ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十六話「ザンキという男」②

ラドラは医務室に搬送され、輸血と手術が始まる。

外ではゴーラは彼の無事をただ一心に祈っている。

 

「ゴーラ様、あなたもラドラが心配で……」

 

一人の男性もそこにやってくる。黒色の甲冑を着込み、角のような二つの物体が頭の後ろに突き出るという風変わりな形状の頭部をしている。

 

「クック様……」

 

 

ユバハ=ギ=クック。

 

彼も『ジュラシック・フォース』のメンバーであり、そして貴族でありながらラドラの数少ない理解者であり、親友である。

 

「ずっとこのまま立っているのもなんでしょう、とりあえず待合室のソファーにでも座りませんか」

二人は待合室のソファーに座る。

 

「ザンキのヤツ……おそらくはラドラを挑発したな」

 

「挑発……?」

 

「真相は分かりませんが掟を尊重し、必要時以外の無駄な闘いを嫌うラドラが真剣勝負を簡単に同意するとは思えない。

恐らくザンキが彼をけしかけたんでしょう、父のリージ様の悪口か何かを言って――」

 

「そ、それは何故ですか?なぜラドラ様がそんなことをされなければ……」

 

「下級兵士からはどうか分からないが、ラドラはほとんどのキャプテンから嫌われている。

『平民出のくせになぜゴール様達王族からあれほどの寵愛を受けるのか、なぜ我々と比べて接し方があからさまに違うのか、これは差別、贔屓だ』と――」

 

 

 

全く知らなかった彼女はその事実を聞いて凍りついた。なぜなら自分でもそれが思い当たることが沢山あるからだ。

 

「ジュラシック・フォースもメンバー全員がラドラを快く思っていない。

ザンキはリューネスとニャルムの旧友であり、親友ですから同じ考えを持っていてもおかしくないでしょう」

 

「…………」

 

思い当たるどころか完全にそうだ、他のキャプテンに比べてラドラにだけは自分や父親の、彼への態度が甘かった。

何も反論できず、節が思い浮かぶたびに重い石のようなものが彼女の心に負担を掛けて痛くなる――。

 

「……ゴーラ様、もし傷ついたのなら申し訳ありません」

 

 

 

 

「い、いえ……っ思い当たることばかりで私は何も言えません……」

 

「ゴーラ様、なぜあなた達はそれほどまでに彼を?」

 

「そ……それは………っ」

 

「ラドラは自分だけ特別扱いされていることに負い目を感じているのでは――もし彼を大切に思うなら、それから解放してあげるべきだと思います」

 

「…………」

 

「これは彼の友人からの頼みです、どうかラドラを救ってください」

 

クックに諭され、彼女から涙がポタポタ落ちていた。彼はハンカチのような布を取り出して彼女に渡した。

 

「これで涙をお拭き下さい」

 

「すいません……最近泣いてばかりで……自分が情けないです……」

 

クックもまた優秀なキャプテンであるが、ラドラのように優しかった。だから彼と気が合うのだろう。

すると彼から「ピピッ」と高い機械音がなる。

腰に提げた通信機を取る、受信ボタンを押す。

 

“こちらリューネス、ゴール様がジュラシック・フォースに集合をかけている。ただちにこい”

 

「……分かった。今行く」

 

通信を切ると、彼はゴーラへ丁寧に頭を下げる。

 

「ゴール様が私達をお呼びになられましたので失礼します――」

 

彼は去ろうとした時、ゴーラに呼び止められる。

 

 

「本当にありがとうございます、クック様……」

 

彼女も彼へ丁寧にお辞儀する。彼は優しい笑みで微笑んで去っていった――。

 

クックは王の間に入るとすでにリューネス、ニャルム、そしてあの男ザンキの姿が。

 

「よおクック。辛気くさい顔しやがって……親友のために祈ってたのか」

 

「ザンキ……なんでお前が?」

 

「さあな?」

 

全員が揃うとすぐに玉座の後ろからゴールの姿が現れ、全員が彼の前に伏せて膝を立てる。

 

「ジュラシック・フォース、そしてキャプテン・ザンキの全員が揃いました」

 

 

「うむ。ザンキよ、そなたの腕前は素晴らしかったぞ、さすがはバットの誇る優秀な甥だな」

 

「お誉めの言葉、有り難き存じます」

 

「……ラドラについては非常に残念であった。わしも深く反省しこれからこのようなことがないよう自身の肝に銘じておく。

だがこれも結果、ザンキの武勇はラドラよりも上だったこと。

これを高く評価し、キャプテン・ザンキを今より『ジュラシック・フォース』に加入することにする、他の者に異論は?」

 

「私キャプテン・リューネスは異論などございません」

 

「……キャプテン・ニャルム……異論なし……でございます」

 

この二人は当然嬉しがっているように見えるが、クックただ一人は無表情で何を思っているか分からない。

「キャプテン・クック、そなたは?」

 

