ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十五話「――破滅」③

――神は決して僕らに微笑んではくれなかった。

結局、僕達は親や友達いや、捕らわれた人々は誰一人も救うことはできなかった。

しょうがないとはいえ、ここまで来るのに時間がかかり、手遅れだった。

 

覚悟していたとはいえ――これはあんまりである。

黒田一尉の時のような無情感でいっぱいになる僕らは、果たしてこれから生きる意義を見いだせるのであろうか――。

 

 

助けられると信じてここまで来たにも関わらず、このような結末が待っていようとは――誰もがやるせなくなった。

 

「……!?」

 

突如、四方から銃弾がとんでくる。各人はその方向へ振り向きモニターで見ると全身防護服のようなスーツに覆われた人間が小銃を構えて撃っている。奴らはガレリー直属の研究員であり、最後の抵抗を加えてきた。

「もう許さねえぞこのクズヤロウども!!」

 

火炎放射やミサイル等、募らせたその憎悪を各火器に載せて全方位の全てを破壊し、焼き尽くしていく各機。

それは爬虫人類に対する怨念、そして実験にさらされた人々を一刻も早く苦痛から解き放つため……研究員達、そして犠牲になった人々は燃えさかる炎の中に消えていった。

 

(お父さん、お母さん……ミキ……そして皆さん……どうか安らかに……)

 

火炎地獄と化したこの場でエミリアは、ここで犠牲になった全員が無事成仏できるよう祈るのであった――。

 

すると生き残った研究員のひとりが近くの制御室に逃げ込むのを見かけてジョナサン機がそれを追いかける。

 

「逃がすか!」

 

その場に右腕の小型ミサイルを撃ち込み吹き飛ばす。破壊された内部を見ると逃げ込んだ研究員は壁に叩きつけられ張り付いて息絶えていた。

 

 

だがその時、基地のあちこちが爆発を起こして始め、外部そして内部にも爆発が広がった――先ほど逃げ込んだ研究員が自爆装置を作動させたのだろうか。

この区域にも凄まじい音と衝撃、爆炎が始まった。

 

「全機、直ちに脱出せよ!」

 

彼らは来た道なりを各推進ユニットを駆使して外へ向かう。途中で爆発に巻き込まれるBEETやステルヴァーだったが、それでも諦めずに前進する。

 

格納庫まで戻るが爆発で落盤が発生し、入り口が閉ざされてしまう。

 

「エミリア君!」

 

「はいっ!」

 

陸戦型ゲッターロボが前に出て塞いだ落盤を左腕、そしてライジング・サンのドリルをフル稼働させて穿ち穴を開けた。

「よし!」

 

そこから一機ずつ転ばないように慎重に進み、そして突入口に到着し外に飛び出すと一目散に基地から離れていく。

 

基地全体が小規模な爆発から大きな爆発になりこの周辺一体に轟音、地響きが鳴っている。

これが全体爆発すればどうなるか、その答えはもうすぐに迫っていた――。

 

基地全体が「カッッ」とまるで太陽のような輝きを放つと半球体状の光に包まれて直径約十キロ前後の範囲で広がった。

もう全壊近い基地でこの爆発なのだからもし完全状態、つまりあの恐竜要塞の状態で爆発したならどれほどであろうか――。

 

「……基地、完全消滅しました……作戦終了です」

「…………やっと終わったな」

 

「基地に侵入した全機は全て脱出し、無事退避できた模様ですが――」

 

「………………」

 

「……こんな結果になるなんて……一体彼らはなんのためにここまで頑張ってきたのですか……これではあんまりじゃないですか……」

 

「確かに非常に残念だ……しかし黒田の戦死もそうだが、そうなる運命だったのさ。

さて、各機を受け入れる前に除菌作業に入るぞ――」

 

――午前十時四十二分。

この大雪山戦役は一応僕達の勝利で終わりを告げた。

今までの戦闘の中で最も長く、そして辛い闘いだった――だがこれほど後味の悪い終わり方をしたのも対馬海沖以上であった――。

日本はこれで解放できた、しかしたくさんの人々が、そして僕達の大切な人達まで犠牲になってしまった……表向きでは大勝利だが、本当にこれが人類の勝利と言えるのであろうか――。

 

「………………」

 

 

マシーン・ランド。日本の前線基地を失った知らせを受けたゴールは非常に不機嫌で黙り込んだままだ。

 

(サルめ……どうやら本気で我々爬虫人類を怒らせたようだな……っ)

 

苦虫を噛み潰した顔をした彼はついにキレた。

 

「ゴール様……」

 

「……なんだっ」

 

「武者修業から戻られたザンキ様がお見えになっておりますが……」

 

「ザンキか……確かバットの優秀な甥だったな。武者修業に出たからにはよほど実力をついたに違いない――よし、呼べっ」

 

「かしこまりました」

 

――そしてすぐにゴールの元に現れる一人の爬虫人類の男。

ラドラやニオンとはまた違う凛々しい顔つきで、青色の甲冑を着込む若人、その顔からは並々ならぬ自信と……そして野心的な何かを持つような雰囲気を併せ持っている。

 

