ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十五話「――破滅」②

――捕らわれた人々、そして僕達の友達と両親を探してここまで来た。

手の伸ばせる所まで迫ったのに壁に阻まれる……。

それも生きている保証などどこにもないという最悪の現状……。

神は決して僕達に微笑まないのか――。

 

 

最悪の結末にもなりうるこの状況の中、早乙女がこう切り出す。

 

“生身での侵入はできないが、その区域へ侵入する方法はある。

それは陸戦型ゲッターロボのドリルを駆使して侵入することだ。SMBなら身体が汚染される心配はない”

 

……だが三人が心配しているのはそれじゃない。中にいる人々の安否である――。

 

“だが君達には最悪の結果を想定しているか?もし君達の――”

「それ以上は言わないで下さいっ!!」

 

エミリアがヒステリックにそう叫ぶ。

 

“エミリア、君の気持ちは分かる。だが結局は君達がどうしたいか?”

 

「僕達が……?」

 

“捕らわれた人々、そして君達の友達、両親のもしも『願ってもない姿』を見たくないのならこれ以上深入りしなくても別に構わない。

だがどの道、衛生面を考えて基地を焼き払い、破壊しなければならない”

 

「それはまさか捕らわれた人々も……っ」

 

“そうだ。有害な化学物質や細菌が外部に漏れたらそれこそ二次災害が起こって危険だ。私も基地を確保できなくて残念だがやむを得まい――”

 

 

……つまり中にいる人々が汚染されているなら衛生的安全のために排除、つまり犠牲になるということになる。

 

“三人はどうする?その汚染区域を放置するわけにいかない。が、もしかすれば隔離されて汚染されていないのかもしれない。君達はその一片の希望を賭けてみるか?」

 

 

――父さん達がいるのなら、生きているなら今すぐにでも会いたい。

 

しかし、もしも『最悪の結末』が待っているのなら……その時僕達は正気を保てるだろうか。

考えたくない、信じたくない、そしてそんなえげつない状態であろう、その内部を見たくない。

そのほうが幸せだったということもある。だが最終的には、僕達がどうするか決めなくてはならない。この時ほど自分達は無関係でありたかったと何度も思ったほどだ――。

三人はその場で固まり沈黙する。その表情からはかなり気持ちが揺れ動いているのが分かる――。

 

「……リュウトクン」

 

ジェイドが振り向いて彼の肩にその大きな手を置きコクッと頷く。

何も語らないが彼だが、せめてもの勇気づけてあげているように思える。

それはジョナサンも同じで愛美の頭を優しく撫でている。

 

「エミリア君……」

 

流石のジョージもこればかりは哀れみの情をかける、いくらなんでもこれは辛いだろうと――。

だが彼女は身体を震えわせつつもゆっくりと顔を上げる。

 

「……分かりました。ワタシはその区域へ入るために行動します」

 

その区域への吶喊を決意するエミリアに彼は驚く。

 

「……いいのか?」

 

 

「……もしかしたら生きてるかもしれないし、最悪の場合だったとしても……せめて捕らわれた人々を、両親、友達を苦しみから解放してあげたい、楽にしてあげたい……今はそれだけです」

 

……その言葉から彼女の優しさが凄く伝わる。ジョージはそれを聞いて余計に心が痛くなる。

 

「……君自身が壊れるかもしれないんだぞ」

 

「……多分、大丈夫です。もう……覚悟は出来てます――」

 

彼女は早乙女にそれを伝えると「そうか、分かった」と何食わぬ顔で言っただけである。するとモニターにマリアが現れる。だが、如何にも彼女を心配している深刻な表情だ。

 

 

「エミリアちゃん……」

 

「心配しないでくださいマリアさん。ワタシ、最後までやり遂げますから!」

 

彼女の決意のこもった様子にもうマリアからは何も言わなくなった――。

 

「エミリアが……」

 

「…………」

 

早乙女から竜斗、愛美にそう伝えられて唖然となる。

 

“君達はどうするんだ?”

 

早乙女にそう聞かれ、約二十秒後に竜斗は頷く。

 

「……分かりました、僕も賛成します――!」

 

ついに覚悟を決める竜斗。一方の愛美は、彼女の両親もあの中にいるとすれば、もしもの時は到底自分は耐えられそうにない……両親を失うかもしれないということを受け入れられず、彼女は段々と涙目になっていく――。

 

“水樹……”

 

「……なんで……パパやママが一体何をしたっていうの……なんで……」

 

彼女はもはや泣いている――。

 

するとジョナサンが突然彼女を後ろから引きずり出して、自分の膝に乗せる。

 

「えっ!!?えっ!?」

 

「マナミ……カワイソウ」

 

 

 

お姫様抱っこのように優しく抱きしめ、まるで自分の大切な人のように頭を優しく撫でて、そして安心させるためか英語で何かを呟いていた。

 

