ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

52 / 187
第二十三話「大雪山戦役、後編」②

『人間爆弾』

 

世界でも事例のある、あまりにも非道かつ凶悪な攻撃。

周辺含めた物理的被害もあるが、なによりも精神的被害が強い手段だ。

もしこれが親しい身近な人間だったらどうなるか――その答えは全てエミリアの起こしている錯乱状態が全てを語る――。

 

……その攻撃手段に出た本人のニオンは卑下した笑みを浮かべている。まるで向こうが絶望しているのを知ってあざ笑うかのように。

一方、オペレーターは彼の行動に興ざめしていた。

 

(これが『地竜族』か。どおりで嫌われるわけだ)

 

全員がそう感じていただろう――。

 

「エミリア……っ」

 

「……ファック!!」

 

 

愛美はエミリアの泣き喚く姿に激しく動揺し、そしてジョナサンはダイに向けて激しい怒りを著していた。

 

「な、なんでこんなことができるんだよ……なんでこんな非道いことが簡単に……」

 

竜斗は信じられなかった。

こんなことを平然とやった爬虫人類が。

……分かり合えるかもしれないと思っていた希望が段々と黒く塗りつぶされていくような気がした。

 

 

 

ほぼ全員が感じたこと、それはこんな非道攻撃を行ったダイ……いや恐竜帝国に対する激しい憎悪である。

そんな中、竜斗の元に早乙女から通信が入る。

“……竜斗、大丈夫か?”

 

「…………はい、なんとか……それよりもエミリアが……」

 

“……気のどくだ。だが、それよりも、君達の友達があれから出てきたということは――わかるか?”

 

「考えたくないですが……っ」

 

やはり竜斗も気づいていた。

おそらくさらわれた自分達の両親と友達が、あの要塞の中にいるということに。

 

“となると、これで完全な破壊はできなくなった”

 

「…………」

 

一方、ニオンはついに操縦桿を握りしめる。

 

「これでお遊びはこれまでだ。このまま地上人類の部隊を全滅させ、本州に侵攻する。オペレーターは直ちに定位置につけ」

 

操作に連動してついにダイは活動を開始。

その巨大な足をゆっくり歩かせて、地響きをたてながら徐々に加速していく――。

 

ついに動き出したダイに、早乙女以外の人間はうろたえる。

 

“聞け竜斗。君はあの要塞の、恐竜の下半身部を狙って撃て。

動きさえ完全に封じれば後の対処がいくらでも増える”

 

「どうしますか?」

 

“二体の恐竜の下半身を一撃で消し飛ばす。この火器はそれほどの破壊力と範囲を持っている。

その後、何とかしてバリアを突破して基地部を制圧する。うまく行けば内部に進入して捕らわれている人々を助けることができるかもしれん”

 

「…………」

 

“それに、あの基地部を破壊するのが惜しくなった。

奴ら恐竜帝国に関する重要な手がかりがあるかもしれないから、何とかして手に入れたい”

 

 

「その前に例の作戦が通じなければ……」

 

“ああ、一発勝負だ”

 

艦首砲を展開するベルクラス、ゲッターロボの火砲にそれぞれプラズマエネルギー、ゲッターエネルギーが収束していく――。

砲身後部を肩に乗せて固定し、空いた左手も砲身のサイドグリップを掴んで、風力などで照準のずれないようにがっちり固定した。

 

「各機、ベルクラスと空戦型ゲッターロボは砲撃態勢に入る 。

速やかに退避せよ」

 

全機が左右遥かに展開、退避を始める。

 

「エミリア君、早くここから離れよう」

 

ジョージが未だ顔を伏せて嗚咽して彼女に声をかける。

だが、彼女は泣き止まず動こうとしない……。

そんな、彼女に見かねた彼は。

 

「甘ったれるなあっ!!」

 

突然の怒号がエミリアへ向けて放たれて、本人はビクっとその泣きはらした顔を上げる。

今までの優しい態度から一変、彼の表情は怒りにこもっていた。

 

「……あの女性は君の友達だったんだろ?泣きたい気持ちは凄くわかる。

だが今は命令通りにここから離れないと君自身も危ないし、俺達全員に迷惑がかかるんだ」

「…………」

 

「サオトメ一佐から聞いたが君達は一度、ゲッターロボから降りるチャンスを与えられたにも関わらず、事情があるとはいえ覚悟のうえで、君の意志をもって戻ってきたんだろう?

