ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十四話「戦いの果てに――」①

――基地部の艦橋内。墜落の際、頭を床に打ちつけた意識を失っていたニオンは今目覚めて、激しい頭痛を我慢してゆっくり立ち上がる。

 

「なにが起こった……っ」

 

周りには未だに倒れているオペレーター達。

 

クラクラする頭をふり振り、ニオンはキッと眼力を入れる。

 

「……起きろっ!!」

 

念動力が働き、オペレーター達を起こし上げ強引に意識を覚まさせた。

 

「に、ニオン様!」

 

「全員とも意識を失ってなにをしているか!直ちに現在の状況を把握しろ!」

 

すぐにモニターで外部周辺を確認するとオペレーター達のモニター操作をする手の動作が止まった――。

「ニオン様、四方八方に地上人類の部隊が包囲されてます!」

 

「地上に約三百機、上空に約二百機……計五百機!浮遊艦が基地部の頭上千メートルに待機しています」

 

ニオンは急いでモニターを覗くと、ベルクラス率いるBEET、戦闘機、マウラー、そして陸戦型ゲッターロボの大部隊がすでに基地周辺に、虫一匹も逃さないように完全に囲むように待機していた。

 

「ダイの状況は……」

 

「……脚部のメカザウルスニ体はすでに大破、マグマ副砲はリアクターが完全消滅したため使用できません。残るは基地部の大型ミサイル砲、対空砲各百台、そしてリュイルス・オーヴェのみです」

 

「まさかバリアを貫通していたとは……だが、囲んだくらいでバリアを到底破れまい!」

 

早乙女の目的は、ただ囲んで一斉攻撃してバリアを破壊するのではない、『バリアを張らせない』ようにするためだ。

ニオン達はそれに全く気づいてなかった。

 

「第一攻撃編隊、一斉攻撃用意。目標、基地部周辺に飛び回るバリア発生装置四機!」

 

その命令に全機が各火器を基地部に飛び回るリュイルス・オーヴェに照準を合わせる。

 

「第二編隊、発進準備!」

 

その後ろで待機していたステルヴァー三機と残りのマウラーが。

ステルヴァーは三機ともすでに戦闘機形態に変形している。

 

 

「リュウトクン、シートベルト!」

 

「あ、はい!」

 

 

竜斗は愛美のようにジェイド機の後部座席に乗り込んでいた。

空戦型ゲッターロボの状態を見ると、恐らく動かすことさえも危険なため降りることに決めた彼は、着陸する前にジェイドに「自分も水樹のように機体に乗せてください」と頼んだ。

初めは彼は危ないからと反対したが、竜斗は自分だけ安全にベルクラスに帰るわけにはいかないと、そして何よりジェイドの操縦技術をこの目で見てみたいと、彼の向上心から出た頼みであった。

 

そして彼の引き下がらなさそうな強いその気持ちがジェイドにも伝わり、彼も許可したのだった。

――ついに僕らは日本での最後の舞台へと立った。

本拠地がもう手に届く距離まであるのにバリアのせいでそれが何百キロ、いや何千キロにまで遠く感じる。

はっきりいってこの作戦は通じるか通じないかは半々の確率、いや通じないほうが高いだろう。

だがここまで追い詰めた以上はやるしかない、それしか方法はもうない、それを信じるしかなかった。

内部にいるさらわれた人々、僕達の友達、そして両親を助け出すために。

僕達は、『フィナーレ』へついに足を踏み入れた――。

 

「第一攻撃編隊、攻撃開始!」

 

――飽和攻撃。早乙女の号令と共に全機は四方八方に動き回りながら、目標であるリュイルス・オーヴェ全機にあるだけの弾丸を全て放ち、休ませる暇も与えないように攻撃を繰り出す。隙間ない安全地帯などない雨のような全方向攻撃に当然、四機もビュンビュン素早く回避するが余裕が全くなく見える。

 

 

「アイリのカタキ!!」

 

エミリアは悲しい気持ちをかみ殺して、『ライジング・サン』に搭載した火器全てを放ち、中央部のドリル型自律兵器を飛ばしてリュイルス・オーヴェに追わせる。

 

全員が持てる力を駆使してリュイルス・オーヴェへ向ける。

すると、四機がついにバリアを解除して遥か上空へ向かっていく。

 

