ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十三話「大雪山戦役、後編」①

(ニオン……ニオン……)

 

彼の名をひたすら呼ぶ聞き覚えのある女性の声、姿もうっすらだが確かに覚えがある――。

 

(…………?)

 

(ニオン……助けて、アタイ苦しいよ……)

 

苦痛、助けを呼ぶ声――彼の頭に響く。

 

(ニオン……アタイを忘れたの……?)

 

(……思い出したくても出てこないんだ……なぜだ……アンタの姿とその安心できる声、確かに解るが最後の最後で出てこないんだ……)

 

(ニオン……アタイがいなくなってから……アンタは完全に心を閉ざしてる……塞ぎ込んでる……アタイを心の奥底に無理やりに押し殺しているの……お願いだから心を開いて……、アタイ堪えられないの――)

 

(心を開く……だと……教えてくれ、アンタは一体誰なんだ………)

 

 

(アタイは『レー……』よ)

 

(何……もう一回言ってくれないか……)

 

――女性の名をもう一度聞こうとした瞬間、目を覚ましベッドから跳ね起きるニオン。

 

「………………」

 

辺りを見渡すとツーンとする薬の臭い……医務室だ。

ここはどこか分かるのに十秒、何故ここにいるかに気づくのにさらに二十秒かかった――。

 

(……そうだ、早く艦橋に戻らねば!)

 

ベッドから降りて、医師など無視して走って艦橋に戻る。オペレーター達は一斉に立ち上がる。

「ニオン様、お目覚めになりましたか」

 

「……今の時刻と現在の状況は?」

 

 

「……午前五時前、地上人類軍はここから南側より約百三十キロ地点に後退し駐在中です。しかし浮遊艦だけは本州に撤退していきましたが……」

 

「我々に臆して逃げ出したのでしょうか?」

 

……敵旗艦だけが逃げ出したのかと、いや違う。ならなんで部隊も撤退せずにそこで待機しているのか。

そもそも幾多の戦闘に勝利してきたゲッター線の部隊の母艦だ、逃げ出すようなことはまず考えられない――。

 

「……恐らく浮遊艦は何らかの目的があって撤退したのだろう。戻ってくる、絶対に」

「では、どうしますか?」

 

ニオンは操縦席に座ると足を組み、肘をかけてニヤりと不敵に笑う。

 

「……面白い、待ってやろう」

 

彼は何を企んでいるのか、オペレーターは理解できない。

 

「だが、ただ待つのもつまらん。遊んでやろう」

 

彼は目前の宙に浮かぶ操作グリッドを器用に触るとインジケーターの隅にある五十個に区切られた四角ブロックが全て赤くなった。

 

それに連動して、ダイの基地部前部の五十連装の円状発射口全てから上空へ向けて何かが射出された。

それは全長十メートル程の三角錐のような形をしたユニットが五十基、上空二百メートル地点でピタっと制止すると、各ユニット後部からスラスターを展開し、先端部が銃口へと変わり、向こう側で待機している地上人類の部隊の所へ一斉に飛び込んでいく。

 

「何か近づいてきます」

 

彼ら地上部隊は向かってくる謎の物体に気づきすぐに警戒態勢に入る。

 

「攻撃準備――」

 

各BEET、ステルヴァー、そしてエミリアの乗るゲッターロボはそれぞれの武器を構えてすぐに、ユニットが瞬く間に彼ら頭上に到着。

銃口に変形した先端部から大きいマグマ弾がユニットから一斉に撃ち出されて、まるで雹のように地上部隊へ降り注ぎ、幾つもの機体に直撃する。

それに対し地上人類側も、負けじと回避しながら地上から砲火する。

 

ユニットは翼竜型自律メカとは違い、確かに悠々と避けるほどの機動力は高いが耐久力は全く無いに等しく、直撃すれば簡単に撃墜されていく――。

それが分かった彼らは集中攻撃を繰り出し次々に命中させて落としていく。そしてステルヴァーチームとゲッターロボも各機の『飛び道具』を駆使して一機一機、確実に直撃させていく――。

その様子を高みの見物で見ているニオンはまるでショーを楽しんでいるかのようであった。

 

「さあ次はどうかな?」

 

 

 

再び操作グリッドに触れると今度はインジケーターの中央部にある仕切りられたブロックが十のうち、九が赤くなる。

 