 

だったらこれも戦争だと割り切れ、君の覚悟は所詮この程度だったのか!」

 

その言葉が彼女の心に響き、そしてあの時の決意を思い出した――すると、ジョージは再び優しい顔に戻る。

 

「怒鳴ってすまない……とりあえず今は早く離れよう」

 

「……はい」

 

彼女は涙を拭いて、操縦レバーを再び握りしめてゲッターロボを動かす。

 

「よし。俺の後ろについてこい」

 

 

「……了解!」

 

 

先導するジョージは、爆散した女性が竜斗とエミリアの友達と知り、心を痛めていた。が、彼は生粋の「軍人」であるため表はしっかりしているのである。

 

 

「何としてでもあの要塞を攻略しよう。

これ以上、悲劇を生まないためにも」

 

「司令……」

 

早乙女から何としてでも勝つという気負いが感じられた。

それは竜斗も同じである。

 

(……この攻撃を絶対に成功させて、父さん達を救い出す!!)

 

凄まじい形相をする竜斗。

彼もなんとしても成功させまいと、狙撃に神経を使う。

ズームモニターで照準を調整し、ダイの脚部である二体の恐竜の中心部に合わせる。

専用の攻撃用レバーをぐっと握りしめて、トリガーに指を置く――息を吸って吐いての繰り返しでテンポを掴み、タイミングを取っている。

「ニオン様、地上人類軍の部隊が一斉に左右に展開。中央部の浮遊艦及び、ゲッター線の機体から膨大なエネルギー反応確認」

 

「リュイルス・オーヴェのバリアを破る気か、無駄な足掻きだ」

 

ダイの移動速度が少しずつ上がってきている。強行突破する気だ。

一方で、ベルクラスとゲッターロボの各砲のエネルギーがついに満タンとなる。

 

“準備はいいか竜斗?”

 

「……はい、いつでもいけます!」

 

発射態勢に入る二人、今にも各砲の内部の溜まりに溜まったエネルギーの塊が溢れ出てきそうだ。

“まずベルクラスの発射まで十秒間の秒読みに入る。

プラズマビームが要塞のバリアに直撃した後、そこからまた十秒後に君も続いて撃て”

 

「十秒後……そこは計算済みなんですか?」

 

“当たり前だ。では行くぞ、十、九、八、七、六、五、四、三――”

 

秒読みに入る早乙女。

そして竜斗も落ち着いて狙撃態勢に入る――。

 

(これで失敗すれば我々、日本は終わりだ――だが、成功すれば――)

 

(突破口を開ける!!)

 

――二人は同調した。

 

「――主砲、撃てっ」

 

ベルクラスの艦首砲からプラズマエネルギーの全てが解き放たれた。

艦よりも幅広く極太の光線が一直線でダイへ伸びていく。

 

それに反応し、『リュイルス・オーヴェ』四機がスクエアを形成し、上からダイへ光を注ぎ、膜を作り、ダイを包み込んだ。

早乙女率いる部隊全員が見届る、成功するか失敗するか――果たして――。

 

ついに直撃する、だがやはり凄まじい量のプラズマエネルギーを持ってしてもバリアを破ることができず、塞がれてしまう。

一方、ダイはついにマグマ砲、ミサイルを一斉にばらまき、再び周辺の大地を焦土に変え、大地を震動させながら前進する。

 

(……艦砲だけだと……?)

 

同時攻撃してくると思っていたニオンの読みが外れ、疑問になっていた――。

(……今だ!)

 

直撃から約十秒経った時、竜斗はこの一撃に全てを掛けてトリガーを力強く引いた。

計測不能レベルの出力のゲッターエネルギーが炉心、増幅装置、そして『GBL―Avenger』を通して全て放たれた。

ベルクラスの同じくらいの巨大な光線がダイへと向かっていく――が、それと同時にゲッターロボの炉心が許容範囲内を超えてとてつもない負荷がかかり、今にも爆発寸前になっていた――。

 

「ぐ…………」

 

発射の衝撃も尋常ではなく機体がギシギシ揺れ、当然コックピットも。竜斗はそれに翻弄されるも狙撃体勢を維持、全て見届ようとする。

 

しかし、機体がスパークを起こしあちこちに小規模の爆発が起こった。

 

装甲が少しずつ剥がれていく――顔面や胸のレンズ面が次々に割れていく。このままではゲッターロボは大破は確実だ。

コックピットでもインジケーターがスパークを起こしているが竜斗はそれに構わず、その結果だけを見たく、モニターを見続けていた――。

 

「……なにっ!?」

遅れて発射されたゲッターロボからの超出力のゲッタービームに驚くニオン。

プラズマビームが小さくなり消滅した瞬間にリュイルス・オーヴェからバリアを形成する光が一瞬消えた。

それを狙っていたかのように、立て続けで極太のゲッターエネルギーの塊がバリアを張られる前にダイの恐竜二体を巻き込むように直撃した。そしてその時にやっとバリアが再展開されるも時すでに遅し。

 

さすがにこの山ほどある巨大な恐竜も増幅されたゲッタービームに勝てるはずもなく、一撃で貫通していき二体の下半身は消し飛んだ。

 

「なんだとっ!」

 

足の失ったダイは加速をなくなり、首は地上に転がり倒れて、基地部は地面に墜落。

ダイの艦橋内はその衝撃で全員は吹き飛ばされて床に倒れ込んだ――。

 

足がなくなり地面にひれ伏すダイに沈黙する早乙女達だが、徐々にそれは喜びへと変わる。

 

「……やったぞ!」

部隊全員は歓喜する、ついに難攻不落の恐竜要塞、ダイを撃ち破ったのだから。

そしてゲッターロボはというと。

 

「…………」

 

火器や機体全体が焼け焦げており、あちこちで装甲が剥がれ落ちるなど戦闘はもうできないぐらいにガタがきていると見える、だが彼は無事であった。

 

“竜斗!”