「まだまだ!」

 

だがそれで終わるはずもなく、逃げていく四機を航空部隊がしつこく追いかけミサイルと機関砲で攻撃を続ける。

 

「ベルクラスもいくぞ。

マリア、対地ゲッターミサイル発射用意。全弾あのバリア発生装置に照準を合わせろ!」

 

「了解。司令?」

 

「どうした?」

 

「開戦前にもいいましたが、作戦の勝算は?」

 

「しつこいなマリアは。

言っただろ、我々は絶対に『勝つ』んだ」

 

「……はい!」

 

艦底部の発射門全てが開門、二十発全て同時に発射された。

無線式で追尾性の強いこのミサイルは、綺麗な曲線を描きながら真下にいるリュイルス・オーヴェへ高速で向かっていく。ミサイルを避けるためか、再び上昇を開始するリュイルス・オーヴェだがこれも早乙女の思惑通り。

ミサイル全弾は当たらずに下へ落ちていくも、真下にあるのは基地部――。

 

「リュイルス・オーヴェが基地部を放棄、バリアが解除されました!」

まんまとやられたと呆気にとられるニオン。だが、ゲッターミサイル二十発が基地部周辺に投下されてゲッター線が拡散し、基地領域を包む。

 

「ぐっ……ミサイル砲全開門、何としてでも基地部領域に近づけさせるな!」

 

悪あがきか、全方向にミサイルを一斉砲撃し弾幕を張り、接近を遮る。

だが、彼らは気づいていない。向こうにはまだ突入部隊が控えていることを。

 

「突入部隊、発進せよ!」

 

“イエッサーっ!”

 

マウラー、ステルヴァーの米軍SMB部隊がついに発進。

 

「ジョナサン、期待してるわよ」

 

愛美から激励を受ける彼は、日本語は理解できなかったがなんとなく分かったのか親指を突き立ててグッドポーズを取った。

「これより米軍部隊は基地部領域内に突入し、指定ポイントの空爆を開始する」

 

ステルヴァー、マウラーは離陸してから一旦急旋回し、さらに後方一、二キロ近く離れてから基地部へ進路を取り、二機一組のタッグで彼ら米軍SMBの大編隊が前進する。

 

基地部へ近づくと下降していく。

そして第一攻撃編隊の地上にいる機体からの対空砲火に当たらないように避けてついに基地部内へ突入。 全長約二キロ、横幅一キロある、この無機質の基地部のどこかに捕らわれた人々が。しかし今はバリアを操る電波を出す場所を叩かねばならない。

 

「俺からいくぜジェイド!」

 

先に出たジョナサン機の底部がスライド式に上下に開くと中から対地爆弾が姿を表した。

 

「ほうら、プレゼントだ。とっときな!」

 

一発だけだが巨大な対地爆弾をピンポイントで指定ポイント付近に落とし、巨大な爆発が起こった。だがまだ電波反応があるのを見ると破壊されてないようだ。瞬間にジョージから再びお怒りの通信が。

 

“おい、真面目にやれよ!”

 

「ちゃんとやってるよ!」

 

“内部に例の日本各地に捕らわれた人々がいることを忘れるなよ、落とした場所がその真上だったらどうするつもりだったんだ!”

 

「だあ!!わかったよ!!」

 

……こんな正念場にも関わらず緊張感のない口喧嘩をする二人だが、これも彼らの強みである。

 

 

「基地の自動対空砲を全起動し、撃ち落とせ!」

 

 

 

基地部に至る所に設置された対空砲台が開き、侵入してくる敵機へ砲火を浴びせる。

 

「ヒューっ、向こうも必死だな。

だが俺達は戦闘機パイロットだ。人間様をナメてもらっちゃこまるぜ!」

 

ここはアメリカ軍から選抜されてきた部隊の独壇場。訓練と経験にモノを言わせた華麗な高機動マニューバを駆使して対空砲火を避けていく。

 

(すごい……俺にこんなことできないや……)

 

竜斗は目まぐるしくもハイスピードを味わえる初の戦闘機内からの光景に魅力され、興奮している。

 

一方、前で操縦するジェイドは、

 

(常人を乗せると高確率で吐いて、気絶するような高機動飛行を幾度行っても吐かないどころか光景を楽しんでるとは……さすがだな)

 

全く音を上げない竜斗に感心していた。

 

「ジョージ、ジョナサン、そしてマウラー各機は各砲台の破壊を行ってくれ。私は指定ポイントを破壊する」

 

“OK!”

