食べてなかったか?」

 

「だって食欲の秋でご飯おいしいんだもん!」

 

「「それだよ!」」

 

二人同時につっこまれる彼女は飽食の秋と言う名の泥沼に見事はまってしまっていたのだ。

 


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