ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十六話「ザンキという男」①

――古代ローマで剣闘士(グラディエーター)と呼ばれる戦士が見世物として戦いが行われた場所、闘技場(コロセウム)。

 

このマシーン・ランド内にも存在し、キャプテン含む各恐竜兵士の訓練や闘技、祭日に行われる儀式や興業、そして爬虫人類の一般人の娯楽の場として長い間使われている由緒正しき公共施設である。

 

だが、同時に興行として反乱分子や罪人同士をどちらかが死ぬまで剣闘させたり、恐竜や猛獣の餌食にさせる処刑場でもある。

 

地面にまかれたザラザラとした黒色の砂、そして壁や柱についた黒いシミはどれほどの死んでいった者の血を吸っているのだろうか――。

 

その場で、ラドラとザンキのキャプテン同士による真剣勝負(デュエル)が行われようとしていた。

 

 

「真剣勝負だと?」

 

「二人とも同意の上とのことで……危険な行為ですが本当によろしいのですか?」

 

「二人の同意ということならワシに止める権利などない。これはどちらが上か見物だな」

 

 

不敵な笑みを浮かべる彼は実際はかなり興奮している。

戦士としては非常に優秀なラドラ、そして武者修行から帰ってきた自信に溢れるザンキ……これほど血が湧き上がるカードマッチはなかった。

 

一方、闘技場の中心部に立つ二人はそれぞれ違う表情をしていた。

自信溢れるザンキは余裕そうに、そして挑発してきているかのように軽い笑みを浮かべている。

ダガー二本を二刀流に構えて軽いフットワークを行い戦闘体勢に入る。

 

一方でラドラは無表情であるが、ギラギラした視線をザンキだけに向けている。

彼は長剣(ロングソード)を両手持ちで構えて深く腰を構えている。

彼から伝わるは凄まじい威圧感と殺気、そして闘技に対する一点集中のみである。

 

(ラドラ……長剣の類の扱いに長けたキャプテンでかなりの腕前らしいが、さて――)

 

相変わらずザンキはそれを受けとめていても、肝が据わっているのか依然と余裕綽々である――。

 

「始めっ!」

 

審判からの開始の合図が響き、ついに勝負が始まる。瞬間、先に飛び出すはザンキ。

その驚異的な瞬発力と脚力で一瞬でラドラの元に辿り着き、ダガー二刀流による猛攻撃が始まる。

コマ回転をしながらその勢いからの振り込みを繰り出して反撃の隙を与えない。「ギギギィッ」と間もない刃同士が当たり火花が飛び散りラドラは剣刃で耐え凌ぎ、少しずつ後退していく――。

 

(そこだっ!)

 

彼は一歩後退して、タイミングを読んで長剣を縦に振り込み左手のダガーを見事当てて床に叩き落とした。

ザンキは回転を止めて瞬時に足で器用に落ちたダガーを拾い上げ彼も二歩後退する。

 

(さすがに固いな、だがまだまだこれからだ――)

 

今度はラドラは表情を変えずにゆっくりとじわじわ詰め寄り始める。

ザンキはフットワークを止めて右足に砂を被せている。

 

 

(お前のそのキレイ事に染まった御座敷剣法では俺には勝てないってことを教えてやる!)

 

なんと地中に被せた足に前に蹴り上げ、粉塵と化した砂をラドラに当てようとした。

が、同時にラドラはすでにそれが来ると予測しており素早く左にステップ。

 

しかし目の前にはザンキの姿がなかった。

 

「はっ!」

 

なんとすでに右斜め前に迫ったザンキはそのまま右回し蹴りを放つ、だがラドラも驚異的な反応でダッキングし回避。

 

(頭もらった!)

 

そこからザンキはダガー二本を突き立てて、重力に従ってラドラの脳天に突き刺そうとした。

 

しかし、ラドラは床に後転して刃の餌食になるのを避ける――。

 

……どちらも今のところ直撃はなく互いに気を凌ぎ合う攻防にゴールは二人の姿に興奮し、息を呑んでいた。

 

……一方、彼らが真剣勝負していることを聞きつけて徐々に闘技場に人が集まってくる。

 

「ラドラ様とバット将軍の甥のザンキ様が真剣勝負をしているとの話だ!」

 

「見に行こう、これほど観戦がいのある勝負はないぞ!」

 

自室にて専属教師の元で勉学に励むゴーラにも耳に入り、彼女は大慌てで外へ飛び出していった。

 

「まだ授業の途中ですよゴーラ様!」

 

「ごめんなさい!」

 

教師の制止を省みず、彼女は不安げな顔で駆け出した。

 

(……なぜ真剣勝負などと危ないことを……ラドラ様……っ)

 

もしも彼の身に何かあったら……不安な気持ちが少しずつ膨れ上がっていく。

 

彼女は闘技場にたどり着くとゴールの元に行かず、場外の一般観客席の上段ホールへ向かい、そこから闘技場を覗く。

 