「……ゴール様がお決めになられたのなら異論などございません」

 

「では全員が賛同ということで只今よりキャプテン・ザンキは『ジュラシック・フォース』の一員として認定する、彼らと仲良くな」

 

「はっ、誠にありがとうございます」

 

ついに『ジュラシック・フォース』の加入が決まったザンキはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「今すぐにではないが近い内、そなた達にはシベリア地区の第二恐竜大隊と合流し傘下に入ってもらう、バットも甥のそなたと仲間を喜んで歓迎すると言っておった。

 

『ジュラシック・フォース』は精鋭であり遊撃隊でもある。思う存分力を奮うがよい」

 

「了解しました。しかし、今すぐにではないというのは?」

 

「ガレリー率いる精鋭開発チームがそなた達のために専用のメカザウルス開発に着手しておる。

各人の得意分野に合わせて単機で戦況を覆すほどの性能を持つ機体を造るそうだ、ガレリーは全員の意見や要望を取り入れて開発したいとのこと。

それもあり、各機が完成してからの移動となる」

 

自分達に専用メカザウルスが授与される……全員が興奮で震えあがる。

 

「……第十三海竜、第十二恐竜中隊が壊滅し日本地区はサルの手に渡った。

もう容赦はせぬ、そなたらジュラシック・フォースの力で奴らの殲滅を徹底的に行え、頼むぞ!」

“御意!”

 

話が終わり王の間から出た彼らは、ザンキ、リューネス、ニャルムが連れ合う中、クックだけは三人と離れて去っていく。

 

「クック……相変わらずノリが悪いな」

 

「気にすんな。あいつは頭おかしいんだ。それよりもお前の加入を祝って酒場で飲もうぜ」

 

「……あたしもいっぱい飲む……」

 

「ああっ」

 

三人は仲良く雑談しながら歩いていった。

 

「…………」

 

数時間、無事手術が成功し病室のベッドで眠っていた彼が目を覚ます。

ゆっくりと目を開けて横を見るとゴーラがいた。

 

「ラドラ様!」

 

「……ゴーラ様、私は生きているのですか……」

 

 

「はい。医務官の話ではもう少し輸血が遅れていれば失血死していたと言われました……本当によかった……」

 

「…………」

 

彼は起き上がろうとするも、彼女に止められる。

 

「いけません、あなたは重傷なんですよ!」

 

「私は……ザンキ殿に負けた……」

 

そう呟く彼に彼女は首を横に振る。

 

「いえ、正式でもないあの試合で負けとはいえません」

 

「しかし……あれは実力で……」

 

「そもそも……ラドラ様を挑発して真剣勝負に持ち込ませたのはあのザンキ様と言う話ではないですか……なんて卑怯な……」

「なぜそれを……」

 

知る理由を彼女から聞くと彼は深くため息をつく。

 

「クックめ……そんな余計なことを……」

 

「なぜそんなことを言うのですか?クック様はあなたの為に言ってくれたのですよ」

 

「……クックが私を庇護することで、あいつ自身の立場が悪くなるのではと思いまして」

 

「え……?」

 

「私自身、周りからよく思われていないのは承知です。

だからこそ、私を庇おうとするクックも周りから悪く思われて……自分と同じ思いをするかもしれない。

……私はそれがいやだ、大切な友人を巻き添えにしたくない」

 

自分のせいで友達にまで迷惑をかけたくない……ラドラらしい発言である。

 

「ラドラ様……お父様や私のあなたへの接し方は……正直迷惑になっていますよね……」

 

「…………」

 

彼は何も答えない――だが、彼は逆に彼女へこう質問した。

「……ゴーラ様」

 

「なんでしょうか?」

 

「なぜ私の父はゴール様にあれほどまでに気に入られていたのですか?

確かに父はキャプテンでありゴール様の側近の一人でしたが、とはいえ一介の平民出です。

なのに周りと比べて明らかに態度は違っていた……それでは私達が疎ましく思われても仕方ありません」

 

彼女はその質問にこう答えた。

 

「……私はお父様からこう聞かされました。

あなたのお父上であるリージ様は自身の本音を言える、腹を割って話せる人間だと――」

 

……彼女は二人の父の関係について話す。

 

「王族、とりわけ帝王になると内政や国営の調整、そして法王としての役目もあるので精神的負担が凄まじく、お父様は精神安定剤をほとんど毎日服用していたほどです。

それもあってかお父様は……普段は優しい顔でふりまいていても内心は誰一人として信用できないのです。

誰でも裏の顔があり恨まれて、裏切りや暗殺を恐れて……お母様も私が物心つく前に亡くなられて支えになる者がいなかったのです」

 

ゴールの人間的な弱さを聞かされて驚くラドラ。

 

「それにこんなことも聞かされました。下級兵士の見本となり、そして指揮する立場であるキャプテンになる者が最近では若い者ばかりで、能力はともかく礼儀はろくにできず品性の質が落ちていると。

