ゲッターロボ―A EoD―   作:はならむ

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第二十二話「大雪山戦役、中編」②

午前四時過ぎ。動きの止まったダイから見事逃れ、百キロ以上離れた安全地帯に待機するベルクラス、他部隊――。

艦の司令室。早乙女とマリア、ゲッターチームとステルヴァーチーム、そして各部隊の隊長が集まり、ダイの攻略についての緊急会議を開く。

 

「……水樹、残念だったな」

 

「…………」

 

自分の機体を失った彼女は酷く落胆しており、ジョナサンが横で頭を撫でて慰めている。

竜斗とエミリアも知り、彼女に同情していた。

……モニターで現地を確認するも、未だに活動をしていないのが幸いであるが、同時にいつ動き出すも分からない状態である。

 

「あんな化け物が大雪山に眠っていたとは想定外だったが、だからといって放っておくワケにはいかない。

あの巨体と火力、そして耐久力から考えると、恐らくあれだけで日本全土を蹂躙できるだろう」

 

「ということはもしかして……」

 

「我々を壊滅したらそのまま日本制圧に乗り出すだろうな。そうなればもう誰にも止められない、日本は滅亡したようなものだ」

 

……誰も喋らない、表情が暗く沈黙したままだ。

何とかしなければならないのに大量のマグマ、ミサイル……広大な大地の地形を変形させるほどの恐るべき火力、ジョナサンが行った核攻撃すら通じないほどの驚異的な防御力となると、これではお手上げではないのかと思えてしまう。

そんな中、腕組みをして立っていたジェイドが口を開く。

「サオトメ一佐、あの恐竜要塞の頭上に、バリアを発生させる装置が計四つ、縦横無尽に動き回ってました」

 

 

「ほう、それで破壊できたのか?」

 

「いえ、私と竜斗君で破壊を試みたのですが……我々の機体以上の機動力と反応速度、それに命中してもかすり傷すらつかないほどでした」

 

 

 

「……ふむ。実は南側にも要塞から発射された複数の、メカザウルスとも違う謎の自律兵器によって強襲を受けてな。

スキャンして分析した所、前に戦闘したメカザウルスと同じ装甲が使われていた」

 

「……その装甲とは?」

 

早乙女は彼に『メカザウルス・セクメト』について話す。衝撃、熱エネルギーを吸収してさらに装甲の強度が増す性質、そしてどう攻略したかを。ジェイドは驚かず、むしろ冷静である。

「……アメリカ側の戦線でもそんな装甲を持つメカザウルスは現れませんでしたね」

 

「あのメカザウルスはゲッターロボ攻略のために開発されたのだろう。

最大出力のゲッタービームすら効果がないほどだった」

 

「……では、バリア装置にその金属が使われているとしたら破壊は至難ですね、やめた方がいいでしょう」

 

「ジェイド、そいつらに向かってもう一度核を撃ち込むのはどうだ?核弾頭ならまだあるぜ」

 

ジョナサンがそう割り出すがジェイドはすかさず首を横に振る。

 

「さっきもいったがあの装置の異常な機動力と反応速度、そして予測能力も尋常ではない。撃ち込んでもすぐに察知して迅速に安全地帯に逃げ込むだろう。

お前が三発撃ち込んで核爆発させても全くの無傷だったのを見ると核攻撃は期待できない」

 

「マジかよ…………」

 

「装置の破壊ができないなら他の手を考えるしかないな、皆もいい方法はないか?」

 

「……バリアを無理やりにでも破るのは?」

 

「核でさえ効かないのにどうやってだよ?」

 

「それは……それ以上の威力で――」

 

「戦術核以上の威力……水爆レベルの攻撃でもするか?」

 

「バカ、こんな時にどこから持ってくるんだよ。それにそんなもんを爆発させてみろよ、間違いなく俺達まで消し飛ぶぜ」

 

「マジメに考えろよ、こうしている間にいつまた活動再開するかわからないんだぞ」

……全員がいい方法が思いつかず、難航する。

 

するとマリアは何かを閃いた。

 

「司令、その装置がバリアを張っているのなら、消えてから再展開するまでの間隔があるのでは?」

 

早乙女も彼女の意見に賛同し、相づちを打つ。

 

「さすがだマリア」

彼女の放った言葉に全員が注目する。

 

「早乙女一佐、それはどういう意味なんですか?」

 

