ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第三話「デビュー戦」②

――空中では僕が今まで経験したことのない光景が繰り広げられていた。黒煙と硝煙が立ち込め、そしてここは、翼竜や怪鳥が埋め尽くす太古の時代かと錯覚する程の非現実的景色が僕の目に映っていた――

 

彼の緊張は一気に高まった。何故なら数十、いや百を越える数のメカザウルスが、自分を取り囲んでいたのだから。

コックピット内には自分一人しかいない今、初戦闘時よりも遥かに恐怖感に煽られていた。

 

「うわああああっ、来るなァァ!!」

 

竜斗は次々に襲いかかってくるメカザウルス共を前に、錯乱してレバーをガチャガチャ乱暴に動かしまくる。

そのせいでゲッターは戦場の中で不自然な動きをして目立っていた。

 

「落ち着け、気をしっかり持て!」

 

「リュウトっ!!」

 

このままではゲッターに展開されているシールドが破られて危険な状態だ。

 

「ここで一皮剥けないとこれから先、奴らに立ち向かえない。それどころかここで死ぬんだぞ、竜斗!」

 

しかし通信から聞こえるのは竜斗の錯乱した声だけだ。

ちょうどマリアもここに戻り、駆けつけるとその事態に唖然となる。

 

「やはり彼にはまだ早すぎたんです!

通常は操縦訓練を繰り返してから乗らせるべきなのに、ましてや民間人の竜斗君をいきなり実戦投入だなんて無謀にもほどがありますよ!」

 

「訓練は戦闘技術は身につくが、実戦になると結局頼りになるのは経験と己の精神力だ。なら今の内に実戦を組ませて度胸と感覚を研ぎ澄した方がいい、フフ」

 

早乙女は笑っている。流石のマリアも彼の感性を疑う。

 

「どの道、この試練を乗り越えられないならこれから先は生き残れん。死なせてやるのも幸せって選択もある」

 

そんな非情なことを言ってのける男、早乙女であった……。

一方、竜斗は度重なる敵の猛攻を翻弄されていた。シールドの消耗も激しく今のベルクラスと同様、いつ破られてもおかしくない状況だった――。

 

「や、やっぱり……俺じゃあ……っわっ!」

 

恐竜に体当たりをかまされて、ついにシールドが破られたゲッター。衝撃を受けて落下を始めた。

 

力をなくし落ちていくゲッターと竜斗。真っ青な表情で遥か下の海面に機体ごと叩きつけられるのを待っていた――。

 

(このまま誰も守れないまましぬの……か、俺は……っ)

 

自分の無力を悔やみ、エミリアや艦内の全員に自ら懺悔する彼は死を覚悟した――これが現実なんだ、エミリアやマリアに『役に立つ』などと言ったが、結局自分は決して誰も救えない、涙がこみ上げた――。

 

“死なないでリュウトーーーーっっ!!”

 

「え、エミリア……っ」

 

通信から彼女の悲痛の叫びが。それにより、とっさに彼は我に返った。

 

“竜斗、聞こえるか!決して諦めるな、必ず生きて帰ってこい!!これは私やマリア、エミリア、いや艦全員の願いだ!”

 

「早乙女……さんっ」

 

彼らの励ましに竜斗の表情は突如、先ほどまでの弱気な色は消えた。

再び目を瞑り、大きく息を吸い込み、吐く。

目を開けた時、竜斗の顔は弱さが消えた『戦士』の表情だ。

手放して共に落下していたバズーカとミサイルランチャーを腕を伸ばして拾い上げ、海面に衝突する寸前に両レバーを引き込み、衝突ギリギリの地点で体勢を元に戻した――。

 

「そうだ……俺がやらないとみんなが死ぬ。俺がやらないと――」

 

足下のペダルを力強く踏み込み、ゲッターウイングを再展開して一気に急上昇していくゲッターロボ。戦闘域へものの数秒で到着した。

 

「リュウト!」

 

艦橋で、ゲッター復帰にエミリア達は歓喜した。

 

“……すいません、ビビってしまって。だけどもう大丈夫です”

 

落ち着いた物腰の声を発する彼に、早乙女はすぐさま冷静に通信を始める。

 

「よし竜斗、無事で何よりと言いたいがそれは戦闘が終わってからだ。直ちに敵メカザウルスの殲滅を開始しろ」

 

“はい!”