“『心配するな。何があっても俺が、仲間が、友達が君を守る』と言っているよ――”

 

早乙女からそう言われ、見上げるとジョナサンは自分のように涙を流し始めてる。恐らく彼も彼女が悲しんでいることが辛いんだろう。

「なんで……アンタも一緒に泣いてんの……やめてよ……っ」

 

そう言うが彼は全くは止めようとしない。

 

「ヤダ……アンタにまで泣かれたら……マナ……イヤだ、泣いちゃやだ!」

 

「……マナミ、ツライ――」

 

そこで彼女はジョナサンの内面を少し知ったような気がした。

すると愛美は涙を拭い、次にジョナサンの涙も指で拭い去る。

 

「マナミ……」

 

「ジョナサンらしくないよ……陽気なアンタが一番だよ……」

 

彼女は起き上がり、決意を込めて早乙女に伝える。

 

「……早乙女さん、マナはもう大丈夫よ、それに賛成するわ」

 

“いいんだな?”

 

 

「石川やエミリアも覚悟決めてんのにマナだけこんなんじゃねっ――」

 

――ついに三人は実験区域の突入を決意する。これ以上はもう無駄な時間を費やせない、一刻も早く捕らわれた人々をなんとかしなければ――ゲッターチームの心は同調した。

 

“これからはエミリア、君のドリルを使いその区域へ吶喊する。

突入する位置は汚染の最小減を考えて基地部真下からの方がいいが、地中を掘るのに時間がかかるし精神的にもキツくなる。

真上からだと一番早く行けるが、細菌の飛沫を考えると問題外だ。

となるとBEET部隊の侵入した場所から突入することになる。ドリルがかなり消耗していることだから、ベルクラスからスペアのドリルをそちらに送る。ライジング・サンのドリルも有効に使え。

 

その区域までのマップを送信から安心しろ”

 

「はいっ!」

 

“他の機体は火炎放射機等、とにかく区域を細菌類を燃やせるような火器を持っていけ、場合によっては破壊を考えなくてはならない”

 

そして作業に移ろうとした時、早乙女が最後にこう伝える。

 

“全員よく聞け。捕らわれた人々がもし救助困難だったら感染、拡散等を考えて……つらいがその場で焼き殺さなければならなくなる。

酷だと思うが、これも我々軍人が被害を最小限に抑えるための任務だということを――理解してくれ。幸運を祈る”

 

早乙女の通信が切れ、全員が様々な思いを胸に作業に取りかかる。

 

陸戦型ゲッターロボは最初、侵入した場所から再びドリルをフル回転させて道を切り開いていく――。

 

(お父さん、お母さん、ミキ……やっと迎えにきたよ。待ってて、今行くから――!)

 

彼女は一心で壁を穿ち、奥へ進んでいく。

 

後ろには予備のドリル、各火器を携行するBEET、ステルヴァーがついてきていた。

 

(父さん……母さん……生きているなら今、苦しみから解放してやるから……!)

 

竜斗もそれだけの思いで後部座席からモニターに映る陸戦型ゲッターロボを見届けている。

 

「マナミ、ダイジョーブ?」

 

「心配しないで、大丈夫だから」

 

愛美もひたすらモニターを見続けていた。

だが途中にやはり隠れていた残りの爬虫人類の兵士が壊された通路端から現れて攻撃を受けるも、火炎放射器で一瞬で消し炭にされていく――。

そうしていく中、ドリルの不調が見られモニターにそれが表示される。

回転を止めて見るとすでに歪な形に変形している。

 

「ドリルの交換をお願いします!」

 

その場で歪な形のドリル部を外し、BEETの手伝いを受けてスペアのドリルを装着、再び吶喊に入る。

 

そうすること三十分後、ついに例の危険区域前に到着する。

 

「来たわ……」

 

全員に緊張が走る。内部は一体どうなっているのか、そして捕らわれた人々は無事なのか……。

そしてついにそこにドリル先が衝突し、一気に穴を開けられ、同時にコンソールモニターに「DANGER」と表示される。

エミリアはさらにレバーに力を込めて押し出す。

 

(これで――!)