「つまり装置がバリアを解除してからまた展開するまでのタイムラグがあるということだ、恐らく二秒間か一秒、いやそれすらないかも知れんが」

「……その間だけが攻撃できるということになるってことですか……」

だがそんな極短時間にどんな攻撃をするのか。

あんな巨体では、核以外の攻撃だと蚊に刺されたぐらいにしかならないだろう。では接近して間近で核を放つか……そんな犠牲前提の攻撃などできるワケはない。

全員はまた落胆する……も、早乙女だけは未だ希望を失っていないように平常であった。

 

 

「……では『あれ』を使うか」

 

「あれ……とは?」

 

早乙女は竜斗へ視線を向ける。

 

「竜斗、空戦型ゲッターロボの今の状態は?」

 

「え……まだ大丈夫ですが。それがどうかしましたか?」

 

「本当はあまり使いたくなかったが、そうもいってられないようだ」

意味深しげな事を言う早乙女に全員が顔を上げて彼に視線を集中する。

 

「……司令、もしかして例の兵器を使うおつもりですか?」

 

「ああ、もう悠長なことは言ってられん」

 

マリアと早乙女の会話から深刻そうな内容に聞こえてくるが果たして。

 

「皆に説明しよう。我々は一旦、空戦型ゲッターロボを積載して朝霞駐屯地に戻る」

 

「そ、それはなぜですか?」

 

「空戦型ゲッターロボに『GBL―Avenger』という専用火器を装備させるためだ。

ゲッター線専用の増幅装置を使用するためゲッタービーム、ドーヴァー砲、いや現時点での最大火力を有している」

 

「ほ、ホントですか……?」

 

「ああ。私が考えた案なんだが、ベルクラスの主砲を最大出力であの要塞に撃ち込み、プラズマビームが途切れた瞬間を狙ってその兵器からの超出力ゲッタービームを直撃させる。

核を余裕で耐えるバリアだと、本艦の主砲では破壊できないだろうからそれしかない――」

 

死んだようなほとんどの者の眼に輝きが戻る。

確かにそれしか方法がない、だからこそそれに全て賭けてみる価値がある――だが竜斗だけはどこか不安げな顔をしていた。

 

「つまり……司令と僕の連携であの要塞を撃ち破ることになるってことですか?」

 

「そうだ。主砲のプラズマビームは発射中は弾道を目視できるし、ただむやみに攻撃することよりもタイミングはとりやすい。だが君が撃ち込むタイミングがすこしでもズレるとそこで全てが終わりだ、失敗は許されない」

 

「……なぜですか?失敗してももう一度やり直せば……」

 

 

「その兵器は色々と不具合があり、特に出力が不安定になりやすくてな。

下手をすれば空戦型ゲッターロボは一発撃つだけで大破するかもしれん」

 

「…………!?」

 

「前にむき出しの炉心と直結させて発射テストを数回行ったんだが、膨大なエネルギー出力が原因で炉心が暴発を幾度か起こしたんだ。

幸い、離れた場所から遠隔操作で行ったのでケガ人はいなかったが、今回は君の機体で直接行うことになる」

竜斗は考えただけで寒気が襲う。もしその兵器をした際に暴発してしまえば、機体も大爆発を起こして自分も巻き込まれることになってしまうことに……そうなれば自分に待っているのは『死』だ。

「一応改良を加えたが絶対に起きないとは到底言えないタチの悪い兵器だ。

空戦型ゲッターロボの『LR(ロングレンジ)兵装』として開発したものだから本機以外には扱えない代物だ」

 

竜斗だけでなく、その場にいる全員が唖然となった。

そんな危険な代物を彼に使わせるのか……しかし、それ以外にいい方法があるのかと言っても全く浮かばない。

 

「この作戦でいくなら、君が乗りたくなければ構わんが、結局誰かがゲッターロボに乗らなければならん、どうする?」

 

「…………」

 

「そして要塞を破壊するにしても爆発の際の被害を考慮しなければならん。

おそらくあの巨体が爆発すれば……メガトン級以上はあると仮定しよう、活動を再開しそのまま南下して本州へ侵攻しようものなら、もう破壊はできなくなる。

つまり、まだ北海道にいる内に行わければならないということだ」

 

 

ますます難易度が上がっていく作戦内容……。

 

「さあ、全員どうする?この作戦に全てを賭けるか、それともこのまま解決策を見つけられずに日本壊滅をこの目で見るか――」

 

