ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十五話「――破滅」①

一方、基地上部にて、内部への入り口を見つけられず、脆い壁の部分を爆薬で吹き飛ばし、それに生じた入り口から潜入した米軍部隊、そして竜斗と愛美は共に内部通路を進む。

前後でアサルトライフルを、撃てるよう水平に構えて警戒する隊員、それ以外の隊員は安全装置をかけたまま銃口を下に向けて保持する。

今の所まだ敵と出くわしてないが、それが一層に恐怖感が増加される。

 

「……こわいよ石川」

 

「俺だってこわいよっ」

 

二人でこそこそと話をしていると二人の頭に拳のような固いものが軽く当たった。上を見るとジェイドがムッとした顔で口元に手を当てている。

「しゃべるな」という意味は二人はすぐに理解し、口を固く閉じる。曲がり角に差し掛かると前方の警戒員が手で「ストップ」の合図をかけて、先に角に身を寄せる。

戦闘服の内ポケットからコンパクトミラーを取り出して開き、角から出す。

 

そこから鏡を見ると奥の通路に何か粒が見える。だがその時、「ドンっドン」と二発の発砲音と同時にミラーに銃弾が貫通し吹き飛び、奥の壁には弾痕が二個ある。

 

……奥に敵がいる。全員が気を引き締める。

手を素早く引っ込めて危うく無事であった隊員は、すぐさま後ろの隊員にアイコンタクトを取る。

そのあと腰に下げた専用ポーチから手榴弾を取り出してピン部分に貼ったテープを取り、そしてピンを取る。

力強く角から敵のいる位置へ手榴弾を引き投げたその数秒後に巨大な炸裂音と衝撃に生じた鉄の破片が敵のいる通路を突き抜ける。

その十数秒後に隊員がもう一度予備のミラーを取り出して見ると発砲してこない。応援としてもうひとりの隊員を指で呼び、二人が銃を構えて意を決して飛び出した――が、銃撃音が響き、隊員達も応戦する。

交差する銃弾、最中で隊員の「ウッ」と呻き声が聞こえるも、すぐに再び静寂と化す。

 

二人やられたのか……と思いきや、すぐに飛び出した二人の隊員の内一人が、腕を撃たれ負傷したもう一人を連れて戻ってきた。

 

「少佐、奥の敵は排除しました」

 

「よくやった二人とも」

 

鎮痛剤を撃たれ、ガーゼと包帯で応急処置を受けている隊員の、上腕の撃たれた所から血がドクドクと絶えず流れてポタポタ落ちる。

命に別状はないのが幸いだったが、竜斗と愛美はその光景に顔が真っ青になり身体が震えた――。

 

(俺も水樹も下手すればこうなるんだ……っ)

 

彼らは今一度、敵の本拠地内にいることを再認識し、同時に「撃たれるとどうなるか」というドラマやアニメではない本物の現場を思い知らされる――。

それにしてもジェイドやジョナサン、他の隊員は、心情はどうか分からないが自分達と違って淡々と、且つテキパキと各人の役割をこなすその様からは生粋の、そして経験豊富な軍人だからこそ成せるのであろうと感じさせられる。

パイロットしか経験のない自分達がもし彼らの代わりにやれと言われたなら間違いなく慌てて、そして取り乱したことだろう。

 

そこでも自分達と彼ら隊員の、パイロットだけではない格の違いを見せられたのである――。

 

治療が終わり、角先で警戒していた隊員が安全だというサインを受けてやっと全員が通路へ移動できる。

曲がり角があるだけでこんなに大変なのか……と知る竜斗達。

さらに先に進むが、何故か一向に敵の姿が出てこなくなる。だがどこに潜んでいるか安心はできない、全員が気を張り詰める。

 

「別ルートから侵入した自衛隊員がもう近くにいます――」

 

GPS機能搭載のポータルデバイスを持つ隊員がジェイドに小声で伝え、その画面を見せる。自分達と同じ、仲間を示す赤色の反応がこちらへ近づいているのが分かる。

彼は何も言わず、コクッと頷く――。

 