「………………」

 

そこからまだ無傷であるが顔からもう疲労の色が見えているラドラと、一方で未だに余裕そうな顔でダガーをクルクル回すザンキ。

 

(くそ……身体が重い……っ)

 

数ヶ月間牢に入れられていた分のブランクが彼を苦しめていた。

 

(観客が集まってきたか。では彼らをより楽しませてやろう)

 

再び彼は突撃し、二刀流からの斬撃を行う。ラドラも剣刃と自分の反射能力を駆使したドッヂ、パリイ(回避、受け流し)しつつ隙をついて一閃の突き、振り下ろし、そしてなぎ払いで応戦する。だがどちらも攻撃が紙一重で当たらない。

 

「キンキン」と刃がぶつかる甲高い金属音が常に響く闘技場はこの非常に臨場感と熱気が込みあがる。

観客も時間を忘れて彼らの勝負を追い続け、そして見届ける。

 

(ではそろそろ終わりにするか――!)

 

ザンキは右のダガーを握りしめ、それを全力で投げつける。

それを強回転しながら豪速で飛ぶダガーを、素早いなぎ払いで吹き飛ばすラドラ。

そのダガーは強烈な勢いで場外の席に突き刺さった。だが幸い人のいない席だったので怪我人はなかった。

 

「!?」

 

だが再び間近に迫ったザンキが素早い突きを繰り出すが、ラドラは右側に逃げ込む。

 

(かかったな――!)

身が勢いに流れ、隙が出来たザンキかと思いきや、右に密接していたラドラの顔面に勢いを加えた強烈な頭突きが入った。

 

「ぐあっ!」

 

一瞬怯んだ彼へ、休む暇もなくそこで踏ん張りをつけて止まり、彼の胸に横一閃の斬撃を与えた。

 

「おおっ!!」

 

ついにザンキによる初の一撃が入り観客は声を上げた。

 

「ぐっ……!」

 

苦渋の顔で斬られた胸を押さえるラドラ。だが手加減されたのかそこまで深く斬られてはおらず、少量の出血で済んでいた。

彼は再び剣を両手で立ち構える。

 

(ラドラよ、お前の弱点は非情になり切れないところだ!)

ザンキは好機と言わんばかりに再び素早く懐に飛び込もうと駆け出す。

 

ラドラは動きを読んで剣を横に振り込み空を切るが、なんと当たる直前にザンキは地面をスライディングしてラドラに密接、続けて彼の左膝を深く突き刺した。

 

「があっ!!」

 

痛みのこもった声を上げる。手でぐっと押さえるも大量の血が溢れ出て――このままでは失血死してしまう。

「――終わりだ!」

 

ザンキはトドメを刺そうをダガーを持つ右手を引き上げる――だが、ラドラは立てないという危ない状態にも関わらず、息を大きくきらしながら剣を再びザンキに向けて構えたのだった。

 

(ほう、負けを認めるよりもキャプテンとしての死を選ぶか――それもよし!)

 

ダガーを彼の左肩へ目掛けて強く投げ込み、見事そこに突き刺さった。

 

「…………っ!」

 

悶絶するラドラに追い打ちをかけてそこから走り込み、先ほど斬った胸へ飛び蹴りを入れ――地面に叩きつけれて転がった……。

 

「ら、ラドラ……」

 

「ラドラ様……っ」

 

ゴール親子は彼の無惨な姿に唖然となっている。

 

ザンキはラドラの元へ行き、肩に刺さったダガーを引き抜く。

まだかろうじて息があるがもはや虫の息であった。

 

「残念だったなラドラよ。このまま惨めに負けて生きていくのも辛かろう――だから」

 

瞬間、ザンキの瞳に殺気がこもった。

 

「一思いで楽にしてやるよ」

 

彼はダガーを振り上げて、彼の心臓へ突き刺そうと落とした――その時、

 

 

「やめてええええーーーーっ!!!」

 

場外から金切り音のような女性の悲痛の叫びが聞こえ、ゴール、ザンキ、いやその場の全員がそこに注目する。そこには顔が真っ青となっているゴーラの姿が。

 

「ゴーラ様っ!?」

 

彼女はなりふり構わず場外から内野に入り、ラドラの元へ向かった。

 

「ゴーラ……なぜお前が……」

 

専属教師による授業を受けていたハズの彼女がそこにいることに驚いているゴール。

彼女は死にかけているラドラの元に駆けつけ、あたふたしながらも、血で汚れると分かりながら傷のひどい膝を両手でぐっと押さえた。

「だ、誰かラドラ様を医務室へ運んで、お願い!!」

 

必死で叫ぶ彼女にゴールはすぐに側近にラドラを迅速に医務室へ運ぶよう命令、彼は担架に載せられて急いで医務室へ運ばれていった――。ゴーラは彼に酷い目に合わせたザンキを軽蔑する眼で睨みつける。

だが本人はそれに対し、納得がいかなかった。

 