これも時代のせいだとも言って、帝国の体制、いや爬虫人類の風潮が変わりつつあると嘆いていました」

 

「……確かに、私も人のことは言えぬが最近は私と年の同じ者達がキャプテンになっている。

ザンキ殿は私より年上だが全然離れていないし、クックに至っては私より年下だ……」

 

「……お父様は精神的な疲れから来る愚痴や弱音を毎日側近のリージ様にぶつけても嫌がらず、むしろ諭したり慰めてくれて、自分の心の支えになってくれたそうです。

リージ様は信念を持ち、気高く且つ良識的で――そしてお父様を心から仕え、そして愛してくれた。

だからお父様はリージ様と親密だったのです。他の誰よりも……心から愛していた」

 

 

「…………」

 

「リージ様も周りから疎ましく思われていたこともありましたが、だからと言って反論せず寧ろ正面から受け止めていました。

その曇りなき誠実さ……ラドラ様、あなたにもリージ様と同じ血が受け継がれているのです。

お父様はリージ様と瓜二つで、今の若い者にはない堅実さに大変気に入り、だから信用して私の遊び相手を任せてくれた……」

 

「そうだったのですか……」

 

するとゴーラはラドラの手をギュッと握り締め、暖かな笑みを彼に見せた。

 

「ラドラ様、私もそんなあなたが誰よりも好きです……」

 

彼女からの告白に彼は嬉しがるどころか、暗い顔を落とす。

 

「ゴーラ様……こんな惨めな男に何を言われるのです……」

 

「いえ……私は心の底からあなたを愛しています。

だからこそ、私はあなたの味方であり続けたいんです。たとえここ、いや世界があなたの敵になっても」

 

ラドラの瞳は潤み、身震いしている。

 

「……誠に申し訳ないですが、少し席を外していただけませんか……」

 

彼女は言うとおりにこの場から出て行くと彼は顔を布団に伏せて静かに泣き出した――。

全ての真実と父親に対する誇らしさ、そして彼女の言ってくれた自分に対する思い……彼の胸に言葉では言い表せないほどの嬉しさで満たされていた。

 

 

(父さん……俺はこれほどあなたの息子でよかったと……思ったことはありません……っ、本当にありがとうございます……っ)

 

彼は心から天国にいる父リージへ精一杯の感謝をするのであった――。

 

――その夜、貴族住居区域のとある一室では……。

 

「んふ………………キモチイ……」

 

ベッド上で裸同士で行為に及ぶ二人の男女――甘い淫らな喘ぎ声が聞こえる。

誰の声なのか――ニャルムである。

 

「ニャルム……相変わらずやっぱりお前の身体は最高だぜ……」

 

「……ザンキも……あたし……うれしい……あん……いいよ……そこ……っ」

ザンキとニャルムの二人は激しく精を尽くしていた――。

 

「……ニャルムは口がウマいな……気持ちいいぜ……」

 

彼の『モノ』を咥えて巧みに動かす彼女――。

 

「やあん……はずかしい……」

 

「お前に礼をするぜ……気持ちよくしてやるからな……」

 

今度は彼女の『アレ』を優しく広げ、中を舌でねっとり舐めて彼女は悶えて何とも言えぬ絶頂を味わっている。

 

「……ザンキ……すき……」

 

「……俺もお前が好きだ……」

 

……この二人は肉体関係を持っており、修業前もよくこの行為に及んでいた――それも久々なのか二人はその間の埋め合わせをするかの如く激しく行っていた。

四つん這いになった彼女の後ろで腰を前後に振るザンキはもう絶頂はそこまできていた――。

 

 

 

「…………っ」

 

動きは止まり、しばらくそのまま硬直する二人の顔はやり終えたような満足げの顔だ――。

その後、ベッドに寝ころぶ二人は静かに雑談していた。

 

「なあニャルム、俺はキャプテンという立場には満足していない。

最近キャプテンという肩書きだけが溢れかえっているこんな現状ではあってもなくても一緒だ」

 

「……ザンキは……どこまでいくの……」

 

「一応の目標はオジキのバット将軍の位だ。

帝王にもなりたいが王族にしかなれん決まりだ……法律が変わればいいんだが」

 

「……けど……将軍までの道のり……かなり険しい……」

 

「いや、簡単になれる方法があるんだよなこれが……」

 

「え……なに……?」

 

「それはな――」

 

……彼女に怪しい言葉を吹きかける。しかし彼女はあっと驚く。

 

「あぶない……ミスをしたらどうする……」

 

「大丈夫だ。要領のいい俺だからこそ成せることだ」

 

「……そんなにうまくいくのか……」

 

「俺に任せとけ。もしなれたらリューネスやお前の立場は絶対だぞ――」

 

「うん……あたし……ザンキ信じる……」

 

「ありがとよっ」

 

……何やら怪しい話をしているが、果たして――。

 


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