「今度は先ほど貴様らが苦戦していた『サヴビューヌ』だ、どうする?」

 

基地部中央部から打ち上げられる九基のドラム缶型の金属物体。ユニットと同じように上空で無機質的な変形で翼竜型メカの姿になる。

 

それらはサヴビューヌと呼ばれ、個々が従来型メカザウルス以上の戦闘力を有するダイの『しもべ』である。

 

群れをなして再び地上部隊へ強襲をかけるサヴビューヌ達。

 

「きやがった!」

 

各機はそれ優先に攻撃を仕掛けるも、やはりセクメミウス製装甲のサヴビューヌには全く効果がない。

そして、ジェイド率いる航空部隊はサヴビューヌと残り僅かのユニットと苛烈な空中戦を繰り広げている。

 

(何か弱点は……)

冷静なジェイドはむやみに攻撃せず、牽制攻撃をかけながら敵機、特にサヴビューヌの弱点を探っていた……。

 

ふと、別場所にてアメリカ軍のマウラーが直線上で待ち構えるサヴビューヌの顔部分、特に頭部付近へ右主翼内空対空ミサイルポットを展開し、見事数発直撃させた。

すると、いきなり狂いだしたかのようにクルクルと不安定な飛行を繰り出した後、そのまま浮力を失い地上へ墜落し、動かなくなった。

 

「なにか知らんがやったぞ!」

 

偶然の撃墜にパイロットが歓喜する。

そしてすぐにジェイドから通信が入る。

 

“どうやって撃墜したか説明してくれ”

 

「ミサイルをあいつの脳天部に直撃させただけよ、そしたら狂い始めてあの通りさ」

 

ジェイドも試しに、あえて前面に飛び出し機体の軌道上に入ったサヴビューヌの脳天に向けて、機首部ライフルからのプラズマ弾を直撃させる。するとやはり、狂ったかのような不可思議な行動をした後、地上へ叩き落ちたのだった。

すぐさまジェイドは 各機パイロットに通信をかける。

 

「全機、あの翼竜型メカの弱点は頭部だ。そこに集中攻撃をしろ」

 

「頭部?」

 

「頭部に自律回路があり、頭部は衝撃に弱いデリケートな場所に違いない」

 

疲労が見えていた彼らは心機一転。神経を全集中し、残りのサヴビューヌの頭部へ各火器で狙撃を始めた。

 

……そう言えば愛美が一番最初に偶然撃墜した際、海戦型ゲッターロボのパンチが直撃した部位も頭だった。

 

どうやら『ヘッドショット』がサヴビューヌの最大且つ唯一の弱点らしい。

 

「弱点が分かればこっちのもんだ!」

ジョージとジョナサンのステルヴァーはそれぞれライフル、腕部内蔵の小型ミサイル、そしてリチャネイドで精密射撃し瞬く間に落としていった――。

 

「やるじゃないジョナサン!」

 

愛美が彼の顔の横でグッドポーズを出すと、彼も「ヘイ」と拳をつけて喜んだ。

 

「……やるな地上人類。敬意を評するよ」

 

だがニオンは焦るどころか、全くの余裕綽々な顔で彼らへ拍手すら送っていた。

 

「ではもっと面白い余興を見せようか。

今すぐ基地内の研究所エリアから、日本各地から捕まえてきた健康な実験体を一人連れてこい」

 

「一体何を……?」

 

「奴らに帰してやろう、『オマケ』を持たせてな」

 

「オマケ?」

 

「早くいってこい。ガレリー様にはすでに連絡をとってある。私が必要だからと言えば何人でも出してくれるだろう」

 

 

……そしてついにサヴビューヌを全部撃墜に成功した地上部隊。部隊長の一人が早乙女へ連絡を取る。

 

「……ということです一佐」

 

“全員に『感謝している』と言っておいてくれ。ベルクラスも北海道内に入った。最後まで油断するなよ”

 

「了解です」

 

――そしてベルクラスの格納庫では例の火器『GBL―Avenger』を装備した空戦型ゲッターロボが発進待機していた。

 

“竜斗、準備はいいか?”

 

「……はい!」

 

右手にはゲッターロボよりも長く、そして巨大な砲身、後ろ腰にはランドセルのような四角のジェネレータのような物……ゲッター線増幅装置が取り付けられている。

火器後部に内蔵された、もう一つの小型増幅器部分からのエネルギー供給線が背中の増幅装置に伸びて直結している――。

 

「早乙女一佐……」

 

“どうした?”