 

「はいじゃない、了解だ」

 

“……了解”

 

“左に表示されている球体状の3Dレーダーを有効に使え。中心の点が本機、周りの赤い点が全て敵だ。

初めは使いにくいかもしれないが、のみ込みの早い君ならすぐ理解できるはずだ。レーダーの有効範囲は半径一キロ”

 

言われた通りに球体状レーダーを横目で見る。すると球体の形をした映像には中心に取り巻く赤点が無数にあり、それが蟻のように蠢いていた。敵数は相当いる、数十、いや百以上か。

 

「こんな数を相手にしろなんて……けどやらなきゃいけないんだ」

 

竜斗は、自分の信じるままに左右の操縦レバーとペダルを巧みに動かし、敵の密集地帯へ向かっていく。

飛行メカザウルスと戦闘機が無数に飛び交うこの宙域、ゲッターは左手に持つミサイルランチャーを向ける。

照準を複数の翼竜型メカザウルスに合わせて、ヘルメット越しで見据える――。

前面の九つの仕切りが一斉に開門、中から丸い弾頭が姿を現し一斉に飛び出した。

全弾、勢いよくメカザウルスへ飛んでいき次々と命中し、墜落していく。

敵が上昇し回避しようとも弾頭が追尾を開始。メカザウルスは結局逃げ切れず命中して縛散した。

ランチャーの弾倉が空になり、背中腰に装備された予備弾薬を取り出してすぐに再装填。

再び、前方斜め上に蠢くメカザウルス、戦闘機へ向けて再発射。

 

計九発のミサイルが一体も逃がすことなく全弾命中した。

威力は凄まじく一撃でメカザウルスを機能停止させる。そして空になったランチャーを手離し、今度はバズーカを両手で構える。

バズーカの砲身内で蒼白色の光、プラズマエネルギーが一気に収束。トリガーを引いた時、一気に外へ解き放った。

巨大な光弾がその射線状にいたメカザウルスに瞬く間に直撃、貫通。胴体に大穴を開けて爆発。

だがそれだけではとどまらずに被る位置にいたメカザウルスにも光弾は次々に命中しその胴体を突き抜けていく――。これに対し、メカザウルス達は四方からマグマやミサイルなどで反撃を加えるも、すぐにゲッターロボは急旋回し、回避。

そのままバズーカを再び構えてエネルギーチャージ、そして発射。

一、二、三、いや十機以上撃破していく。

凄まじく貫通力と共に見た目に反して速射性の高いスゴい武器だ。

 

その時、メカザウルスの放ったマグマがバズーカに直撃、砲身が溶けて使い物にならなくなるも、それを捨てて、今度は両腰にマウントされた二丁のライフルを取り出した。

 

「うあああああーーっ」

 

竜斗の叫びと同時に二丁のライフルが火を吹く。

早乙女によって改良されたプラズマ・エネルギーライフル改の威力はメカザウルスを容易く貫通するほどになっていた。

そして彼に射撃の才能があるのか高速で動く戦闘機相手にも、的確に次々に撃ち落としていく。

 

「リュウト……すごいじゃない……っ」

 

「私の勘は当たってたな。彼に秘められた、このゲッターロボを操るという素質を、そしてゲッターに乗る『運命(さだめ)を持つことをな」

 

早乙女達は彼の奮闘ぶりを息をのみながら見つめていた。

 

「プラズマエネルギーチャージ率91パーセント。主砲発射可能まであと1分です。しかしシールドのエネルギー残量10%を切りました。このままではシールドが破られます司令!」

マリアの報告を受け、早乙女はすぐに彼に通信する。

 

「竜斗、一分間ベルクラスの援護に回れ。これ以上敵に攻撃を許すな」

 

“……了解、やってみます!”