ザンキ=ル=エリュハウオ。バット将軍の甥で彼もまたキャプテンを称号を持つ。

 

「ゴール様、お久しゅうございます」

 

「久しぶりだなザンキよ、武者修業はどうであったか」

 

 

「大変過酷でございましたが以前よりも遥かに実力をつけて戻ってきて参りました」

 

「うむ、それは嬉しく何よりだ――」

 

「……ところで現状況は?」

 

「……日本地区が奴らサル共に奪い返された。ゲッター線を動力とする奴らの兵器が現れたのだ」

 

「ゲッター線……我々爬虫人類の天敵……」

 

「各大陸ではこちらの方面軍が優勢だが、いずれゲッター線によって劣勢に陥るかもしれん」

 

「…………」

 

「バットには連絡を入れたのか?」

 

「いえ、身の回りの整理の終わり次第連絡を――」

 

「そうか、一度バットに元気な顔を見せてやれ、喜ぶぞ。

さてなんだが、その修業の成果を見せてもらおうではないか」

 

「はっ、今からでもお見せしましょう。それで私の相手は?」

 

 

「――ラドラだ」

 

一方、ラドラは一応罪を許されて牢から出られたものの、二度の失敗から信用を失い仕事が入ってこず暇を持て余しており、ただ一人訓練所内で木偶相手に模擬剣で剣術の稽古をしている。

今で牢にいた分のブランクを埋めるために、ただ無心で剣を振り感覚を思い出させ、そして気を入れて打ち出す――その汗だくの身体が全てを物語っていた。

すると、ゴールの側近が彼の元に現れる。

 

「ラドラ様、ゴール様が至急闘技場に参られよとの命令です」

 

 

「ゴール様が……分かった」

 

彼は汗を拭き、黄金の甲冑を着込み、すぐさま闘技場に向かう。中に入るとど真ん中にゴール、そしてザンキがすでに待っていた。

 

彼は急いで二人の元に向かう。

 

「ラドラ、来たか」

 

「ゴール様ただいま参りました。

それにザンキ殿、あなたは確か武者修業中のハズでは?」

 

「たった今帰ってきた所だ。ザンキの修業の成果を見たくてな、そこで――」

 

「私がお相手すると」

 

「そうだ。ラドラならザンキの相手で不足はないと思ってな。どうだ?」

 

「では喜んでお相手致しましょう」

 

「よくぞ言ってくれた、わしも二人の健闘を見届けるぞ」

 

ゴールは闘技場外の王族専用の観戦席に、二人は控え室にて軽装の訓練着に着替え、訓練用の木製武器を選んでいる。するとラドラの元にザンキが現れる。

 

その満ち溢れた自信満々で不敵な態度はバットとそっくりである。

 

「ラドラ、どうせなら真剣でやらないか?」

 

彼の要望に彼は首を横に振る。

 

「……ザンキ殿、これは殺し合いではない、真剣などとはどういう了見で?」

 

「なあに、ただの訓練ではやる気がでない。

命の張り合いだと思って本気でやった方が互いに身に入るし、二人の戦闘技術の向上に繋がるんじゃないかとな」

 

「だからとて、それでもしどちらかが命を落としたら元も子もない。私は無駄な傷つけ合いは嫌いだ」

 

ラドラは渋い表情だ。だがザンキは「フン」と、彼を見下す笑みを浮かべる。

 

「ラドラ、お前確か日本で二度も敗北したんだってな。

惨めだよな、誰からも信用なくなって――今ではただの引きこもりになっているなんてな」

 

「…………」

 

挑発してきている。だが、ラドラは無視する。

 

「どうだ、私と真剣勝負をしてくれるのなら、ゴール様になにか仕事をつかせるよう頼んでやるぞ」

 

「……確かに私は二度も敗北したのに何故か許されて生かされているみじめ者だ。

だからこそ私は罰と戒めを自ら進んで受け入れているのだ、そんな余計なことはしてもらわなくていい」

 

 

するとザンキは武器棚から本刃である二つのダガーを取り出し、器用にクルクル回してなんとラドラへ向けて放り投げた。

回転しながら向かってくるダガーをラドラは瞬時に、棚から真剣を取り出して、目にも見えぬ速さで弾き返した。

 

「……ラドラ=ドェルフィニ。リージ=ドェルフィニの息子で、平民出でありながらゴール様ともっとも親密であり、ゴール様自身も二人を大変気に入っていた。

おかしいと思わないか?なぜ貴族よりもたかが平民出身のお前達一族がそんなに気に入られるのだ?」

 

「…………」

 

「教えてくれよ、お前の親父はどんなゴマをすって、どんな汚い手を使ってゴール様の懐に入りこんだんだ?なあ?」

 

ラドラの顔が険しくなり、怒りで身震いしている。

彼は、自身よりも尊敬する自分の父親を貶される言動や行為が我慢ならないのである。

 

 

 

「……よかろう。そこまでして真剣勝負がしたいのなら受けてたとう……っ!」

 

「――では、決まりだ。せいぜい楽しませてくれよ」

 

ザンキは再びダガー二本を選び、とっとと闘技場へ戻っていく。

一方、ラドラは歯軋りを立てて凄い形相をしていた――。

 


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