 

――ついにせり出すように穴を無理やり突き破り区域に侵入する。白色光のライトに照らされるゲッターロボ。

続いて後ろにいる各機も一機ずつ突入した。

 

「…………」

 

――目の前に広がるは、吐き気を催すこの世の地獄そのものであった。前進するたびに発狂しそうになるほどだ。

 

大きいガラス管にいれられたたくさんの人間の胴体、腕、足、脊髄、脳髄、骨……標本のようになっており、左側の飼育槽のような巨大な容器には……身体中が化学物質か細菌かで、まるで腫のような赤く腫れ上がった人間のような生き物が、吐瀉物や排泄物などにまみれて呻き声や奇声を上げているのを。

 

――奥へ行くとなんと肢体を斬られてバラバラにされたままなにか液体の中でそのままもがき苦しみながら生きている人間達を発見する。

 

さらに足元には、『はいはい』をしながら機体に群がる、まるで幼児退行をしたような裸の人間が……。

 

(ひどい……ひどすぎる……)

 

その場の全員が最初に底なしの恐怖や絶望を味わい、そして次第に頭が破裂しそうなほどの憤怒が湧き上がるのだった。

 

「お、お父さん……お母さん……」

 

ゲッターロボが右側に振り向いたそこにはなんと切断されて上半身状態で、鎖で吊り下げられた何十人の人間の死体の中に唯一の中年ほどの外国人の男女二人の死体が混ざっていた……そう、エミリアの両親だった。

内臓が垂れ下がり、新鮮そうな黒い血がまだポタポタ絶えず落ちているということは……最近までまだ生きていたということになる。

だが、再会できたにも関わらずもはや動くことも、話すことも叶わない無惨な姿にエミリアの顔はもはや涙と鼻水でぐしゃぐしゃであった……。

 

「お父さん……お母さん……ごめんなさい……本当にごめんなさい……っ」

 

救えなかったことに、嗚咽しながら何度もひたすら懺悔した。

 

「父さん…………っ」

 

竜斗もついに自分の父親と思われる人物を発見することができた……だが、モニターに写るは、保存のための液体に満たされた円柱のガラス管内にたくさん詰め込まれた切断された人間の一部、すなわち頭部の内、彼の父親の顔がガラスにへばりついていた……。

 

 

母親の姿は見かけないが恐らく……彼はすでに現実を受け止め泣くことはなく大きく深呼吸し、無理にでも自分を落ち着かせようとしている。

 

「チッ…………」

 

ジェイドは人間性などを微塵もないこの凄惨な内部に対し、まるでマグマが暴発するかのごとく怒の表情を顔に全面に押し出している、それほどこの場は酷いのだ。

 

 

「パパやママがいない……」

 

愛美の両親だけの姿は見られない。ということは生きているのか――彼女は胸に期待を膨らませた。

 

「え――?」

 

先程の腫れ上がって原型をとどめていない人間のいる飼育槽内をふとモニターを見ると、彼女が何かに気づき、ジョナサンに拡大してもらう。

それは目の前にいる、座り込んで奇声を発している人間『だった』生物の首に銀ネックレスに小振りのペリドットの宝石のネックレストップが。

 

これは愛美の母親が父親の誕生日に送ったプレゼントで、常に大切につけていたネックレスにかなり似ており、さらにその奇声も父親のと声質がかなり似ている――まさかと思うと段々と顔が真っ青となっていく愛美。

 

「まさか……パパ……?」

 

もはや言葉など掛けられないほどに気が狂っているような様子のその生物に近づくと……何か言っている……それを聞き取ってみると。

 

『マナミ……マナミ……』

 

……と彼女と同じ名を呼ぶ声が。

――これでついに彼女の父親だとわかった彼女は慌ててコックピットから無理に降りようとするが当然ジョナサンに止められる。

 

「離してよ!!パパがあそこにいるのよ、助けなきゃ!!」

 

開けた瞬間に二人は汚染される……気が動転している彼女を無理にでも取り押さえる彼。

 

「マナミ、ダメアブナイ!!」

 

「離してよ、離してよお!!!」

 

暴れに暴れて顔を殴られるも怒らずに耐えるジョナサン。

だが次第に暴れる力が急速で弱くなる愛美は、すでに滝のような涙が流れていた。

 

「マナミ……」

 

どうやら現実を受け入れたのか、そのまま泣き崩れる彼女を優しく抱きかかえるジョナサン。

彼女は彼の胸の中でひたすら泣いている。

竜斗、愛美の母親は見当たらないが、すでに実験台にされて処分されたとも考えられる。

本当かどうかは分からないが、安否については二人の父親の無残な姿の見れば大体予想がついてしまう。

 

一方で彼らの友人のも何人かは見当たらないもの、顔の一部や実験で奇形と化した人間から本人と断定していく――エミリアの友達の美紀は四肢全てが切断されて、無理やり液体の中で生かされている、まるで手足をもがれた虫のような姿で発見した……。

 

「ミキ……」

 

エミリアはもはや涙は枯れ果て泣くことはなかった。

もし彼女を助けようとこの液体から出したらどうなるか……いや、液体があるからこんな状態でも生きていられるのかもしれない。

こんな姿になるまでにどれほど苦痛と恐怖、絶望を味わったか計り知れない、いやここにいる人達全員がそうだ。

 

……どっちにしろ、ここに突入して分かったことは無事の人間などいなく、そして誰一人も助け、治すことが不可能なのが現状であった――。


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