すると竜斗は無言で何かに頷く――。

 

「……分かりました、僕はその作戦に乗りましょう。司令、その兵器を装備したゲッターロボも僕が操縦します」

 

「リュウト!?」

 

「こんな猶予のない状況で、どう考えてもこれしか方法がありませんし、空戦型ゲッターロボの操縦は一番慣れているのは僕しかいません。

このまま僕達の日本が壊滅されるのを待つだけなら……少しでも可能性のある行動をするべきだと思います」

彼の口から聞いた早乙女は目を輝かせた。

 

「……君は本当に強くなったな、感心する。他の者は?」

 

「……では私もその作戦に賛同する」

 

「私もだ!」

 

「俺も!」

 

すると竜斗に決意に促されて次々と賛成の声を上げる。

 

「ゲッターチーム、ステルヴァーチームもいいか?」

 

ジェイド達ステルヴァーチームと愛美は賛成する。だが、エミリアただ一人だけは真っ青な顔をして戸惑っていた。

 

「エミリア……」

 

「これしか方法がないのはアタシだって分かる……けどそれでリュウトに何かあったら……」

 

やはり彼女はそれが耐えられないのだろう……しかし、彼は安心させるような優しい笑みで彼女を見る。

 

「心配ないよ、これまで俺達は生き残ってきたんだし黒田一尉にだって「俺達は生き残る強運を持ち合わせてる」って言われたんだ。

だから俺はそれに賭けてみる!」

 

「リュウト……」

 

「エミリア、俺は絶対に死なないから――だから」

 

「……うん、わかったっ!」

 

――ついに彼女も賛成し、これにより全員がこの作戦を決行することが決まった。

 

「ではベルクラスは直ちに発進し朝霞駐屯地へ戻り次第、空戦型ゲッターロボの換装を行い戻ってくる。

往復時間については、我々も迅速で行うが換装含めて積もっても約一時間はかかるだろう。私とマリア、そして竜斗以外は各機体に搭乗してこの地帯に待機、ヤツを厳重に監視しておいてくれ。

各部隊長は、何か少しでも向こうに異変があれば報告せよ」

 

……全員が強く頷く。

 

「よし、では我々は最後まで少したりとも諦めずに勝利を掴むぞ、いいなみんな!」

 

“了解!”

 

そして彼らは各行動に移す。各隊長は部隊へ作戦内容を伝え部屋を出て行く。ステルヴァーチームは三人で話合っている。そしてゲッターチームは。

 

「水樹はどうするんだ?」

 

「マナ……どうしよう」

 

機体のない彼女は困っていると、

 

「マナミっ」

 

なぜかジョナサンがクイクイと指で彼女を誘っている。

 

「マナミ、俺の機体に乗らないか?」

 

「え……?」

 

エミリアに通訳してもらうと「えっ?」と驚く。

 

「マナミがいるとさ、なんかやる気が出るんだね。だから俺にとっての勝利と幸運の女神になってくれよ、な?」

 

「ジョナサン……」

 

実際、愛美にここまでそう言ってくれる男性に出会ったことなどなく、しかも彼からはそれが嘘だと少しも感じられない――彼女の心は満たされた。

そして彼女は笑顔で頷いたのだった。

 

「ホントかいマナミ、やったあ!!」

 

彼女を抱き上げて子供のように喜ぶジョナサンと嬉し泣きまでする愛美。凄く微笑ましい光景だ。

そして、竜斗とエミリアも互いに顔を合わせる。

 

「行ってくるねエミリア――」

 

「うん、待ってるよ!」

 

そのまま大胆に口づけを交わす二人。

 

「お熱いね二人ともっ♪」

 

ジェイド達にヒューヒュー言われて顔が真っ赤になる二人だった――。

 

……各人はそれぞれの行動に移る。

ベルクラスは急発進させて本土へ戻っていく。その間、竜斗はマリアから『GBL―Avenger』の概要を説明され、エミリアは機体に乗り込みジョージ機の側で待機、そして愛美はジョナサン機の後部座席に乗り込み、二人で待機……。

 

各部隊は警戒態勢を取りながらモニターで、未だに動きがないダイを監視する。

――大雪山戦役もついに大詰めに入る。わずかな可能性からの突破口に希望を、そして全てを賭けて、全員の命を燃やす時がきたのだ――。

 


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