 

「し、司令……」

 

“ククク、やはり君は強運の持ち主だよっ”

 

早乙女からそう言われ、彼は少し照れた。

 

 

だが、動かなくしたのはいいがここからどうするか。

まだバリアの方は解決しておらず、そのまま突っ込んでもバリアによって機体が消し飛ぶだけだ。

 

「ジョナサン大尉、核弾頭はまだあるな」

 

「はい、あと三発は」

 

「一発試しに要塞の頭上に撃ち込んでくれ、調べたいことがある」

「りょ、了解!」

 

早乙女の思惑が分からないも、彼は再びリチャネイドから核弾頭バズーカに持ちかえ、核弾頭を装填した。

 

「いくぜ!」

 

前に飛び出すと背中のスラスターを使い、空へ上昇。

そして三百メートルほどに辿り着くとその場所に維持し、基地部の真上へ砲口を向ける。

 

「バスターっ!」

 

発射された核弾頭は真っ直ぐ飛んでいく。リュイルス・オーヴェ達は向かってくる核弾頭に感知し、四機は固まって基地部後方に退避した。その後すぐに基地の真上で核爆発が発生。

しかし後部で四機はバリアを張っているために、その破壊力が基地までに届くことはなかった――。

 

「ちい……やっはり効かねえぜ」

 

ジョナサンは苛立つもすぐに早乙女から通信が入る。

 

“大尉、もう一度同じ場所、そして後部に向けて全弾撃て!”

 

「えっ?」

 

“いいから撃て!”

理解できない彼の考えに困惑するも、それを振り切り命令通りに全弾、指定された場所に核弾頭を撃ち込むステルヴァー。

 

「各隊員攻撃準備」

 

全機にそう通信をかける。同時にバリア発生装置が前方に飛び出しバリアを張る。

その直後に二発が後部、頭上に到達し核爆発する。

まるで太陽が間近にあるような凄まじい光を放つがダイの基地はやはりバリアのおかげで、衝撃や熱も通過しておらず傷一つつかない。だが、早乙女はそれを待っていたかのようにニヤリと笑う。

「全機、一斉攻撃。隙間なく浴びさせろ!」

 

命令後、プラズマ弾、ミサイル、実弾……空戦型ゲッターロボ以外の機体全て、ダイへこれでもかと集中砲撃を開始。

すると四機はバリアを張るを一旦止めて核、前方からの隙間のない攻撃から『逃げ』に入り、ダイから離れる。

そうなるとバリアが解除された基地部は無防備となり、ついに直撃した。

 

「やはりな。あのバリア発生装置はどうやら、逃げ場がなくなると要塞より自身の無事を優先するようだ」

 

早乙女は自分の考えに狂いはなかったと頷き、マリアは驚く。

 

「ということは――」

 

「そうだ。そうと分かればこれより最終作戦に入る――」

 

早乙女は一斉に全機に通信をかける。

 

「全員聞いてくれ。これより部隊を緊急編成する。

まず第一に、あの装置は要塞よりも自身を最優先すると分かった。

あの要塞を四方八方に囲み、絶え間なく攻撃を加える部隊を作り、バリアを張る暇を与えないようにする。ほとんどの機体がこれを担当するだろう。

 

第二にバリアが解除されている間にあの基地部に突入する部隊。

基地部中央付近に特殊な電波を発していることがスキャン、分析で分かった。

恐らくそれがバリア発生装置を制御している場所だと思われる。

そこを潰せば恐らくバリアを張ることはできなくなるだろう。その後に全機が基地部に一斉に突撃し制圧する。

 

その場所を破壊できなくても突入した部隊だけで基地を制圧することも考えねばならん。

そう考えると、突入部隊は機動力と戦闘力のあるステルヴァーチーム他米軍部隊が適任だ」

全員がその意見に同意した。

 

「ベルクラスも前に出て攻撃支援に入る。心身ともキツいと思うがこれが最終作戦だ、これで終わらせるつもりで行くぞ、いいな!」

 

“了解!!”

 

本当に勝てるかもしれない……最後の作戦に全員が希望を胸に、一斉に気合いを入れた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。