 

「もし僕に何かあったら……あとの二人をよろしくお願いします」

 

“…………”

 

竜斗はこの兵器の『デメリット』について気にしていた。

炉心の暴発を招けば機体は確実にただではすまない、そんな代物を扱おうとしている自分は、駐屯地で換装を行っている最中に何度も「正気の沙汰ではない」と感じていたのだ。

 

“だが君は自身の運に賭けたんだろ?”

 

「…………」

 

“私は、竜斗なら大丈夫、生き残ると確信している。

なぜなら私が君をゲッターパイロットに見込んだ男なのだからな。私のそういう勘は結構当たるんだよ”

 

「司令……」

 

“作戦は往復中にいった通りだ、準備はいいな!”

 

「……了解!」

 

ゲッターロボの乗るテーブルはカタパルトに連結し、外部ハッチが開く――。

 

「石川竜斗、空戦型ゲッターロボ発進します!」

 

空へ射出され、空中でゲッターウイングを展開した。

 

(ゲッターエネルギーチャージ開始、エネルギー増幅回路チェック――炉心は今のところ異常なし……)

海戦型ゲッターロボのような攻撃用トリガー、そして狙撃用ズームモニターが設置されており、コックピットが一新されており、竜斗は冷静に各機能を作動させている。

 

 

「戻ってきたぞ!」

全員がついに戻ってきたベルクラスとそして空戦型ゲッターロボに注目する。

 

「あれが例の火器か」

 

「なんてでかさだ……っ」

 

やはり彼らも空戦型ゲッターロボの持つ、まるで艦首砲を思わせる巨大な火器に度肝を抜かれた。

 

ベルクラスの横に、一定距離の間に移動し『GBL―Avenger』を水平に持ち上げるゲッターロボ、そして増幅回路に直結したゲッター炉心の出力が、これまでとは比べものにならないほどに上昇した。

 

確かに下手をすれば暴発してしまうほどだ。

 

「お、おい、なんだあれは?」

 

一人の隊員がダイの方向を向いて声を上げる。

見ると、なぜか一機の翼竜型メカザウルスが翼を羽ばたかせてこちらへ向かってきている。

たかが一機で、やられにきたのか……と不思議がっている。と、

 

「ちょっと待て……メカザウルスの足付近に何かついているぞ」

 

ズームアップして確認する……と確かに何かが見えてくる。

 

「……人間……だと……?」

 

「しかも女性だ!」

 

なんと、メカザウルスの足に地上人類の女性が捕らえられていたのだった。全員が唖然となる中、特にエミリアがその女性がすぐに誰なのか分かる。

 

「あ、あ、アイリ…………」

 

そのすぐに竜斗も誰なのかすぐに分かり、凍りつく――。

 

 

「……愛梨……なんで……っ」

 

その女性は地元にいなかった、メカザウルスにさらわれたと思われていた二人の昔からの友達、愛梨である。

当然の如く、二人は激しく狼狽している。

 

「司令……もしかして……っ」

 

「おそらく……」

 

早乙女とマリアは嫌な予感に襲われた。

まさか竜斗達から聞いた、メカザウルスにさらわれた人々があの要塞の中に……。翼竜型メカザウルスを攻撃することはすなわち愛梨を殺すことになる、誰もが少したりとも動くことは出来なかった――。

だがメカザウルスは彼らの真上に到達すると何を思ったのか、愛梨を足から離してそこから落下させた。

まさか彼女を返してくれるのかと、ちょうど真下にいたBEETがあわててキャッチの体勢に入る。

ボロボロの布切れを着ており、気を失っているらしく全く動かない。

そして掌に見事落ちてついに救出した――。

 

 

 

「!?」

 

 

彼女が機体の掌に落ちた瞬間、「カッ」と光った。

眩い光と共に身体が膨れ上がり――そのまま耳が千切れるほどの轟音を発して爆散したのだった――。

爆発は小さく受け取った機体は何ともなかったが、彼女らしき身体の肉片と煙、そして肉の焼ける不快な臭いが機体の手にこびりついていた――。

「……アイリ……うそでしょ……うそでしょ……」

 

 

……エミリアは我を忘れて慟哭した。その悲痛な叫び声が全員の心に大打撃を与えるのは簡単であった――。

 


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