 

ジョナサンとジョージ、他隊員は対空砲台、ミサイル砲台の破壊を行う。

 

「イーーヤッホーッ!」

 

まるでゲームを楽しむかのように『ハイテンション』で戦闘機からミサイルと爆弾で空爆する彼らアメリカ人部隊に頼もしさと同時に恐怖すら感じさせられる。

 

さすがは軍事大国アメリカの部隊と言うべきか。

 

「次々に砲台が破壊されます」

 

「ぐ、リュイルス・オーヴェをこちらに呼び寄せよ!」

 

「電波を発信していますが戻ってきません!」

 

計画が狂い、焦りの顔が隠せないニオン、そしてオペレーター。

 

「残りのメカザウルスとメカエイビスは!?」

 

「き、基地内はもう残っていません、全滅です!」

 

「全機を捨て駒のように扱わなければこんなことには――」

 

「くそう!」

 

ニオンは計器盤に拳を打ちつける。だが、艦橋の大画面モニターには黒い戦闘機……ジェイドのステルヴァーが映っていた。

 

 

(ターゲット、インサイト!)

 

電波の発生源……すわなちニオン達のいる艦橋へ照準を合わせ、同時に右主翼からの箱型の空対地ミサイルポットをスライド展開した。

 

「これでバリア地獄は終わりだ!」

 

ミサイル計三発が一発ずつ発射され五秒後についに艦橋に直撃を受けた。

オペレーターは爆発に巻き込まれて黒こげとなり、ニオンは吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。燃えさかる艦橋内でニオンはゆっくり立ち上がり、辺りの惨状に突然、

 

「ふ、フフ……フハハハハハハッ!!」

 

発狂したのか、いきなり高笑いし出した。

 

「……私の負けだと言うのか……私はせいだというのか…… 誰か教えてくれ……!」

誰もいないこの場でそう問う彼は――大粒の涙を流して、悲しみに染まった顔になり、その場にへたり込んだ。

 

「レーヴェ……私は一体今まで何をしていたんだ……一体なんでこうなったんだ……」

 

ニオンからついに彼女の名前が出てくる……。

 

「今やっと思い出した……地竜族の誇りを貶すような振る舞いや行いをしてきたこと……そしてこの戦いに敗北を招いたことを……私はなんて愚か者なんだ……」

 

顔から今までの険わい顔ではなくなり、頭の中で今までの悪行が駆けめぐる……そして後悔し、恥じ、そして懺悔した。皮肉にも彼は今ここで全ての記憶を思い出し、そして本来の人格に戻ってしまった。

 

……炎が蔓延するこの逃げ場のない艦橋内でニオンはそのまま倒れ込む。

 

(レーヴェ……私はもはや魂の安らぎなどない地獄へと堕ちるだろう。だが最後にもう一度だけアンタと会いたかった……)

 

心身ともに疲れきった彼はそのまま眠り込むように目を閉じて動かなくなり、その後すぐに火炎、そして爆発が艦橋全体に広がり彼の身体も一緒に呑み込まれていった。

 

……リュイルス・オーヴェも自身を操る電波発生源が壊されたため機能を停止し、重力を受け入れて地上へ落ちていく。再びバリアを張ることなく基地部から数十メートル離れた地上に衝突し、焦土と化した黒い土中に埋まった――。

“サオトメ一佐、我々は基地部内の砲台全てを破壊、および指定ポイントの攻撃に成功しました”

 

「基地内の他戦力及び、兵力は?」

 

“今の所、見あたりません”

 

「よし、第一部隊も攻撃中止せよ」

 

早乙女の号令で部隊の攻撃の手が止まった。

 

「バリア発生装置はもう機能しない、全機直ちに基地内に突入せよ。なお、内部はまだ戦闘員が、なにより我々人類に危険な気体が蔓延しているかが分からん。降りる際は必ず武装とガスマスクの着用を忘れずにな」

 

そしてついに全員が基地内へ急接近する。上空部隊はそのまま基地部上から着陸し、地上部隊は断面へと辿り着いた。

 


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