そしてしばらく道なりに進むと……前で警戒する隊員が再びストップをかける。 敵か……、と思いきや前方に敵などいなく、変わりに横に巨大な鋼鉄の扉に差し掛かる。

全員がそこまでたどり着くと同時に、向こうから無数の足音が聞こえる。

全員がその方向へ見ると、爬虫人類ではなく自衛隊員達であった。

 

やっと日米部隊はここで合流し、そして共に連れ立ってきたジョージ、そしてエミリアも彼らと再開しステルヴァー、ゲッターチームは全員揃う。

 

(エミリアなんで来たんだよ、危ないだろ……!)

 

(そうよ、無理してくることないじゃない……!)

二人の小さな声でそう聞かれた彼女は、

 

(アタシ……自分だけ安全な場所にいるのはイヤだし、友達やお父さん達を自分の手で助けたいから……ワガママいってついてきたの……)

 

(エミリア……)

 

(もう弱音を吐いたり泣かないと約束したから大丈夫!これでゲッターチームがまた揃ったわけね!)

 

二人は呆れつつも「エミリアらしい」と安心していた。一方でステルヴァーチームでも、

 

(彼女を連れてくる必要はないのになんで危険を省みずに連れてきたんだ?)

 

(彼女が行きたいと言ったから連れてきたまでさ、ちゃんと言うことを聞いて、泣かずにここまでついてきたわけだし――基本的に仲間やバディの意志を尊重するのが俺のタチだ)

(でたなジョージ節!相変わらずの楽天思考ぶりだな)

 

(ジョナサン、お前に言われたくないわ!)

 

軽口を叩きながらじゃれているお気楽な二人に呆れているジェイドだが内心では「まあこいつららしいな」と安心している。

 

自衛隊員から聞くと、格納庫以降の通路からここまで来るのに敵と出くわさなかったとのことだ。

他の部屋の扉がロックされており、入れず。一応中に入れる場所もすでにもぬけのからだったりと。

(我々とほぼ同じだ、妙に内部の敵が少ないのが気になる)

 

なんだか気味が悪いが自衛隊の侵入したエリアにて沢山の爬虫類の人間を掃討したので、そこの内部戦力のほとんどを失ったとも考えられる。

ともかく無事にここまでこれたのは何よりである。

問題は、彼らの目の前に立ちふさがるこの横長の巨大で鋼鉄の扉である。

 

奥に一体何があるのか、全員の興味はそこに集中する。

 

「なあ、何か中から聞こえないか?」

 

扉に耳を傾けてみると……確かに声と思えるような何かが聞こえている。

開けてみようと、開閉装置らしきものを探すがそれらしきものがどこにも見当たらない。

試しに全員で押してみようとするも、ビクともせずに時間の無駄であった。

 

するとジェイドは扉、次に外の壁と沿ってコンコンと叩いて強度を調べる――と、左側の壁で足が止まる。

「爆薬の用意だ」

 

米軍隊員の携行する箱型の専用ポーチから、薄紙に包まれたブロック状のものを取り出して壁に取り付けるように設置する。

 

――これは『C4爆薬』と呼ばれる、一般的にプラスチック爆弾というものだ。

起爆に必要である信管を、その爆薬の真上に刺して、全員にすぐにそこから離れるように指示する。米軍、自衛隊はそれぞれ来た通路を逆戻りし奥、または角に入り通信機でそれぞれ避難したと呼びかける。

 

「よし、爆破しろ」

ジェイドの合図で爆薬を設置した隊員は遠隔操作できる装置の起爆スイッチに指を置いた――だが、

 

“……ジェイド少佐、聞こえるか?”

 

突然、通信機から割り込むように今度は早乙女の声が。

彼は隊員にストップをかけて受信機を持つ。

 

“早乙女だ。君達は今どこにいる?”