「……ゴーラ様、この真剣勝負は我々二人の同意の元へ行ったことなのですが――」

 

「……命を賭けた勝負は処刑や儀式など、よほどのことがない限り絶対禁止のはず。

ましてやキャプテン同士で……お父様本人からちゃんと許可をもらったのですか?」

 

「…………」

 

黙り込んでいるということはその辺りは曖昧なようである。

 

「ゴーラ………」

 

そこにゴールが駆けつけるも彼女は父親ですら、ぐっと睨みつける。

 

「……どういうことですお父様……彼はお父様から許可をもらわず行ったようですが、なぜ止めなかったのですか!」

 

「すまなかった……わしもここ最近の敗戦続きでもやもやしててな、だからついこのような素晴らしいキャプテン同士の試合に血をたぎらせてしまって周りが見えなくなっていた……不届きであった……」

 

「――それでもしどちらかが命を落としたら……現にラドラ様にあのような状態になって……もしもの時はどう責任をとるつもりですか……!

あなたもあなたでよくも許可を得てないのにこのような酷い行為を平気で行いましたね、恥を知りなさい!!」

 

ここまで怒っている彼女は今まで見たことは父親でさえなかった。

 

「みんなどうかしてる……こんな醜い戦争が始まってから……みんな、みんなおかしくなった!!」

そう言い捨ててラドラのいる医務室へ走り去っていくゴーラ。

 

「……ザンキよ、すまなかった。わしも反省すべき点があった――」

 

「………………」

 

「お前の実力は十分に分かった。後は身体を休めるがよい――」

 

ゴールは意気消沈しそこから去っていった。

観客も興醒めし、一斉にこの場からいなくなり一人取り残されたザンキの顔は怒の表情がこもり苛立っていた。

 

「くそおっ!!!」

 

彼はダガーを床に叩きつけ、不機嫌のままこの場を後にした。

……外に出るとすぐそこに二人の爬虫人類の男女が彼を待っていた。男は筋肉隆々の体躯を持ち朦々しい顔つき、女性の方は長く、そして美しいブロンド髪を持ち顔もレーヴェのように美しいが、見るものに寒気を負わせるようなほどの冷めた眼差しを持っている。

彼らもキャプテン特有の、それぞれ橙色の甲冑、女性用の緑色の軽鎧を着込んでいる。

 

「久々だなザンキ、素晴らしい戦いだったぜ」

 

「………………」

 

――男性の名はリューネス=メージェイシー。

女性の名はニャルム=ニ=モトゥギュニ。

二人ともザンキとほぼ同年代のキャプテンであるが、ただのキャプテンではない。

 

『ジュラシック・フォース』と言われる王族直属のよりすぐりの精鋭部隊で、彼の親しい旧友でもある。

「……相変わらず元気そうだな、お前らは」

 

不機嫌だった顔も笑顔に変わるザンキ。

 

「ザンキ……元気でなにより……」

 

「ニャルム、相変わらずの低いテンションで安心したぞ」

 

彼女の頭を優しく撫でてやると頭から突き出た長い耳が二つピクピクと激しく動く、それは基本的に無表情で冷めている彼女が嬉しいと感じた時にでる仕草だ。

 

「ところでクックはどうした?」

 

「今頃ラドラの野郎の所にいるだろうぜ、あいつらは親友だからな」

 

「………………」

 

「まあとりあえずどこか休める場所で話そうぜ。時間はたっぷりあるんだ」

 

――三人は揃って通路を歩いていく。誰もが彼らが通ると真っ先にどいて道を作る。それ程彼らの地位は高い証拠である。

三人はキャプテン専用の詰所に行き、ソファーに座りながら雑談をする。

 

「ゴーラ様、いやゴール様はなぜラドラのような奴を庇うのか――それが不思議でならない」

 

「ああそうだ、いけ好かねえヤロウだぜラドラは。

オレと同じ平民出のキャプテンなのにゴール様達の態度は明らかに違う」

 

「二度の敗北を喫しながら生かされているということは確実に情けをかけられているだろう。他の奴なら間違いなくチャンスなどないのになあ」

 

ラドラについての不満をぶちまける二人。

「あたしも……ラドラ嫌い……あいつマジメすぎて面白くない……」

 

ニャルムまでも割り込むようにそう言う。

ラドラを快く思わない者も多い、その理由の殆どはこの三人の今言ったことが答えである。

 

「ザンキはこの後どうするんだ?」

 

「まず身の回りの整理してオジキに顔出しして、後はゴール様から指示を待つしかないな」

 

「お前もジュラシック・フォースに加入しないかな……今世界の戦況が変わりつつあるから俺達の出番がいずれ来る。お前がいれば鬼に金棒なんだがな――」

 

「あたしも……それがいい……」

 

……三人を時間を忘れ楽しく雑談をする。

すると、ザンキはニャルムをふと見る。ウィンクすると彼女は何も言わずコクっと頷くが、何かの合図なのか――。

 


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