 

ゲッターはベルクラスの頭上に移動、すぐに両手のライフルを構えた。

 

“ライフルの右側にあるセレクターを真下にしてフルバーストモードに変えろ。威力が弱まるがあの戦闘機相手ならそれで十分だ、手数を増やせ”

 

両ライフルの右側面につけられた「ツマミ」を真下に捻り、再び構える。飛び交う多数の戦闘機に向けるとプラズマの光弾が前より小さくなるが大量に、そして連続的に発射される。

振り回すようにあたり一面にプラズマ弾をばらまくゲッターロボ。周辺の敵が面白いくらいに撃ち落とされて、敵の数が激減。すると後方で待機していた空母が突如前進を開始。ベルクラスへ向かっていく。

 

「司令、敵空母がこちらへ向かってきます。

これはまさか……」

「特攻か。主砲はまだか?」

 

「もう少しですが、これでは間に合いません」

 

「……では」

 

突然、戦闘中の竜斗に早乙女から通信が。

 

“竜斗。敵空母がこちらに特攻を仕掛けようとしている”

 

「と、特攻ですか?なんでそんなこと……」

 

“分からんがこのままではベルクラスとの衝突は避けられん。そこでだ竜斗。空戦型ゲッターロボの現最大兵器、『ゲッタービーム』を使え”

 

「ゲッタービーム……ですか」

 

“最大出力で発射すれば足止めできるやもしれん、いいな!”

 

「了解!」

 

ゲッターはすぐさま向かってくる空母の真正面に飛び出た。

ベルクラスより小さいが、それでもこのゲッターとでは小虫と象くらいの差があるこのサイズの代物を果たして止められるのかと一瞬考えるも、今は悩むことはしなかった。

ゲッターの腹部中央が開きレンズが出現、エメラルドグリーンの光、ゲッターエネルギーが収束する。

 

「頼むからこれで、終わってくれよ……っ」

 

竜斗はそう願った時、ゲッターエネルギーがチャージされた。

 

「いけえーーっっ!!」

 

放たれた高密度のゲッター線による赤色の極太光線。周りの空間を歪めながら突き抜けてついに空母の真正面に直撃した。

金属と有機物の混ざった装甲を溶かし大穴を開けて、ついに貫通して遥か先の空へ伸びていった。

光線が切れた時、空母の動きが停止。それどころか辺りに小規模の爆発が起こっている。

 

“竜斗、ベルクラスはこれより主砲を発射する。直ちにそこから離れろ!”

 

ゲッターはすぐにベルクラスの後部へ移動。ベルクラスの艦首にスタンバイされた巨大砲身内には眩いほどの蒼白光が。

 

「プラズマエネルギーチャージ完了。主砲発射用意。目標、前方の敵空母一隻―」

 

「主砲、撃てっ!」

早乙女の発令を共に、その砲身からゲッタービームをも遥かに超える巨大で高密度の蒼白光線が前方に放たれた。

敵空母はまるで泥が流水に飲み込まれるが如く、すりつぶされ粉々と化していった――。

 

「敵母艦消滅確認。敵機は残り九機」

 

 

「竜斗、残りの奴らを仕留めろ。母艦を失ったこいつらにもはや抵抗する力はない」

 

竜斗は言われるままに、わずかに残った戦闘機を一機ずつ確実に撃ち落としていった――。

 

「――敵部隊全滅しました」

 

「うむ。直ちにゲッターロボを帰艦させる。マリアとエミリアは格納庫へ行き、彼を出迎えてやれ。私が帰艦の仕方を指示する」

 

「了解。エミリアちゃん、行くわよ」

 

「は、はいっ!」

 

二人が出て行った後、早乙女はモニターに映るゲッターを無表情で眺めていた。

 

「さてと……残りの二機は誰を乗せようか」

 

――そう呟いた。

そしてマリア達は格納庫へ行き、ちょうど格納されたゲッターのコックピット前に移動する。

コックピットが開くと竜斗は立ち上がり、出ようとするがフラフラになり、前に倒れる。

「リュウトっ!」

 

エミリアは急いで彼を抱き支えた。マリアはすぐにヘルメットを外すと顔中は汗まみれでぐったりしている。意識がなく気を失っていた。

 

「緊張が切れたのね、竜斗君を医務室へ連れて行くわ、あなたも付き添って」

 

「はいっ!」

 

艦内放送で救援を呼び、竜斗を担架に乗せて運んでいった。

「…………」

 

その様子を陰から見ていた愛美は腕組みをしながら、不機嫌そうな表情をしていたのであった――。


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