 

「今自衛隊と合流して、謎の鉄扉の前にいるのですが。開けられないので爆破してそこから侵入しようかと」

 

“待て。今ベルクラスから内部をスキャンしてモニター表示しているのだが、一カ所だけ危険な区域がある”

 

「危険な区域?」

 

“その中だけ空気成分が異常になっている。分析したがこれは本来の外界の自然にはないものばかりで我々には有毒なものばかりだ”

 

「つまり――それは化学物質ということですか」

“おそらくな。それに細菌性成分も検出されている。内部はバイオハザード(生物災害)のような状態になっているだろう――”

 

 

「しかし、内部から音が聞こえてきたのですが、それも声のような――」

 

ジェイドのこの報告に、何故か早乙女の声が途絶える。嫌な予感がする――ジェイドの額に一筋の汗が流れる。

 

“少佐、今いる場所までに例の捕らわれた日本の人々は発見できたのか?”

 

「い、いえ……全く……」

 

“そうか――実はそこに生体反応の数がやけに密集している……数は百もないが所々消えかかっている、つまり死にかけているのもちらほらある――”

 

基本的な冷静沈着な彼が珍しく動揺している顔から、早乙女から何かを感じとったようだ。

 

「一佐、考えたくはないですが……」

 

 

“確定とまではいかないが……その確率は高いだろう”

 

竜斗や愛美、ジョナサン、いやそこにいる隊員全員が二人のやり取りから異様な不安を感じた――。

通信を切ると、彼は腕組みをして頭を悩ませる。

「ジェイド、爆破はどうする?」

 

そう聞くが彼は首を横に振る。

 

「爆破は中止だ」

 

「え……なぜだ?」

 

「……まずいことになるかもしれん」

 

ジョナサン含む米軍隊員が集まり彼からその意味を聞く……と信じられないような表情をとる。

 

竜斗達も英語を理解できないもその深刻そうな顔からただごとではない分かる。

自衛隊側から「爆破はまだか」と通信が入るもジェイドからその説明を受けると向こうも沈黙する。 ジェイドは早乙女に通信をかけて話し合う。そして、

 

「我々は撤退する、速やかに各機へ戻れ」

 

なぜかここまで来ておいて撤退命令。すぐにそこから立ち去っていく各部隊。

全く状況が知らない竜斗と愛美はワケが分からず混乱する。

 

(何があったんだろう……?)

 

理解できないまま、全員が各機の場所に戻り乗り込む。

 

ステルヴァーに乗り込むジェイド達もすぐにシートベルトをつける。

 

“ゲッターチーム!”

 

各人の元に早乙女から通信が入り、竜斗と愛美は後部座席から前へ身を出す。

 

「司令、これはどういうことですか!?」

 

竜斗に問い詰められる早乙女は相変わらずの無表情だが。

 

「そうよ、マナ達に説明がないのはどういうこと?」

 

愛美からも問われる。

 

「説明がないと僕達は納得できません、教えて下さい!」

 

黙っている早乙女もついにと口を開く。

 

 

 

“どうしても聞きたいか?”

 

「はいっ!」

 

――彼らは説明を受ける一方でエミリアは凍りついていた。

彼女は英語が分かるため、その説明を耳にしてしまっていたのだ。

 

「……ではあの扉の中に捕らわれた日本の人々がっ」

 

“その可能性は高い。しかしただそれだけならば、そのまま爆破して突入し救出すればいい――だが”

 

二人の身体に衝撃が走った。助けようにもその内部は化学物質と細菌まみれになっており中の人々がどうなっているか分からない。

だからと言ってあの時もし破壊しようものなら、間違いなくそれらが漏れて基地内が汚染される。

ガスマスクはあるが、パイロットスーツは防護服ではないため間違いなく身体中が汚染されてしまうため爆破できなかったのである。

 

“おそらくあの奥は実験施設だ、人類専門のな。

だから厳重な扉なんだろう”

 

竜斗と愛美は沈黙しまう。

 

“はっきり言おう、君達の友達や両親がその内部にいるのなら間違いなく生存率は限りなく低いだろう――生きていたとしてもその化学物質や細菌で全身汚染されていたらもう治療できない……”

 

淡々と伝える早乙女に対し、苦悶の表情へと変わっていく二人と、エミリアは相変わらず絶望しきって固まったままである。

 


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